Proposed Again










「ダメだよ、それはまだあげれないの。返して、岩城さん。」







ゆっくりと唇をあわせる。

啄ばむように何度も重ねたあと、

香藤は唇を離して目を開いた。

岩城が、湯に浸かっているだけ、

とは思えない火照った頬をして、

うろうろと視線を彷徨わせていた。

拗ねたように幾分尖った唇と、

じろりと見上げてきた瞳に、

香藤は思わず顔を顰めた。

「あんだ?」

「いや、えっとねぇ・・・。」

口の中に入れたままのダイヤが邪魔になって、

回りきらない呂律に、

香藤は大きな溜息をついた。

岩城は、口の中のダイヤを、

転がすようにしているらしい。

その動く口元を見つめていた香藤の喉が、

ごくり、と鳴った。

湯を跳ね散らかして、岩城の肩を引っ張り、

唇にむしゃぶりついた。

「うわ・・・」

舌を差し込み、岩城の咥内を舐り、歯列をなぞった。

「あ・・・」

開いた岩城の口から、ダイヤが、

ぽちゃん、と湯の中へ落ちた。





「はっ・・・」

洗い場に濡れて脱ぎ捨てた香藤の服が散らばっていた。

岩城の上げる声と、湯の跳ねる音が、

バスルームに反響している。

「あ・・・うあっ・・・」

岩城は、両手でバスタブの縁を掴み、

膝をついて後ろから突いてくる香藤を、

ひたすら受けとめることに専念していた。





「ばか。」

「うん、ごめん。」

上せた岩城にバスローブを着せ、

リビングのソファに運んで、

香藤は冷たい水を差し出した。

冷やしたタオルを額に当てたり、

かいがいしく世話を焼いた。

「ちゃんと拾っておけよ。」

なにを、とは聞かず、にっこりと頷くと、

香藤はバスルームへと向かった。

「これさー、金婚式に何か作ろうかなぁ?」

袋に入れたダイヤを手にしながら、

香藤は横になった岩城のそばの床へ座りこんだ。

「なにか、って?」

「んー、金婚式ってことは、五十個になるでしょ?

何か作れるよね?」

目を見開いて見つめる岩城に、

香藤は楽しげに続けた。

「ネックレスじゃ、ベタだしなー。」

首を傾けながらあれはどうだ、これはどうだと一人、

喋っていた香藤は、さも良いことを思いついた、

と言わんばかりに、ぽん、と掌を拳で叩いた。

「そだ!ディル・・・」

バコ、と久々に岩城の拳が香藤の脳天を直撃した。

「なにすんのー!?」

「なに、じゃない。」

上せて赤くなった目を据えて、

岩城は香藤を睨んだ。

「えー、岩城さんだって、今更・・・」

「なにもこれで作らなくてもいいだろ!」

「・・・これじゃないんなら、いいんだ。」

「なんでそうなる!」

「ふーん・・・。」

香藤がそう呟いて、

岩城のローブの裾へ手を差し込んだ。

「あっ・・・こ、こら!」

慌てて置きあがる前に、

岩城の後孔に香藤の指が潜り込んでいた。

「・・・なんて奴・・・」

息を乱して文句を言う岩城に、

香藤はにやりと笑った。

「だって、好きでしょ?」

クイ、と曲げた指先で、柔襞を引っ掻かれて、

喉を引き攣らせた岩城は、

薄っすらと笑みを浮かべて香藤を見上げた。

「・・・お前もな。」

その顔に、香藤があいた片手で口元を押さえた。

「うあー、鼻血出るから、勘弁して。」

「いやだ。」

そう笑うと、岩城は香藤の腕を掴んだ。

後孔に入った指を、

きゅう、と締め付けられて香藤が呻いた。

「あー、もう!いつだって俺の負けなんだから・・・」

ぼそぼそと呟く香藤を、

岩城はくすくすと笑って見ていた。

「なにか言ったか?」

「なんでもありませーん。」

そう言いながら、かぶさってきた香藤を、

岩城は嫣然と抱きとめた。






     弓






     2010年7月3日
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