愛河








濁っていた意識が、

ゆっくりと霞が晴れるように覚醒していく。

瞳を開ける前に、身体にかかる重みに気付いた。

手で探って、それが布団だとわかった。

瞳を開けると、そこに見慣れない天井があった。

起き上がろうとして激痛が走り、

秋月は再び布団に背を落とした。

痛みに息が上がる。

その時、人のざわめきが聞こえ、

助けを呼ぼうとして秋月はそのまま凍りついた。

聞こえてきた話し声の中に、

江戸弁に混じって耳慣れない訛り。

それが、おぼろげに聞いたことのある長州弁とわかって、

秋月は息を飲んだ。

「この病人は、てんくら目覚めんかね?いたしいてから。」

「まだのようですな。ひどい怪我だったですからな。」

閉じられた障子に人影が映り、

とっさに、秋月は痛みを堪えて布団に潜り込んだ。

恐れていたことは起こらず、その二人の男は廊下を去って行った。

そのまま秋月は、目を瞑った。

かたかたと身体が震える。

身を包んでいる布団の暖かさは去り、秋月の心は寒々と冷えた。

その後、激しい痛みに堪えかねた呻き声に、

やってきた医者らしき男が差し出した薬湯に口をつけ、

秋月は再び意識を失った。





それ以降、幾度か覚醒と昏睡を繰り返し、

次にはっきりと目覚めた秋月は、

再び障子の外に人影を見た。

「おはんの連れもした友人(どし)、あんべはいけなこっな?」

「ええ、お陰さまで。」

答えたその声に、秋月は目を見開いた。

障子の影が一つ去り、

残った影が障子にに手をかけるのがわかった。

秋月はそれを目をそらすのも忘れて、見つめた。

短髪の、洋装姿だと知れる。

開いた障子から男の姿が見え、二人の視線がぶつかった。

「あ・・っ・・。」

草加が慌てて後ろ手で障子を閉め、

転がるように秋月の枕元に膝をついた。

「秋月さん?!」

今にも泣き出しそうに顔をゆがめる草加を、

秋月は声を出すのも忘れ、呆然として見入っていた。

「秋月さん・・・良かった・・・。」

その顔を見ていることが出来なくなって、

秋月はぎゅっと瞳を瞑った。

「痛いの?!」

草加が、枕元にある薬湯を湯呑に注ぎ、

秋月の首の後にそっと手を入れ、それを差し出した。

秋月は漂ってきた香りにうっすらと目を開けた。

草加の心配に曇った顔。

じっと、それを見つめた。

「飲んで、秋月さん。」

差し出された湯呑に視線を落としたまま、

身じろぎもしない秋月に、

草加はその力もないのかと嘆息した。

薬湯を口に含み、草加は秋月を両手で抱き起こし、

秋月の顎に片手を添えて口移しで飲ませようとした。

そうなって初めて秋月が口を開いた。

「・・・飲みたくない。」

草加は抵抗する秋月を、

両手首を掴んで布団に縫い付けると、強引に唇を塞いだ。

薬湯が喉に落ち、秋月は顔を歪ませた。

「放っておいてくれ。」

「どうして?!」

顔を背け、そのまま無言になってしまった秋月を、

草加はじっと抱きしめ続けた。





秋月が自殺を図った。

枕元にあった湯呑を割り、手首を切ったところを医者が発見した。

その後も、自殺未遂を繰り返す秋月をもてあました医者が、

草加に泣きついた。

「ええ、俺も何とかしないとと思ってます。

最初から引き取るつもりで、準備していますから。」

「・・・失礼ですが、彼とはどういう?」

草加は、顔を上げて不信をあらわにする医者を見つめた。

「彼は私の大切な人なんです。

私がずっとそばにいさえすれば、彼は片足を失わずに済んだ。」

「そうですか・・・。」





身体が揺れていた。

その揺れる身体は、暖かいものに包まれ、

秋月はほっと息を吐いた。

瞳を開け、草加の胸に頬をつけている自分に気付いて、

秋月はぎょっとして顔を上げた。

草加は廊下で立ち止まり、秋月に微笑んだ。

「起きちゃった?ごめん、もう着いたよ。」

後から老女が現れ、襖を開けた。

そこに敷かれていた布団に、草加はそっと秋月をおろした。

「今日から、ここで暮らすんだよ。」

秋月は、無反応を決め込み、布団に横たわっていた。

老女が秋月の身体に掛布団を掛けた。

「この人は、イトといってね、俺の乳母だから心配しなくていいよ。

これから秋月さんの面倒を見てもらうからね。」

「イトでございます。何なりとお申し付け下さいませ。」

二人が去ったあと、秋月はゆっくりと起き上がった。

簡素な部屋。

殺風景、と言っていいくらいに何もない。

置いてあるのは、一棹の背の低い引出箪笥と文机のみ。

床の間にさえ、何も置かれていない。

いざって障子に近付き、

それを引き開けた秋月の視界を、格子が遮った。

「・・・まるで、廓だな。」

その外界を遮る境界を握り締め、秋月は声を殺して泣いた。







草加が何度その部屋を訪れ、何を話しかけようとも、

秋月が口を開くことはなかった。

背を向け、黙する秋月に、草加は彼の前でだけは、

顔に切なげな色を浮かべ、声を励まし、言葉を掛け続けた。

「秋月さん、少し冷えてきたね。」

草加が、そう声を掛けて、そっと肩に羽織をかけた。

そのまま、草加は後から秋月の肩を抱いた。

びくっ、と細い体が震えた。

「・・・少し、このままでいさせてよ。」

両脚を秋月の身体の脇に伸ばし、

草加は秋月の身体を自分の胸に引き寄せた。





硬く強張っていた秋月の身体が、少しづつ解れていった。

それに気付いて、草加が微笑んだ。

「もっと、凭れていいよ。」

その声に、秋月ははっとして草加から離れようともがいた。

「お願いだから!」

ぐい、と草加が秋月の身体を抱きしめた。

草加の身体に背中がぶつかり、腰に下半身が当たった。

そこに熱くなったものを感じて、

秋月はぎょっとして首を捻じって振り返った。

「・・・ごめん。どうしようもなくて。」

そこに、草加の泣き出しそうな顔を見つけた。

草加は、堪らず秋月を布団の上に押し倒した。

「やめろ!」

この部屋へ連れてこられて、初めて秋月が口を開いた。

残っていた力のすべてを振り絞って、秋月は草加を振り切り、

その腕から逃れると、壁際までいざった。

「どうして?!俺が嫌いなの?!」

唇を震わせて、秋月は草加を見つめた。

声を出せずに首を振る秋月の肩を、

草加がにじり寄って掴んだ。

「じゃ、どうして?!」

黙ったまま、身体を両腕で抱きこみ、

首を左右に振り続ける秋月を、

草加は抱きかかえて布団の上へ連れ戻した。

「嫌だ!草加!嫌だ!」

「秋月さん!」

抱き込んで、草加は片手で秋月の肩を抱え、

寝巻きの裾を割り、右手を差し込んだ。

「ああっ・・・。」

腰を引き、尚も逃れようとする秋月に、草加は囁いた。

「好きだ。」

はっとして秋月は草加の顔を見つめた。

「抱かせて。」

「なぜ・・・だ・・・?」

顔を歪ませる秋月に、草加は裾から手を引き抜いて、

その頬をゆっくりと撫でた。

「好きだから。」

じっと見つめる秋月の目尻を、涙が伝わった。

「泣かないで、秋月さん。」

草加の唇から逃れようと、顔を振る秋月の顎を捕らえて、

草加はのその唇を塞いだ。

抵抗する間も与えず、舌を絡ませ強く吸い上げた。

「・・・んっ・・・」

尚も逃れようとして、草加の胸に手を押し付ける秋月の腕を掴んで、

布団に縫い付けると、突っ張る脚を片足で押さえ込み、

草加は執拗に唇を貪り続けた。





全てを奪うような口付けに、秋月の身体から、力が抜けていく。

諦めと羞恥が綯い交ぜになった顔を見て、

草加はもう一度秋月の耳に囁きながら、寝巻きの袷を開き、

唇を項から胸へ滑らせた。

「・・・好きだ、秋月さん・・・」

「やめてくれ、草加・・・頼む!・・・んっ・・・」

立ち上がった胸の飾りを咥内へ含み、舌で転がすようにすると、

秋月が思わず仰け反った。

自分の上げた声に、はっとして唇を噛むと、秋月は顔を背けた。

引き剥ぐように、草加は秋月の身体から寝巻きを取り去った。

膝立ちし、身に着けている服を脱ぐ、

その草加を見上げていた秋月は、

露わになったそそり立つ草加の熱を見て、顔を歪めた。





「・・・っ・・・」

全身を覆いつくそうとするかのように、

草加は秋月の肌を、唇と指で弄っていた。

所々に残る、戦闘で受けたのだろう傷跡。

そして、失った左脚。

包帯の巻かれたその足にも、草加は唇を落とした。

秋月は、きつく唇を噛み締め、声を上げまいと堪えていた。

その顔は、真っ赤に染まり、

時折、感じていることをあらわすかのように、

全身がびくびくと震えた。

「我慢しないで。」

草加は秋月の肩を抱いて、そっと指で唇をなぞった。

「そんなに噛むと、切れちゃうよ。」

「・・・草加、やめてくれ。頼む。」

秋月の染まった顔と、潤んだ瞳を見つめながら、

草加は片手を下に伸ばした。

そこには、くっきりと立ち上がった秋月の茎があった。

「身体は、そうは言ってないよ。」

「草加っ!」

「このままでいいの?」

「・・・んぁっ・・・」

握りこまれて秋月は声を上げ、眉を顰めた。

「なぜだ?・・・なぜ、こんな身体を・・・」

「綺麗だよ、秋月さんは。」

揉みしだく指に息を乱しながら、秋月は目を見開いた。

草加が秋月の茎を口に含み、

愛撫を加え、その舌が蕾を蹂躙し始めると、

秋月の見開かれていた瞳が閉じ、微かな声が漏れ始めた。





草加の指が蕾に沈んだ。

「・・・うっ・・・くっ・・・」

丁寧にそれを解す草加の指に、秋月は全身を震わせた。

「・・・い・・・いや・・・だ・・・」

ずり上がり、草加から尚も逃れようとする秋月の腿を抱え込んで、

草加は震える中を指で探った。

「・・・ああっ・・・」

秋月の頤が跳ねた。

「・・・んんっ・・・あぁっ・・・」

感じる場所を擦り上げられて、秋月の腰が揺れ、

耐え切れない声が鼻から抜けた。

「秋月さん、ごめん、もう限界だ。」

起き上がると草加は、秋月の腰を抱え込んだ。

顔を背け、秋月は草加の茎の先端が蕾に触れたときだけ、

びくり、と身体を震わせた。

「・・・んあぁっ・・・」

奥深くまで貫かれて、堰を切ったように秋月の口から声が漏れた。

「・・・ああっ・・・そこっ・・・」

草加が、己の茎で秋月の中のその場所を探った。

理性を吹き飛ばすような快感が秋月の身体を走った。

草加の突き上げる動きに合わせ、無意識に秋月の両脚が持ち上がり、

右足が草加の腰に絡んだ。

敷布を掴んでいた手が、荒い息をつき名を呼ぶ草加を励ますように、

その首に巻きついた。

「草加っ・・・草加・・・く・・・さかっ・・・」

秋月が嬌声を上げ、

二人は離れていた間の飢えを満たすように求め合った。





草加は腕の中の秋月の髪を、愛しげに撫でていた。

肩を上下し、荒い息をつく秋月に、草加はそっと唇を触れた。

「秋月さんの中に、俺はまだいるよね?」

見上げて、唇を震わせる秋月を草加はじっと見つめた。

「俺がつけた火は、まだ消えてないよね?」

もの言いたげに唇を戦慄かせて、

それでも秋月は眉を顰めて顔を背けた。

「秋月さん?」

「・・・最低だ・・・俺は・・・」

「秋月さん、何言ってるの?!馬鹿なこと、言わないで!」

草加が秋月の顎に手を添えて、唇を貪った。

眉を顰めたまま、秋月はそれを受けた。

「・・・もう、戻れ。」

「秋月さん!」

「眠りたいんだ。身体が辛い。」

「ごめん、そうだね。」

秋月に寝巻きを着せ付け、草加は服を着ると、

瞳を閉じた秋月の頬に、そっと口付けた。

「じゃ、俺、行くから。」

その声に返事をしないまま、

秋月は草加が部屋を出て行く音を聞いていた。

草加の足音が聞こえなくなると、

秋月の閉じていた睫が震え、眦から涙がこぼれ落ちた。

「草加・・・」

耐え切れずに声を出して、秋月は火照る己の身体を抱きしめた。

「消えてなどいない・・・消えるものか・・・」







そのまま、眠ってしまったのだろう。

薄闇の中で、秋月は瞳を開いた。

そして、自分が温もりに包まれているのに気付いた。

「・・・草加・・・?」

「ん?起きたの?眠ってていいよ。」

秋月の身体を抱きしめて、草加が隣にいた。

「それとも、何か食べる?」

秋月は、草加の身体から離れようと身じろぎをした。

「いらん。何も食べたくない。」

「秋月さん。」

草加の手が、秋月の腕を捕らえた。

「触るな。」

「いやだ。」

身体の下に組み敷かれて、尚、抵抗をやめない秋月に、

草加は無理矢理覆いかぶさった。

「じゃ、どうして泣いてたの?」

ぎょっとして秋月は草加を見上げた。

「心配で戻ってきたら、眠ってる頬に跡がついてた。」

唇を震わせて、秋月は顔を背けた。

「泣かないで・・・俺を受け入れたことを、後悔なんかしないで。」

「・・・草加、俺は生きていてはいけないんだ。」

「どうして?一緒にいようって言ったじゃないか!」

眦から零れる涙を、草加は唇で掬った。

「あの時とは違う!

俺は・・・仲間が投獄されているというのに・・・。」

「だから、俺を拒否するの?

待ってるって言ってくれたのは、嘘だったの?」

「・・・草加っ・・・」

秋月の歪んだ顔を、草加はそっと両手で挟んだ。

「違うよね。

秋月さんの身体は、そうじゃないって、俺に言ってくれたよ。」

唇を振るわせる秋月を、草加はまっすぐな瞳で見つめた。

「火をつけてくれって言ったのは、秋月さんなんだよ。

忘れちゃったの?」

ぐ、と秋月は言葉に詰まった。

黙り込む秋月の睫が、盛り上がった。

零れる涙を、草加は再び唇で掬った。

「その涙、変えてあげるよ。」

秋月の着ていた寝巻きの前を拡げ、

草加はその肌に愛撫を加え始めた。

「・・・ぁ・・・やめっ・・・」

「いやだ。欲しくないの?」

かっと頬を染めて草加を睨みつけようとした秋月は、

その言葉とは裏腹な、草加の真剣な顔に、声を詰まらせた。

「俺は、欲しいよ。

秋月さんを感じたい。

秋月さんはそうじゃないの?」

まるで睨みあうように視線を合わせる秋月に、草加は言葉を続けた。

「お願いだから。

乱暴なことはしたくない。

暴力で秋月さんを抱きたくないんだ。

だから・・・お願い。」





草加の見ている前で、秋月が、変わっていく。

加える愛撫が強くなるにつれて、苦悩と、抵抗と、諦めの中に、

羞恥の色が浮び始めた。

「秋月さん、もっと俺を感じて。」

青白かった秋月の肌が、火照り、薄っすらと染まる。

寄せる眉に切なさを見て、草加は項に唇を這わせた。

「・・・んっ・・・」

草加の動きに合わせるように、秋月が顎をそらせ、唇が開いていく。

そこから漏れる息が、甘く変わる。

「・・・あっ・・・」

胸の飾りを吸われて、秋月は肩を窄めて声を上げた。

抗いようもない快感が、腰の奥から湧き上がってくる。



わかっていたはずだ・・・

そんなことは、とっくに。



強張っていた秋月の身体から、ふっと力が抜けた。

草加が秋月の両脚に手をかけた。

膝を掴み、拡げようとする草加に、秋月は僅かに抵抗しかけた。

草加の手が、腿をゆっくりと撫で、

秋月は溜息をついて力を抜いて自ら開いた。

「・・・はぁっ・・・」

秋月の全神経が、草加の舌の動きを追っていた。

草加しか這入ったことのない場所。

草加の舌しか知らない、秋月の秘所はそれを求めていた。

「・・・あぁっ・・・あっ・・・」

差し入れられた指に、押さえ込まれた秋月の腰が揺れた。





障子を通して、月光が部屋を照らしている。

その白い闇の中に、絡み合う二人の息遣いがこもっていた。

熱い息で草加は秋月の名を呼び、

その身体に己を刻みつけようとするかのように、

細い身体を突き上げていた。

その下で、秋月は身悶え、声を上げ続けた。

草加は、その声に震えるほどの喜びを感じていた。

縋るように首に回された細い腕が、

思いのほか強い力で草加を引き寄せた。

「・・・草っ・・・加っ・・・」

「ねぇ、もっと?もっと、欲しいの?」

すすり泣くように、息を吐きながら秋月は草加の問いに、頷いた。

「秋月さん!」

きつく抱きしめて、草加は秋月の奥へと己を打ちこんだ。

「・・・ああぁっ・・・」

仰け反りながら、揺らぐ腰。

「わかる?秋月さん、俺だよ。

今、秋月さんの中にいるのは、俺だよ?」

「はぅっ・・・ぅんっ・・・」

襲ってくる快感を逃そうと、顔を振り開いた瞳に、

月光に浮かび上がる窓の格子が映った。

逃れることのできない、その象徴のような影を見ていられずに、

秋月は草加の突き上げに溺れこんだ。

「草加っ・・・もうっ・・・」

襲ってくる絶頂感に、秋月は草加に縋り付いた。

草加の腰を挟みこむ腿に力が入る。

蕾を擦り付けてくる秋月を抱いて、草加は顔を綻ばせた。

「秋月さん、言って。お願いだ、言って。」

触れ合うか、触れ合わないかというほどに寄せる草加の唇を、

秋月は自ら喰んだ。

その合間にも、秋月の声が高くなっていく。

「秋月さん、ねぇ・・・。」

律動を繰り返しながら、

草加は尚も言葉に出すことを強請った。

息が詰まるような快感に、秋月は草加の唇を吸いながら、

堪えていた言葉を吐き出した。

「・・・欲しいっ・・・草加っ・・・は・・・早くッ・・・」

その言葉を聞くが早いか、

草加は秋月の尻を掴み蕾を拡げて深く奥を抉った。

「・・・ひあぁあっ・・・」

悲鳴をあげ、秋月の身体が腕のなかで跳ねた。

秋月の茎が腹で弾けるのを感じて、草加は追い上げを早めた。

小さく呻いて草加が秋月の中へ熱を吐き出し、

熱い溜息が秋月の項を擽った。

二人は熱が過ぎるのを、名残惜しげに絡み合っていた。





「大丈夫?」

草加の囁きに、秋月は微かに頷いた。

朦朧とする意識の中で、己を責めていた秋月は、

肌を滑る草加の手が、ふ、と胸元で止まるのを感じて、瞳を開けた。

「これ、いつも首からかけてるんだね。」

「さ、触るな!」

とっさにその手から逃れ、匂い袋を握り締める秋月の勢いに、

草加は驚いて手を引いた。

「ご、ごめん。大事なものなんだね?もう、触らないから。」

じっと胸元に手を当て震える肩に、草加は溜息をついた。





布団の中で、秋月は眠った振りをしながら、

背中越しに草加が身支度をする音を聞いていた。

時折、草加の嘆息が聞こえた。

そっと、布団の上に手が添えられ、

草加が身体を寄せるのがわかった。

頬に、草加の唇を感じて秋月は、身を強張らせた。

眠った振りをしているのが、わかったのだろう。

草加が、耳元で囁いた。

「おやすみ。」

優しい声。

優しい手。

それを、拒もうとしながら、求める自分。

去っていく草加を、引き止めたいと願う自分がいる。

「・・・人というのは、案外、強いものらしい・・・。」

これで、狂ってしまわないとは。

寂しげに、秋月は笑った。

「いつまで、もつだろう。」

じっと、手の中の匂い袋を見つめていた。



月光が、格子の影を映す、その離れで。



それだけが、千切れそうな心の拠り処とでも言うように。








      終




    2006年2月16日






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