『公使閣下の私的交渉』



プロローグ

 熱狂の一夜が明けるとき、男たちは現実の世界に心奪われ、そして、何もかもを忘れる。

だが夜が来て、またあの甘い香りが鼻先をくすぐれば、たちまちに、堪えようのない雄になるのだ。

仕事と、趣味と、日々の戯れ。
その全てに心を砕き、一瞬たりとて気は抜けない。

すぐ傍に、その存在がある限り・・・。


そうして日々は、過ぎていく。
こんなにも近い・・・互いの心の距離を測りかねて。


1、

外交官になってまだそれほど長くはない白石だが、自分が住んでいる国以外の場所へと赴いて
いざ生活なり仕事なりをしようという時、自分というのはどれほど“日本”という国を知らないもの
なのだろうと思う事がある。


特に、ここ、タイでは。

他の先進国のように、東京と似たような生活環境で暮らせるわけでもない。

欧米の文化の波に押されて出来た現代的な建築物や店もそれなりにあるが、一歩奥へと足を踏み入れればそこはまったく様式の異なる世界で、貧富の差が歴然としている。

そういった場所で子供たちと出会うと日本について聞かれる事が多いが、ときどき、白石は答えに詰まる事がある。


“こう言ったら誤解されるだろうか”とか。
“どう言えば想像しやすいか”とか。


だが、考えれば考えるほど言葉が出なくなって、その度に、白石は思うのだ。

うまく説明できないという事は、まだその事に関して知り尽くしてはいないという事なのだ、と。


上司でもある吉永は、度々口にする。
『君はもっと自国についての造詣を深めるべきだ』と。


外交官として飛び抜けて有能で、男の自分ですら翻弄する吉永に、白石が心惹かれない訳が無い。

だが、実の姉の婚約者。

その事実は白石の理性をかろうじて留め、が、しかしまた同時に、内に募る熱情をこれ以上無いくらいに燃え上がらせる重要なファクターだった。


「・ら・・し君・・・白・・・し君・・・。おい、白石君!」

「えっ」

ハッとなって顔を上げると、目の前に、吉永の顔があった。
その間、20センチあるか無いかの際どさ。

思いがけず考え事の対象者を目前にして、白石は座っていた椅子からずり落ちそうになるのをかろうじて堪える。

「どうしたんだ、ボーっとして。勤務中にそんな態度を見せるなんて君らしくないな」

「え、いや、あの・・・。ちょっと、考え事をしてて・・・」

「仕事とプライベートを使い分けるくらいの甲斐性はあるんだろう?もし無いようなら、君はこの仕事を早急に辞めるべきだな」

端正な顔立ちに似合ってか否か、吉永の言う事はいつもストレートで白石の胸に飛び込んでくる。

プライベートでも際どかったり微妙なニュアンスをはらんだ言い回しを放つ事が多いが、こと仕事となると、逆に直球で投げかけてくる事が多いのだ。

「すいません、もう大丈夫です」

「ならいい。それで、さっきの話の続きだが、来月の貿易促進のワールド・トレード、各国の一流企業の役員たちが大勢見えるそうだからね。君もナビゲーターの一人として、当日会場を仕切って欲しい」

「仕切る?俺がですか?」

国際見本市くらいで、なんで俺が・・・。

「そうだ。どうした?一国を代表する外交官とあろうものがやる事かって顔してるぞ?」

白石の思考は、至極当たり前のように吉永には読まれていた。
ニヤリと笑みを湛えながら、吉永は射るような目付きで白石を挑発する。

「いえ、別に・・・そういうワケでは・・・」


まったく。
公使も人が悪い。
俺の考えを全て了知した上で、こうして釘を刺してくるんだから。


「まぁいい。不満なのは重々承知だ。だが白石くん。ワールド・トレードをなめてちゃいけない。かなりの規模にはなるが、これが上手くいけば日本の貿易額にも今後、大きく影響してくるからね。マレーシアやインドネシアは、既に市場が開発され過ぎている。そういう面では、この国はまだ穴場的存在なんだよ」


『微笑みの国』と称される、ここタイは、近年中国に次いで各国から熱い注目を集めている。
マレーシアの木材やインドネシアの縫製系統はかなりの額が日本やその他の市場に出入りしているが、タイはまだ、それほど日本に流通し切ってはいない市場だった。

多彩な文化財的側面を持つ遺跡やリゾート開発のおかげで、観光地としては人気が高いものの、貿易の相手として脚光を浴びたのは、ごく最近の事。

この枠を日本のものとして確保できれば、それは吉永にとっても白石にとっても、大きな功績となる。


「日本が狙うのは、対タイにおける貿易相手国としての相対的優位性だ。絶対的であろうとすれは、それはタイ本国からの拒絶を招きかねないからな。慎重に動いて欲しい。この枠は、他国が手を打ってくる前に確保しなければ意味がないぞ。まず、米以外の食品の輸出入は外せないな。昨今のアジアンブームもまだまだ衰えないだろし、今のうちに確固たるルートを作っておく事は、悪い事じゃない」

「そうですね・・・。あとは、ICとか、電子機器関係のほうはどうです?車とか。最近はこの分野のトレードフェアがタイで盛んだそうですが」

「ああ、もちろんその当たりも考慮している。だがコンピュータ関連については、日本も得意分野だからな。なるべく国内産業に影響を与えないよう、線引きはしておかないといけない。車関連についてもな。中古車の輸出が厳しくなってきている分、日本国内では車の数が余ってきているだろう?競争は次なるステップへの重要な足がかりだが、時として足を引っ張る結果に繋がりかねない」


ワールド・トレードに向けての話し合いをしながら、白石の目は、次第に吉永の唇を捉えていた。


例え相手がタイ国の外相でなくとも、ワールド・トレードは大きな仕事だ。

その仕事を前に、こうして、吉永と肩を並べている。

その事は、白石の集中力を高める要因にはなっても、けっして削ぐ事にはならないものだった。
吉永に認められるためなら、そして、いつの日か吉永を越えるためなら・・・例えそれが不可能に近い事だとしても・・・自分には、今、為すべき事が山ほどある。

白石に、その自覚は十分すぎるほどだった。


「それじゃ白石くん、今日はこのくらいにしておこうか。今週末は久々に休みが取れたからな。君もここらで帰って、たまにはしっかり休んだほうがいい」


吉永の言葉にハッとなって顔をあげると、卓上に置かれた時計は、午後9時をさしていた。

瞬間、迷子のような表情になって、白石は吉永の顔を見つめ、それからすぐに下を向くと、
ほんの数分前までの自分の行動を恥じた。



仕事中に、何やってるんだ、俺は・・・。

いくら俺が公使への想いをバネにしたところで、そんなのは、公使が聞けば笑い飛ばすに決まってる・・・。



いまだソファから立ち上がろうとしない白石を、吉永は不審に思った。
白石が、自分に対して抱いている感情に心乱されているとは、露とも知らずに。

「白石くん?どうかしたか?」

無論、白石は、何も答えられなかった。

「・・・智宏?」

少しトーンを落とした声で、白石の肩に手をあてながら、吉永は耳元で囁いた。

名前に、思わず反応する。


上げた顔のその先には、表情一つ変えずに佇む吉永の姿があって、それは更に白石の羞恥を煽るものだったが、それから吉永は急に表情を崩して、クス、と小さく笑った。


「俺の囁きに反応する余裕はあるんだな。さぁ、仕事は終わった。ここからはプライベートだ。今から食事にでもどうだ?智宏」


白石は、自分の耳を疑った。
そうするより他に、吉永の言葉を受け入れる準備ができていなかった。

「え、でも・・・、公使、さっき、帰ったほうがいいって・・・」

「別に“帰る”のは、今日でなくたっていいだろう?休日は明日からだ。今日くらい、プライベートで俺に付き合ってくれないか?」


その誘いに、白石が断れない事は、吉永は十分承知だ。

白石も、自分が断らないと分かっていて吉永が誘っているのだという事を、イヤというほど理解している。


それは、ひどく屈辱的で、だが、何にも勝る快楽だった。



2、
やがて庁舎を後にして、二人が向かったのは、白石の住むマンションだった。

途中、深夜まで営業している高級スーパーで買い物をし、シャンパンとブレッド、いくつかのデリカテッセンを買い込んできた。


キッチンでそれらを皿に移し変えながら、白石は自分の心が逸るのを感じずにいられなかった。

「帰るのが今日でなくていいって・・・。結局うちに来るんなら、あれは俺の事じゃなくて、公使の事なんじゃないか」

口では素っ気無い言葉を吐きつつも、内心、何かを期待している自分がいる。

実の姉の婚約者である以上、吉永が自分を恋愛対象で見る事はないだろうと思っていても、自分がそうした対象として吉永を見る可能性を捨てきれていないのだ。


「智宏、グラスどこにある?先に持っていく」

「え?ああ、そこの棚の2段目に・・・」

吉永は、まるで自分の家のように、白石の部屋を行き来する。
その図々しささえも、今の白石には甘い。


窓際にあるテーブルにディナーとアルコールをセッティングして、二人のプライベートは始まった。

ステディな空気とはおよそほど遠い二人だが、そんな事は問題外だ。
今一緒にいる事が白石にとっては重要なのであって、せめて吉永がフリーでいる、その間、自分が吉永のプライベートな時間を埋められれば・・・と、純粋に願う。


「公使、今日、どうして俺を誘ったんですか?公使にとっても、本当に久しぶりにゆっくり休める週末だったのに」

「大した理由はないさ。ただ、君が俺に反応するのが楽しかったからな。外へ出たって退屈する連中ばかりだ。それなら、君と過ごしたほうが有意義だろう?未来の義弟だしな」

8割方期待を込めて尋ねた問いへの吉永の返答は、白石の酔いを冷ますようなものだった。
肩を落とし、表情を曇らせる白石を、吉永は笑みを浮かべて見つめている。

「・・・今のは、上司と部下という点においても、親類関係になる間柄においても、適当な答えだったと思うが?そんな顔を俺に見せるのは、特別な理由でもあるのか?智宏」



公使は、間違いなくサディストなんだろうな。
仕事も恋愛も。


・・・だけど。




ふぅ、と一つ息を吐いて、白石は姿勢を但し、それからシャンパンの入ったグラスをテーブルに置いて、吉永を見つめた。

薄暗い照明の中、月明かりに照らされて、その横顔は凛として美しい。


「公使、今から、恐らく俺の人生の中でも稀にみる告白をしますが、笑わないで聞いてください。俺は貴方と話をする中で、一喜一憂する自分に気づいています。貴方だってそうでしょう?そんな俺を見て、楽しんでる。」

吉永は、顔色一つ変えない。

白石の反撃は予想の範疇だと言わんばかりに、微動だにせず、次の言葉を待っている。


「だけど公使、俺だって、マゾじゃない。貴方の言葉にいちいち反応する自分がどこから来るのか、俺は俺なりに真剣に考えた。貴方の何が、俺をそこまで刺激するのか。この前までは、その答えは出ていませんでした。貴方に対する感情に、説明のつけようが無かったんです」

そこまで聞いて、吉永の表情が、ほんのわずかに翳った。

事態が、予測していなかった方向へ転がろうとしている。
それだけは、分かった。

「・・・智宏。何が言いたい?」

「俺の貴方に対する感情は、ただの恋なんかじゃないという事です、公使」

「え?」

「俺は貴方の事を自分が思う以上に理解(わ)かっていなかった。だから貴方に対する感情は恋の範疇だと思っていたんですが。けど、そうじゃなかった。貴方を同列の人間として見れた今、俺は、貴方に対する感情に、これ以上ないというくらい説明がつく」


吉永は、また黙って白石の言葉を聞いていた。
だがそこには、もう先ほどのような余裕などなく、ただ、呆気に取られていただけの事だ。

「俺は、貴方を愛してます、考司」


そう言い切り、白石は立ち上がった。

イエスもノーも返さない吉永の手を取り、立ち上がらせる。

何の言葉も発しない吉永の唇に自身のそれを重ね、舌先で吉永の体温を感じた。


イエスもノーも無いという事は、限りなく“イエス”である事を表しているのだと、白石は都合のいいように解釈をした。

吉永の体は、抵抗を見せない。


そのまま静かに、すぐ脇にあるベッドへと吉永を引きずり込むと、白石は何度かの深いキスを吉永に落とした。


「智宏・・・。こんなのは、ただの勘違いだ。恋でなく愛なんて、そんな事を言ったら君はもう二度と後戻りできないんだぞ?分かってるのか?」

「・・・分かってます。それに、これが勘違いでない事だって、分かってる。俺は貴方が欲しい。貴方の心の何割かでもいい、貴方が欲しい」

「・・・・・・」


そうして、何度目かのキスの後、吉永の腕が背に回されたのを感じて、白石の理性は飛んだ。


シャツのボタンを外し、あらわになった肌を、見えた順に丁寧に舐めていく。

「は・・・・・んっ・・・」

首筋から鎖骨、胸元・・・。
小さく隆起した胸の突起に舌を這わせた時、吉永の口から声が漏れた。

「考司・・・」


名前を呼びながら突起に刺激を与える度、スーツを脱がされた足を白石の腰元に巻きつけて、体をビクッと震わせる。

「う、ん・・・あ・・・!」

密着した体は、如実に体感の変化を伝える。

固化した吉永自身の存在を腹部あたりに感じ取って、白石は迷わず手を伸ばした。

熱く脈打った吉永自身は、既に幾滴かの蜜を垂らし、白石がそれを手にとって擦り始めると、吉永はたまらず声を大きくした。

「あ、あぁ・・・!と、も、ひろ・・・。ん・・・!」

「考司、綺麗ですよ、すごく・・・。もっと、俺に預けてください・・・」

言いながら、白石は少しずつ身体をずらし、やがて唇が吉永自身へと辿り着くと、口内深くまでそれを銜え込んで愛した。


「考司・・・、もっと、感じてください・・・俺を」

「ば、か・・・・。何、言って・・・。んぁ!」

最後まで言い切る前に、白石の指が吉永の内部へと入り出して、言葉が途切れた。

前と後ろを同時に攻められては、さすがの吉永も抵抗など出来ない。

「は、あ・・・・智宏、智宏・・・!ああ・・・!!」

何度かのセックスで覚えた吉永の体のポイントを、白石は余す所なく突いてくる。

「ん・・・う・・・、智宏、ああっ、も、もう・・・・・・」

溢れている自身の蜜と白石の唾液が、殊更白石の唇の動きを加速させて、それは聞き慣れたはずの卑猥な擬音を伴って吉永を辱める。


吉永の内部を刺激する指がいつしか2本になり、やや深い所の内壁を掠るように責め立てると、吉永は知らず知らずの内にシーツを握り締め、そうして、「うっ」と小さな呻きを上げて、放出した。

押し出された吉永の快楽の熱を、白石は全て受け止めて飲み込む。


それから白石は身体を起こし、スーツを脱ぎ捨てて苦しそうに全面へと張り出している自身をあらわにして、いまだシーツを掴んだままの吉永の頬をそっと撫でた。

そして吉永の片脚を持ち上げ、白石自身を導くと、先端を静かに挿入させて、吉永の肩を抱いた。

「痛くないですか・・・?キツかったら、言ってください。痛くないようにしますから」

「バカにするな・・・。そんな・・・気遣いなんて、いらない・・・。あ、ん・・・、んぁ、は・・・ん・・・」

不確定なリズムで出し入れされるものが白石自身に変わり、吉永の熱は一層上がった。


何度も何度も吉永を貫く度、白石は、不思議な錯覚に囚われた。
自分が抱いているのに、まるで、抱かれているかのようなセックスだと思った。


「あ、あ、ん、はぁ・・・!」

そして、漏れる声が断続的になって、白石は、吉永の頂が近いのを感じた。


「あ、あ、あ・・・だ、だめだ・・・、とも、ひろ・・・っ。ああ・・・!!」


津波のように押し寄せる快楽に身を投じて、吉永は達した。

達した吉永の締め付けが一層きついものとなって、それが、白石の到達をも招く。

「あっ、は・・・、考司・・・!こ・・・し・・・、はぁ!!」


達する瞬間、白石は、唐突に理解した。

抱いているはずの自分が、抱かれているような錯覚に陥ったわけを。


それは、愛のあるセックスだったからなのだと。
例えそれが、自分だけの、一方的な愛だったとしても。



「考司・・・」

身体を起こし、ハァハァと息の上がった吉永の髪を梳きながら額にキスをして、優しく、言葉をかけた。


「考司、愛してます・・・愛して、います・・・」


何度も、何度も呟いた。




吉永はと言えば、両の掌で顔を覆い息を整えながら、ただ、漫然と白石の言葉を聞き流していた・・・。



3、

翌朝、智宏が目を覚ました頃には、もう吉永の姿は消えていた。

テーブルの上の食事の残骸だけが、前夜、二人がこの部屋にいた事を証拠付けていたが、それが無ければ、実にリアルな夢だったといってもいいくらい、吉永の形跡は残っていなかった。



“考司、愛してます。”



「俺は・・・、何てことを・・・」


自分が放った言葉を幾度か反芻し、それから半ば脱力気味に起き上がり、たちまちに襲う罪悪感で白石は打ちひしがれた。

テーブルの上のものをキッチンへと運び、コーヒーを入れて、窓の外の青空を眺める。


「バカだな、俺・・・。公使は初めから帰ると言っていたんだ・・・。言葉通り、帰ったまでだ・・・」

空しい心を抑え込むように、白石は自嘲気味に言葉を吐き、シャワーへと立とうとした。


その時だった。

携帯電話の着信音が部屋中に鳴り響き、ディスプレイに、あの男の名前が浮かび上がった。


[ 着信:吉永 考司 ]


・・・公使!?


「もしもし!?」

『智宏か?俺だ。今日、13時にうちへ来てくれないか。出かけたい場所があるんだ』

「え・・・、今日、ですか?」

『ああ、何か予定があるのなら、別にいいんだが。都合悪いか?』

「いえ、何もないですけど・・・」


思考が、混乱している。
自分を置いて帰ったはずの吉永が、今また、こうして自分を誘っている。


携帯電話を握り締め、白石は身を固くして、問うた。

「公使、あの、どうしてまた、俺を・・・?もう休日は始まってしまってますよ」

『・・・ああ、そうだな。もう休日だ。俺にも、どうして今君に電話をしているのか、それはうまく説明がつかない。説明がつかないという事は、つまり、俺はまだ、君に対するこの感情を理解し切っていないという事だ。それを理解するためにも、今日一日、また君と過ごすのも悪くないと思ってる。それじゃ納得できないか?』


素直なのか、素直でないのか。
吉永の言葉は、いつも的を得ていて、だがいつも遠回しだった。


白石は、初め吉永の言葉をただ漫然と受け流すだけだったが、やがて込み上げる可笑しさと歯痒さで緊張の糸が途切れた。
そして、フッと、聞こえるか聞こえないかのヴォリュームで笑みを漏らすと、吉永に告げた。


「納得いかないなんて、とんでもないです。今度は貴方が、その感情を理解する番ですから。もちろん、俺の都合のいい方向に理解が転んでくれる事を願っていますよ?」


『・・・口の減らない義弟だね、君は。それじゃ、また、13時に』


それから吉永は一方的に電話を切った。

白石は、いつまでも耳奥に残る吉永の言葉に胸をくすぐられて、手にはシャワーのためのバスタオルを握り締めたまま、立っているのがやっとだった。


エピローグ、

熱狂の一夜が明けた後、男たちは、日常へ戻る事はなく、ただ、非日常の波の中で溺れた。

互いの体温が、互いをこの不可思議な非日常へと幾度となく誘うのに十分なほどの甘さを持っていたからだ。


一度知ってしまえば、逃れられない何かがあるという事。

二人は今、それを理解し切っている。


駆け引きのような愛に踊らされて、だがそれでも流されまいと、吉永も白石も、気を張る。
アドバンテージを譲らないために。

だが、踊らされないと心に決めた時点ですでに、男たちは舞台の上に乗せられて、無意識に踊らされているのだ。

自分では、どうしようもなくコントロールできない感情・・・。


電話を切った後、吉永は思った。

休日が終わるまでは、せめてこの意のままにならない感情に、徹底的に振り回されるのも悪くはないと。
(終)
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うくくくくくvvv(キモイって;;)
悶えております、私(爆)
ルカさんから頂きました〜〜〜〜vvv
公使様ってば、天邪鬼で天然なんだからなァ(笑)
白石君、この先も苦労するんだろうなァ・・・(笑)

ルカさん、ありがとうです〜〜〜!!