「藤の下で‥‥‥」







去年、藤の花を見に行ったのは‥‥‥春の麗らかな日

今年も‥‥‥行きたいな

ふと、そう思った。





久しぶりのオフで買い物をして、ふと目に入ったのは、鉢植えの藤の木だった。

支柱を上手に立ててあり、蕾を2〜3房つけていた。

「うまくいけば卓上の藤の花見ができるよ」

お店の人に言われ、香藤はその鉢を買ってきた。

詳しい育て方も、もちろん聞いていた。

「無理なら、庭に植えても良いしね」

お店の人はそう最後に伝える。

「できるだけ、がんばってみるよ」

香藤はそう言い返し、鉢を大事そうに車に乗せた。

『冬の蝉』の撮影終了後、暫くはのんびりだった岩城が、

最近は自宅にいる時間が短いといっても良いほどだった。

小野塚とのドラマでは準主役だし、CMやトーク番組などなど、

テレビに岩城が出ない日は無かった。

アメリカに勉強に行ったのも、本音だけど実は逃げ出したかったのかも知れない。

岩城の活躍する、日本に居たくなかったのかもしれない‥‥‥

岩城に嫉妬していた‥‥‥多分

自分を置いて行くみたいに‥‥‥先に行く岩城に‥‥‥

アメリカで『冬の蝉』のプレミア公開をして、日本に戻ってきた。

日本での公開と同時に、本格的な活動も待っていた。

自分がアメリカで勉強している間に、会社の方も着々と準備をしていた。

ありがたい‥‥‥香藤は思っていた。

再び、金子がマネージャーに付く事も決まっていたし、

映画の舞台挨拶の後にテレビやCMの撮影等々‥‥‥

香藤も少し忙しい仕事を楽しそうにこなしていた。

岩城は今まで、香藤の分もとがんばっていたのだろう。

香藤が日本に戻ってきた後は、仕事の量を減らしていたが‥‥‥

『今年は、去年行った藤の花を見に行けないな‥‥‥』

岩城がカレンダーを見て呟いた言葉

去年、オフが重なったとき、香藤の実家の近くにある藤棚に岩城を連れて行った。

向こうで、香藤の妹夫婦と落ち合い、お弁当やたわいない一日を過ごした。

季節がらその事を想いだしたのだろう。

「上手くできるかな‥‥‥」

香藤は呟くと、鉢を見つめた。

ある意味、盆栽といえるものは難しかった。

実際、藤は棚を作って蔦を伸ばすものだから、鉢植えでも育つのか気になるところだった。

庭に植えようかと思ったが、庭は岩城の管轄になるのでそれはやめた。

鉢の藤を覗き込むように見ながら、

「綺麗に咲いてよね‥‥‥楽しみにしている」

香藤は呟いたのだった。





その晩、香藤の携帯にメールが入って来た。

『小野塚君達と飲みに行かないか?』

岩城からの短いメール

その先に、行く予定の店の名前があった。

『OK、店で待っているね〜〜vv』

久しぶりな誘いに、香藤はすぐに返事を出して、服を着替え始める。

電気を消す前に、鉢に軽く水を与えると家を出て行った。



指定された店の前に行くと、岩城も丁度付いた所だった。

「岩城さん、来たよ」

片手を挙げて岩城に声を掛ける。

「何だよ。岩城さん、だけかよ〜〜〜」

小野塚のからかう声が聞こえる。

「当たり前〜〜〜久しぶりの新婚だぞ」

香藤が笑って言うと、

「何を言っている!!バカ」

岩城が照れ隠しに声を上げた。

「あはははは‥‥‥」

久しぶりの空気に小野塚は笑いを上げる。

道を歩く人々が、3人に気づいて振り返ったり、携帯で写真を撮ったりしている。

その事に気づいて、早々に店の中に入っていった3人は、

ある個室に通されると其処には宮坂が来ていた。

後、今度宮坂のドラマで共演すると言う人物を連れて来ていた。

「吉澄さん‥‥‥」

顔を見て、驚いた声を上げる岩城。

「お元気そうで‥‥‥」

香藤も驚きつつ喜びの声を上げた。

「今度のドラマで、俺の兄貴役なんだよ」

宮坂が答える。

「お前のって、時代劇だったろ」

小野塚が聞き返すと、

「似合わないだろう(笑)でも、面白そうなんでね」

宮坂は答えると、席を勧めた。

反対側には久しぶりの吉澄が座った隣に岩城が、その横に香藤がしっかり座る。

相変わらずの香藤にみんな笑った。

何気なく、今後の事や、撮影の事、また『冬の蝉』での火事の事も懐かしい思い出として、

酒の席で話をしていた。

「じゃあ、あの相沢って吉澄さんの予定だったんだ」

小野塚が聞き返す。

「まあ、事故らなかったらね(笑)でも、撮影中は困ったよ」

吉澄は答えると、楽しそうだ。

「困ったって?香藤ののろけですか?」

小野塚が聞き返す。

「いや、岩城君の方」

吉澄の言葉はある意味、爆弾発言だった。

小野塚は大爆笑し、宮坂は呆然とし、香藤にいたっては感激の余り、

岩城に抱きつく始末だった。

「吉澄さん!!」

岩城があわてて止めようとするが、酔いの席ではそれも無理というものだった。

『冬の蝉』は好評でロングランをしていた。

これから見に行こうか?とか言い出す始末だった。

みんなで本当に楽しいお酒を飲み交わした。





「ふぅ‥‥‥楽しかったけど、飲みすぎたな」

タクシーから降りつつ、岩城が後ろを振り返る。

「うん、でも、楽しかった」

香藤がお金を払い、出てきた。

心地の良い風が二人を包むように吹いている。

家の中に入り、リビングに入るとテーブル上の藤の鉢がほころび始めているのが眼に入った。

「香藤‥‥‥これは?」

岩城が目を細め聞き返す。

「うん、今年は見に行けそうに無いからさ‥‥‥気分だけでもって思って」

香藤が鉢に気づいてくれた岩城に嬉しそうに言い返す。

「家で‥‥‥花見か。楽しみだな」

岩城はテーブルに近づいて、嬉しそうに微笑んだ。

「でも、来年は行こうね。あの藤棚に」

香藤はそんな岩城を後ろから抱きしめて、耳元に囁いた。

「そう‥‥‥だな」

岩城はクスッと笑い、香藤の唇にキスを落とした。






                2006・4・26  sasa

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ひゃっほ〜〜いv
sasaさんから、サイト1周年のお祝いに、頂きましたv
吉澄さん・・・大変だったのね、やっぱり(笑)
ほのぼの、ラブラブですねぇvv
で、当然この後は・・・ですよね?!
うわぁvv 鉢植えになりたい〜〜〜〜!!! (爆)

sasaさん、ありがとうございますvv