「日常の一日」






日本に戻ってきてから、まだまだ仕事は少ないけど

会社はアメリカでの映画の好評を見据えてボチボチと仕事を取り始めていた。

金子も再び香藤のマネージャーの仕事に戻り、香藤は充実した日を送っていた。

本日は仕事がない日だったが、香藤はしばらく離れていた日本を懐かしむように

車を走らせていた。



車の中で信号待ちをして、周りを見つめるとビルなどにかかっている広告に目が行った。

新たにテレビの広告に出ている岩城の物もある。

あの中に自分も前はいた‥‥‥そう思うとちょっと寂しい気もした。

「また、戻ってみせる」

あの場所に‥‥‥

自分がいない以外は、都会は変わらない‥‥‥車も多いし、人も多い

その中で生きていく自分を感じ取っていた。

「しかっし‥‥‥岩城さんに会えないのは、つらいよね」

映画の撮影で岩城は自宅に戻ることを、止められていた。

しかし、それが香藤もかんばろうと気持ちを新たにさせていた。



携帯が鳴る。

ちょっとお腹が空いたので、近くの駐車場に車を止めた時だった。

「はい、香藤です」

この携帯を知っているのは、家族と関係者のみだったので、安心して取ると、

「香藤さん、すいません。今日はお仕事ですか?」

携帯から出てきた言葉は岩城のマネージャーの清水だった。

「清水さん‥‥‥岩城さんに何かあったの?」

思わぬ人からので電話で、香藤はちょっと慌てる。

「岩城さんには何も‥‥‥私の個人的な事なのですけど、

娘が熱を出したって保育園から連絡が来て‥‥‥

でも、岩城さんを今から迎えに行く所だったのですけども」

清水が口ごもる。

急なことだったのだろう。

事務所の人間に連絡もつけられない程‥‥‥だから自分に連絡が来たのだと思う。

岩城は少し人見知り的な部分が有るので、下手な人間には連絡が出来ないので、

自分に来たのだろうと予想がついた。

「いいよ。迎えに行くなら行っても」

香藤は岩城に会える嬉しさに即答した。

「ありがとうございます。場所は‥‥‥」

清水より詳しい場所と時間を聞き、今日はそこの取材で終わりだと教えられた。

「はい、了解!!」

香藤は携帯を切ると、そのまま清水の言われた場所に車で向かった。



取材の場所は郊外にあるテレビの撮影所だった。

今、取っているテレビドラマの最終段階の合間に小野塚との対談みたいに取られた。

小野塚との共演や、最終話について‥‥‥

その対談を迎えに来ていた香藤は片隅から見ていた。

楽しそうに会話する二人に、目を細め見つめている。

岩城の表情には、冬の蝉でのテレビ特番での取材で見た

苦悩が浮かんでないことに安堵の溜め息をついた。

「じゃあ、最終回を楽しみにしています。今日はありがとうございました」

その言葉を最後に、会釈をして椅子から立ち上がった岩城に

香藤はニッコリ笑って片手を上げて合図を送った。

「香藤‥‥‥どうしたんだ?」

その姿に驚いた岩城は、小野塚に挨拶もそこそこに香藤の方に近寄った。

「うん、清水さんからSOSもらってね。娘さん熱出したってさ」

香藤が言い返す。

「そうか‥‥‥朝、ちょっとぐずっていたって言っていたからな。清水さん」

岩城も思う所があったのだろう。

香藤が此処に来た理由が解かった様だった。

「あれ、香藤」

小野塚も近くによって来た。

「よっ、元気か?」

香藤も愛想良く言い返す。

スタジオの面々も香藤の存在に驚きつつも、彼の持つオーラに飲まれていたようだった。

「岩城さん、この後どんな予定ですか?」

小野塚が聞き返した。

「終わりだと聞いているけど‥‥‥」

岩城が答える。

「そう、だからご飯誘いに来たんだけどね」

香藤が軽いのりで言い返す。

「俺、宮とご飯食べる約束してるんですけど‥‥‥一緒にどうです?」

小野塚が丁度いいと提案してきた。

「いいな‥‥‥前の仕切りなおしするか?香藤」

まだ、宮坂との仲が不安定な時、小野塚と三人で夕飯を食べに行った事があるのだが、

途中で険悪な感じになり、小野塚が先に席を立ったのだった。

「そうだね。小野塚、焼肉行こうぜ」

香藤もその提案を受け入れた。

「宮に場所の連絡してきます。前の店でいいですよね」

小野塚の言葉に二人は頷くと、携帯を片手に小野塚が出て行った。

香藤は周りのスタッフに挨拶をして、軽口を叩いている間に、

岩城は控え室に戻る準備をして、今日のインタビューをした記者に挨拶をしていた。

「岩城君、香藤君が来ると表情が優しくなるよね」

岩城に声をかけられるまでに、スタッフの一人の言葉に

「本当?嬉しいなその言葉。でも、俺のだからね」

嬉しそうに香藤は答えると、笑顔で答えたのだった。

岩城の控え室の香藤も付いて行った。

清水があわただしく戻ったのだろうが、室内は片付いていた。

「で、清水さんの子供は大丈夫だったのか?」

岩城が心配げに香藤に聞いていた。

「まだ連絡ないから‥‥‥後で電話くれるって約束してくれたけどね」

香藤が自分の携帯を取り出して、言い返した。

「‥‥‥そうか」

岩城は答え、自分の荷物をそろえると溜め息をついた。

「家に戻れると‥‥‥清水さんの負担も減るんだけどな」

岩城は呟くように答える。

「そうだね‥‥‥岩城さん」

香藤はそんな岩城を抱きしめると、キスを求めた。

「か‥‥‥かとっ」

不意なキスに岩城が慌てる。

「黙って‥‥‥」

香藤が言い返すと、その唇をむさぼる様に求められた。

息が上がる‥‥‥岩城の腕が香藤の背中に回った。

香藤もまた岩城を抱きしめると、さらに深くキスをした。

その場には二人の舌の絡む音と‥‥‥熱い吐息のみが反響した。



「あっ、メール」

そんな二人が現実に戻ったのは、香藤の携帯に入ったメールを知らせる着信音だった。

「誰から‥‥‥だ?」

岩城は自分の荒い息を整えると、聞き返す。

「清水さんだ‥‥‥子供さん、心配いらないって」

香藤が言い返して、その携帯を岩城に渡した。

岩城はそれを見つめると、安堵の溜め息を着いた。

「小野塚も待っているから行こうか。岩城さん」

香藤が時間を見て言い返すと、岩城はうなずき返した。

スタジオの玄関で小野塚は待っていた。

「宮坂は店に行っているそうですよ」

二人の姿を見つけて、軽快な口調で言い返すと、

「OK、じゃあ、車回してくる」

香藤がそういって、一人だけ駐車場に出向いていった。

横にいる岩城の頬が微かにピンクに染まっているのを見て、

小野塚は気づかれないように苦笑のしたのだった。



焼肉屋で久しぶりに食べて、飲んだ岩城はそのまま香藤に家に連れ戻された。

楽しい気分のままで、香藤の腕の中で岩城はまどろんでいた。

「岩城さん、大丈夫?」

香藤がソファーに岩城を座らせると、コップに水を持ってきた。

「飲みすぎたな‥‥‥」

岩城は素直にコップを受け取ると、一気飲み干した。

「もう、ストレスたまってるの?吸い取って上げようか?」

香藤が軽い口調で聞いていた。

「‥‥‥そう‥‥‥だな」

岩城が目を閉じ、香藤の肩に持たれる。

香藤の体温や香りに岩城は安堵の溜め息を付いた。

「ベッドに行きたい‥‥‥」

岩城は香藤の耳元で囁いた。

「いいよ‥‥‥岩城さんが望なら」

香藤が嬉しそうに微笑み、そのままキスを落としたのだった。



「あっ‥‥‥かとっ」

カーテンの隙間から月の灯りが辺りをほのかに明るくしている中で、岩城の声が聞こえる。

「岩城さん‥‥‥」

香藤がその声に答え、岩城の手を握り直す。

「あぁ‥‥‥うぅ‥ん‥‥‥」

その微かな動きでも岩城は反応をする。

お互いに煽り、煽られる‥‥‥

熱が体の中に籠もり‥‥‥お互いを求め会い‥‥‥開放を迎えようとする。

「ああっ‥‥‥」

岩城の声に限界が近い事を感じ取る。

「岩城さん‥‥‥あぅ‥‥‥岩‥‥‥城さ‥ん」

香藤もまた限界を迎えようとした。

月明りのに浮かび上がる上気した体‥‥‥

吐息‥‥‥

そして、二人の求め合う心‥‥‥

短い逢瀬の中で二人は絆を確かめ合う



「岩城さん‥‥‥ねちゃったの?」

熱が去った後で、岩城の寝息が聞こえる。

香藤は優しくその寝顔を見つめると、蒲団を引き上げる。

「明日も‥‥‥忙しいもんね」

香藤は寝顔にそう言い返すと、岩城を自分の胸に抱きかかえると、目を閉じたのだった。



                 ―――――了―――――



                          2006・8    sasa
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