俺だけのプレゼント







「お帰り、岩城さん。」

リビングのドアを開けて入って来た岩城に、香藤が声をかけた。

「熱いな、この部屋・・・。」

言いかけた岩城の腕から、かけていたコートが床へ滑り落ちる。

「なッ・・・何やってんだ、お前ッ?!」

「え?クリスマスイブじゃん、今日?」

平然として答える香藤。

裸の上に、赤いリボンのみ。

「クリスマスイブって・・・。」

岩城の顔が真っ赤に染まった。

「そ。俺がクリスマスのプレゼント。」

香藤はソファから立ち上がると、床から岩城のコートを取り上げた。

「岩城さん、食事まだだよね?出来てるから。」

棒立ちになる岩城の手を取って、香藤はテーブルへ引っ張った。

「もう、今日はイブだからね!大サービスしちゃったよ。」

にこにことしてテーブルの上を手を広げて示した。

「・・あ、ああ・・ご馳走だな。」

呆然としたまま返事をする岩城の顔を、香藤が覗き込んだ。

「どしたの?」

「どしたのって・・・お前、よく恥ずかしくないな?」

「なんで?岩城さんだけの俺だもん。」

胸を張って言う香藤に、岩城は唖然として、

次に真っ赤になって俯いた。

馬鹿、と小さく呟く岩城の頬に、香藤は軽く唇を触れた。


「美味しい?」

香藤の言葉に、岩城は俯いたまま箸を動かし、黙って頷いた。

「ねぇ?岩城さんてば。」

「美味しいよ。」

顔を上げないまま、ぶっきら棒に岩城は答え、

真っ赤なままの岩城の顔を見ながら、

香藤はくすくすと笑いを零した。

「岩城さんが恥ずかしがらなくてもいいじゃん。」

「恥ずかしいよ!」

思わず顔を上げて、岩城は叫んだ。

その視界に、裸にリボンの香藤が飛び込んできて、

慌ててまた顔を下げた。

「可愛いなァ、もう。」


香藤がその姿のまま、食事の後片付けをしている。

その後姿を見ながら、岩城は溜息をついた。

「岩城さん、コーヒー、入れたげようか?」

香藤の、のんびりした声に、

岩城はもう一度溜息をついて返事を返した。

「いつまで、その格好でいる気だ?」

「え?いつまでって、ベッドに行くまでだよ?当り前でしょ?」

岩城の前で、ソファに座って香藤が岩城を見つめた。

熱の篭った鳶色の瞳。

岩城の喉が、コーヒーを飲むのとは違う動きをした。

それに気付いた香藤は、

フフ、と笑って岩城に両手を差し出した。

「上に行こ?」

黙ってその手を見つめていた岩城は、

ふと視線を上げて香藤を見つめ返した。

腰を引き寄せられた岩城の頬に、微笑が浮ぶ。

「お前は、俺のものだからな。」

「訂正、岩城さん。」

「なんだ?」

「俺だけの、でしょ?」

くすり、と岩城の声がした。

「ああ、そうだな。」



揺らぐベッドの下に、赤いリボンが広がっていた。






         〜終〜




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