Fall into place





いつ頃からだろう。

お前がなくてはならない存在になったのは・・・。

最初のSEX。

あれは、俺にとってはどうってことのないものだった。

俺が入れたんだし。


二度目。

・・・確かに同意の上のことだったな。

俺もその気になった。

でも、これきりだと思っていた。


三度目。

・・・撮影中にやるか、普通・・・。


四度目。

・・・あれからかな・・・。

お前が、俺を理解してくれているとわかったから。




それまで人を信じられないで生きていた。

信じたあとで裏切られることが怖くて。

傷つくことが怖くて。

きっと、誰にもわかってもらえないと、決め付けていた。

男に興味のなかったお前が、俺を好きだと言った。

きっと、心変わりする。

だから、お前の言葉を信じるまいと無理矢理押し込めていた。

自分の気持ちを。




誰かが、待っていてくれる。

玄関を開けたときの、一人暮らしのときとは違う温かさ。

一度知ってしまったその温もりを、

失ったときの寂しさ、怖さを、わかっていたから。

以前のように、独りで生きていけなくなる。

自分がどうなってしまうのか、考えたくなくて、

受け入れてしまうことが、恐ろしかった。

なのに・・・

お前は真っ直ぐに俺に向かってきてくれた。




お前は、自分が俺の初恋だと言った。

女と恋くらいしたことはある。

そう答えたが、お前の言うとおりかもしれない。

確かに、恋愛はした。

でも、今思えば、

俺は自分を曝け出してはいなかったように思う。

嫌われることが怖くて。

みっともないところや恥ずかしいところを

知られるのが怖くて。




今の俺は、その逆だ。

お前は俺の全てを知っている。

心も、体も。

お前の下で乱れる俺を、お前は綺麗だと言う。

あんなあられもない姿の俺を。

お前の愛撫に声を上げる俺を。

お前はいとも簡単に、

俺の理性をどこかへ吹き飛ばしてくれる。

最近、恥ずかしいと思わなくなってきた。

・・・昼間思い出すと恥ずかしいが・・・。




えらい変わりようだ。

自分から、お前が欲しいと誘うようになるとはね。

今は、どんな格好をさせられようが、

お前になら構わないと思っている。

どんなにみっともなくても、

お前が全てを受け止めてくれると信じているから。

何を隠す必要がある。

お前に抱かれることを嬉しいと心が震える。

体が燃える。

これが本当の俺なんだろう。

俺だけを見て欲しい、もっともっと愛して欲しい。

愛されていると確信もしている。

傲慢と思えるほどお前を信じている。

そのくせ、それを素直に口に出して伝えられない。

我ながら嫌な性格だと思う。

お前が言ってくれるように、言ってやりたいが・・・。


・・・調子に乗らせるだけだな・・・。




今日も、お前の帰りが遅い。

ドラマの収録が押してるんだろう。

いつの間にか、一人で寝るのが嫌いになった。

人とあまり関わりあわないように生きていた俺なのに。

お前が、殻の中に閉じ込めていた俺を壊して

引きずり出したんだ。

本当は一人でいるのが大嫌いな俺を。

甘えん坊で、わがままな俺を。

責任取れよ。

そう思ってさっき送ったメールに今更恥ずかしくなった。


《寒い。早く帰ってきて暖めてくれ。》


寂しくて、つい馬鹿なことをしてしまった。

子供じみたことをした。

これじゃあ、香藤を叱れない。

案の定、何度も香藤からメールが入る。


《ごめんね、岩城さん。もう少し待ってて!》

《あともうちょっとだから、待ってて!すぐ帰るから!》


ご丁寧に、「ごめん」の顔文字つきだ。

あ〜あ・・・ほんとに馬鹿なことをした。

香藤の仕事の邪魔をしたようなもんだ。

申し訳なくて落ち込みそうだ・・・。

携帯電話を握り締めていたら、

手の中でコールがあった。

・・・香藤だ・・・。

その表示された名前を見ただけでどきりとする。

俺を心配して掛けてきてくれたんだろう。

忙しいだろうに、時間を見つけて・・・。

『岩城さん!ごめん、もう少しだから!』

「・・・香藤・・・。」

情けなくて涙が出た。

仕事にプライバシーを持ち込むなと言っていた俺が・・・。

『い、岩城さん?!どした?何かあった?!』

「なんでもない。」

『何でもないわけないでしょ?!泣いてるじゃない!』

「いいんだ。香藤、すまん。」

『大丈夫なの?ほんとに、大丈夫なの?』

「ああ、大丈夫だ。・・・待ってるから。」

俺のこととなるとお前が普通でなくなるのがわかっていながら、

やってしまった。

試している・・・?

お前の愛情を・・・?

今になっても・・・?

ふと湧いた疑問を俺はすぐに打ち消せない。

なんて、嫌な奴・・・。

本気で落ち込んでくる。

涙腺が壊れる・・・。




玄関ドアが開いて、階段を駆け上がる音がする。

誰だかわかりきっていても、ベッドから起き上がれない。

寝室のドアが勢いよく開いて、お前の声がしても・・・。

「岩城さん!」

布団にくるまって泣いているなんて、

恥ずかしくて顔を出せない。

・・・そういやあ、前に一度あったな・・・。

布団から手だけを出して香藤の腕を掴んだ。

「岩城さん・・・。」

泣いている俺をお前の腕が包んでくれる。

背中を撫でるお前の手のぬくもりが俺の心まで温めてくれる。

俺が唯一安心できる場所。

俺の、あるべき場所。

・・・謝らなきゃ・・・。

「香藤、すまん。仕事中に。」

「いいよ。そんなことより大丈夫?」

「ちょっと、自分が情けなくて・・・。」

「なに、それ?」

「お前に謝らなきゃいけない・・・。」

心配そうなお前の顔をまともに見られない。

「お前を、試そうとした・・・。」

「へっ?」

何か思いついたように俺の顔を覗き込む。

「もしかしてメールのこと?」

「・・・ああ・・・。」

なんで笑う?俺は怒られると思ったのに・・・。

「何だ、そんなこと。」

「そんなことって、・・・怒らないのか?」

「どうして?嬉しいよ。

だって、岩城さんが

俺のことを求めてくれてる証拠じゃない?」

「・・・香藤・・・」

お前の懐の深さに驚かされる。

どうして、そんな風に思えるんだ?

「岩城さんさ、一人で寂しかった?だから、でしょ?」

「・・・オフに一人でいると、ろくなことを考えないな。ごめん。」

「いいよ。気にしないで。」

お前のキス。俺の理性などその前では簡単に崩れてしまう。

「岩城さん、落ち込みからは浮上した?」

「ああ。すまん。」

「じゃあ、朝まで付き合って。」

朝・・・って・・・。

「あのな、香藤。

明日早いうちから仕事なんだが・・・。」

「だ〜め。俺に心配かけた反省はしてないわけ?」

「う・・・・。」

痛いところを突いてくる。

言い返せないのが、少し悔しい。

「それにさ、俺が岩城さんをどれほど愛してるか、

教えてあげなきゃ。」

「・・・ああ、教えてくれ。」




「おはようございます。」

「おはようございます、岩城さん・・・?」

清水さんがちょっと言葉をきって俺を見ている。

わかったかな・・・動きづらいこと。

「清水さん、おっはようございま〜す。」

香藤が後ろから、能天気な声を出す。

・・・なんでそんなに元気なんだ、お前は?

「香藤さん。」

「はい、何ですか?」

「壊さないでくださいね。」

「えっ?!」

俺も、香藤も驚いて思わず大きな声を出してしまった。

「今日は動き回るような仕事はないですからいいんですけど、

困りますから。」

「あっ、ごめんなさい。気をつけます。」

清水さんにまでこんなことを言われるなんて、恥ずかしい・・・。

「岩城さんも。」

「はいっ?!」

「仲がいいのは宜しいんですけど・・・」

「あ、はい・・・。」

確かに、香藤のせいばかりじゃない。

どっちかと言えば夕べは俺のせいだな。

「じゃあ、香藤。」

「うん。いってらっしゃい。」

「お前も遅れないようにな。」

「わかってるよぉ、もお。子供じゃないんだから。」

「悪かったな。じゃ、いってくる。」

こうやって、又いつもの日常が始まる。

お前と二人の。

ずっと・・・。




                〜終〜



2004年11月24日



   弓


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