日々是好日





大きく、開け放たれた窓から、さやさやと風が吹き込む。

ソファに座って、岩城はいつものように、本を読んでいる。

差し込む光が、その顔を照らして、ダイニングテーブルに肘をつき、

岩城を見つめる香藤からは、それが、後光のようにさえ感じられた。



『・・・綺麗だなぁ・・・。』

ボーっと見つめる香藤の熱い視線。

とっくに気付いている岩城だったが、あえて言わない。

言うと、その後どうなるか、目に見えている。

『・・・今日は、これを読み終わりたいからな。』



「・・・ねぇ、岩城さん。」

香藤が、隣に擦り寄ってくる。

岩城は、溜息をついて香藤を振り返った。

「なあに、その溜息?」

「いや、別に。」

苦笑して、岩城は香藤の頭に手をかけ、引き寄せられるまま、

香藤は岩城の膝の上に、頭を乗せた。

いつものように、岩城が香藤の髪を弄りはじめる。

「なんだか、ちょっと、変な感じだな。」

「なに?」

「・・・髪を切ったせいか。」

くすっと、香藤が笑った。

「ものたりない?」

「ふふ・・・まあ、いいか。」

香藤が、岩城のほうへ寝返りを打った。

少し、顔を顰めて耳を弄るのを見て、岩城が尋ねた。

「・・・耳、どうした?」

「うん、痒い。」

「耳かき、してやろうか?」

香藤の顔が、パァッと綻んだ。

飛び起きて耳かきを取ってくると、岩城の膝へ戻った。

「へへっ、嬉しいな。」

「・・・お前、こんなことがそんなに嬉しいか?」

「そりゃぁ、そうだよ!膝枕で、耳かき!ロマンだね!」

「馬鹿なこと言ってないで、ほら、もうちょっと上にずれろ。」

「は〜い。」

香藤は、ずりずりと、言われたとおりに身体を動かし、瞳を閉じた。

「・・・気持ちいい・・・。」

呟くように、香藤が言った。

言いながら、片手が岩城の腰に触れる。

「こらっ!危ないだろうが!」

「なんで?感じちゃう岩城さんが、いけないんじゃない?」

「なっ・・・!」

岩城が、頬を染めて香藤の頭をはたいた。

「そんなこと言ってると、やってやらないぞ。」

「うわ!ごめん、もう、しません!」

岩城が、くすくすと笑いながら、香藤の耳を引っ張った。

「ほら、反対側。」

「うん。」




耳かきをされながら、いつの間にか、香藤は眠ってしまっていた。

日頃の精悍さは何処へやら、

スースーと寝息を立てる子供のようなその寝顔を、

岩城は目を細めて見つめた。

『・・・綺麗な顔だな・・・。』

耳かきを脇へ置き、しばらくその顔を眺めた。

『俺のことを、綺麗だというが、お前だって、そうなんだぞ。

 ・・・俺に自覚がないという前に、自分が自覚しろ。』

安心しきって眠る香藤の重みが、岩城の心を満たしていく。

『・・・今日の午後は、このまま過ごすか。』

そっと、香藤の額にキスをして、岩城はその寝顔に微笑んだ。

本を取り上げ、香藤の髪を、指で弄りながら読み始める。

その頬に、幸せそうな微笑を浮かべたまま・・・。






                 〜終〜




                2005年4月19日
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