ひまわり







抱きしめられたまま、

岩城は香藤の胸に頬をつけてじっとしていた。

ゆっくりと香藤の手が、

その岩城の髪から背中までを、撫で下ろす。

何度も、何度も、香藤はそれを繰り返した。

眉をしかめていた岩城の身体から強張りが取れ、

ほっと息をつくのがわかる。

もぞ、と岩城が身じろぎをした。

香藤を見上げるその顔に、香藤は微笑んで頷いた。

ソファにゆっくりと岩城を横たえ、

そっと身体を重ね、唇を塞ぐ。

香藤の唇を貪りながら、

岩城の手が彼の着ている服を、剥ぎにかかった。

性急なその動きに、香藤は嬉しそうに笑いをこぼした。

「・・・笑うな。」

「ごめん。」

されるに任せ香藤は素裸になり、

岩城の両脚の間に身体を入れた。

香藤は笑顔のまま、岩城の服に両手をかけて、寛げた。

露わになった岩城の胸。

飾りが熱く凝っているのに気づいて、ぺろり、と舌を這わせた。

「・・・んっ・・・」

岩城が少し喉を鳴らして仰け反った。

・・・いつもなら、それだけで息の上がってくるはずの岩城が、

妙に鈍い反応を見せる。

「ねぇ、岩城さん。」

香藤が裸身になった岩城を抱き込んで、

まだ少し沈んだ顔を見下ろした。

「・・・なんだ?」

「あのね・・・。」

香藤が、優しく岩城の唇を喰んだ。

「岩城さんは、俺のことばかり気にしてるけど、

自分もそうなんだよ?」

「俺も、そう・・・って?」

香藤の背に腕を回して、岩城は不審げに彼を見上げた。

「・・・種、の話。」

今度は、岩城が絶句する番だった。

「俺たち、とは言ってるけど、自分のこと、忘れてるでしょ?」

「・・・そういえば、そうかもしれないな・・・。」

「俺が岩城さんを愛したせいで、

岩城さんもそういう意味では次を残せない。」

「やめろ、香藤!自分のせいで、なんて言うな!」

香藤は顔をしかめるその岩城の言葉に、にっこりと微笑んだ。

「でしょ?俺だって、同じに思ってるんだよ。」

「あ・・・。」

「だから、謝ったり泣いたりなんてしないで。

謝るってことは、間違ったことをしてるって、

思ってるってことになるんだよ、岩城さん。」

「・・・香藤・・・。」

「違うでしょ?

俺は岩城さんを愛したことを、

ただの一度だって後悔したことなんてないよ。」

驚いて見上げる岩城の目尻を、ふたたび雫が伝わる。

香藤が満面に笑みを浮かべて岩城の腰に腕を回した。

「どっちかと言うと、逆だね。愛さなかった方が、後悔する。」

岩城の唇が震え、香藤の肩に顔を埋めた。

「・・・その涙は、許してあげる。」

「香藤・・・。」



「・・・あぁ・・・あっ・・・んぅ・・・」

さっきまでの乗り切れなかったのが嘘のように、

全身を染めて香藤を受け止める岩城がいた。

「・・・ぁッ・・・あっ・・・香藤っ・・・香藤っ・・・。」

「・・・愛してる、岩城さん・・・愛してる・・・」

まるで耳にキスをするように唇をつけて、

切なげにしがみ付く岩城の耳朶に、香藤が囁き続ける。

からんだ二人の腰が揺れる。

香藤の追い上げにつれて、

わだかまっていた岩城の胸の中が、

身体を走る快感と共に融けていくような感覚に、

香藤の背に回した腕に力が入る。

「・・・んあぁっ・・・」

香藤が岩城の腰を掴んで突き上げ、

我を忘れて岩城は身体を捩った。

夢中で受ける岩城の腰が、

自分を求めて揺れるのを感じて、

香藤は満足げに岩城を見つめた。

「・・・はんぁっ・・・かっ・・・香藤ッ・・・もっ・・・かとっ・・・」

切迫した息で求めてくる岩城を、香藤は頷いて追い込んだ。

「・・・んんっ・・・ぐっ・・・」

息をつめて岩城の身体が弓形に反る。

その岩城の奥へ、香藤は自分を叩きつけた。

ゆっくりと、岩城の身体から力が抜け、

詰めていた息を吐きだした。

荒い息をついて半分意識を飛ばしたままの岩城を、

香藤はしっかりとその腕に抱きこんだ。

「・・・ねぇ、岩城さん。」

「・・・ん・・・?」

岩城はまだ朦朧として瞳を閉じたまま、

香藤の胸で返事を返した。

「将来さ、俺たちプロダクション立ち上げるでしょ?」

「・・・ああ・・・その・・・つもりだ・・・それが・・・?」

岩城はまだ熱い息の整わないまま、香藤を見上げた。

「そこに所属してくれる人たちを、俺たちの子供って思おうよ。」

思わず、岩城は目を見開いた。

「それじゃ、だめかな?」

「・・・香藤・・・。」

「俺は、そういうつもりでいるんだけど?」

柔らかい香藤の微笑。

「その人たちの成長を見守るっての、結構、良くない?」

岩城の腕が香藤の首に絡んだ。

キスを強請る仕草に、香藤は顔をほころばせた。

頬を染めて、岩城は香藤の唇を受け止めた。

「・・・よく、泣くね。」

「・・・うるさい。

好きに泣かせろ・・・お前の前でだけなんだから・・・。」

にへら・・・と香藤の顔が緩んだ。

その顔に、岩城が吹き出した。

「・・・あのさぁ・・・泣くのか、笑うのか、どっちかにしたら?」

むくれる香藤をよそに、岩城はその胸に顔を伏せて笑っていた。

ほっと、岩城は息を吐いて香藤を振り仰いだ。

・・・お前がいるから、俺は、俺でいられる。

・・・お前には、いつも救われる。

「・・・香藤・・・ありがとう。」

「なにが?」

きょとん、とする香藤の唇に、岩城はそっと唇を寄せた。

「お前と、生きていけるのは、幸せだ。」

唇が触れ合うような近さで、岩城が囁いた。

「それ、俺の台詞。」

香藤が囁き返す。

岩城の視界に、ひまわりが映った。

香藤の腕の中で首を捻じってじっとそれを見つめる岩城に、

香藤が頬を重ねて微笑んだ。

岩城はその、ひまわりのような笑顔を見上げた。

「・・・あのひまわりも、案外、幸せかもよ?」

「そうだな。」

「そう、思ってあげようよ。」

「ああ・・・。」






      〜終わり〜





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