このお話は、「Rhapsody in Jade」の続きです。



     
Crazy Little Thing Called Love 1









岩城の片手が、黒いパジャマの裾から中へ滑り込んだ。

肌を探り、腹から胸へと移動する。

指が乳首に触れて、ビクリ、と身体が震えた。

「・・・は・・・」

胸を弄りながら片手を下へ伸ばし、

下着の中へ差し込んだ手で、

茎を包み込み、それを扱いた。

「・・・んっ・・・あっ・・・」




香藤がいない。

その主のいない広いベッドの上で、岩城は身体を捩った。

岩城の手が前から離れ、袋を掠めて蕾に触れた。

前を愛撫するうちに、じんじんと疼いていたそこが、

指が触れた途端、ドクン、と脈打った。

「・・・ッ・・・はっ・・・」

指を一本、ゆっくりと中へ沈めると、熱い襞がその指に纏わりついた。

香藤の愛撫を思い出しながら、岩城は己の中を探った。

前をはだけ、下着ごと膝までパジャマをずり下ろした格好で、

岩城は横向きに背中を丸め、香藤の枕を握り締めて、

増やした指を出し入れさせていた。

香藤がするように、指を伸ばし奥へと潜り込ませる。

「・・・あぁ・・・香藤っ・・・香藤ォ・・・」

その場所に触れて、丸まっていた背が、反射的に伸びた。

「・・・はんっ・・・んっ、あぁっ・・・」

そこを指先を曲げて擦ると、茎から雫が零れ落ちた。

唇の間から舌が覗き、口角を舐める。

荒い息が洩れ、岩城は腰を揺すりながら指を奥へと進めた。

「・・・んっ・・・届か・・・ない・・・」

中を蹂躙する香藤を思い出して、岩城は切なげに首を振って眉を寄せた。

それでも襞を擦り上げ、引っ掻き、岩城は自分を追い上げた。

「・・・香藤っ・・・くっ、んんっ・・・」

仰け反って甲高い声を発していった岩城は、荒い息をついて、

ゆるゆるとベッドへ四肢を伸ばした。

火の点いた身体が、その熱を持て余していた。

自分の指の物足りなさに、岩城は唇を噛んで、深く息を吐いた。






「ねぇ、岩城さん。」

「どうしたんだ?」

オフになって戻ってきてから、

時折岩城を見つめて嘆息をついていた香藤が、

ようやく口を開いた。

小首をかしげて見返す岩城に、

香藤は顔色を伺うように、躊躇いながら言った。

「パリに来る気、ない?」

「・・・え?」

「引っ越す気、ない、かな?」

岩城は、黙ってその顔を見つめていた。

「ごめん、そうだよね。無理に決まってるよね。生徒もいるし。

家元の補佐もしないといけないし・・・。」

「わかった。」

言いかける言葉をさえぎって、岩城は頷いた。

絶句する香藤に、岩城は再び口を開いた。

「どうした?」

「・・・マジで?」

「ああ。」

香藤は、もう一度頷いて微笑む岩城を、両腕で抱え込んだ。

「いいの?仕事はどうするのさ?」

「代わってもらえばいい。」

「そんな、あっさり。」

笑顔を浮かべながら言う香藤に、

岩城は抱きしめられた腕の中でぽつり、と呟いた。

「一人で寝るのは、もう、嫌だ・・・。」

「岩城さん?!」

香藤が驚いて俯いた顔を、頤に手をかけて上向かせた。

岩城は、じっとその顔を見つめた。

「お前、俺の仕事のことを気にして、言えなかったんだろ?」

「う・・・ん。」

「家のこと、家族のこと。

お前が気にしてくれてるのは、よくわかってる。でもな・・・。」

少し眉を寄せる岩城に、香藤は黙って続きを待った。

「・・・お前のいない時間が、だんだん辛くなって来てる。

お前はいつもそう言うけど、俺もそうだとは思わないのか?」

「ほんと?」

「ああ。」

岩城が、ゆっくりと微笑んだ。

香藤の顔が、光が当たるように輝いた。

「ありがと、嬉しいよ・・・。」






「な、なにっ?!」

雅彦の声が、あまりのことに裏返った。

「引っ越す?いったい、どこへだ?!」

「パリだよ。」

岩城の返事に、雅彦は固まったまま、呆然として見返していた。

その顔を見上げて、岩城はにっこりと笑った。

「・・・じょ、冗談じゃない!」




「だから、冗談なんかじゃないって言ってるだろ。」

実家に残してあった自分の荷物を、片付けている岩城の後で、

腕を組んで苦虫を噛み潰したような顔で突っ立っている雅彦に、

岩城は呆れながら答えた。

「生徒達はどうするんだ?」

「もう、代わってもらう手配はすんでるよ。」

こともなげな岩城の返事に、雅彦は再び絶句した。

「俺は、パリに行くよ、兄さん。」

「あの家は?せっかく建てたのに。」

「管理は、清水さんに頼んだ。

まるっきり、日本に帰ってこないわけじゃないし。」

「お前、なんで・・・。」

言いつのる兄を見上げて、岩城は口を開いた。

「香藤が呼んでるんだ。」

「は?」

兄のその顔に、岩城はくすりと笑った。








パリ、シャルル・ド・ゴール空港へ到着した岩城を出迎えた香藤は、

その岩城の姿に思わず頭を抱えそうになった。

青竹色の羽織とお召し姿の岩城が、カートを押しながら歩いてくる。

その岩城を、周囲が振り返って見ていた。

あからさまに声を上げ、口笛を吹く男までいる。

香藤は慌てて、岩城に駆け寄った。

「岩城さん!」

「ああ、香藤。」

にっこりと笑う岩城の笑顔に、周囲が見惚れていた。

それを横目に、香藤は岩城の肩を抱いた。

「来てくれて嬉しいよ、岩城さん。迎えが遅れてごめんね。」

「いや、遅れてなんかいないさ。」

「お久しぶりです。」

金子が声をかけ、香藤のボディガードのチャーリーが、

岩城の荷物を受け取った。

「お久しぶりです、金子さん。」

岩城は2人に微笑むと、もう一人のボディガードに片手を差し出した。

ラウール、と名乗った彼は薄い茶色の髪と瞳をしていた。

「お話は伺っています。よろしく。」






「買った?」

「え・・・?あ・・・。」

「買ったって?」

「・・・うん。」

空港から車で到着した香藤たちは、

あるアパルトマンの前に立っていた。

「だって、本格的にこっちに岩城さんが来て、

一緒に暮らすんだもん。

賃貸じゃ、さぁ・・・。」

「前のアパートだって、いいだろうが。」

「そうだけど。あそこ、狭いし・・・。」

「だからって、こんなパリのど真ん中に。見るからに高そうだな。」

岩城はそう言って、周囲を見回した。

パリ、6区。

セーヌ左岸のサン・ジェルマン・デ・プレ地区は、

左岸の知性の象徴ともいえる地区だ。

元来、哲学書や専門書の版元が集中するアカデミックなエリアで、

二つの世界大戦を挟み、若い学者や芸術家たちが集まってきた。

サルトル、ボーヴォワールといった人たちが、

カフェで議論を闘わせた場所でもある。

今は、観光地としてのパリと、

居住区としてのパリのバランスが取れていて、

住みやすく、買い物をするのにも、苦労はない。

古い町並みや建物がそのまま残り、

歩いているだけでパリの雰囲気に浸れる、

そんな場所に、香藤はアパルトマンを買った。

「そんなに高くはないと思うけど。」

香藤の返事に、岩城は呆れながら、

その古めかしい石造りの建物を見上げた。

「ま、いいか。」

肩を軽くすくめて、岩城はふと角にある店に視線を向けた。

「あれは、花屋か?」

「うん。そうだよ。あ、ちょ・・・。」

無言のまま歩き出した岩城のあとを、香藤が追いかけた。

その後から、ダークスーツ姿の男が3人続いた。

4人の男を引き連れて歩く着物姿の岩城に、

道行く人々が目を見張っていた。




「こんにちは。」

「いらっしゃい。」

店の主と思われる男性が、振り返った。

岩城を見て目を丸くし、その後から入ってきた香藤を見つけて、

人懐こい笑顔を見せた。

「やあ、ヨージ。パリで、リサイタルかい?」

「うん。それもあるけど、本格的にこっちで暮らすことになったから。」

「ほぉ、それは素晴らしい!」

2人が言葉を交わす間に、

岩城は見事にディスプレイされた様々な花たちを見回していた。

「で、彼は?」

「うん、俺の嫁さん。」

香藤が、にっこりと笑って答えた。

驚いて振り返った岩城は、花屋の主と目が合った。

優しげな瞳が岩城を見つめた。

「美人だなァ、それに、可愛いね。」

真っ赤になった岩城を見て、店主が目を細めた。

「でしょ?」

臆面もなく頷く香藤の腕を、岩城が小突いた。

「馬鹿、なに言ってんだ。」

「だって、それしか紹介の仕方、ないじゃない?」

「だからって・・・。」

店主が、にこにこと笑ってショーケースから、赤い薔薇を1本抜き出した。

「どうぞ、マダム・カトー。」

「え・・・。」

岩城は目を見張って、言われた呼びかけの言葉とその花に、

ますます頬を赤く染めた。

「ありがとうございます。」

途惑いながら、受け取ると後から溜息が漏れるのが聞こえた。

「相変わらず、可愛いなぁ。」

チャーリーがそう言って笑っていた。

金子も、一緒になって笑いながら頷いている。

初対面であるラウールでさえ、肩をすくめて笑っていた。

それを見て、岩城は真っ赤な顔を、俯けた。

項まで染めて、岩城は花を見るふりをして顔を背けた。

店主の差し出した赤い薔薇が、ケースの中央一杯に飾ってあった。

「綺麗ですね、この薔薇。」

「うん。ルージュ・メイアン、っていうんだよ。」

岩城が広い店内を見回し、赤い薔薇と同じように、

幅を取って飾られた白い薔薇に目を止めた。

「これは?」

「これは、エセル・サンデー。」

「英語の名前、ですね?」

岩城の質問に、店主が、真面目くさった顔で頷いた。

「そう。イングランド産。ま、良い物は、良いってこと。」

そう言って、香藤たちを振り返り片目をつぶって見せた。

ぷっ、とチャーリーが吹きだして、皆の間に笑いが起こった。

「岩城さん、どうするの?」

「うん。この赤いのをもらおうかな。」

「そ?じゃ、俺がこの白いの、買ってあげる。」

香藤がそう言うと、「あ・・・」と、小さな声が上がった。

振り返ると、ラウールが小首をかしげていた。

「色が、違うと思うんだけどね?」

「え?」

全員が、一瞬考え込んだ。

「ああ、そうか!」

「ヨージ、君が赤い薔薇を買わないと。」

「うん。」

「・・・え?」

岩城だけが、訳がわからないといった顔で、香藤を見返した。

「赤い薔薇は情熱。白い薔薇は、純潔。」

岩城は絶句して、そう言って微笑む香藤を見つめた。

「じゃ、決まりね。」

香藤が店主に、笑顔のまま頷いた。




大きな赤い薔薇と白い薔薇の花束を抱えて、

香藤はいそいそと新居へ岩城を連れて行った。

アーチの入口をくぐり、アパルトマンの玄関に入ると、

フロントと思しきカウンターでスーツ姿の男が出迎えた。

にこやかに「お帰りなさいませ。」という声に、

香藤は笑顔で会釈をすると、

岩城もそれに倣った。

「誰だ、今の?」

古めかしいスタイルの、

黒い鉄の手動扉のエレベーターに乗り込みながら、

岩城が香藤を振り返った。

「ん?コンシェルジェ。」

「は?」

岩城の疑問に答えないまま、香藤は黙って最上階、6階のボタンを押した。




広めに取られた廊下を行き、突き当りのドアの前に香藤が立った。

岩城にとっては、見慣れた部屋へ入る時の手順。

チャーリーがまず中へ入り、少しして安全が確認できると、

香藤は岩城の背を押した。

岩城の目に、正面の窓からの景色が飛び込んできた。

整然としたパリの街並み。

グレーに統一された屋根。

窓に近付いた岩城は、それを大きく開け放った。

花を抱えた香藤と金子が、その岩城に顔を見合わせて微笑んだ。




着物の裾を翻しながら、岩城はリビングから出て行った。

少しすると、どこかのドアを開ける音がした。

「どうかなさったんでしょうか?」

ラウールが心配げに言う言葉に、

香藤はくすくすと笑いながら首を振った。

「気にしなくていいよ。あちこち、見に行ってるだけだと思うから。」

「は?」

ラウールの、少しぽかんとした顔に香藤は吹きだした。




ドアを開け閉めする音が止まり、

パタパタと岩城の履く雪駄の足音がした。

「ねぇ、座ったら?」

いったんリビングに戻ってきた岩城に、香藤が声をかけた。

「ん?うん。」

そう返事をして、岩城は反対側のドアを開け、出て行った。

「しょうがないなァ。」

香藤の、可愛くてしょうがないという顔に、

金子とチャーリーが陰で笑っていた。

「ラウール、慣れないとだめだよ。あの2人に。」

「慣れるって?仲がいいのは、見ればわかるよ?」

「そうだけどね。ま、今にわかるよ。」

金子がそう言って、ポットの乗ったトレイを持ち上げた。




「広いな、ここは。」

やっと戻ってきた岩城が、少し頬を染めて言った。

「うん。3つ、ベッドルームがあるからね。」

「そんなに、いらないだろう?」

「え?だって、金子さんが泊まることもあるし、

チャーリーかラウール、どっちか必ずいるよ?」

「そうか。」

広いリビングのソファに座って、

岩城はカップを取り上げ、ふと、視線が上に向いた。

高い吹き抜けに、ロフトが見える。

「あそこは?」

「うん。屋根裏を改装したんだ。

なんに使うかは、岩城さんが考えてよ。」

「ふうん。」

そこへ、金子とラウールが花瓶を抱えてリビングへ入ってきた。

それを金子から受け取り、岩城は壁際のテーブルへ置いた。

「ひどい活けかただな。」

そう言って笑う岩城に、金子は頭をかいた。

花を活けなおす岩城の、その頬に浮ぶ笑みを見ながら、

香藤が呟いた。

「なんか、いいよねぇ、こういうの。」

金子たち3人が、それを聞きながら岩城を見つめて頷いた。






「うわっ?!」

突然の叫び声と、それに続いてパタパタと、足音。

香藤が驚いて立ち上がるのと、

岩城がリビングへ飛び込んでくるのとが、同時だった。

「どうしたの?」

見ると、岩城の手に着物が握られていた。

「香藤!これっ・・・!」

「これ?どれ?」

「これ、どうしたんだ?!」

岩城が、手にした着物を叩いた。

「ああ、それ。」

頷いて香藤は笑った。

「買ったんだよ。岩城さん、着るものが必要でしょ?

俺、できたら岩城さんには着物、着てて欲しいし。」

「買った・・・?」

呆然として、岩城は香藤を見つめた。

「あの、箪笥の中の、全部か?」

「うん。」

岩城のために、と言われていた部屋の箪笥の中身。

開けてみた岩城は、それを見て飛び上がるほど驚いた。

見るからに上物とわかるものが、引き出しに詰まっていた。

あっけらかん、と頷く香藤に、岩城の手が震えた。

「ねぇ、岩城さん。そんなに握り絞めたら、しわになっちゃうよ?」

「えっ?あ・・・。」

気がついたように、岩城は手に握った紬を、撫でた。

「お前、こんな高いもの・・・。」

「高いの?」

額に手をあてて、溜息をつく岩城を、香藤はソファに引っ張った。

「どこで、買ったんだ?」

「いつもの、着物屋さんだよ。

あそこなら、岩城さんのサイズ、知ってるじゃない。」

「ああ、そうか・・・。」

「いい人だよね、あそこのおじさん。」

別の溜息をつきながら、岩城は香藤を見つめた。

「香藤、呉服屋と言え。

それに、あの人はおじさんじゃなくて、あそこのご亭主だ。」

「あ、ごめん。」

ペロッと舌を出して、香藤は肩を竦めた。

「俺に、服とか処分させといて、そんなことしてたのか?」

「だってさぁ、おじさんが岩城さんには、これが似合いますよって・・・。」

言いかけて、じろりと睨まれた香藤は、首をすくめて岩城を見上げた。

「それで?」

「それで、色々見せてくれてさ・・・見てたら、

これも似合うなとか、思っちゃって・・・。」

「で、あの有様か?」

「え・・・うん。」

「どうしても、着物がいいのか?」

「俺、岩城さんの着物姿、好きだし。

もちろん、洋服だって好きだけど!

洋服は、いつでも買えるじゃない?

でも、着物はそうはいかないし。」

「・・・わかった。」

口を尖らせる香藤に、岩城は少し黙ったあと頷いた。

「ほんと?」

「仕方ないだろ。

今、着る物はあの箪笥の中にしかないんだから。」

「えへへ・・・。」

「えへへ、じゃない!」

こつん、と額を小突かれて、香藤は上目遣いに岩城を見上げた。

「まったく。お前の金銭感覚は、どうなってんだ?」

「え?普通じゃない?」

「・・・バカ。」

そう言って、岩城は部屋へ戻り、手にした紬を箪笥に戻した。

溜息をついて座り込み、他の抽斗を眺め、出した手を引っ込めた。

「開けるのが怖いな、これは。」

恐る恐る引き出したそこに、絞り染めの生地が見えた。

不審げに眉を寄せて、岩城は抽斗を大きく引いた。

「・・・!・・・」

そこにあったのは、総絞りの手の込んだ物で、

その値段に想像がついた岩城は、眉を吊り上げた。

「香藤〜〜〜〜!!」

リビングにいる香藤が、慌てて走ってくる音が聞こえた。

「いい加減にしろっ!!」






「どお、岩城さん。こっちの暮らしって?」

「うん。」

「うん、って。」

岩城の返事に、香藤は笑った。

岩城は少し首をかしげるようにして、それから香藤に視線を向けた。

「俺は、別にどこで暮らそうと、いいんだ。お前がいるところなら。」

普段は、ほとんど口にしない岩城が、それを口にするときは、

香藤が絶句するほどの鮮烈な言葉になる。

なんの衒いもなく言ってのける言葉は、香藤の心を鷲掴みにする。

「そっか・・・そうだね。

俺も岩城さんがいれば、どこでもいいもんね。」

アハハ、と笑いながら香藤は思わず自分の腕で、額を押さえた。

岩城はパリに来ることが決まった後、

言葉に困らないように秘かに勉強を始めていた。

たまに帰ると、増えていくその為の本や教材に、香藤は気付いていた。

「ありがとね。」

「なにが?」

きょとん、とした顔の岩城に、香藤はゆっくりと腕を伸ばした。

「全部。」

「全部って、なんだ?」

抱き込みながら、香藤は岩城を見つめた。

「岩城さんの、全部。」

「は?」

わけがわからないといった顔で、

岩城は香藤を見返しながら、その背に手を回した。

香藤がくすくすと笑いながら、額にキスを落とした。

「いいよ、わからなくて。」

「・・・変な奴。」

笑いの止まらない香藤を抱きしめながら、岩城はつられて笑い出した。

「最高だね、パリの生活!」

「俺はまだ、始まったばかりだぞ。」







   続く


   2006年5月4日
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