本棚へ これは、春抱き同盟様に展示していただいている、
「You take my breath away」の、その後のお話です。







after ― You take my breath away 
  




香藤が寝室へポータブルデッキを持ち込んできた。

手にしたCDをセットしボタンを押す。

「また、聞きたいからさ。」

「ああ。」

昼間何度も聞きなおし、すでに耳慣れたピアノのイントロが流れる。

それを聞きながら、ベッドの中で、

いつものように懐にもぐり込んできた岩城を、香藤が抱え込んだ。

「いいよねぇ、これ。」

香藤が溜息とともに言った言葉に、岩城は声に出さずに頷いた。




     僕の目を見つめて、そうすればわかる
     僕こそ君のただ一人の恋人
     僕の心を盗み
     僕の人生を変えた。




「俺の心、盗んだよね。」

「・・・馬鹿・・盗まれたのは俺のほうだ。」




     君が動くたびに僕は
     うっとりとしてしまう
     君に触れられると
     自分を抑えられなくて
     体の底から震えてしまう




「ほーんと。岩城さんに触れられると我慢できなくなるもんね。」

「・・・だから、それは俺だって。」

「なに言ってんの。俺、いつも岩城さんにやられてんのに。」




     たった一度の口付けのために
     命さえ投げ出す
     君に愛されなくなったら
     僕は間違いなく死んでしまうだろう
     君は僕の息の根さえ止めてしまう




「・・・怖いな。」

「なにが?」

「お前に愛されなくなったら、俺はほんとに死ぬだろうな。」

「そんなこと、あるわけないじゃない。

金婚式もラブラブで一位通過だって言ったでしょ。」




     君がどこへ行こうと見つけだすよ
     見つけて伝えるまでは眠れない
     伝えたいんだ
     君を愛していると




「・・・愛してる、岩城さん。」

「ああ、俺もだ、香藤。」

ゆっくりと、香藤の唇が岩城のそれに落ちる。

唇を薄く開いて岩城は香藤を受け止めた。

「・・・くすっ・・・。」

岩城の下半身が熱く香藤のそれに当たっているのを感じて、

唇を貪りながら香藤が笑いを漏らした。

頬を真っ赤に染めて岩城が顔を背けた。

「・・・笑うな・・・。」

「だって、嬉しいんだもん。俺のこと欲しがってくれてるから。」

「・・・馬鹿・・・。」

香藤が、顔中を綻ばせて岩城の火照った顔を見つめ、

片手を岩城の下半身に伸ばした。

「・・・あっ・・・」

思わず眉を寄せて少し仰け反る岩城の頬に、

そっと口付けた唇を項にずらし、そのまま鎖骨へ吸い付く。

「・・・痕っ・・つけっ・・・」

「・・・わかってるよ・・もう・・・」

少し呆れ気味に呟くと、

香藤はつけても叱られないとわかっているわき腹に唇を滑らせた。

「・・・はっ・・んっ・・・」

左手を動かし続けながら、

香藤は知り尽くした岩城の身体に唇を這わせていく。

「・・・ぁふっ・・・」

「ここにも、付けちゃお・・・。」

香藤が、岩城の腿の奥に唇を押し付け、きつく吸い上げた。

「・・・あっ・・はっ・・・」

岩城の茎に舌を這わせる頃には岩城の身体はびくびくと震え、

膝を立てた爪先がシーツを踏みしめていた。

「・・・あぁっ・・ぁっ・・・」

香藤が茎の先端に歯を立てた途端、

岩城の腰が沈み、背が反り返った。

茎の先端からあふれ出る先走りを指で掬い取り、

蕾の周りを丁寧に潤していく。

何度かそれを繰り返す間にも、

岩城の途絶えることなく鼻に抜けた喘ぎ声が漏れる。

「・・・まったく・・色っぽ過ぎるんだよね・・・」

香藤は岩城のものを銜え、

まるで清めるかのように舌を這わせながら指を蕾に潜らせた。

「・・・あっ・・あぅんっ・・んんぅ・・・」

「・・・なんでこんなに綺麗なのかなぁ・・・」

呟いた香藤の言葉がなにを指しているのかに気付いた岩城が、

手を伸ばして香藤の頭をはたいた。

「いてっ・・ひっどいなぁ・・ほんとのことなのに・・・」

ぶつぶつと文句を言いながら、香藤は指を引き抜き起き上がった。

「・・・ぁっ・・やっ・・・」

「そんなことするんなら、入れてあげないよ。」

膝を掴んで大きく開かせた腿の間に座り込んで、

香藤が笑って岩城を見下ろした。

「香藤っ!」

途中で取り上げられた快感に、

行き場をなくした欲情が岩城の中で暴れている。

今にも泣き出しそうな顔で香藤を見上げる岩城の壮絶な色っぽさに、

香藤が喉を鳴らした。

「・・・だめ・・俺が持たない・・・」

香藤は岩城の両足を抱え込み身体に引き寄せ、腰を沈めた。

「・・・あぁっ・・・」

「・・・岩城さ・・きつっ・・・」

香藤の声を耳にして、岩城が息を吐いた。

纏わりつく壁を押し広げ香藤がゆっくりと岩城の中に満ちる。

ほーっと息をついて香藤が岩城を抱きしめその胸に重なった。

「入ったよ・・・。」

「・・・うん・・・。」

「ちょっとだけ、こうしてていい?」

香藤の背中に手を回して岩城は頷いた。

「・・・なんか、さ・・・」

「・・・ん・・?・・」

「・・・俺、幸せ・・・。」

「・・・ああ・・俺もだ・・・。」

どれくらいそうしていただろう・・・。

岩城の熱すぎる身体と吐息を感じて香藤が彼の顔を覗きこんだ。

上気した眦に涙があふれている。

浅い息で岩城は香藤に囁いた。

「・・・もう・・香藤・・・」

「・・・うん・・俺も限界・・・」

引き出せるぎりぎりまで腰を引くと、香藤は一気に岩城を突き上げた。

「・・・ああぁあぁっ!・・・」

それまでの穏やかな時間が嘘のように、

激しい動きを続ける香藤に身体が振り飛ばされそうで、

岩城は腕を彼の首に巻きつけて受け止めていた。

「・・・んあぁっ・・かっ・・かとっ・・・」

岩城の上げる声が、瞬く間に悲鳴に変わり、

香藤の突き上げにあわせて腰が揺らめいた。

「・・・いいよ・・岩城さ・・すごく・・・」

「・・・ひぃっ・・んぅっ・・いぃっ・・・」

暴れまくる波が高まり押し寄せ、

枕に頭を押し付け岩城の背が反り返り始めた。

「・・・あっ・・もっ・・かとっ・・・」

ぐんっ、と香藤が腰を打ち付け身体が震え、

同時に高い悲鳴を上げた岩城の肢体が硬直した。

身体から力が抜け、奥に香藤の迸りを感じて思わず声が漏れる。

「・・・あ・・はぁ・・・」

「・・・大丈夫・・?・・」

香藤が岩城の額に張り付いた前髪をかき上げた。

「・・・あぁ・・・」

達したままの顔で岩城が、吐息のように答えた。

その顔に岩城の中にいる香藤が煽られる。

「・・・ふ・・っぅっ・・・」

疼いたままの蕾を押し広げられる感覚に、

岩城の薄く開いた唇から熱い息が漏れた。

「・・・もう・・なんでそんな顔するかな・・・」

「・・・馬鹿・・・」

「・・・止まんなくても知らないよ・・・」

「・・・いい・・・」

身体に腕を絡ませ唇を貪りあって、香藤が囁いた。

「・・・誕生日おめでと・・・」

「ああ・・ありがとう。」

「・・・一緒にいるよ、ずっとね。」

岩城の見開かれた瞳に涙が盛り上がっていく。

「・・・愛してる、岩城さん。」

言葉に出来ず、唇を震わせる岩城の目尻に唇を当てて、

香藤は微笑んだ。

「・・・香藤・・・」

「・・・動いていい?」

頷く岩城を両腕に巻き込んで、香藤は腰を引いた。

「・・・んぁあっ・・ぅあぁっ・・・」









「ところでさあ・・・。」

「・・ん・・・なんだ・・?」

朝まだ早い時間に、起きぬけに口を開いた香藤の言葉に、

半分眠ったまま岩城は身じろぎをした。

「岩城さん、幾つになったっけ?」

腕の中でぴたりと動かなくなった岩城を、

香藤は恐る恐る見下ろした。

「・・・ね?」

「・・・・。」

無言で起き上がった岩城が振り返った。

眠気も吹っ飛ぶような冴えた視線に、香藤がたじろぐ。

「・・・それが?・・・」

「それがって・・・なんで怒るの・・・?」

「聞いてどうするんだ、そんなこと?」

「どうって・・・。」

香藤が、思わずごくりと唾を飲み込んだ。

「・・・あの、さ・・・」

香藤の言葉を無視して、

ベッドから出て行こうとする岩城の腕を掴んで、

腕の中に抱え込んだ。

「離せ!」

「何で怒ってんの?」

「別に。怒ってなんかない。」

「嘘。ただの質問でしょ?」

再び無言で見つめてくる瞳に、香藤が苦笑した。

「年重ねるのって、悪いことじゃないでしょ?

それだけ一緒にいるって事なんだから。」

「香藤・・・。」

寄せられていた岩城の眉が、すっと開いた。

「この先だって、ずっと一緒にいるんだよ?」

岩城の唇が震え、何かを言おうとして開きかけ、また閉じられた。

うっすらと潤んだ瞳を見ながら、香藤が続けた。

「あと、2年で俺たち結婚10周年なんだよね。」

「そう、なのか?」

「そうだよ。普通は結婚式から数えるんだろうけどさ、

俺はそう数えてるよ。」

「・・・そう、か。」

「凄いね。よくよく考えるとさ。」

そう言って笑う香藤に誘われて、岩城の頬に笑みが浮かんだ。

「そうだな。」

「岩城さん、27だったんだ、あの時。」

「・・・うるさい・・・」

「気にしてたよね、30近いって」

「だから、うるさいって。」

顔をしかめる岩城を、香藤が笑いながら見下ろした。

「俺も早く30超えたいよ。」

「なんでだ?」

ゆっくりと唇を落としながら香藤が囁いた。

何度も何度も唇を合わせながら会話をかわす。

「岩城さんと同じ年代になりたいから。」

「・・・馬鹿・・・。」

「愛してる、岩城さん。

岩城さんが、50になっても、60になってもさ。」

「ああ・・・。」

「そうだ、岩城さん。金婚式のときって、俺、72だよ。」

「あ・・・?」

驚いて、額に手をあてる岩城のその手を取って、香藤はくすっと笑った。

「その時も、ちゃんとベッドにいようね。」

「なっ・・・馬っ・・・!」

「なんで?当たり前でしょ?」

「本気か、お前・・・?」

呆れて見つめる岩城を、香藤が憮然とした顔で見つめ返した。

「だから、当たり前って言ってるでしょ?

愛し合ってんだよ、俺たち。

何回同じこと言わせるの?」

一度潤みかけた瞳は簡単に緩み、岩城の目尻を幾筋もの雫が伝う。

「・・・ばか・・・」

「うん。俺、岩城さんに馬鹿になってるから。」

「お前、爺さんになっても俺を抱く気か?」

「うん。」

「・・・死ぬな、そりゃ・・・。」

「大丈夫でしょ。岩城さん、結構タフだから。」

「・・・なに言ってんだ。」

「可っ愛いだろうなぁ、年とっても。」

香藤がくすくすと笑いながら、

岩城の顔中を啄ばむようにキスを落としていく。

「・・・くすぐったいぞ。」

「うん。愛してる、岩城さん。」

「ああ・・・俺もだ。」

「約束だからね。」

「なにが・・・?」

「結婚50年目の岩城さんの誕生日も、ちゃんとベッドにいること。」

「まだ言うのか?」

「うん。約束してくれないと、ベッドから出してあげない。」

力一杯抱え込んでくる香藤を、岩城は溜息をつきながら見上げた。

その顔は嬉しげに微笑んでいた。

「わかったよ。」

「へへっ・・・」

交わした口付けが深くなり始め、岩城は慌てて香藤の胸を叩いた。

「なにさ?」

「どけ、起きる時間だ。」

「えぇっ〜?!」

「40年先のことより、仕事だ。」

「ちぇ〜っ。」

香藤を押しのけて岩城がベッドから降りる。

その後姿を見つめる香藤が枕を抱え込んで溜息をついた。

「もぉ〜、どう考えたって俺のこと誘ってるのにぃ・・・。」

「何が、だ?」

「その背中!お尻!脚!」

言われた岩城はローブを羽織りながらドアを開けた。

「馬鹿なこと言ってないで、お前も早く支度しろ。」

ぶつぶつと言いながら起き上がり、

ベッドから降りた香藤は、

岩城がまだドアのところにいるのに気付いた。

「なに、岩城さん?」

「お前の身体のほうが、俺を誘ってるぞ。」

「へっ?!」

ふっと笑った顔が、仕事モードにかわり岩城がバスルームへ消えた。

「だ、だから、何でそういうこと言うかな?

・・・もう!切り替え早すぎるんだって!」

あとには、見事に反応した自分をもて余して、

ベッドに座り込む香藤の嘆息が響いた。






                〜終〜



               2005年2月8日