これは、私の、限りなく妄想に近い考察であることを、お断りしておきます。






  妖艶にして怜悧な毒花(笑)




姓名 吉永孝司
性別 男性
職業 現・タイ王国駐在日本大使館所属 特命全権公使
       昇進の最年少記録を更新中
       (第3話掲載時点におけるデータ)

現時点でわかっていることは、これだけである。

しかも、それは公の部分のみだ。

年齢も、学歴も、生い立ちも、まだ、不明である。

30代、とは思われるが。

そして、彼はなぜ外交官を目指したのか。

まるで、何もわかっていない。

彼には、謎が多すぎる。

すべて、が謎である。

ミステリアス、と言えば聞こえはいい。


髪を綺麗に分け、眼鏡をかけ、スーツを着こなし、婚約者の写真をデスクに飾る。

嫌味なくらいに隙のない、外交官姿。

間違えようも無く、彼はエリートである。

それなりの学歴も、当然あるだろう。

30代にして、「公使」、なのだ。

その外交官としての能力には、疑問の余地はない。

秀英な頭脳。

その回転の速さ。

卒のない会話。

見事な駆け引き。

それは、第3話までの間に、実際に目にしている。

「吉永ファンクラブ」とまで言われる人脈を持つ彼だ。

これから先も、その能力を駆使して、エリート街道を行くのだろう。

そして、・・・その彼が、見せた「私」の顔は、とんでもないものだった。

皮肉な笑みを見せながら、たった一つ見せた、私的部分。

・・・なぜ、彼は、夜の盛り場に繰り出し、男を漁るようになったのか・・・


タイに赴任してから、とは考えにくい。

彼が言うように、「危ういところに身をおきたく」なるだけとも、思えない。

スリルを求めるだけであるなら、何も相手は男である必要もない。

(この際、BLだから、何ぞと言う理由は脇へ置く。それを言ったら話にならない。)

相手が男だからといって、自分が受ける必要もない。

だが、彼は受けの立場で、男を誘う。


・・・幼少時代に、何かあったのだろう。

家庭環境に、問題があったのだろう。

長じて、学生時代にも、なにか、があったのかもしれない。

何か、大きくて、深いトラウマを抱えている。

そんな気がする。

そして・・・彼は、いつ、自分の容姿に気がついたのか。


自分の外見が男にもたらす効果を、彼は知っている。

どうすれば、相手が堕ちるのか。

どんな目つきをすれば。

どんな表情をすれば。

どんな仕草をすれば。

男が、自分に跪くかを。

そして、それを彼に気付かせた男が、過去にいるのだ。

あるいは、それは一人ではないのかもしれないが。


彼はまるで、氷の両刃と青白い業火を内封しているように見える。

それは彼自身をも傷つける。

その業火を、彼の中に灯した男がいるはずだ。

その男は、あるいは男たちは、多分、あっという間もなく、彼に囚われただろう。

彼の、恐ろしいまでの妖艶さに。

その冷たい微笑みに。


その男、そして、その後に関わった男たちを、虜にして来た、彼。

・・・誤解を恐れずに言えば、彼は・・・

身体の要求に、正直でもある。

もっと、言ってしまえば、淫乱である。

で、なければ、何の夜遊びだろう。

そう、誰かに造られたのか、

あるいは、その素質があったのか。

あるいは、その両方か・・・。


彼は心の中に、硬い殻を持っているように見えてならない。

それは彼自身が、気づいていないような気がする。

彼の危うさは、その殻の中から放射されているのだろう。

それは、時に悲鳴のようにも、聞こえる。

だが、その声は彼自身には聞こえていない。

おそらく、彼は、本当の自分を知らない。

あるいは、気付かぬ振りをしているのか。

だ、とすれば、私が思うよりも、性質(たち)が悪い。


だが、今、その殻を、外から叩く男がいる。

・・・果たして、かの年下の彼は、その殻を打ち破ることが出来るだろうか。

吉永孝司自身が、それを待っているような気がする。
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