白石智宏の臨時休暇






吉永が、ブリーフケースを片手に会議室から出てきた。

廊下ですれ違い、挨拶をする白石を呼び止めた。

「終わったのか?」

「ええ。これから帰るところです。」

「そうか・・・すまないが、送ってくれないか?」

「はい。」

後部座席へ乗り込み、シートへ深々と背を預ける吉永に、

白石は心配げに話しかけた。

あまり顔色が良くない。

「お疲れのようですね。」

「ああ・・・少しね。」

それきり口を閉ざし、吉永は瞳を閉じた。

しばらく走ったころ、

吉永は窓の外へ視線を向けたまま、口を開いた。

「白石君。」

「はい?」

「・・・お前のところへ・・・。」

「えっ・・・あっ・・・はいっ・・・。」

白石は、慌ててハンドルを切った。



車を降り白石の部屋へ入っても、

ずっと黙したまま奥へ行く吉永を白石は追いかけ、

躊躇して立ち止まった。

吉永の背中が、近寄るのを拒否しているように感じた。

居たたまれなくなるような、それでも、短い時間。

ドンっ、と音を立てて吉永の手からブリーフケースが落ちた。

「公使?!」

驚いて駆け寄り、白石がその肩に手を触れようとしたせつな、

吉永がいきなり振り返り白石の頭を両手で抱えて、唇を押し当てた。

「・・・んんっ?!・・・」

吉永が白石の舌を捕らえ、吸い付く。

一瞬の驚きの後、口の中を縦横に動き回る吉永の舌を、

白石が絡め取り貪り始めた。

「・・・ぁ・・・ぁん・・・んっ・・・」

白石の髪に指を指し込みそれを受けていた吉永の息が上がり、

熱い吐息が漏れ始めた。微かな声が混じり、

苦しげに眉が寄せられるのを見て、ようやく白石は唇を離した。

唾液が口角から漏れ、頤に伝わっている。

肩で大きく息をしながら、吉永は白石を見つめた。

「・・・シャワーは・・・?」

そう尋ねる白石に、吉永は片眉を上げた。

「・・・そんなもの、後でいい・・・。」

白石がその伝わる唾液を舐め上げた。



吉永が、白石の肩に頭を持たせかけ抱きつくようにして眠っていた。

その顔を見下ろしながら、白石は嘆息をついた。

・・・一体、なんなんだ・・・?

・・・今日の公使は普通じゃない・・・

しばらく彼を眺めていた白石の脳裏に突然、

以前に聞いた吉永の言葉が蘇った。

『・・・馬鹿なことはしないと言ったはずだ・・・』

途端に、嫌な考えが浮かんで愕然とする。

・・・遊ばなくなったから、飢えていたとでもいうのか・・・?

・・・単に、セックスしたかっただけなのか・・・?

・・・だったら、俺じゃなくてもいいってことか・・・?

ぐっと歯を噛み締め、ムカつきを押さえて吉永を見下ろした。

胸で静かな寝息を立てる吉永を、

起こさないように気をつけて隣へ横たえた。

・・・どうして、俺を誘うんだろう・・・?

じっと、その顔を見つめ、汗で乱れた前髪をそっとかきあげた。

・・・えっ・・・。

突然、吉永の眉が苦しげに寄せられ、

長い睫が震え、つーっと涙が目尻を流れた。

息をつめて見つめる白石の目の前で、

それは後から後からあふれ落ちた。

・・・どうして・・・?

「・・・ん・・・」

吉永が寝返りを打ち、白石の胸に額が当たり、

伸ばされた手が白石の背に巻きついた。

そのまま、吉永を抱きしめて聞こえないように溜息をつく。

流れる涙を指で拭ってやると、ようやくそれは止まった。

その顔を見ながら白石は眠れぬ夜を過ごした。

・・・この人は、どんな風に生きてきたんだろう・・・。

・・・なんでこんな風に・・・。




「すみません。急用が出来てしまって・・・。」

『いいよ、白石君。たまには休まないとね。』

「大丈夫ですか?」

『うん、大丈夫だよ。今日は吉永公使はお休みだしね。

あの人いると大変だけどさ、いないから。』

「・・・そうですね。」

・・・その大変な人って、うちにいるんだよなぁ・・・。

・・・俺にとっちゃ、休暇にはならないよ・・・・

溜息をつきながら受話器を置いた白石は、ベッドを振り返った。




その少し、前・・・。

「・・・おきてください、公使。吉永公使、朝ですよ。」

「・・・俺は休みだ・・・。」

「はぁ?・・・俺は、仕事なんですよ。行って来ますから。」

「・・・休め・・・。」

吉永が気だるい、それでも有無を言わさない口調で言い、

毛布をかぶり、そのまま、

また吸い込まれるように眠ってしまった。

「・・・あの・・・?」

・・・勘弁してくれよ・・・けど・・・

言うこときかないと、後で大変そうだよなぁ・・・




白石は枕元に座り、眠っている吉永を見つめた。

・・・なんなんだろ、一体・・・?

・・・まったく、我儘なんだから・・・。

仕方なく、白石は日頃は手を抜いて溜まっていた

家事を片付けようと立ち上がった。




「公使?起きてください、公使?」

「・・・うるさい・・・。」

「シーツ取り替えますから、起きてください。」

「・・・ぅ・・・ん・・・。」

顔をしかめて目を開いた吉永は、憮然としたまま白石を見返した。

それには構わず、白石は吉永の手を取って起き上がらせた。

「ほら、起きて。シャワーでも浴びてきて下さい。もう、起きないと。」

吉永が無言で起き上がり、小さく欠伸をしながらバスルームへ向かう。

その身体中に散る、夕べ自分がつけた痕を見て白石は頬を赤らめた。

シーツを剥がそうとして伸ばした手が止まる。

ぐしゃぐしゃの、ひどい有様。

それとともに蘇る腕の中の吉永の姿。

・・・参ったな・・・俺、ちょっと可愛いなって思っちゃったんだっけ・・・。




腰にタオルを巻いたままの姿で、バスルームから出てきた吉永は、

真新しいシーツで整えられたベッドに再びもぐりこんだ。

「公使!」

白石の呆れた呼びかけにも返事を返さず、瞳を閉じる。

洗濯機のまわる、低いモーター音が吉永の耳に届く。

「・・・まめなんだな・・・。」

「なに言ってんですか、一人なんだから当たり前でしょ?・・・ほら、起きて。」

白石がそう言ってベッドの端に腰を下ろした。

吉永はすでに眠りに入りかけ、焦点の合わない瞳で白石を見上げた。

その物憂げな瞳に、白石は熱くなる身体を感じて目を逸らした。

「・・・起きてください。何時だと思ってるんですか?」

問いかけて、返事が返ってこないことに振り返った白石の目に、

すっかり寝入ってしまった吉永の顔が写った。

起きているときには想像もつかない、

思いのほか幼い寝顔に白石の心臓が跳ねた。

「・・・もう・・・しょうがないな・・・。」



「公使?」

揺さぶられて目を覚ました吉永に、白石が心配げに問いかけた。

「具合、悪いんですか?それとも・・・。」

「・・・いや・・・。」

「なら、食事にしませんか。朝御飯も食べてないでしょう?

何か食べたいものとか、ありますか?」

白石の耳に、腹ばいになり枕を抱えた吉永の、

呟くような小さな声が聞こえた。

「・・・ごはん・・・。」

「は・・・?」

ぷっ、と吹き出しかけて白石は慌てて口を押さえた。

「はい、はい。」

食事の支度をしながら時折ベッドへ視線を向けた。

枕を抱えたまま、ピクリとも動こうとしない吉永を、

半分呆れながら眺めた。

テーブルに全てをセットし終え、吉永を起こしに行く。

「起きて。食事、出来ましたよ。」

「・・・・・。」

吉永が無言のまま起き上がり、ベッドの上に座り込んだ。

腰にタオルを巻いたままの姿に、

白石は自分の服の中から適当に選んで手渡し、

その服に視線を止める吉永に、溜息をついた。

「裸で食事する気ですか?」

むっつりとした顔で吉永はそれに手を通しはじめた。

嫌々なのが、伝わってくる。

「・・・寝惚けてます?」

じろり、と白石を睨んでテーブルに着き、無言のまま箸を手に取った。

「はい、ごはん。」

「・・・ん・・・。」

食事の間も無表情で一言も発しなかった吉永が、

目の前に湯気の立つコーヒーカップが置かれ、

その香りに誘われるように、ほっとした色が目に浮かび、

ようやく頬が緩んだ。

「・・・ぁふっ・・・。」

両手で口元をはさみ、欠伸を漏らす。

「・・・今、何時だ・・・?」

「もう、1時です。」

「・・・ふぅ〜ん・・・。」

「寝すぎですよ、公使。」

白石の、幾分からかうような声に吉永は顔をしかめた。



白石が部屋の掃除を始め、それを横目にして吉永はソファに横になり、

クッションを抱え込んだ。

その姿勢のまま、白石が細々と片付けを終える頃まで

そこから動こうともせず、うつらうつらを繰り返していた。

・・・よく、そんなに寝られるな・・・。

部屋を横切り、その姿を目にするたびに、白石は溜息をついていた。

昨夜から、ほとんど口もきかず、ひたすらだるそうな顔で横になっている。

・・・そりゃあ、疲れもするか・・・。

・・・大使があんな感じだしな・・・。

「・・・公使、起きてますか?」

「・・・ぁあ・・・。」

吉永が、寝返りを打ち仰向けに態勢を変えた。

そのソファの隙間に座り白石は顔を覗き込んだ。

「何か、飲みますか?」

「・・・ぅん・・・。」

「じゃ、起きて。」

そういう白石に、吉永が両手を差し出した。

・・・まるで子供だよ・・・。

内心で一人ごちて白石はその両手を肩に回させて抱き起こした。

ぼうっとした顔でソファに背を預けて座る吉永に、

白石は微笑を浮かべた。

「コーヒーでいいですか?」

「・・・ん・・・。」

白石が、コーヒーをテーブルに置き、ソファに座った。

吉永は、瞳を閉じたまま頭をソファの背もたれに乗せ、

白井が隣に座るまで身動きもしなかった。

「大丈夫ですか?」

「・・・んん・・・。」

ぼんやりと目を開け、白石がカップを手渡すのを受け取った。

子供がよくするように、

両手でカップを持ちふちに唇を当ててじっとしている吉永を、

白石は小首を傾げて見つめていた。

「・・・熱いですか?」

「・・・いや・・・。」

そう返事を返してようやく、一口飲むと、


吉永はカップをテーブルに置き白石の肩に頭を乗せた。

そのままずるずると膝まで頭を落し、

瞳を閉じてしまった吉永を見下ろして、

白石はこの日、何度目かもわからなくなった溜息をついた。

「・・・参ったな・・・。」

白石のその言葉に、吉永がふっと笑った。

「なんだ、起きてるんですか?」

「・・・うん・・・。」

「まったく、もう・・・。」

そのまま白石は、

吉永が起き上がり冷めたコーヒーを無言で取り替えろと

差し出すまで、吉永の寝顔を眺めていた。



洗濯物を乾燥機から出し、リビングへ戻った白石は、

吉永の姿がないことに気付いて、ソファにそれを置くと、顔をめぐらせた。

仕切りの向こうに、吉永の足だけが覗いていた。

・・・また、寝てんの・・・?

音を立てないように、近付いてベッドを見ると吉永がそこに寝そべっていた。

「・・・大丈夫ですか?」

「・・・ぁぁ・・・。」

小さな声が聞こえ、ほっと息をつくと白石は踵を返そうとした。

「・・・智宏・・・。」

「はい?」

顔だけで振り返った白石の膝の辺りを、吉永は片手を伸ばして掴んだ。

「なんですか?」

「・・・来いよ・・・」

そう言って薄く笑う吉永の顔に、白石の身体に震えが走った。

・・・やっと口きいて、言うのがそれかよ・・・

「片付けが途中なんですけど・・・。」

「・・・そんなもの、後にしろ。」

「あの・・・まだ、3時なんですけど・・・。」

「お前は、時間でセックスするのか?」

「いえっ・・・そうじゃ・・・ないですけど・・・。」

「・・・けど、けどって、なんなんだ?・・・嫌なのか?」

少し、険のある拗ねたような口ぶりに、白石が黙り込んだ。

「・・・もういい・・・。」

そう言って背を向ける吉永を見つめていた白石は、天を仰いで嘆息した。

ベッドに乗り上げ、背後から吉永の顔を覗き込んだ。

瞳を閉じたむっつりとした顔を、白石の気配を感じて、枕の方へ背ける。

その仕草に、思わず白石はくすりと笑いを漏らした。

「・・・笑うな・・・。」

「すみません・・・こっち向いて。」

「・・・嫌なんだろう・・・。」

「誰も嫌だとは言ってないでしょう?」

ようやく瞳を開いた吉永は、ちろり、と視線を白石に流した。

目元のほくろが誘っているようで、その顔に白石の喉が鳴る。

それに気付いた吉永が、ゆっくりと微笑みながら白石の首に腕を回した。



白石の唇が、吉永の胸の飾りを捉えた。

「・・・はんっ・・・」

すでに堅く張っていたそれに歯を立てられて、吉永の身体が跳ねる。

白石はもう片方を爪を立てて撫でさすり、

身体を震わせ腰を引いて吉永が仰け反り、

その両足が疼く身体を表すように擦りあわされた。

白石が胸を弄りながら手を滑らせ吉永の茎を握りこむと、

それはすでに怒張し先走りを漏らしていた。

「・・・あっ・・・はっ・・・」

白石の指が先端に向かって撫で上げる、

それだけで吉永の薄く開いた唇から、熱い声が零れた。

「・・・ぁはぁっ・・・あぁっ・・・」

無意識に、白石の腕を締め付けようとする

吉永の両足の間に身体を入れ、

白石は腿を押さえ込むと先走りを指で掬い取り、

後孔に指を潜らせた。

「・・・あっ・・・んぅぅっ・・・」

シーツを握り締めた吉永の腰が揺らぎ、

そのまま白石は茎に舌を這わせ舐め上げ、

先端を音を立てて吸い上げた。

「・・・んんっぅ・・・ぁんんっ」

吉永が、上体を起こし手を伸ばして白石の腕を掴んだ。

顔を上げた白石の身体を引き寄せ、吉永は身体を入れ替えると、

白石の身体をまたぎ、彼の茎を銜えこんだ。

「・・・う・・・わっ・・・」

白石が、その吉永の姿に震える声を上げた。

呆然とそれを受けていた白石の、目の前にある吉永の腰が揺れた。

「・・・ともひろ・・・」

「・・・ごめん・・・」

もどかしい声で名を呼ぶ吉永に、

白石も吉永の後孔の中を擦りながら彼の茎を口に含んだ。

「・・・んんっ・・・んっ・・・」

白石を銜えた唇の隙間から、堪えきれない声が漏れ、吉永の喉が鳴る。

白石の指が彼の中のポイントを捉え、吉永が口を外して仰け反った。

「・・・あぁぁっ・・・そこっ・・・」

執拗なその場所への愛撫に、吉永の声が途切れることなく響いた。

自分の上で、声を上げ続け腰を振る吉永の姿に

白石が堪えきれなくなって指を引き抜くと、

吉永を引き寄せ両手で膝を掴んで、開かせた。

上気した顔を綻ばせ、吉永の瞳が物欲しげに揺らいだ。

「・・・来い・・・智宏・・・・」

両手を差し出し、吉永が喘いだ。

「・・・んあぁぁっ・・・」

まるで打ち付けるように吉永を貫いた白石の背にすがり付いて、

吉永はそれを受けた。

激しい律動に、吉永の腕が白石の首にきつく絡みつく。

「・・・あっはぁっ・・・うぅっ・・・んぅっ・・・」

両足を白石の腰に巻きつけ、吉永の腰が蠢く。

「・・・ともひろっ・・・もっとっ・・・」

「・・・だったら・・・腕、緩めて・・・。」

仰け反って声を上げながら、吉永がいやいやをした。

「・・・このままじゃ、俺、動けないよ。」

白石のその声に、吉永が瞳を薄く開き斜めに見上げた。

ぞくっと背筋が震えるのを押さえて、白石が囁いた。

「・・・もっと、欲しいんでしょう?外してくれないと、出来ないよ。」

そう言って動きを止めた白石を、肩で息をしながら吉永は睨み上げた。

その、情欲にまみれた顔に、

吉永の中にいる白石が、どくん、と脈打ち、吉永が息を漏らした。

「ほら・・・腕・・・。」

言われて吉永の腕が、緩んだ。

白石は腕を解くと上半身を起こし、吉永の片足を肩に乗せた。

その乗せた足に唇を這わせながら吉永に視線を向ける。

「・・・智・・・宏・・・っ・・・」

焦れて名を呼ぶ吉永を白石は無視して、吉永の股間に手を伸ばした。

触れた途端、痛いくらいの痺れるような感覚に、

吉永の声が上ずり、震えた。

「・・・はぁっ・・・んんぅっ・・・」

しばらくそれを弄ぶ白石に、吉永が腰を擦り付け切羽詰った声を上げた。

「・・・はやくっ・・ともひろっ・・・」

白石は、大きく息をするともう片方の足を腋に抱えこみ、

ぎりぎりまで腰を引いた。

見上げる吉永の喉が与えられる熱さを期待してごくりと動いた。

「・・・はっ・・・ぁああっ・・・んんぁっ・・・」

一気に突き上げられて吉永の身体が跳ね、熱い声が響いた。

容赦もなく白石は吉永を攻め、

一見、苦しんででもいるように顔を左右に振り、

吉永の汗の浮いた顔が歪んでいる。

「・・・いいよ・・・すごくっ・・・」

「・・・あっ・・・うんっ・・・もっと・・・っ・・・」

吉永が白石の双丘を両手で掴み、

大きく開いた股間に押し付けた。

白石は、息を大きくつくと腰を引き、壁の一箇所を擦りあげた。

「・・・ひっいぃ・・・っ・・・」

その感覚に吉永が悲鳴を上げ、

白石の茎を絡みつく内壁が締めつける。

その場所を白石は強引に何度も擦り、

吉永の身体がのたうち、

上げ続ける声が吉永の得ている快感の強さを伝えていた。

「・・・あぁっ・・・んあぅっ・・・あぅんっ・・・」

随喜の涙があふれ、顔を振るたびに汗とともに飛び散る。

きつく反り返った吉永の茎から、

あふれ出る雫で彼の腹部が濡れそぼっていた。

その姿を目にして、白石が限界に追いやられる。

「・・・ごめんっ・・・も・・・俺・・・だめっ・・・」

「・・・いっ・・・はやっ・・・くっ・・・ともひっ・・」

突き上げて、白石の身体が震えた。

一際、乱れた声を上げて吉永の身体が弓なりに仰け反り硬直し、

彼の茎が開放された。

白石は吉永の身体を抱きこんで、その唇を熱い息で塞いだ。

吉永の舌がそれを嬉々として向かえる。

「・・・大丈夫?」

「・・・ああ・・・」

白石が持ってきたペットボトルの水を呷り、

吉永は荒い息をついてベッドの上に座っていた。

その腿に目を留めた白石の顔が少し赤くなった。

「孝司、ごめん・・。」

見上げた吉永が、ふっと笑った。

「・・・お前、やっと名前で呼んだな・・・。」

「・・・え・・・?」

白石の驚いた顔を見ながら吉永が微笑した。

「・・・で、ごめんていうのは、なんなんだ?」

「ああ・・・あの・・・。」

言いよどんで白石は吉永の隣に腰を下ろした。

「強く・・・掴みすぎたみたいで・・・。」

そう言って、白石は吉永の腿に触れた。

両足の腿に青く指の痕が残っていた。

「今さらだろう。赤だろうが青だろうが・・・。」

「・・・ごめん・・・」

ますます顔を赤くする白石を、吉永が抱き寄せベッドに寝そべった。

抱えられるに任せて白石は吉永に覆いかぶさり、

唇を重ね、二人はまるで奪い合うように舌を絡ませ、貪りあった。



何度目かの滾るような時が過ぎて、

吉永が白石の腕の中で身じろぎをした。

「・・・智宏・・・。」

「なに?」

「・・・帰る・・・。」

「・・・送ります。」

「ん」、と返事をして吉永がベッドから降りバスルームへ消えた。

溜息をつきながら起き上がり、白石は吉永のスーツを用意しはじめた。

ふ、と夕べ眠っている間に吉永が流した涙を思い出した。

どうしてなんて聞けないよな・・・プライド高すぎるし・・・

・・・言ったら、目も当てられないことになりそうだな・・・




吉永を送り、戻ってきた白石の目に、

ソファに投げられた洗濯物の山が飛び込んできた。

「・・・あ〜あ・・・。」

盛大に嘆息してそれを見つめ、ベッドに目をやる。

「また、洗濯か・・・。」

・・・ほんとに、休みにならなかったなぁ・・・

首を振りながら、初めて見た吉永の自堕落な姿を思い出していた。




・・・あれは、本当に公使だったんだろうか・・・

・・・それとも、俺の幻覚かなにかか・・・?

「・・・しくん・・・石君・・・白石君・・・?」

はっとして顔を上げた白石は、

そこに怪訝そうな吉永の顔を見て慌てて立ち上がった。

「あっ・・・すみません!」

あらためて白石は、その吉永の姿をまじまじと見つめた。

りゅうとスーツを着込んだ姿。

凛とした風情には昨日の吉永は欠片も見当たらない。

「あの・・・なんでしょうか?」

「どうした、珍しいな。ぼーっとして。」

「は、ちょっと考え事を・・・。」

苦笑してそういう白石を、周りがからかう。

「彼女のことでも考えてたんじゃないの?」

「いえっ、ち、違いますっ!」

「そんなに慌てなくてもいいんじゃない?さては、図星だね?」

「ち、違いますって!」

白石は顔色を変えて吉永を振り返った。

「あの、違うんです!俺っ・・・。」

「ま、いい。一緒に来てくれ。」

「あ、はい・・・。」



廊下を歩きながら白石は溜息をついた。

「・・・どうした?」

「あの・・・ほんとに、違うんです・・・。」

面白がるような顔で白石を見つめ、吉永が口を開いた。

「・・・別に、いいんじゃないのか?」

「だ、だからっ!」

前に向き直り、吉永が無言で歩く。

二度目の、白石の嘆息に吉永の声が聞こえた。

「・・・わかってる・・・。」

思わず、立ち止まりその背を見つめる白石の気配に、

吉永も立ち止まった。

振り返り、片眉を上げる。

「・・・いくぞ。」

「・・・はい。」

白石が追いつくのを待って吉永は歩き始めた。



・・・微妙な言葉だよな・・・わかってるって・・・

・・・いつか、聞けるだろうか・・・








                〜終〜




              2005年2月22日
                 弓



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