桜餅  ―渇仰―






     草加が、秋月を抱きよせ、

     ゆっくりと、袷の中へ手を差し込む。

     「・・・草加っ・・やめろ・・・」

     草加の手が、秋月の肌を捕らえた。

     無言のまま、

     それでも引き寄せる手は、

     優しい。





     「・・・頼む・・やめてくれ・・・」

     震える声で、草加の手を止めさせる。

     俯く秋月の頬に、草加がそっと口付けを落とす。

     「・・・止めないよ・・・。」

     秋月の頬に手を添え、顔を上げさせ、

     草加は、秋月を横から抱きしめた。





     塞ぐ草加の唇を、拒否するように、

     秋月が、顔を顰める。

     いつものように・・・。

     草加の顔に、失望は、ない。

     わかっているから・・・。





     秋月を労わる、壊れ物を扱うような、

     草加の手。

     秋月の、冷えた体に火を灯す。

     「・・・いやだ・・・」

     重なる草加から、逃げようと、

     秋月が身体を捻じる。





     哀しいくらいに、細い身体。

     精一杯の、抵抗。

     「・・・はっ・・・」

     草加が、秋月の肌を探る。

     ゆっくりと、

     凍った心が融けよ、とばかりに。





     せめぎあう、心と身体を表すように、

     震える秋月の身体。

     背ける頬に、涙が伝う。

     「・・・泣かないで・・・。」

     答えられるはずもなく、

     秋月は唇を噛んだ。





     草加に抱かれることを、

     忌んではいないと、

     わかっているかのように、

     秋月の、幾ばくかの抵抗を聞き流し、

     加えられる草加の愛撫。

     秋月の頬に、朱が上る。





     秋月の身体が、別の震えを持ち始める。

     それを、草加は待っている。

     いつも、草加は待っている。

     求める声を上げるまで。

     「・・・くさかっ・・・」

     「・・・うん。・・・」





     両の腕を、敷布につなぎとめ、

     草加は、秋月を見おろす。

     己の律動に、

     青白かった身体に、桜色の花が咲くのを。

     開いていた瞳が閉じ、

     閉じられていた唇が、開き、

     冷たい息が、熱く変わるのを。





     草加にしがみ付き、声を上げる秋月に、

     熱い刻印を、刻み付ける。

     「・・・愛してる・・・。」

     身体の奥底に打ち込まれる、草加の楔と言葉。

     秋月に、生きよ、と、叫ぶ。





     言葉よりも雄弁に、想いを伝える、

     秋月の、身体の内。

     「・・・あぁっ・・・」

     草加は、それを、抱きとめる。

     秋月が、我を忘れるまで。

     流す涙が、愉悦の色を帯びるまで。





     「・・・草加・・草加・・草加っ・・・」

     それだけが、ただ一つの言葉であるように、

     秋月は、繰り返す。

     その時にだけしか、呼ばなくなった、名。

     その時にだけしか、熱を持たない、身体。

     その時にだけしか、触れることを許されない、唇。





     縋りつく、秋月の両腕と、両足と。

     重なる草加の唇を、秋月が求める。

     湧き上がる、

     万感の想いを込めて、草加が喰む。

     命を燃やせ、と、秋月を貫く。

     「・・・くさかっ・・もっとっ・・・」

     「・・・うん・・・。」





     秋月の、上げる悲鳴に、我を忘れる。

     ・・・このまま、時が止まってしまえばいい・・・。

     今、腕の中にいる秋月だけを、

     求めてくれる、秋月だけを、

     見ていたい、と。

     おわったあとの、秋月の、

     己を責める姿を、見たくはなくて。





     醒める熱を、押しとどめようと、

     草加は、囁く。

     「・・・愛してる・・・。」

     「・・・言うな・・・」

     繰り返される、秋月の言葉。

     いったい、いつまで・・・。





     こんなにも近くて、こんなにも遠い。

     苦しげに、顔を背ける、

     その秋月が、

     切ないくらいに愛おしい。











     草加が、去る。

     身体だけ、母屋に。

     心は、残る。

     秋月の、身内に。





              〜終〜




             2005年4月18日





これは、春抱き同盟・春企画に参加させていただいた、
「桜餅」の、あいだのシーンです。
大してエロくもないから、分けなくてもよかったかな・・。 
ま、いいか。



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