恋ぞつもりて







・・・あれ?

ひょっとして、これって、夢かも?

なんか、目の前にスクリーンがある感じ。

見たことある風景だよなぁ・・・どっかのテレビ局、な気がする。

あ・・・やっぱ夢だ。

年くった俺と、小野塚と宮坂がいる。

あ〜・・・良かった、俺、はげてない・・・。

なんか、小野塚も宮坂も、かっこいいじゃん。

俺、いくつくらいなんだろう、これ。

いい感じで年くってる気がする。

・・・ってか、オヤジに似ててやだ。

『いいよなぁ、お前。若く見えて。』

は?

てか、小野塚、お前いくつだよ?

『俺達より年上の癖に。』

『言われないか?50越えてるようには見えないって?』

・・・50越えてんの、俺?

へー。

『おかげさまでな、悪りーか。』

50越えてるのに、そういう喋り方すんだ、俺・・・。

なんか、ガキ・・・。

あ、金子さんだ。

こういう中年になるのか、金子さん。

渋いなー。

・・・ちょっと、太った?





って、ここどこよ?

いきなり場面変わるってのは、やっぱ夢だよな。

でー、肝心の岩城さん、どこだろ?

・・・俺が50越えてるってことは、岩城さんも・・・。

うわっ・・・・。

それって、すごくやばいよ。

年くったって、岩城さんは絶対、綺麗なはず。

おー、清水さんだ。

なんか、仕事出来ますって感じの年のとり方してるな。

清水さんがいるってことは、岩城さんもいるよな。

どこだ?





・・・いた。

いたけど・・・。

なんで、岩城さんだけ年とってないのさ?!

目尻の皺は増えてるけど、髪の毛も黒いまま。

染めてる?

・・・でも自然な色だよなー。

あー、あー、あー・・・。

こうなっちゃうんだ、岩城さん・・・。

やばいだろ、これは!

なんだよ、まわりの連中!

目がハートだぞ・・・。




あれ、誰だろ。

若いな、あいつ。

タレント、なんだろうけど。

岩城さんの顔見て、頬染めんな、このガキ!

てーか、岩城さん!

そう言う顔して、微笑まないでよ!

勘弁してよー、フェロモン垂れ流しじゃん・・・。





『岩城社長て、すごいよね。』

って、誰あんた?

女優、みたいだな、二人とも。

社長って言ってるし。

ここ、岩城さんの事務所?

『なんか、詐欺?』

『そうそう。あの夫婦、変。』

『香藤さんも、50代には見えないし。かっこいいよねぇ。

体型、若い頃から変ってないんだって。』

ほー、そうなんだ。

そりゃすげーや、俺。

『男の色気っての?うちの親と同い年なのに、そうは見えないよ。』

あはは・・・。

『で、社長の方もさぁ。』

『あれでもうすぐ還暦なんて、ありえないよね。』

還暦・・・って。

還暦ー?!

岩城さんが?!

あれで?!

まじ?!

勘弁!

『色気、なんてもんじゃないよね。』

うん!

『可愛い、って言うといけないかもしれないけど。』

いや、いけなくないよ。

可愛いよ。

『でもさー。』

『正直、お爺さんって年じゃない?なのに、あれ、なに?』

って、俺に言われても、って言ってないか。

『皺だって、年のわりにないし、肌、つるつるだし。』

『化粧してない、よね?』

『なに言ってんのー?当たり前じゃない。』

『だってさ、そう思うくらい、肌綺麗なんだもん。やんなっちゃう。』

『それにさ、男だってわかってるけど、あの色気はないよねー。』

『女優が負けてるって、なんだかねぇ・・・。』

うん、お気の毒様。

でも、岩城さん、やばすぎ・・・。

『あれは、男の色気に女の色気が混じっちゃってるね。』

『勝てっこないって。勝とうとも思わないけどさー。』

いいのか、女優がそれで・・・。

『なんか、指先までえろいってどういうこと?』

『そうそう。項とか、ねぇ?』

『愛されちゃってるからよねえ。』

はい。俺のせいです。

否定はしません。

つか、まじ、まずい。

すっげー、まずいけど・・・。

でも、どうしろと?

『稀に、ああいう人、いるよね。』

『ああいう人って?』

『バケモノ。』

『あー、それは言えてる。年齢不詳ってのね。』

『私が子供のころ、テレビとかで見てた社長と、ほとんど変ってないもん。

化け物としか言えないよ。』

なんだ、その乾いた笑いは。

まぁ、言いたいことはわかるけど。

確かに、あれは・・・化け物かも。

綺麗だなぁ、岩城さん。

年とっても、可愛い。

目尻の皺も可愛い。

でも・・・まじで、心配。

その心配が、展開されそうな雰囲気が・・・。

『あ、あ、あの、社長!』

『うん?なにかな?』

どえー、なに、あれ。

だから、そのにっこりは、止めようって、岩城さん!

『お、俺、昔から社長のファンで!』

『そう。どうもありがとう。』

あー、こら、坊主。

真っ赤にならなくていいから。

『・・・ほら。あそこ。』

『また、やってる。』

またって、なに?

なに、その、またって?

『馬鹿だよねー、入ってきたばっかの新人って。』

『あー、まぁ、二人のこと、知らないから。』

『社長に告白するのって、あれで何人目になるのかな。』

『さあ?』

『あ、あ、あの!俺と、付き合ってください!』

『ほら、言った。』

『馬鹿ねー。』

なんで、全員笑う?

・・・てか、またかって呟くなよ。

珍しくもないって?

いつものこと?!

『それは、なに?』

『あ、なに・・・って、えっと・・・。』

『付き合うって・・・どこに?』

・・・岩城さん、惚けてる場合じゃなくてさ。

あーあ、可哀想に・・・耳まで真っ赤っかじゃん。

どうすんだよ、40くらい年下の奴、堕として。

しかも所属タレントなのに。

『ああ、そういう意味なら、だめだよ。』

『俺、香藤さんがいてもいいです!待ちます!』

『俺は、香藤以外はだめだから。』

『・・・は?』

『待たなくていいよ。無駄だから。』

うわー、岩城さん、はっきり言っちゃった。

・・・年とると、平気になるのか。

慣れるってことか?

でも、そのにっこりで言われると、きついなー。

よかった、俺じゃなくて・・・。

『そんなに、香藤さんがいいんですか?』

『良い悪いじゃない。』

あ、岩城さんの久々の、ムカつき顔。

こえー・・・。

『俺が愛してるのは、香藤だけだ。

他の誰かと代われる相手じゃない。』

うわー・・・すげー、感動。

かっこいい、岩城さん。

二度惚れしちゃった。

あれ?

・・・シーンとしちゃったよ。

そりゃ、するか。

『待つのもだめですか?』

『待つのは君の勝手だけど、ありえないから。』

おっとこ前だー・・・。

いいなぁ。

って、言われてるの俺のことじゃん。

『君の若さがもったいないよ。』

うー・・・わー・・・。

なに、その、とんでもなく妖しい笑顔は。

すっごい、艶々しくて、怖いんですけど!

『俺は、抱くのも抱かれるのも、香藤以外は考えられない。』

・・・何気に、すごいこと言ってるよ、岩城さん。

『気持ちは嬉しいけど、俺は香藤一人で手一杯だからね。』

『は・・・。』

『その情熱、仕事に向けてくれると、もっと嬉しいな。』

あー、新人、へこんだ。

まぁ、諦めな。

岩城さんは、俺のだから。

あ〜あ岩城さん、それ、猛毒だよ。

若い男をたらしこんで操るなんて、どこでそんなワザを覚えて・・・

って、それ、いつもやられてんの、俺じゃん!?

長年つちかった、ワザなわけね・・・。

・・・あ、岩城さん、どこ行くんだろ。

って、振り向きもしないのね。

・・・なんか、収録かな。

慰められてるな、あいつ。

『諦めなよ。』

『てか、馬鹿だぜ、社長に告っても、無駄だって言ったろ?』

『でも、いつも優しいし。だから・・・。』

『勘違いって奴だよ、そりゃ。』

『社長、褒めてひと育てる人だからな。』

あれ?

そうなの?

岩城さん、けっこうきついこと言うけどな。

年とって変ったのか。

『あのフェロモンにっこりに、みんなやられるんだよな。』

『俺、諦めませんから。こうなったら、とことん・・・。』

ほー?

やってみろ?

どうなっても、知らねえぞ。

『死にたいなら、やれば?』

『死・・・って。』

『香藤さんに、殺されるぜ?』

『そ・・・。』

いや、それは、マジだから。

『芸能界の洗礼ってやつだねー。

いろいろ、伝説あるしさ、あの二人。』

なんだ、そりゃ。

どういうことになってるわけ?

なんだよ、伝説って。

『たいてい、男は一回、やられるんだよな、あのフェロモンに。』

『で、玉砕するんだな。』

『たまには、しないやつって・・・いないんですか?』

いるわけないだろ。

玉砕しちゃ悪いのかよ。

『するに決まってる。』

『でも、つまんないよな。たまには、いてもさー。』

いや、いなくていいから!

『待つってやついるけどさ、見てて無理だって分かるからさ。』

『ま、魔物に魅入られたんだと思って。』

笑うとこか、それ。

つーか・・・。

岩城さんて、どういう扱いよ?

けど、あれじゃあ、仕方ないかも・・・。

まじ、とんでもない色気だよなぁ。

俺でも怖い・・・。








「なんだ?」

「え?」

「起きてから、俺の顔じーっと見てるけど、なんかあるのか?」

「うーん。」

そりゃーねー、びっくりするよ、普通。

夢で見たのと、大して変らない顔が、腕ン中にあってさ。

綺麗過ぎっていうか、色気倍増だったよなー。

やばいけど、嬉しかったし。

でも、複雑・・・。

「あのさ、岩城さん。」

「なんだ?」

「ずっと、綺麗でいてよ。」

「は?」

「年とってもさ。」

あー、うー・・・。

首傾げてないで。

可愛いってば。

困った。

どう言えばいいんだ?

「あんまり、色っぽくならなくていいけど。」

「あのな、」

「あー、いや、役者としては、色っぽいほうがいいんだろうけど、」

「だから、」

「普段は、えーっとね、」

あ、なんか、やばそう・・・。

「香藤。」

「はい?」

「俺にはわからん。」

「あー、そうだね。」

・・・まぁ、いいか。

年とっても、俺の心配は、無くならないってのだけは、はっきりしてるよな。

・・・それって、どうよ?

前途多難、とか言っちゃっていい?

だからって、ただ抱っこして寝るだけ、なんて俺には無理だし。

「ごめん、岩城さんはそのままでいて。」

「お前もな。」

「はーい・・・。」








     終




     弓




   2003年2月22日
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