プレゼント・・・?





もうすぐ、香藤の誕生日が来る・・・。

どうしようか。


ここのところの、岩城の悩み事は、それ。

毎年、同じように悩む。

香藤は、岩城の誕生日には、必ずプレゼントをしてくれる。

・・・調子に乗りすぎて、叱られることもあったにせよ。

香藤にとっては、それは当たり前のことで、特別苦にはならない。

というより、岩城のためにあれやこれやと、

選ぶこと自体を楽しんでいる風さえある。

プライベートで岩城が着る服の大半は、

香藤が見立てて買ってきたものだ。


岩城は、と言えば、性格もその一因だったろうが、

イベントごとに疎い、ということもあるし、

香藤に出会うまで

そんな贈り物のやり取りをするような相手がいなかったこともあるだろう。

いざ何かを探そうとすると、考えすぎてしまって、

結局、迷って決められない。

どうにも困って香藤に聞くと、

「いらないよ。オフとって、一緒にいてくれるだけで良いから。」

必ずそういう言葉が返ってくる。

申し訳ないと思いつつも、大抵、それに甘えてしまう。

だからと言って、本当にそれで良いんだろうかと、

今年もそんなこんなで、悩んでいる。

服の好みから何から何まで、

まるで違う年下の恋人(夫か?妻か?)に、

一体何を送れば良いのか。



・・・まさか、あいつのふざけた言葉を、真に受けるわけに行かないしな・・・。


以前に香藤が言った言葉。

『岩城さんの身体に、リボン巻いて、プレゼント、なあんてね!』

冗談じゃない、と思った。

その時は、

「そんな馬鹿な真似、できるか!」

そう答えた。

残念そうな顔の香藤を見て、本気でいったんだと気付いた。


・・・なんで、そんなこと、本気で思えるんだ。




「香藤。」

「ん?なに、岩城さん?」

「何か、欲しいものはないのか?」

結局、今年も聞いてしまっている。

返ってくる答えは、わかりきっていて推測がついてしまう。

「いいよ、そんなの。オフ、とってくれてるじゃない。」

案の定の答えに、ため息が出る。

岩城の顔が曇ったのを香藤が見逃すはずは無い。

「どしたの?」

黙り込んでしまった岩城の顔を、

香藤が心配そうに覗き込んだ。

「気にしないで。

俺は、岩城さんが一緒にいてくれることが、一番嬉しいんだから。」

「でもな・・・。」

「あのさ、岩城さん。俺の誕生日のプレゼントを選ぶために、

岩城さんが悩みすぎるってのが、

いやなんだよ。だから、気にしないで。」

「お前はそう言うけど、俺ばかり貰ってて・・・。」

香藤は、そっと岩城の肩を抱き寄せた。

頬にキスをすると、静かに言葉を続けた。

「俺はね、岩城さんから、一杯貰ってるよ。

岩城さんの言葉。岩城さんの笑顔。

それに、岩城さんの心と愛情と。

毎日、毎日、貰ってる。

俺にとっては、それが最高の贈り物なんだよ。」

「香藤・・・。」

じわっ、と潤んだ岩城の瞳。香藤の指がそれを拭った。

「俺が岩城さんにプレゼントするのは、そのお礼なの。」

「俺もお前から同じように毎日、貰ってるぞ。」

「でもさ、岩城さんから貰う分のほうが大きいんだよ。」

岩城の頬に、ようやく笑みが浮かんだ。

幸せそうなその顔を、香藤も微笑んで受け止める。

「岩城さんが俺を愛してくれた。

それって、俺がどれだけ贈り物をしても、

全然足りないくらいの大きな、大きなプレゼントなんだよ。」

唇が重なる間際、香藤が囁いた。

「岩城さん自身が俺へのプレゼント、それが一番だよ。」




「本当に、何も買ってないぞ。」

「いいって、言ったじゃん。」

香藤の誕生日の前日。

と、いうか夜中である。あと少しで、0時を回る、という時間。

パジャマ姿でベッドに座り、岩城が香藤を見上げた。

「ん?」

香藤が、首を傾げて岩城を見つめた。

少し、恥ずかしげな顔で岩城は口を開いた。

「・・・お前の好きにしていいぞ。」

「へっ?!」

思いもかけない、岩城の言葉に香藤が頓狂な声を上げた。

「・・・リボンでも、かけるか?」

香藤が諸手を挙げて驚いて叫び、

岩城は照れくさそうにしながらクスッと笑った。

「マジで?!いいの?!」

「したいんだろ?」

「うん、したい!」

香藤が、蕩けそうな顔をして岩城に抱きついた。

「やった!」

「ただし!・・これきりだからな。二度はやらん。」

口を尖らせかけた香藤に、

追い討ちをかけるように岩城は、重ねて言った。

「文句あるのか?」

「とんでもないです!ありません!」

「なら、いい。」

香藤が嬉しそうに笑って、寝室を飛び出していった。

戻ってきた手に、どこから持ってきたのか、赤いリボンがあった。

「へへっ・・・。」

「・・・お前、ほんとに嬉しそうだな・・・。」

「そりゃ、嬉しいよ!岩城さん、絶対、やってくれないと思ってたもん!」

そういう香藤に、岩城が微笑んで言った。

「お前の望みなら、叶えてやりたいと思う。いつだって、そう思ってる。」

「・・・岩城さん・・・。」

「お前の喜ぶ顔が、俺にとっても一番なんだ。」

ころん、と、香藤の手からリボンが落ち、床を転がった。

岩城の肩を抱いて、香藤が囁いた。

「今の言葉、最高の誕生日プレゼントだよ・・・。」

「・・・0時回ったな・・誕生日、おめでとう、香藤。」

「ありがと、岩城さん。」

「30代、突入だな。」

「うっ・・・。」

固まった香藤の顔に、岩城が声を上げて笑った。




                〜終〜



              2005年5月15日
                 弓



本棚へ