「尋ねきてみよ・・・ 番外子供編」







夕暮れ時に秋風が吹く

風になびくは薄の穂

風により自然の音が流れ奏でる。

金色に輝く薄の野原

‥‥‥サワサワサワ‥‥‥





薄の野原の音楽に引かれて、遊びに来たのは家を抜け出した

10才にもならない幼き三位殿こと香藤洋二だった。

風の音が作り出す、草花の音楽をススキの野原に座り込んで

楽しんでいたが、夕焼けのすばらしさに、習い始めた自分の笛を

奏でたくなり立ち上がった。

その中に、狐の尻尾が揺らいでいる。

「狐?」

始めは自分の目を疑った‥‥‥

薄の中に見え隠れする、シッポを見つつ子供ながら頭を捻った。

金色に輝く薄の中にあって、その狐の毛は銀色に見える‥‥‥

それも、2本‥‥‥

離れる事もなく仲良く一緒に動いている。

「あれ?」

思わず目を凝らして、まじまじと見つめるけど、総てが金色に

染まっている中で、その狐の尻尾は反対色でありながらも

その場を損なわない、いや、そこにあっても不思議じゃない物を

まとっていた。

「‥‥‥尻尾は2つ‥‥‥親子かな?」

その風景に見とれていた香藤は、今度はその尻尾自体に

興味を移した。

「気づかれないように‥‥‥」

静かに、薄を掻き分け‥‥‥狐にこっそりと近づく事を試みた。

目で目測して、なるべく音を立てないように‥‥‥

「あと少し‥‥‥」

そう思って、顔を上げるとそこに目指すものは無かった。

「ええ!!何で〜〜〜〜」

思わず大声を上げて、辺りを見渡すとそこより少し離れた所に

尻尾が揺らいでいた。

まるで香藤をからかうかのように‥‥‥

太陽も沈み、辺りに闇が訪れようとしていた‥‥‥

此処から先は、人間の住む所意外は妖怪の時間‥‥‥

「また明日!!今度は俺の笛聞いてね!!」

近寄れなかった尻尾に声をかけると、見つからないように

大急ぎ屋敷に戻った。





「遅いですよ‥‥‥洋二様!!」

部屋に帰るなりの心配そうな声に、香藤はバツが悪そうに笑うと、

「ごめん‥‥‥笛の練習に夢中になって‥‥‥金子」

父親の付けた側近でもあり、兄の様な存在の金子に素直に謝る。

他の者には言わずとも、金子だけには心配させたくないので、

一言声をかけている。

「いかがでしたか?」

金子は楽しそうに聞き返すと、汚れた着物を着替えさせ始める。

「うん、風と薄の葉の音楽を聴いてきた‥‥‥で、笛を重ねようと

したけど、まだまだ‥‥‥」

香藤は着物を脱ぎ、新しい物に袖を通す。

「ああ、都外れの薄ヶ原ですね。もうすぐ十五夜も来ますので、

見事でしょうね」

金子はその薄の原がどこら辺にあるか知っているようだった。

「明日も‥‥‥行きたい」

香藤は素直な気持ちで言い返すと、

「遅くならないで下さいませ。今日ぐらいまでならば、どうにか

なります。ああ、なんなら、義弟君も連れていかれれば、

こちらは安心できます」

金子は香藤にそう告げた。

時間が遅くなるなら、義弟に当たる悠を連れて行く様に示唆していた。

「わかった‥‥‥金子。ありがとう」

香藤は嬉しそうに微笑むと、礼を述べた。

「では、夕食(ゆうげ)と成りますので」

金子は一礼をして、香藤の部屋を出て行ったのだった。

「‥‥‥あの狐‥‥‥会えるかな?」

灯りの灯った部屋で、香藤は呟いたのだった。





次の日も夕暮れを目指して香藤は薄ヶ原に向かった。

ワクワクした気持ちもある。

ついた時には、まだまだ夕暮れには早かった。

「いないや‥‥‥チェッ!!」

香藤は呟くと、昨日狐の尻尾を見た所に向かった。

そこに腰を下ろすと、袂から笛を取り出す。

習い始めて余りたってないが、天性なのか香藤の笛の腕は

物凄かったのである。

笛を教えた楽師が教える事は無いので、好きに吹かせなさいと

言われた程だった。

笛の事になると、香藤は夢中で吹き続けるので、音が在る間は

誰も声をかける事は無かった‥‥‥

風が再び吹き始め自然の音楽を奏で始めた‥‥‥昨日は狐に

気を取られた香藤は、待つ意味を込めて吹き始めた。

風に乗り、薄の穂を揺らし、香藤の笛は野原一面に響きだした。





どのくらい吹いていただろうか?

太陽が夕日に変り、金色に辺りを照らした中に、昨日より近い所に

狐の銀色の尻尾を見つける‥‥‥

香藤は嬉しそうに笛をさらに吹き続ける。

2本の尻尾はその曲にあわせゆらゆらと揺らめいている。

『やっぱり‥‥‥二匹いるにしては良く合って揺れている』

香藤は不思議そうにその尻尾を見つめて笛を吹いていた。

不意に金子の呼ぶ声が聞こえてきた。

香藤が驚いて笛を吹くのを止めると、その場から一匹の銀毛の子狐が

空に舞い飛び薄の野原に消え去った。

そして、その尻尾が2つに分かれていた事を、香藤は見て驚いた。

しかし、その事を大人に告げるでは無く、香藤は次の日も、

また次の日も笛を吹きにその場に出かけたが‥‥‥それを最後に、

そこで見ることはなかった。





数日後‥‥‥

「十五夜か‥‥‥金子、月の中の薄で笛を吹きたい‥‥‥ダメだよね?」

香藤はそう告げるが、返事は勿論ダメだった。

月が出る頃、辺りは暗くなり、下手をすると命に関わる。

金子の返事を知りつつも、香藤はつい口に出して聞いてみたのだった。

早めに床に入り、息を潜める。

見回りが通り過ぎるのを見計らい、香藤はこっそり笛を持って外に出た。

家の裏門には、厚手の着物を持って悠が居た。

「遅くなるなよ〜〜〜」

そう告げると、竹筒の水筒に饅頭みたいな物を渡される。

嬉しそうに受け取ると、香藤は急ぎ薄ヶ原に急いだ。

香藤が薄ヶ原に着く頃は、満月が顔を出した頃だった。

風が香藤の周りに吹き、歓迎している。

香藤は大きく深呼吸をすると、笛を懐から取り出し、

呼吸を整えると目をつぶった。

最後に大きく深呼吸をし終え、吹き始めた。

風に乗り遠くまで音が運ばれる。

香藤の笛の音に耳を澄まし聞き入るもの、眠りに誘い込まれるもの‥‥‥

それは人間だけではなく、夜の闇に住まうものも同じだった。

おりしも満月‥‥‥月の魔力ともいえるものも加わって‥‥‥

聞こえない所に隠れていたはずの、銀狐にも響き渡った。

月光浴を楽しんでいたような狐は笛の音に顔を上げる‥‥‥

目を閉じ、困惑したが音に引かれ風の様に走り出した。

月夜の中に笛の音に誘われ、溜まらずに薄ヶ原を飛んで駆け抜ける。

その姿を目に留めた香藤は、疑問が解けてホッとした。

『二又の尾を持つ、銀狐だったんだ‥‥‥神様のお使いだ』

香藤は嬉しくなった。

自分の笛に合わせて、神様のお使いが喜んでいる事が、

一層笛を吹く事に熱を入れたのだった。

気が付くと、香藤の周りには人知れない者たちも多く寄っていた。

しかし銀狐の踊りと香藤の笛に酔いしれ、襲うものなどいなかった‥‥‥







「ってね‥‥‥岩城さんの銀の尻尾見てたら、思い出した」

香藤が床で岩城を抱きしめて、話を追える。

「そうか‥‥‥あの拙いが心の籠もった笛は‥‥‥

香藤だったのか‥‥‥」

岩城が何かを思い出したように、思い出し笑いをして答える。

「岩城さん?」

不思議そうに香藤が顔を見ると、

「その狐は‥‥‥生まれて小さかった俺だ。俺も初めから9尾では

なかったからな‥‥‥力と共に尾も増えた」

岩城は目を閉じると、香藤の胸に顔を埋めた。

香藤は無言で岩城を抱きしめた。

「香藤‥‥‥?」

岩城は不意に力の入った香藤を見上げる。

「嬉しい‥‥‥岩城さんとそんな昔から、会ってた事に‥‥‥」

香藤は呟くと、さらに腕に力を入れて岩城を抱きしめる。

ふと、目元に光るものを見つけた岩城は、その温もりの中で、

嬉しそうに微笑んだ。






                           2005.10 sasa
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ぐわぁvvv
可愛い岩城さんと香藤君の、僥倖vvv
sasaさん、ほんとに、ほんとに、
ありがとうございますvv
煽って奪い取ったって感じですわ(爆)
でも、反省はしてません(爆)
嬉しいですぅvvv