− 病める時も健やかなる時も・・・ I promise. −




岩城は皿をしまおうと食器棚を開けると

棚の奥に包みを見つけた。

「ん?なんだこの包み。」

手に取って広げてみると

『この茶碗は・・・』



2,3日前の夕食後の事。

後片づけをしていた香藤が

泣きそうな顔をして茶碗を握り締めていた。

「どうしたんだ、香藤。」

「欠けちゃったんだ。いつも大事に使ってたのに・・・」

「仕方ないだろう。形あるものは壊れるんだ。」

「だって・・・」


それは岩城が京都に仕事に行った時に見つけた物で

手作りで珍しく同じ大きさの夫婦茶碗だった。


「岩城さん言ってたでしょ、

これ手作りだから同じものは無いって。」

「また、気に入った茶碗を買えばいいじゃないか。

香藤、何時までも握り締めてないで危ないから捨てろよ。

二つ一緒にな。」

「えっ、二つとも捨てちゃうの。」

「・・・夫婦だろう、その茶碗・・・」

「岩城さん・・・そうだね。離しちゃいけないよね。」

香藤は愛しそうに、二つの茶碗を見つめていた。



『新しい茶碗を買っても、大切に取って置くんだろうな。』

岩城は優しい笑みを浮かべ包み直すと、そっと棚の奥に戻した。





「飯、出来たぞ。」

テーブルについた香藤の前に、出された茶碗。

「あれっ?!これ・・・。」

それは、棚の奥にしまったはずの茶碗。

欠けたところが、修復されている。

見ると、岩城の茶碗にも、同じような金の筋が入っている。

「ああ、俺も捨てられなかったしな・・・

兄貴に、直せるところを知らないか聞いたんだ。」

「でも、岩城さんのも筋がついてる。」

岩城は、少し頬を染めた。

「俺のも、欠いてもらってお前の欠片と取り替えて、直してもらった。」

「え?わざわざ?」

「お互いに、足りないところを補え合えればって、意味で・・・

俺が助けられてる方が多いけどな。」

香藤が、席を立ち岩城を横様に抱きしめた。

「ありがと、嬉しいよ。」

「お前の泣きそうな顔、思い出して、

何とかしたいと思ったんだ・・・。」

「岩城さん・・・。」

「俺が買ってきた夫婦茶碗、

お前があんなに大事に思ってくれてるのが、

嬉しかったから。」

自然と重なる、唇。香藤の想いと岩城の想いも重なる。

「飯、冷めちゃうぞ。」

「うん、頂きます。」

目を合わせ、微笑みあう。

「ねぇ、岩城さん、」

「なんだ?」

「俺たちって、いい夫婦だよね。」

「そうだな。」







                 −終−
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これは、kaz様と、管理人が、メールでやり取りした共作です。
kaz様、ありがとうございましたv



文中の、「金の筋」についてですが、
陶磁器の割れたのを、漆で接着して、その上を金で覆って、
まるで金でつないだように見せる修覆方法があります。
金接(金継)というのですが、その説明を書くのを忘れました;;