公使閣下の外交特権









「お疲れ様でした。」

「ああ・・・。」

ハンドルを握る白石が、バックミラーで後ろにいる吉永に視線を送りながら言った。

吉永は眼鏡を外し、内ポケットにしまうとシートに深々と背を預け、瞳を閉じた。

「着いたら、起こしますから眠っててください。」

「どこへ着いたらだ?」

「・・・は?」

くすり、と吉永が笑いを漏らした。

「お前のマンションへ行く。着いたら起こせ。」

そう言って、吉永はシートへ身体を預けた。






「何か、飲みますか?」

「ああ、温かいのを頼む。」

そう言った吉永の前に出されたカップ。

香ってくる匂いでその中身がわかった。

「お前、俺を子供扱いするのか?」

「いえ、そういうわけじゃ・・・。」

白石が苦笑しながら、吉永の隣に座った。

膝に肘をついて、組んだ両手にあごを乗せ、

吉永が憮然とした顔でそのカップを見つめている。

「コーヒーや、紅茶は眠れなくなると思って。」

「・・・だからって、ホットミルクはないだろう?」

「すみません。他になくて・・・。」

吉永は黙ってカップを取り上げた。

口元に持っていき、ふと、その顔が和んだ。

「それ、飲んだら、寝てください。ここのところ、まともに休んでないでしょう?」

「・・・ああ、まあな・・・。」

両手でカップを持ち、コクッと一口飲んで、吉永はふーっと吐息を吐いた。

忙しすぎる吉永を、白石が心配げに見つめる。

目の下に、薄く隈が出来ている。

少し、痩せたような気さえする。

この前の津波による甚大な被害。

日本人にも多くの犠牲者が出た。

いまだ行方不明者が大勢いる。

その対応に吉永は追われている。

そんな中、それに追い討ちをかけるように、

○島問題から派生したアジア各国での、繰り返される反日デモ。

たび重なる本国の対応のまずさに、

吉永の各国大使、公使たちとの交流を当てにして、

他国駐在の日本大使館員たちが頼ってくる。

そのお陰で、吉永はここ数ヶ月、ろくに休む暇もない。

「・・・本国は何をやってるんでしょうね。矢面に立たされるのはこっちだってのに。」

「仕方ないだろ。実際を目にしてるわけじゃないからな、連中は。」

「対応が温いんだよな・・まったく・・・。」

ふふ、と吉永が笑った。

「笑い事じゃないでしょう?」

白石が、そう言って嘆息した。

「・・・寝るか・・・。」

空になったカップを置いて、吉永が立ち上がった。




「・・・智宏・・・。」

シャワーを浴び、隣に入ってきた白石の肩に、吉永が腕を絡ませた。

「だめです。」

「あ?」

白石が吉永の腕を掴んで押し戻した。

その思っても見ない白石の言葉に、吉永が顔を上げて白石の顔を睨んだ。

「だめです。ちゃんと寝てください。」

「・・・お前、いつの間に俺にそんなことを言うようになったんだ?」

「やっ・・と、とにかく、休まないと!」

「・・・ふん・・・。」

吉永が、ジロリ、と白石を睨んで背中を向けると、毛布を引きかぶった。

瞬く間に寝息が聞こえ、白石は枕に頭を落として溜息をついた。






「まったく、ひでぇな。」

同僚が、PCのサイトでデモのニュースを読みながら、声を上げた。

「・・・あの国は、「反日」を掲げたものは黙認するからな。」

「表向きは許可なしのデモは排除する、とか言っていながらな。」

白石は、それを聞きながら溜息をついた。

その溜息に気付いて、同僚が声をかけてきた。

「白石、お前チャイナスクールだよな。なんか、コネはないのか?」

「・・・ペーペーの俺には、ありませんよ、そんなもの。」

「そんなもの、かい?」

苦虫を噛み潰したような、白石の顔に同僚が言葉を切った。

いたたまれない気分で、席を立ち部屋を出る白石を見ながら、皆が首を傾げた。

「なんか、吉永公使と白石、この前から変なんだよな。」

「ああ、二人とも、機嫌悪いよな。」






「白石、公使のお呼びだぞ。」

そう言われて、戻ってきた同僚に頷いて白石は立ち上がった。

「白石、公使、機嫌悪いぞ。」

「うへっ、ここんとこ、ずっとだな。」

別の同僚が、そう声を上げる。

「覚悟していけよ。」

そう言われて、白石は少し溜息をついて吉永の部屋へ向かった。

確かに、吉永の機嫌が悪い。

休む暇もないことが原因だろう、と同僚は言っていたが、それだけとは思えない。

現に、白石を見る目は、きつい。

どう考えても、あの夜以来だ。

『・・・まさか、あれが理由じゃないだろうな・・・。』

そう思うと、ますます、溜息が出る。

『・・・勘弁してくれよ・・・』




ドアをノックし扉を開けた白石に、吉永は、PCに眼を向けたまま、

苦虫を噛み潰したような顔で片手を上げた。

「すまん。出かけるから、送迎を頼む。」

「わかりました・・・何か、ありましたか?」

「いや・・・外交ベタも、ここまでくるとお笑いだな。」

「は?」

白石が机を回りこみPCの画面を見た。

それは、本国からの連絡メール。

「・・・ローマ法王の葬儀列席、○○首相補佐官・・・まさか・・・?」

「まさかですめばいいが。」

白石は呆然とその画面を見ている。

「これじゃあ、国際儀礼ってものが・・・。」

「ないんだろうよ、日本には・・・な。」

「そんな馬鹿な!ちょっと、考えればわかる・・って言うか、

考えるようなものじゃないのに!」

「一応、伝えてはみたが・・・。」

吉永は、そう言って立ち上がった。

「なんて言ってきたんです?」

むっつりとしたまま吉永は、ブリーフケースを取り上げ、

白石の傍をすり抜けて廊下へ出た。

それを追いかけて、白石が並んで歩き出す。

「・・・日本は、キリ国(キリスト教国)じゃない、との返事だ。」

「はあっ?!・・そ、そんなの理由にならない・・通用しませんよ、そんなの!・・・」

ここのところ、顔色の悪かった吉永の表情が余計に曇っているように見える。

口元をゆがめて、皮肉な笑いを浮かべる吉永を見て、

白石は続けようとした言葉を飲み込んだ。

「・・・すみません。」

「いや。別に構わない。お前の言うとおりだ。」

「嫌になりますね。」

白石の言葉に、吉永の溜息が廊下に響いた。

「なりたてのお前でも、わかるのにな。」

「どこへ、行かれるんです?」

「中○大使館。」

「・・・あ〜あ・・・。」

吉永が、口元をゆがめて白石の顔を振り返った。

「今度は、お前が溜息か?」

「だって・・そんなの、本国の仕事でしょう?なんで、公使ばっかりが・・・。」

「誰がやろうが、そんなことは重要じゃない。どうにかなれば、いいんだ。」

「・・・公使・・・。」






「なんだってこんな日に、会合をぶつけてくるんだ?」

「そりゃ、公使目当てだからだろ。」

同僚の言葉を耳にして、白石が顔を強張らせた。

吉永が、取り付けたアポ。

その同じ日に、某欧州国公使からの非公式会合の申し出があった。

「まぁな。同じ日にすりゃ、当然あっちは大使が対応するしな。

自分の方には公使がくるって、わかるからな。」

「そういやぁ・・噂あるよね。」

「どんな?」

「彼、両刀らしいぜ。」

二人が顔を見合わせ、げんなりとした顔で、頷きあっている。

「・・・なるほどね。吉永ファンクラブの中でも、

どうも、公使を見る目がちょっと違うと思ってたけどな。そういうことか・・・。」





大使の隣に座し、白石は内心いらいらと落ち着かなかった。

別室での、吉永と某欧州国公使の非公式会合。

通訳として同席しながら、白石に通訳としての出番がない。

相も変わらずの会合に、白石は内心溜息をついていた。

目の前の自分の仕事に自嘲気味の白石の心は、離れた部屋に囚われていった。





晩餐が始まり、白石は一息つこうと事務室へ向かった。

その途中、玄関ホールを横切る。

ふ、と見ると某国公使と吉永がいた。

ぎくり、と立ち止まった白石は、何気ない風を装い近付いた。

「ご苦労様でした。」

吉永が振り返り、白石がそう言って客に頭を下げる。

その彼に、顎先だけを引いて頷いた客が、

後ろにSPを従え、白石がいるのにも拘らず、

吉永の左手を取り、その甲にキスをした。

「今度、プライベートでお食事などいかがでしょう?」

「ええ、喜んでお伺いいたします。」

そう答えて、吉永が白石を振り返った。

「白石君、控えておいてくれ。」

「はい、公使。」

憮然として客が白石に視線を向けた。

白石は、その彼に挑戦的とも言える瞳で、にっこりと笑って見せた。

客が去り、ホールに吉永と二人きりになった。

「白石君。」

呼ばれて顔を向けた白石の唇に、いきなり吉永が左手の甲を押し付けた。

「んぐっ?!」

目を剥く白石に、吉永が、ふん、と笑いもせず答えた。

「手を洗いに行くのが、面倒だ。」

「はぁ?!」

白石が声を上げるのを横目に、吉永はむっつりとしたまま歩き出した。

慌ててその後ろを追いかけ、白石は吉永の腕を掴んだ。

「・・・なんだ?」

「公使、お食事は?」

「済ませた。」

取り澄ましたその顔に、白石は溜息をついた。

「ここのところ、ずっと不機嫌ですね。」

じろり、と白石に視線を流して、吉永は自室のドアを開けた。

「お前もまだ仕事は、終わってないんだろう。」

「ええ。これから、食事してその後、また会談するそうですから。」

「終わったら、送ってくれ。」

「わかりました。」






地下駐車場へ車を入れ、白石は、シートに背を預けてふぅーっと溜息をついた。

真夜中の駐車場。

ヘッドライトを消すと、車内に薄闇が拡がった。

ところどころに点いている電灯の淡い光だけが、ぼうっと浮かんで見える。

後部座席に声をかけようとした白石の視界を、突然、影がさえぎった。

「・・・えっ?!・・・」

驚いて見上げた白石の膝の上に、吉永が乗り上げていた。

片眉を上げて吉永は白石のベルトに手をかけ、

あっという間もなく彼の茎を片手に握りこんだ。

「・・・こっ・・公使っ?!・・・」

白石の茎を上下になで摩りながら、吉永は自分のベルトを外し、

下着ごとスーツのズボンをずり下ろした。

瞬く間に白石の茎が熱を持つ。

それを、ニンマリと笑って確認すると、

吉永はズボンを足から引き抜き、助手席へ放り投げた。

呆然とする白石を横目に、吉永は彼の茎に手を添えてその上に腰を沈めた。

「・・・んっ・・はっ・・・」

白石の肩に両手を回し、強引に彼の茎を奥まで銜えこむと、そのまま吉永は、

左膝に脱ぎ損ねた下着が引っかかったままの姿で、自ら腰を上下し始めた。

「・・あぁっ・・あっ・・んぅっ・・はんっ・・あふっ・・んぁあっ・・・」

切なげに眉を寄せ、喘ぐ。

それを見上げている白石の喉が、ゴクリ、と動いた。

体の間に手を差し込んで、吉永のネクタイを毟り取り、

白石はシャツのボタンを外しながら、項に唇を這わせた。

吉永が白石の唇を求め、奪い合うように舌を絡ませあった。

「・・・あぁぁっ・・もうっ・・ともひろっ・・はっ、はやくっ・・・」

仰け反っていた吉永が、叫んだ。

白石は手を伸ばし助手席のシートを倒すと吉永を抱え込み、

そのシートに、どさり、と吉永を組み敷いた。

片足を肩に乗せ、思い切り吉永を突き上げる。

「・・・あぅっうんっ・・あはぁっ・・あっぁあっ・・・」

吉永の手が、白石のスーツの背を握り締める。

シートから吉永の肩がずり落ちそうなほどの、白石の突き上げに、

吉永が喉をさらして仰け反っていた。

狭い空間の中に、吉永の上げる嬌声が響いた。

「・・・あっひぁっ・・智宏っ・・んあぁっ・・・」



肩で息をしながら、白石は吉永の顔にかかる髪をそっと、払いのけた。

吉永は瞳を閉じ、熱い息をついている。

浮かぶ汗さえ淫らな、事後の顔。

白石がその頬へ、キスを落とした。

「・・・智宏・・・。」

吉永が、瞳を開いて見上げた。

白石は吉永から離れるとその身体の下から、

皺くちゃになった下着とズボンを引っ張り出し、吉永に履かせた。

「・・・行きましょう。動けますか?」

吉永が微かに頷いた。



吉永を抱えて、白石は自宅へ戻った。

部屋に入り、ベッドへ倒れこむように吉永を下ろす。

無言のまま、吉永の着ているスーツを剥ぎ取っていく白石を、

吉永が笑みを浮かべて眺めていた。

「・・・まったく・・・。」

「なんだ?」

白石が漏らした言葉に、吉永が片眉を上げた。

「やっと、笑いましたね。」

「そうか?」

吉永は脱がせやすいように、シャツの袖から腕を抜きながら、白石を見返した。

「そうですよ。ずっと不機嫌な顔してた。」

面白そうに笑い声を上げる吉永を見ながら、白石は彼のズボンに手をかけた。

「腰上げて。」

「・・・ああ。」

下着ごと、ズボンを引き抜いて吉永を見つめる。

目を細めて自分を見返すその顔に、白石の喉が、ゴクリと動いた。

「脱がせてやろうか?」

「いりません。」

ベッドへ四肢を伸ばし、くすくすと笑う吉永を横目に、

白石は上着を脱ぎ、床へ放り投げた。



「・・・はぁっ・・んっ・・・。」

吉永が甘い声を上げ、喘いでいる。

その両足の間に白石は顔を埋め、舌を這わせていた。

開かれている脚が、白石の加える愛撫に堪えきれずに、震える。

「・・・ふぅ・・ぅんんっ・・・。」

蕩けそうな顔で、自分の指を甘噛みしながら熱い息をはく吉永に、

白石の身体がぞくぞくとした。

「・・・あっふぅっ・・・。」

白石が茎に立てる歯に、吉永の肩が跳ね上がり、

白石の髪に差し込んだ指がもっと、と動いた。

吉永の茎に舌を這わせながら、白石はちらりと吉永を見上げた。

白い、仰け反った身体が上下していた。白石からは見えない顔。

上げる声が白石を煽った。

「・・・んぅっ・・はんっ・・あぁっ・・・」

その顔が見たくなって、

白石は吉永の茎を片手で揉みしだきながら、身体を起こした。

「・・・はっ・・あんっ・・あふっ・・・」

頬を染めた吉永の顔に、ごくっ、と、白石の喉が鳴る。

甘噛みする指を唇から引き抜き、白石はその唇に喰らいついた。

「・・・んっ・・んぅ・・・」

吉永の腕が白石の首に絡みつく。

吉永の肩を抱き、茎から零れでる先走りを指で掬い取り、吉永の蕾に滑らせた。

途端に、吉永の眉が寄せられ、塞いだ唇の隙間から声が漏れた。

指を奥に進ませると、吉永が唇を外し、声を上げた。

「・・・ああっあっ・・あっ・・・」

白石の腕の中で仰け反り、腰を揺すった。

「・・・んふぅんっ・・・」

出し入れをする白石の腕を掴み、

もっと奥へ白石が指を進めやすいように両足が開いた。

白石が、唇を胸から徐々にずらしながら這わせていく。

片手で、胸の飾りを引っかくようにすると、吉永の声が、高く跳ねた。

「・・・はあぁっ・・ともっ・・・」

もっと声が聞きたいと、白石は吉永の中のポイントに指を当て、摩った。

「・・・いぃっ・・そこっ・・・」

吉永の手が、白石の髪に差し込まれ、腰が蠢いた。

白石の、茎を弄る舌と唇。

後ろを捏ね回す指。

前後を同時に責められて、吉永の肢体が快感にうねった。

「・・・ああぁっ・・ともひろっ・・もっ・・・」

吉永がシーツを握り締め、顔を左右に振り立てた。

「・・・どっち?」

白石が顔を上げて吉永を見つめた。

肩で大きく息をしながら、吉永は濡れた瞳で、白石の言葉に少し悔しげな顔をした。

吉永は白石を押し倒すと、白石の茎を掴んだ。

「・・・可愛くないぞ、お前・・・」

すでにいきり立つ白石の茎に、吉永がそう言って白石を睨んだ。

「・・・ごめん・・・。」

白石が、ばつの悪そうな顔をするのを見て、吉永はニンマリと笑った。

「好きにさせてもらう。」

それを自分で蕾にあて、ゆっくりと腰を下ろした。

「・・・んぅ、ふぅっ・・・」

収め切って吉永が熱い息をはき、白石を見下ろした。

妖艶な、笑み。

ゾクッと白石の体が震えた。

「・・・あっ・・んんっ・・はんっ・・・」

吉永が腰を使い始め、白石は彼の腕を掴んで下から突き上げた。

粘膜の擦れる濡れた音と、打ち付ける音が部屋中に、卑猥に響いた。

「・・・あふんっ・・はぅっ・・・」

唾液が溢れ、吉永の顎を伝う。

のたうっていた吉永が顔を顰め、切迫した声が上がった。

「・・・ともひろぉっ・・もうっ・・・」

吉永を抱き寄せ白石は身体を反転させた。腰を抱え、吉永を突き上げる。

「・・・ああぁっ・・ひっいいっ・・・」

吉永の両腕と、両足が白石の身体に絡みついた。

白石の激しい律動に、悶え、身体をくねらせ、腰を擦り付ける。

「・・・あはっ・・あぅんっ・・んふっ・・ぅうんっ・・・」

「・・・孝司っ・・・」

白石が名を呼んだ途端、吉永の柔襞が一層白石を締め付けた。

「・・・いいっ・・智宏っ・・もっとっ・・・」

吉永の腰を抱え直し、白石は茎を際限まで引き出すと、そのポイントを抉った。

「・・・はぁああっ・・はぅんっ・・あっふぅぅっ・・・」

まるで飢えてでもいるように、貪欲に白石を貪る吉永。

律動にあわせて身体ががくがくと揺れる。

夢中で叫ぶ吉永の声が、白石をより煽った。

「・・・もっとっ・・ともひろっ・・ふか・・くっ・・・」

白石が強く打ち付け、吉永の喘ぎ声が部屋に響いた。

吉永の茎は体の間で擦られ、果てていた。

「・・・もうっ・・は・・はやっ・・と・・もひろっ・・・」

強かに吉永の最奥へ、白石が自分を解放し、

吉永の甲高い悲鳴が上がり背が反り返った。

荒い息をついて、白石は吉永の唇を貪った。

舌を絡ませ、息を奪うように吸い上げる。

強く抱きしめあう身体の間で、

吉永の吐き出したものが肌に擦れあい湿った音を立てた。

ひとしきり口付けて、白石が吉永の頬を伝う唾液を舐め取った。

「・・・智宏・・・。」

「大丈夫ですか?」

「ああ・・・。」

吉永の熱い息が顔にかかり、吉永の中にいる白石の茎が、ドクンと鼓動した。

それを感じた吉永が嫣然と微笑んで、白石を見上げた。

「・・・ふふ・・・。」

「笑わないで・・・。」

「よく、この前は我慢できたな。」

「えっ・・だって・・・。」

濡れた瞳で見上げ、苦笑する白石の唇を、吉永がペロリと舐めた。

「・・・やっぱり、怒ってたんですね。」

「・・・ふ・・ん・・・」

ジロリ、と見る吉永の身体を抱きこみ、白石は起き上がった。

その態勢に、白石の茎が深く刺さり、吉永が息を漏らした。

「・・・んふっ・・・。」

「今日は、好きにするんじゃないんですか?」

「・・・ああ。この前の分もな・・・。」

「はい、はい。」

そう言って笑う白石の唇を喰みながら、蕾の中でより熱くなる白石の茎に、

吉永は満足そうな顔をしてその首に腕を巻きつけた。






朝、シャワーを浴びて出てきた吉永が、髪を拭きながら言った。

「智宏、スーツを貸してくれ。」

「あ、はい。」

床に脱ぎ捨てられた、吉永のスーツ。皺だらけのズボンとネクタイを見て、

白石は苦笑を浮かべた。




「このまま、直行する。お前も来てくれ。」

「どちらへ、送りますか?」

「・・・中○大使館。」

「またですか・・・。」

「そう、いやな顔をするな。」






「おい、見てみろよ。」

同僚が、PCの画面を指差している。

そのニュース画面に、白石たちは釘付けとなった。



『・・・中○中央テレビは過激な反日デモ行動への不参加を呼び掛ける、

外相の演説録画を長時間にわたって繰り返し放送した。

中○各紙も反日デモでの冷静な対応を呼び掛けるなど、

反日デモ沈静化を図る党と政府の方針を浸透させるための、

中○メディアによる本格キャンペーンが始まった。

社会の安定や経済協力の重要性を訴える論評を、

競い合うように掲載しはじめている。

日○関係の悪化は、両国においてのダメージにほかならない・・・』



「なんなんだ、この変わりようは?」

「わかんないねぇ・・・。」

白石は、画面を見ながら同僚とは別のことを思っていた。

『・・・公使だ・・大使館に日参してたのは、これか・・・。』

「おい!本国から連絡だ。日○首脳会談が実現の運びだってよ!」

一斉に、その方へ視線が向けられ、全員が顔を見合わせた。

その時、一様に脳裏に浮かんでいたのは、いつも取り澄ました眼鏡をかけた、顔。

「・・・ここ、タイだよな。」

「ああ・・・。」

「なんで、タイにいる人間が、他国の連中のことで走り回らなきゃならないんだ?」

その言葉に、全員が溜息をついた。






「ニュース、見ました。」

白石が少し明るめの声で、後部座席にいる吉永に話しかけた。

吉永は、顔色一つ変えることなく口を開いた。

「・・・まだだ。」

「え?」

「あれくらいでは、デモは収まらないだろう。これからだな。」

冷静な、吉永の声。白石は黙り込んだ。

「・・・まぁ、一歩進んだくらいか。

あれは、政府に矛先が向かないようにしただけだろう。」

白石が溜息をついた。

ふ、と吉永の頬が綻び、ちらり、とバックミラーに視線を流した。

「ご褒美でも、貰おうか・・・。」

その言葉に、カッと白石の体が熱くなった。

「あ、あの・・・。」

「智宏。」

「・・・はい?」

「今夜は、だめです、といっても、聞かないぞ。」

「は・・・。」

ゴクリ、と白石の喉が鳴った。

真っ赤な顔の白石を後ろから見て、吉永が肩を揺らして笑っていた。









                   〜終〜




                  2005年4月22日
戻る