蕾桜―番外編








また、桜の咲く季節がやってきた。

春の花の匂いが、春風に乗って、やってくる。

浮き足立った人々は、華やかに笑い合いながら、桜見へと、足を運ぶ。

春の木漏れ日は、時折、きつく、時折、柔らかく人々の頭上に降り注ぐ。

その穏やかさは、冬の寒さに棘棘していた人々の心を、溶かしていくようだ・・・・・・

そんな春であるのに、いや、そんな春であるからこそ、心の奥底にある不安が、

何かの拍子に、顔を出すのだ。




穏やかな春の光を浴びながら、縁側で、京之介は空を見上げていた。

悲しみばかりを、思い出した春が、苦しいどころか、楽しい季節になって、

早、2年が過ぎた。あの生きることさえ苦痛であった過去が嘘のように、

今は、こうして、春の光の優しさを受け止め、そして、喜ぶ自分がいる・・・・・・・・

それは、奇跡に近い事のように、思われた。


「京之介・・・・・散歩にでも、行こうか・・・・絵も、ほぼ描き終えたし・・・・

今日は、本当に、小春日和だ・・・・・」

笑いながらそう言って、洋二郎が、筆を置いた。

「ああ・・・・だが・・・・・よいのか?」

京之介も、微笑みながら、だが不可思議な顔をして、洋二郎に言った。

京に着いて、一緒に暮らせるようになった二人は、幸せな毎日を過ごしていたが、

その幸せが、不確かな物の上に成り立っていることを、お互いに理解しあっていた。

いつ、京之介を知っている人間に会うかわからない、

その不安と常に背中合わせに暮らしているのだ。

菊地も京が好きで、何度も、京之介とこの地を訪れていた所為もあり、

万が一の事を思うと自然と、母屋に篭りがちになった。


そして、洋二郎も、京之介と共に外に出るのは、日が落ちてからと、決めていた。

「もう・・・・あれから、2年になる・・・・・・。気を緩めるつもりではないが、

このような素晴らしい日に、そなたと外を歩きたいと、思うのは、

贅沢なことだろうか・・・・・」


京に住まなければ、これほどまで、用心することもない。

だが、絵師である洋二郎が、農民ばかりの田舎に住む訳にいかないことは、

京之介は十二分に承知していた。

あまり、表に出たがらない京之介を、不憫に思って、洋二郎が、

それとなく田舎に移ろうかと、何度か話したことが、あった。

その度、京之介は、微笑みながら、洋二郎に言った。

「おまえの絵が見たいのだ。」

と・・・・・安全に暮らす為に京を去る・・・・・

だが、京之介はそれだけは、避けたかった。

それは、洋二郎にとって、絵師を捨てることを、意味していたからだ。


洋二郎は、名を変え、絵師として、京で活躍を続けていた。

彼の繊細でありながら、尚且つ躍動的なその絵風には、人気があった。

さすがに、京之介を描くことは、憚れたが、洋二郎の描く浮世絵の女人は、

どこかしら京之介に似ていた。

少し上がり目の涼しい目元のその日本髪の女は、見るものの心を癒し、

落ち着かせてくれると、洋二郎の絵を、買い求める人々は、口を揃えてそう言った。

それは、嬉しいことに違いはなかったが、

洋二郎は、その言葉を聞くたびに苦笑せずにはいられなかった。

違う趣の女を、描こうと思っても、どうしても京之介に、似てしまうのだ。


「どうやら、私の頭の中には、そなたしか、映ってはおらぬようだ・・・・」

と、笑いながら、洋二郎がそう言ったとき、京之介は、頬を染め、

苦笑いをしながら、答えた。

「馬鹿なことを・・・・・」

若年で、母を失くし、長い間、囲われものとして生きて来た京之介が、

愛情に飢えていることに、洋二郎は、遠の前に、気づいていた。

だから、洋二郎は、些細なことでも愛情を示すと、

心から喜んでくれる京之介が見たくて、ことあるごとに、

思いのたけを惜しみなく京之介に注ぐのだ。

洋二郎の愛は、蜜のように甘く、そして、海のように深く、

京之介の乾いていた心へと染みていき、時折、京之介すらも知らぬ間に、

その際限のない熱い恋慕に翻弄されるのである。

「洋二郎・・・・・」

京之介が、縁側の障子を、閉めながら、わかっているのかいないのか、

欲情に艶めいた瞳で、洋二郎を見た。

その瞳の意図する所を、察したのか、洋二郎が立ち上がり、

京之介の傍へと、座る。

「ふふふ・・・・また・・・このように、日の高い内から・・・・・・」

「私に、そのような瞳を、向けるということは、何を意味しているのか、

わかってやっておるのだろう?」

「そ・・・そのような・・・ことは・・・・」

自分の無意識にやってしまったはしたない行為に、京之介が、顔を赤らめる。

その言葉が終わらぬ内に、洋二郎が、京之介の肩を抱いた。

その右手は、早々と、着物のあわせを割って、

その下の輝く肌のある懐へと、侵入する。

「あっ・・・・・・」

胸の飾りに触れてくる愛しい者のその手を、肌に感じながら、

京之介は、至福の声を上げた。

己から、誘うなどということは、いままで、洋二郎に会うまでは、

一度たりとてなかった。

だが、洋二郎を、欲する己を、京之介は、恥ずかしいとは、思わなかった。

何よりも、洋二郎が、京之介にそのように感じさせないのだ。

お互いを、欲する時にほしいと言う・・・その素直で直接的な求愛は、

二人の間では、とても、自然なことのように思えた。

静かに、洋二郎が、京之介の帯を解き始める。

その間も、京之介は、熱い眼差しを洋二郎へと、向けていた。

「ああ・・・何故、そなたは、そのように美しい・・・・

その瞳で、そのように見つめられたら・・・・

天女でさえも、恋に落ちてしまうであろうに・・・」

「な・・・に・・・を、馬鹿な・・・・あっ・・・・!」

洋二郎が、敏感な内腿に、手を滑り込ませた為、

京之介は、最後まで言葉を終えることができなかった。

そして、京之介が、言おうとした、「おまえこそ・・・」という言葉は、

洋二郎の、口付けによって、妨げられた。

洋二郎の暖かく大きな手が、滑らかな京之介の肌を、弄る。

愛し愛される事が、これほど、素晴らしい事であると、

京之介は、生まれて初めて知った。

悲しかった過去の人生を、取り戻そうとするかのように、

京之介は、がむしゃらに、洋二郎の愛を、求めた。

洋二郎も、それを、重荷に感ずることなく、己の全てを、京之介に捧げる。

肌を緩やかに滑る洋二郎の手・・・・・・下腹の上を何度も行き来する。

そのもどかしさに、京之介が、思わず、己の手をその上に重ね、

肝心の部分へ導こうとする。

「そう・・・・慌てるな・・・・今日は、ゆっくりと、そなたを、抱きたいのだ・・・・・」

そういうと、洋二郎は、京之介の、耳たぶを、甘噛みし、

その唇を、喉元へと、下ろしていく。

弱い首筋を、舐められ、きつく吸われ、思わず、京之介が叫んだ。

「あっ・・・・・・っ!」

その声を、何度も、聞きたくて、洋二郎は、同じ行為を繰り返した。

煮詰まっていく身体の熱に、堪えかねて、京之介が、抗議の声を、上げた。

「よっ・・・ようじろう・・・・!」

その抗議の声を、聞いても、一向に首筋を愛撫することを、止めない洋二郎に、

京之介は、堪らなくなって、己の昂りを、洋二郎の腰に摺り寄せる。

「ふっ・・・・私が・・・ほしい・・・か?京之介・・・・・」

「ならば、私が、ほしいと・・・言って、聞かせてくれ・・・・」

ようやく、唇を、首筋から離した洋二郎が、

含み笑いを浮かべながら、京之介にそう言った。

「なっ・・・!」

恥ずかしさのあまり、京之介の身体が、ますます熱くなる。

だが、京之介がその言葉を、発するまで、洋二郎は喉元から離れるつもりは、

ないらしかった。

執拗に繰り返されるその刺激に、堪えられなくなって、

ついに、京之介が、呟くような小さな声で、言った。

「お・・・お前が、ほ・・・・ほしいっ・・・・!」

既に、声を喘がせながら、頬を染めて懇願する京之介のその顔を、

見た途端、愛おしさが、込み上げ、洋二郎の胸を締め付けた。

「き・・・京之介っ!」

一気に襦袢の裾をめくり、膨張しきった京之介の分身を、口に含んだ。

「ああっ!!」

待ち望んでいた刺激に京之介の全身が振るえ、背が、反り返る。

口唇をぴったりと、京之介の硬直した物に合わせ、ゆっくりと、上下に扱く。

更に、甘い蜜を一滴も残さぬかのように、喉の奥を締め付けて、吸い上げる。

京之介の喉からは、声にならぬ喘ぎが、発せられた。

「はぁっ・・・・うっ・・・・くっ・・・・あぁ・・・・・っ!」

何を思ったのか、もうすでに、絶頂が近い京之介の竿を、洋二郎が、

口腔から、ゆるりと引き抜く。

寸前で、止められた熱が、はけ口を求めて、京之介の体中を駆け巡る。

「はっ・・・・・よっ・・・よう・・・じろ・・・う?・・・・はっ・・・はっ・・・・・」

息も絶え絶えに、閉じていた瞳を、薄っすらと開け、

何故、洋二郎が行為を止めたのか、不信に思って、京之介が、名を呼んだ。

その京之介の眼に映ったのは、熱の篭った瞳で、じっと、

京之介を見つめる洋二郎だった。

「・・・綺麗だ・・・・京之介・・・・」

洋二郎は、その熱い眼で、京之介の上気した顔から、

そして、桜色の胸の突起へ、更に、紅く熟したそそり立つ愛しい物へと、

舐めるように、ゆっくりと視線を落とした。

身体のどこにも、触れられてはいないのに、そうやって、

洋二郎に己の恥ずかしい姿を、見つめられているというだけで、

京之介の分身が、どくんと、反応する。

まるで、その瞳で、犯されているような錯覚に陥って、

京之介は、羞恥と高まりで、気が遠くなった。

もう、その洋二郎の熱い瞳に耐え切れなくなって、

京之介は、両の目を、閉じた。

これから、洋二郎によって、施されるであるろう快感と愛される喜びを思うと、

自然に身体が、期待で、震えた。

その京之介の思いを理解したのか、洋二郎が、

そっと、京之介の胸の突起を、指の先で、摘んだ。

その途端、敏感になっている京之介の全身が、びくんと、跳ねる。

「っ・・・・!」

焦らされる度に、下半身に、更に熱が篭ってくる。

知らず知らずに、京之介は、その黒曜石の眼を、薄っすらと潤ませていた。

それでも、洋二郎は、まだ、じっと、京之介を、その射るような眼で、見つめ続ける。

もう、焦らされることに、限界を感じたのか、京之介が、苦しそうに、

眉をひそめ、言った。

「た・・頼むっ・・・・・よう・・・じ・・・ろう・・・・・っ・・・・・」

熱い吐息を吐きながら、腰を揺らして、身悶える京之介は、

壮絶に美しく、淫猥で・・・・己の雄が、限界に達しているのにもかかわらす、

その麻薬のような魅力に、いつまでも、酔いしれていたいと、洋二郎は、思った。

その時、突然、洋二郎の頭に、恐ろしく魅惑的な思惑が、浮かんだ。

それは、今の切羽詰った京之介には、あまりにも、粋を超えた思惑に違いなかった。

だが、その時の洋二郎には、この恥じながらも、

己の欲望を、素直に表わす京之介が、見たいと思った。

「・・・・見せて・・・・・くれぬか・・・・・・・」

京之介は、洋二郎の言葉を、理解できず、潤んで、

妖しく光るその眼を、洋二郎に向けた。

「そなたの・・・・・・・が、見たい・・・・・」

唇を耳元に、近づけ、洋二郎が、熱い吐息と共に、囁いた。

その呟きを聞いた途端、京之介の頬が、これ以上はないほど、赤く染まった。

「なっ・・・何を・・・そ、そのような事は・・・・できっ・・・・」

すぐさま否定しようとしたその唇を、洋二郎が塞ぐ。

執拗な舌が、京之介を捕らえ、息も尽かさず、激しく口腔を犯す。

「くっ・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・・はっ・・・・ん」

やっと開放された口からは、甘い吐息が、後から、後から、溢れてくる。

「さぁ・・・・早く・・・・このままでも、よいのか?

ん?・・・・辛くはないのか?京之介・・・・・」

その美しい顔を、羞恥に染め、下唇を噛み、

潤んだ瞳で洋二郎を、睨みつける京之介の淫靡さといったら・・・・・

もう、すでに洋二郎の頭の中は、京之介が、己の欲に忠実になり、

昂りをその手で、労わり、高め、頂点に上り詰めていく姿で、いっぱいになり、

それ以外は、考えられなくなった。

「これは・・・・命令ではない・・・・京之介・・・・・私の頼みだ・・・・・・

私の願いを・・・聞いてくれるか・・・・?」

優しく、宥められるように囁かれ、京之介の身体の力が、抜けていく・・・・・

「さぁ・・・・」

洋二郎は、躊躇う京之介の手をとり、そこへと、導く。

そして、己の手を、京之介の上に重ね合わせ、昂りへと擦り付けた。

「・・・・・っ・・・・・・!」

焦らされて、限界をとうに超えていえる京之介のそれは、

膨張し、蜜を流し、二人の手を濡らす。

「さぁ・・・・京之介・・・・・・どのように・・・するのが、好きなのだ

・・・・教えてくれ・・・・・・」

そういうと、洋二郎は、己の手を、京之介から離した。

刺激が失せて、堪えられなくなった京之介が、自らの昂りを、握り、

上下に扱き始めた。

そうしたかと、思うと、いきなり、うつ伏せになり、両腕を十字に重ね、

その腕に、己の昂りを押し付ける。京之介のはちきれんばかりに

紅く染まった昂りが、腕の隙間から、ちらりと覗き、その淫猥さに、

洋二郎は、一瞬、気が遠くなった。

「ああぁぁ・・・・・・ふっ・・・・・あぁん・・・・んっ・・・・・うぅ・・・・・・うっ・・・・」

腰を、揺らし、己の腕に昂りを擦り付け、悶える京之介の、淫靡さは、

洋二郎の想像を、遥かに超えていた。

己の欲を否定せず、性に貧欲になった京之介のその姿は、

なんと淫猥で、美しいのであろう・・・・・

そのあまりの妖美さに、洋二郎は、唖然として、その姿を、見つめ続けた。

己の下半身が、痛みを感じるほど、硬くそそり立っている・・・・

洋二郎も限界を、とうに、超えていたのだ。

それでも、羞恥の為か、京之介は、なかなか頂点に達する事が、できない。

苦しそうに、両の眼に涙を溜め、助けてほしいと言わんばかりに、

紅く上気した顔を洋二郎に向けた。

それを、合図のように、洋二郎は、京之介を、背後から抱き締め、

己の蜜を指先で絡め取ると、京之介の蕾に擦り付けた。

そして、十分に湿ったその秘部に、指を差し入れた。

「ああっ!!」

京之介の背中が、撓る。

洋二郎の指は、的確に京之介の敏感な部分を、擦り付ける。

何本もの指を、出し入れし、その部分をゆっくりと、慣らしていく。

「はっ・・・はっ・・・・・あうぅん・・・・・うぅ・・・・・も・・・・もうっ・・・・・・洋二郎!」

京之介の膝が、がくがくと、震え始めている。もう、絶頂が、近いのだ。

あれほど、焦らされて、京之介には、もう余裕がなかった。

洋二郎は、指を、抜くと、己の竿を、京之介の蕾にあてがい、

ゆっくりと、押し進めた。

「うわあぁっ・・・・・・・!!」

待ちかねていた快感に、身体が、付いていかない・・・・

京之介の全身が、小刻みに震え出した。

長い艶やかな黒髪が、汗で、渦のように、白い京之介の肌に、張り付いている。

髪を、振り乱し、愉悦の涙を流しながら、京之介が、叫んだ。

「よっ・・・洋二郎っ!!」

苦しさと絶頂感の狭間で、京之介の身体が、一瞬、浮遊した。

洋二郎が、握り込んでいる京之介のそこから、収縮が始まり、

身体の隅々へと広がっていく。

「ああぁああぅ・・・・・っ!!」

その壮絶な絶頂感に、気を失いそうになった。

身体の力が、抜けていき、もう、両の手は、己を支える事さえ出来なくなっていた。

洋二郎は、京之介のその細い腰を、しっかりと抱き寄せ、

勢いの衰えぬそれを、京之介の蕾へと、差し入れする。

抜き差しされる度に、激しい快感の波が押し寄せ、

京之介は、気絶することさえ許されない。

もう、意識が、朦朧となりながらも、洋二郎によって施される快感が、

身体中を駆け巡り、愛という感情に変化していくのを京之介は感じた。

洋二郎が、京之介の腰を、後ろから、持ち上げ、身体を支えたまま、

胡坐をかいた自分の上に座らせた。

結合が、いっそう深くなり、京之介は、悲鳴を、上げた。

「ひっ!・・・・あぁ・・・・・・っ!!」

京之介が、堪らなくなって、頭を振った為、長い髪が、乱れて、

左肩の刀傷が、露になった。

3寸ほどの長さのその傷は、そこだけ、ミミズ腫れのように、

赤く盛り上がり、白い京之介の肌との相対によって、ますますその存在を、

洋二郎に知らしめ、2年立った今でも、洋二郎を、苦しめる。

人ではないのかと思うほど、美しかった京之介・・・・

その京之介に、この醜い刀傷を、付けたのは、己だと、

京之介を、抱くたびに、突きつけられるその事実・・・・

その傷を見る度、京之介を、守れなかった己に・・・

京之介の捨て身によって、この世に生きながらえることができた己に・・・・

そして、今だかって、過去の鎖から開放されるずにいる日陰の二人に・・・・・・

その全てを、思い知らしめるその傷に・・・・・

心の奥底から、どうしようもない怒りと不安が、込み上げてきて、

洋二郎を、狂わせる。

「ああぁああ・・・・・!よう・・・・じ・・・・ろう・・・・・っ!

も、もう・・・・許して・・・・・っ・・・・!」

息も途切れ途切れに、京之介が、懇願しても、洋二郎は、止めることができない。

それどころか、執拗に、京之介を、突き上げてしまう。

「ああぁぁっ!よっ・・・・うじっ・・・・・あっ!・・・あぁ!」

洋二郎は、激しく京之介を、突き上げながら、

己をあざけ笑うように肩に誇るその刀傷へ、口付けた。

そして、盛り上がった肉の上を、舐め始める。

ゆっくりと、何度も、何度も、角度を変え、上へ下へと、舐め続けた。

洋二郎の紅い舌が、生き物のように、京之介の傷の上を行き来する。

まるで、嘗め尽くす事によって、傷痕が、

消えて無くなってしまうかのように・・・・・・・。

「はぁっ!・・・・・はぁ・・・・・やっ・・・・めっ・・・・・・!」

そのむず痒い感覚に、京之介が、なんとか、身体を離して逃げようとしたが、

洋二郎のがっしりとした両の腕に捕らえられていて、動く事ができない。

その肩への執拗な愛撫と、下からの激しい突き上げは、

京之介を、一気に高みへと、導く。

京之介は、知っていた。

洋二郎が、ふとしたときに、見せる、悲しい顔を・・・・・

それは、決まって、素肌の自分の肩を、洋二郎が、じっと見ている時であるのを・・・・

視線を感じて振り向くと、慌ててそっぽを向くか、

わざとらしく、にっこりと笑って見せる。

だが、その後、必ずといっていいほど、悲しげな顔をするのだ。

「はっ・・・・はぅ・・・・はっ・・・・・っ・・・・」

「うぅうっ・・・・ぐっ・・・ああっ・・・・はあぅん・・・・っ」

お互いの激しい息遣いが、まるで弦楽のように、

静寂した春の昼下がりの小さな部屋に響き渡る。

洋二郎が、やっと、唇を、傷から離したかと思うと、その白い首筋に噛み付き、

もうこれ以上はないというほど、膨張しきった昂りを、

京之介の最奥へと、突きつけた。

「あああぁぁぁ!!!」

京之介が、頭を左右に振り、身体を震わせ、限界を、洋二郎に知らせた。

もう何度目かの絶頂を、京之介が迎えた時、

ようやく、洋二郎もその熱き精を、京之介への内部へと、解き放った。

ぐったりと、倒れ込む京之介を、支えながら、やりすぎてしまったと、

洋二郎は、己を叱咤した。

荒い息を整えながら、身体を重ね合い、畳に広がる着物の上に、横になる。

「す・・・・すまぬ・・・・京之介・・・・・・・無理を・・・・させた・・・・」

ようやく、整った息を、見計らって、洋二郎が言った。

まだ、京之介は、答えられない様子だったが、微かに、首を振って、笑って見せた。

その京之介の仕草を見て、安堵した洋二郎は、そっと、京之介を、懐に抱き寄せる。

しばらく、二人は、そうして、抱き合っていたが、京之介が、その静寂を裂いた。

「洋二郎・・・・・それほどまでも・・・・・この傷が、疎ましいか・・・・・・・」

「・・・・・・!」

瞳を閉じて、その顔を、洋二郎の胸にあずけたまま、京之介が、言った。

「私は・・・・・この傷を、愛している・・・・・この傷を、見る度に、

・・・・幸せな気分になるのだ・・・・」

驚きを隠せず、洋二郎が、見開いた瞳で、京之介を見つめる。

「私は、運命にいつも流されて、過ごしていた。

己から、運命を切り開いて、行こうとはせず、ただ、運命に逆らわず・・・・・・」

「京之介・・・・・私は・・・・」

何かを言いかけた、洋二郎の唇を、そのすらりとした指で京之介が、止めた。

「だが、そんな私を、変えたのは、おまえだった・・・・

洋二郎・・・・・そなたの為なら、なんでも、できると・・・・

この身を、盾にすることも・・・・・・」

「だから・・・・だから・・・・私は、この傷を、誇りに思う。

今まで、私は己を愛したことがなかった。

だが、今は・・・傷を持つこの身体を愛しいと思うことができるのだ・・・・」

京之介が、顔を上げ、洋二郎の瞳を、見つめながら、続けた。

「・・・そなたは、私に、救われたと、思っておるのだろう・・・・・?」

「そうではない・・・・・・救われたのは、この私なのだ・・・・・・・」

ゆっくりと、京之介が、唇を洋二郎のそれへと、近づけた。

触れるだけの口付け・・・・・

そして、涙で濡れている洋二郎の瞳へ、頬へと、

まるで、唇でそれを拭うように、移動させた。

「愛してくれ・・・・・この傷を・・・・・・私と一緒に・・・・・洋二郎・・・・・・・」

「京之介・・・・・」

流れる涙を、拭いもせず、洋二郎が、京之介の名を呼ぶ。

もう、言葉はいらなかった・・・・

春の午後の陽気さが、ほんの少し開いた縁側の障子戸から、

重なり会う二人の体躯の上に、ひっそりと降り落ちていった。







―完―



レイ



2005年 10月





戻る きゃ〜〜!!
レイさんの、某所に
投稿された連載の
番外編ですvv
エロい!!(爆)
さすがでございますvv
タマンねぇ〜〜〜vv
レイさん、
ありがとうございますvv