なごり雪





「香藤、今日はありがとう。」

「ううん。雪のせいで、途中になっちゃったけど。」

「いいさ。雪の中のデートも、中々だったぞ。」

デートから帰ってきて、ベッドの中で抱き合いながら、

ゆったりと会話を交わす。

「岩城さんて、白、似合うよね。」

「お前のダークスーツもな。」

「ありがと。でもさ、岩城さんのほうが、色、白いよね。」

香藤はそういいながら、岩城の肌に手を滑らせた。

「・・・馬・・・鹿・・・。」

仰け反りながら岩城が、口を開いた。その声は、

すでに震えが混じり、香藤を煽った。

「で、さ、その白が、桜色になるんだ。俺、大好き。」

「・・・はっ・・・なに・・・言って・・・あっ・・・。」

「だって、ほら・・・もうなって来たじゃない。」

仰け反ったまま熱い息を漏らしはじめる岩城に、

香藤がその胸に唇を落しながら囁いた。

「・・・綺麗、岩城さん・・・。」

「・・・香藤・・・もう、喋るな・・・。」

「うん・・・。」


岩城の白い肌が熱く火照り、桜色に輝き、

滑らかな絹のような手触りが、加える愛撫に変化していく。

徐々に汗ばみ岩城の全身の皮膚が、

まるで時雨女のように触れる香藤の手のひらに吸い付きはじめる。

「ほんとに、綺麗だ・・・岩城さん・・・。」

「・・・あっ・・・んっ・・・。」

熱を帯び、甘く匂いたつような岩城の芳香が立ち昇り、

香藤の鼻腔をくすぐる。

その香りを楽しみながら香藤は、岩城の胸に舌を這わせた。

「・・・んぅっ・・・。」

すでに堅く立ち上がった胸の飾りを吸い上げ、

舌で転がし、片方の指でもう一方の飾りを

爪を立てて引っかくように撫でる。

「・・・あっ・・・んんぅっ・・・」

びくんと震える岩城の胸を弄りながら、

香藤のもう片方の手が彼の脇や腰、腿を撫で摩った。

デートの余韻からか、熱く、それでいて丁寧な優しい香藤の愛撫。

岩城の全身を、甘い疼きが包み込んだ。


「・・・あぁっあっ・・・かっ・・・とぉっ・・・!」

香藤の背にしがみ付いていた岩城の腕から、力が抜けた。

香藤は強かに吐き出した岩城の中から自身を引き抜くと、

ゆっくりと唇を重ね、その首に岩城の腕が絡みつく。

「愛してる・・・岩城さん・・・。」

「・・ああ・・・香藤・・・俺もだ。」

再び香藤は、まだ浅い息をする岩城の唇を捉え、

何度も角度を変えながら貪った。

そうしながら、胸の飾りに触れる指をそのままに、

岩城の項へ、胸へ唇をずらし、舌を這わせる。

「・・・お前・・・ちょっとは待てないのか・・・」

「それは、無理・・・。」

「・・・もう・・・何度・・・目だ・・・や、やめっ・・・」

その言葉に反して、

腹の上に吐き出した岩城の蜜を舐める香藤の髪に、

岩城の手が差し込まれその手が無意識にもっと下へと動いた。

「・・・まだ早いよ、岩城さん・・・。」

香藤の囁きに、我に返って自分がしようとしたことに気付き、

岩城の頬に朱が上った。

「もう少し待って。岩城さんの全部にキスしたいんだから・・・。」

「・・・そんな・・・別に、俺は・・・。」

羞恥に顔を背ける岩城を、香藤は優しい眼差しで見つめた。

「俺は、嬉しいけどね。求めてくれるのは・・・。」

「・・・香藤・・・。」

「今日の岩城さん、ちょっと、エッチ・・・」

「ば、馬鹿っ・・・なに言って・・・」

香藤の唇が、岩城のそれを捉えた。

重なる香藤の舌を、岩城は唇を開いて迎え入れる。

岩城の中に同居する含羞と好色さに香藤は眩暈を覚えた。

岩城の舌を甘噛み、歯を立てると、

岩城の喉が誘うように鳴る。ぞくぞくとするその声に、

香藤は一層岩城の口内を蹂躙した。

歯列をなぞり舌の裏側へ侵入させる。

「・・・んんっ・・・ぅんっ・・・。」

岩城の鼻から息が抜け、声が漏れる。

それを聞いて香藤はようやく唇を離した。

「・・・ぁ・・・。」

自分の上げた強請るような声に、

岩城の頬が染まるのを香藤は微笑んで見つめた。

肩をすくめて自分を見上げる岩城の

火照った頬に唇を触れ耳元で囁いた。

「キスだけで、いっちゃいそうだった?」

「・・・馬鹿・・・。」

「可愛い・・・岩城さん・・・。」

全身にキスしたい、

その言葉通り香藤は岩城の脇腹に滑らせた唇を、

背中のほうへ向けた。

その香藤の動きに岩城は自ら身体を回転させ、枕に頬を付けた。

「・・・は・・・ぁんん・・・」

背中を這い回る香藤の舌が、岩城の双丘へ下り、

その隙間を押し開き、舐め上げた。

「・・・ぁっんっ・・・かと・・・」

そのまま、香藤は岩城の双丘に唇を押し当て、

いくつもの花びらを散らした。

岩城の腰が揺らぎ、物欲しげに突き上げられる。

香藤はその膝を裏側から掴むと、

岩城の腰を上げさせ腹ばいのまま開かせた。

つぅっ、と、岩城の蕾から香藤が中へ吐き出した雫が腿へと伝わる。

岩城が、それに気付いたのだろう小さな声を上げた。

「・・・ぁっ・・・」

香藤は、岩城の両腿に舌を這わせ、その雫を舐め取った。

「・・・んんっ・・・ぁっ・・・んぅ・・・」

枕をかかえて喘ぐ岩城の蕾に舌を這わせ、

差し込んだ舌で襞を丹念に弄る。

そこから痺れるような疼きが岩城の全身に、広がっていく。

「・・・あふっ・・・ぅんんぅ・・・ふっ・・・」

しなる背中を眺めながら、執拗に中を探る香藤に、

岩城は焦れて首をひねり視線を向けた。

香藤はその欲情を露にした顔を見て岩城の身体を仰向けにさせ、

びくつく腿に舌を滑らせた。

その香藤の顔のすぐ傍で、

岩城の茎は熱く滾り先走りが零れていた。

「凄いね、そんなに激しいことしてないのに、

もう、こんなになってる・・・。」

「・・・香藤・・・もう・・・」

耐え切れなくなった岩城の、

懇願する声に香藤は上体を起こして岩城の顔を覗き込んだ。

眦に涙を浮かべたその顔に、ごくっと、香藤の喉が上下した。

「・・・香藤・・・頼むから・・・。」

「いいよ、先にいって。辛いでしょ。」

そういうと、香藤は岩城の茎を片手に握りこんだ。

「・・・あっ・・・はぅっ・・・」

息をつめたような岩城の声が上がり、

茎を摩る香藤の動きに合わせて、腰が動いた。

「・・・んぅっんっ・・・か・・・かとっ・・・」

根元を上下しながら、口に含み絡めるように舐める。

香藤の歯が先端の裏を擦るようにして立てられ、

岩城の喘ぎ声が高まり、香藤の口内へ自分を解放した。

香藤は岩城の茎から唇を外し、ゆっくりと蕾に触れ、

口に含んだ岩城の蜜をその蕾に移しこんだ。

「・・・んっ・・・あぁあっ・・・」

「可愛い・・・。」

「・・・どこ・・・見て・・・言ってるんだっ・・・」

「え?・・ここ?」

香藤がそう言って、蕾に指を滑らせそのまま潜り込ませた。

「・・・あっ・・・んうっ・・・」

岩城の身体が跳ね、腰が浮き上がった。

その腰を片腕に巻き込んで、

香藤は指を増やし岩城の内壁を余すところなく擦り、

撫で摩り、引っかいた。

香藤の指が中で蠢くたびに、

反りあがった岩城の胸が上下し、熱い喘ぎ声があがった。

「・・・あぁっ・・・あんんっ・・・はっあぁんっ・・・」

何度も受け止めた香藤の蜜と流し込まれた岩城の蜜とが、

指の動きにかき回され、香藤の指に絡んで音を立てている。

「・・・なんか、派手な音だよねぇ・・・」

くすくすと笑いながら岩城の顔を見上げた香藤は、

岩城の柔壁の一点を一度指を離して軽く、トンっと弾いた。

「・・・ひぃぅうぅんぁぁっ・・・」

突然、衝撃が脳髄を貫き岩城の身体が反り返った。

一際高い声が上がり、その両腿が震え始め、

香藤の指を包む岩城の壁が、いっそう熱く変わる。

香藤は一度触れたその場所を通り過ぎようとして、指を戻した。

「・・・いっ・・・あぁっはっあぁっあっ・・・」

香藤が再びその場所に軽く爪を立てると、

仰け反り見開かれていた岩城の瞳がぎゅっと閉じられ、

ぐぅと腰が沈んだ。

神経が蕩けそうな快感に岩城の上げる声が途切れることなく、

部屋中に響きわたった。

腰を揺らし、身体を捩じらせ、

引き千切れんばかりにシーツを握り締める岩城に、

香藤は満足げな笑いを浮かべた。

それほど怒張していない岩城の茎から後から後から潤いが溢れ出し、

腿を伝い下りて香藤の手を濡らしていた。

身体を起こした香藤は、

岩城の際限まで開かれた両腿のあいだに座り込み、

中を探る指をそのままにその顔を見つめた。

べったりと前髪が額に張り付き、

真っ赤に染まった顔ときつく寄せられた眉。

溢れる涙と、大きく開いたままの唇から突き出された、

岩城の震える舌。それが時折、唇を舐める。

くすくすと笑いを漏らしながら、

唇を寄せて頬を伝う唾液を舐め上げる香藤に、

岩城が薄く目を開いて何かを言おうとした。

「・・・あっぁあはぁっ、あぁっぅんんんっ・・・」

が、零れたのは止めどない熱い喘ぎだけだった。

「・・・可愛い・・・。」

思わず口をついてでた香藤の言葉も岩城の耳には

すでに届いていないようで、いつもなら帰ってくる文句もない。

「・・・きちゃったんだね。」

香藤が笑いながら、指先を軽く曲げるように壁に当てながら、

岩城の茎の裏側をなめ上げた。

「・・・ひぃっあっぁはぁっんんっ・・・」

途端に岩城の腰が跳ね、

大きく広げられた両足の激しい震えが爪先にまで拡がっていった。

下腹部が緊張し、蕾が香藤の指を締め付ける。

燃えるような岩城の中から、明らかに滲み出している蜜を指に感じて、

香藤は岩城の得ている快感の大きさを知った。

岩城のその状態は初めてのことではなかった。

香藤によって開発され熟した身体。

心身ともに香藤を受け入れた岩城が得るようになった、

激しい絶頂感。それがこの夜、岩城に訪れた。

初めてその岩城の姿を見たときの、

切ないほどの感激を、香藤はその姿を見るたびに思い出す。

「・・・俺、すっごい嬉しい・・・俺がこうしたんだよね・・・。」

「・・・あぁあぁぁっ、かっ・・・かとっ・・・やっあぁぁっ・・・」

岩城が救いを求めるように名を呼び、

縋るような濡れた瞳で見つめるその顔に、香藤の喉が鳴った。

「・・・うん。俺も、限界・・・。」

指を引き抜き、香藤はシーツに膝を突いて

岩城の腰を持ち上げるように抱えた。

物欲しげにビクつく蕾に香藤は自身を押し当て、

岩城の上壁を擦るように動いた。

「・・・はあっあぁんぁぁっ!・・・」

岩城の背がきつくしなり、頭が枕から浮き上がった。

けして激しい動きではないのにもかかわらず、

岩城の上げる嬌声は激しいものだった。

全身の神経が粟立ち、皮膚が逆立つような官能の波にもまれて、

香藤の指先がほんの少し肌に触れるだけで、

岩城の全身が震え、上げ続ける声が裏返るように掠れた。

しなる岩城の、鳩尾から臍にかけてのライン。

思わず愛でたくなるような、優美な曲線を描く。

香藤が手を伸ばしてゆっくりとその肌を撫でた。

たったそれだけのことに、岩城は切なげに声を漏らす。

「・・・やっぁあっ・・・やあぁっ・・・やぁっあぁっうぅんんっ・・・」

言葉にならない声を上げながら首をふり、

隠微な音を立て、もっと深く取り込もうとする岩城の蕾に、

香藤は抜き差しを続けながら、

張り詰めて真っ赤に熟したような岩城の胸の飾りを指で弾いた。

「・・・はぅうぅふぅ・・・はっんんんんぅっ・・・」

岩城の両腕が突っ張り、

掴んでいたシーツがベッドから引き剥がされた。

のたうちまわる岩城に反して、

香藤は彼にしてみれば久しぶりといっていい

穏やかな営みを続けた。

いつも、岩城の妖美な姿に煽られて我を忘れる自分を思い出して、

香藤は苦笑を浮かべた。今、岩城の中を探る余裕のあることが嬉しい。

岩城の身体を知り尽くしているはずの香藤が、

驚くような声を岩城が上げた。

岩城の中のポイントを突き上げるより、

引くときのほうが声が跳ね上がる。

それに気付いて、香藤はにやりと笑った。

岩城の腰を少し高く持ち上げ、腰を深く沈めて差し込み、

その場所を引きずるように腰を引いた。

「・・・ぁひぃぃっ・・・!・・・ああぁぁんんっ・・・」

岩城が身体を捻じり、腹部が激しく脈動し、

岩城の茎からどくんと蜜が零れ、蕾が蠢く。

岩城の反応を見ながら香藤は同じように律動を続け、

岩城の腰を両手で支えなおすと、胸の飾りにに舌を這わせた。

舐めあげ、吸い上げ、軽く歯を立てる。

その度に岩城は身体をくねらせ喚いた。

「・・・はぁああっあっ、はんっんんんっ、んあっあぁはあぁぁっ・・・」

「すごっ・・・持ってかれそうだよ・・・」

香藤から与えられる快楽を歓び、貪欲に貪り、

追い求める、その自分にだけ見せる淫らであられもない姿。

香藤のゆっくりとした動きに、焦れて何度も腰を擦り付ける。

岩城の我を忘れた狂態に香藤の我慢が限界を超えた。

香藤に絡みつき、逃がすまいと

震えながら収縮する岩城の内壁に逆らって、

香藤は強く抜き差しを繰り返しはじめた。

「・・・あぁうぅぅっ・・・かっ・・・かとっ、かとぉっ、かとぉぉっ・・・」

香藤の突き上げが、岩城の受けている激しい快感を倍増させ、

気も狂わんばかりの高波に揉まれた岩城が無意識に叫ぶ声が、

たった一つの言葉になった。

自分の名を呼び続けるその姿に香藤が煽られる。

「・・・岩城さんっ・・・いいよっ・・・すごくっ・・・」

「・・・ひぃっぅんっ、かとぉっ、か・・・とぉっ、あぁっぁううぅっ・・・」

見下ろす香藤が目が離せずに見つめるなか、

岩城の身体は背が折れそうなくらいに反り返り、

頭を枕に擦り付け、びっしょりと汗ばんだ全身が痙攣を始めた。

息も絶え絶えに喘ぎながら、むせるような、

すすり泣くような息遣いをする岩城を見て、

香藤が少し意地悪そうな顔をして腰をひねった。

「・・・ぐっ・・・ううあうぅぅっふぅっ・・・」

岩城の喉がくぐもり、歯を食いしばるようにして身体を捩る。

香藤は片手で岩城の腰を支え、もう片方の手を岩城の茎に伸ばした。

じっとりと濡れたそれを握りこんだ途端に、

岩城の声がもう一つ跳ね上がった。

「・・・あぁんんぅうぅ、んぁうぅぁぁ、はぅうぅんぁぁ・・・」

香藤が茎を擦りあげる指の動きに合わせるように、

包み込む岩城の壁がびくびくときつく収縮して香藤を締め付けた。

「・・・岩城さっ・・・力・・・抜いてっ・・・」

香藤の声など耳に入っていないように、

岩城は顔を左右に振り、呻き声を上げ続ける。

香藤は顔をゆがめてもう一度、

纏わりつく岩城の柔壁を強引に突き上げた。

「・・・もっ・・・仕様が・・・ないなっ・・・」

「・・・ひぃっあぁぁっあぁっ・・・」

甲高い叫び声が上がり、身体中、

シーツを握っていた手さえ突っ張り、岩城の身体が硬直した。

ぷつっと糸が切れたようにシーツに沈み込む岩城の中に、

香藤は自分を叩きつけ存分に己を吐き出し、

岩城の上に身体を重ねてその顔を見つめた。

岩城はぐったりと四肢を伸ばし、官能のままに意識を飛ばしていた。

「・・・えっ・・・マジ・・・?」

香藤は後始末を済ませ、しばらく岩城の顔を眺めていた。

自然と頬が綻んでくる。

そっと唇を合わせ、両腕に岩城を抱きこみ瞳を閉じた。

・・・雪、積もるかな・・・。






               〜終〜



             2005年3月16日
                 弓