触れもせで 第6話 ―公使閣下の破滅主義― 『公使・・・!それは・・・』 『あくまで可能性だ』 岩城の主演するドラマ、「触れもせで」第6回は、 タイ、オリエンタルホテルの暑いテラスで、 緊迫した空気を伴なって始まった。 香藤は、自宅のリビングでそれを見ていた。 ロケ中の撮影。 立ち会っていないその場面を、 香藤は食い入るようにして見つめていた。 画面の中の小野塚演じる白石が、 頬を染め片手で顔を覆った。 『可能性があるってだけでも・・・俺・・・ 嬉しくって暴れだしそうだ・・・』 「そりゃそうだろうよ。 俺だって岩城さんに告白された時は、そうだったよ。」 その白石を、吉永は黙って見つめていた。 一見、冷たい顔。 絶妙な間で、口を開いた。 『なら閉じ込めよう』 姉・美智子も泊まっているそのホテルに部屋を取り、 努力をしてくれるんだろう、と問う吉永に、白石は愕然とする。 『同じベッドの上でしろと言ってる訳じゃあるまいし、 何をビクつく事がある』 「恐ぇえなぁ・・・。」 香藤は、クッションを抱きかかえて、ぽつりと零して笑った。 「捕まったね、白石。逃げられないよ、もう。」 背を向けて去る吉永に、 酷い、と思いながら白石は吉永の後を追った。 『俺がもう・・・その酷さも魅力にしか感じないと知った上で・・・』 白石のモノローグに、香藤はカリカリと頭をかいた。 「マゾか、お前。」 CMが入り、香藤はキッチンに立った。 コーヒーを入れながら、ふと気づいた。 「あ・・・このあと、ベッドシーンか・・・。」 ちぇ、と軽く舌打ちをして、香藤はソファに戻った。 その何日か前、食事を終えて岩城と2人、 ソファで寛いでいたとき、 ロケ中に撮った場面の話になった。 絡みのシーンについて、岩城がいい画が撮れたと笑っていた。 「その、いい画って、どういう意味さ?」 「監督が、ほんの少し可愛くって言ってたのが、上手くいったらしい。」 「・・・・・・。」 「それから、色っぽくってね。」 無言で香藤は岩城を見つめ、それから口をゆがめた。 「なんだ、その顔は?」 「・・・で、思いっきり、リキ入れて演ったわけだね。」 「当り前だろ。」 「だよね、岩城さんだもんね。」 は〜、と息をついて香藤はソファに背を預けた。 「で、どんなだったわけ?」 「うん。」 岩城の説明に、香藤の眉が盛大に寄せられた。 「立ったまま・・・?」 「ああ。」 こともなげに頷く岩城に、香藤の顔が歪む。 岩城はその香藤の頬に指を滑らせた。 「・・・仕事だ。」 「わかってるよ。」 「わかってるって顔じゃないな。」 頬を撫でられながら、香藤は憮然とした顔をした。 「だってさ。」 「なら・・・してみるか?」 嫣然と、岩城が微笑んだ。 『どうした・・・いつになく大胆だな・・・ なけなしの罪悪感が麻痺したのか?』 裸の上にワイシャツだけを羽織り、 前をはだけて窓際に立つ吉永を、白石が後から愛撫している。 乳首を弄り、下半身に手を延ばす白石。 身体を屈めながら尻に舌を這わした。 『お好きでしょ?スリルのあるセックス・・・。』 『悪くない・・・興奮する・・・』 白石が床に座り込み、 前に回した手で、茎を扱き上げるようにする。 そのまま、吉永の形の良い尻の奥に唇を触れる。 上からのアングルと、 吉永がすがるカーテンと肌蹴たワイシャツで、 肝心なところは見えてはいない。 それでも、その喘ぐ姿は、演技とは思えなかった。 『白いっし・・・んっ・・・はっ・・・あ・・・智宏っ・・・!!』 「確かにね〜・・・リキ入ってるよ、岩城さん・・・。」 テレビから流れる岩城の声に、 香藤の脳裏に数日前の岩城の姿がオーバーラップした。 「んっ・・・あっ・・・」 窓辺に全裸で立つ岩城を後ろから抱きこんで、 香藤はその項に唇を這わせた。 「それから?」 「・・・はっ・・・ま、え・・・」 「ん?前ね。」 香藤はゆっくりと腿から手を滑らせた。 「はっんっ・・・あぁっ・・・」 軽く握りこんで下から撫で上げ、 先端をくいと押すと、岩城の喉から悲鳴が上がった。 「やっ・・・あぁっ・・・」 「それから?」 「そっ・・・からっ・・・」 岩城の説明のとおりに、香藤は床に膝をつくと、 両脚を少し開かせ、尻の谷間を舐め下ろし、蕾を舌先で突いた。 「・・・ああっ・・・」 茎をしごく手の動きを早めながら、香藤は蕾を執拗に弄った。 「・・・んぁあっ・・・」 カーテンを握り締めて、岩城の背が仰け反る。 膝が震え、爪先が縮こまった。 『公使・・・』 立ち上がった白石の手が吉永の身体を返し、 二人はようやく唇を重ねる。 そうしながら、吉永は腕からワイシャツを抜き去り、 白石はベルトを緩める。 白石の後から、カメラがそれを撮っている。 吉永の身体は白石の身体に隠れ、 画面には、白石の背中が大きく写っていた。 吉永の片足を持ち上げ、白石が腰を動かした。 『ん・・・』 吉永の声が漏れ、仰け反る。 白石の首に絡んだ吉永の腕の動きと仕草で、 2人が繋がったことが伝わる。 「んぁっ・・・」 岩城の片足を抱え、、ググ・・・と、狭い入口を押し広げて、 香藤は岩城の中へ侵入した。 「う・・・ふっ・・・あ・・・」 「いい、岩城さん?」 「ああ・・・いい・・・」 ぐい、と香藤の両手が岩城の尻を掴んだ。 「はっあぁっ・・・うんっ・・・」 立ったまま、香藤を受け入れ、 揺すられながら声を上げる岩城を、 香藤はくす、と笑って突き上げた。 「ひっ・・・」 香藤の首に両腕を回してしがみ付き、 岩城は背を反らして仰け反った。 その拍子に、頭が軽くガラスに当たり、 香藤は岩城を抱えたまま、少し後に下がった。 「おっと・・・。」 「・・・んくっ・・・か・・・香藤っ・・・!」 「それから?」 香藤が動きを止めて岩城の顔を覗き込んだ。 「・・・ひぅ・・・」 岩城が息を吸い込んで、薄く目を開いた。 「そっ・・・そん・・・な・・・」 「これから、どういうシーンになるの?」 岩城の奥深くを貫いたまま、 香藤は岩城の腰を支えて揺すった。 「・・・うぁっんっ・・・あぁっ・・・」 「で、この後は、どうするの?」 「香藤っ・・・もォっ・・・」 耐え切れずに、岩城は香藤に縋りついた。 疼く蕾を摩り付け香藤の茎を深く取り込もうと、腰を揺すった。 「頼むっ・・・」 「この態勢じゃ、あんまり深くは這入らないよね。」 「か・・・と・・・」 香藤の肩に縋った指に力が入る。 歯を食い縛るようにして、岩城は呻いていた。 「物足りない?」 くすっと笑う香藤を、岩城は濡れた瞳で見上げた。 その目付きに、答えを悟って、香藤が頷いた。 「わかった。」 岩城を抱えたままベッドへ移動し、 膝で乗り上げた拍子に香藤が深く奥へ刺さり、 岩城は身体を引き攣らせた。 「はっ・・・あぅっ・・・」 仰け反る岩城の背に手を添えて、 ベッドへ横たわらせ、香藤はそっと額にキスを落とした。 荒い息をつきながら、岩城は香藤を見上げ、両手を差し出した。 「・・・香藤・・・早く・・・」 腹の間に、岩城の茎を押し付けるように身体を重ね、 香藤は岩城の腰を抱え込んだ。 ずい、と腰を引いて、香藤はいったん止まった。 カリを入口で引っ掛けて掻き回すようにすると、 岩城の絶え入るような喘ぎが洩れた。 「・・・はぅんっ・・・いいっ・・・」 大きく口を開けて、浅い息をつく岩城を、 香藤は勢い良く突き上げた。 「・・・んあゥっ・・・くっ・・・」 ズン、と背筋から脳髄まで快感が走り、 香藤を乗せたまま、岩城の身体が反り返った。 何度も岩城の深部を抉りながら、香藤は岩城の唇を塞いだ。 「・・・んっんっ・・・」 岩城の尻を掴んだ手で、香藤が蕾を広げ、大きく奥を抉った。 「・・・ひィっ・・・」 岩城が唇を離して、香藤にしがみ付いた。 官能に揺さぶられ、目尻に涙を浮かべて、 岩城が悲鳴を上げた。 捩れる身体を抱え直して、香藤は腰を引いた。 いやいやをするように首を振る岩城の腿を、 宥めるように軽く叩いて、 香藤はゆっくりと岩城の中へ押し入った。 「・・・ひぅぅ・・・」 岩城の喉が啼き、呼吸を求めて喘いだ。 両脚が腰に絡みつくのを感じて、 香藤は岩城がいきかけていることを察した。 「もう、いきたい?」 仰け反り、声を上げ続ける岩城の耳に唇を押し付けて、香藤が囁いた。 切迫した息遣いのまま、岩城は何度も頷いた。 「・・・も・・・頼ッ・・・」 「うん、いいよ。」 香藤が襞を擦りあげ、岩城は香藤の背に爪を立てて顔を歪ませた。 「うあっ・・・あぁっあっ・・・」 仰け反り、枕に頭をこすり付けて、岩城の意識が飛んだ。 画面の中で、吉永を貫いたまま、 白石は吉永が調子を崩すあの時期に、 どこにいても駆けつける、と告白する。 その白石を、吉永が目を見開いて見つめる。 『絶対に一人にしません』 呆然とする吉永を、白石は黙って突き上げる。 『・・・あぅっ・・・ん・・・んっ・・・あっ・・・あっ・・・!!』 吉永が、揺さぶられて肩を窄めて仰け反り、 画面には、上気した2人の顔が映っている。 白石の言葉に、吉永は喘ぎながら囁く。 『・・・是非、約束の印が欲しい・・・』 突き上げながら見上げる白石に、 吉永は汗にまみれた顔で自分の胸を指さす。 姉の目に付くと驚く白石を見つめながら、 服を脱がなければわからないと吉永が誘う。 震えながら白石は、吉永の白い胸に唇を押し付けた。 その白石の頭を、吉永は仰け反りながら抱え込んだ。 テレビの中の二人を眺めながら、くすり、と香藤が笑った。 「確かに吉永は色っぽいけど、 岩城さんのほうがよっぽど色っぽいね。」 当り前か、と香藤は呟いた。 CMに入り、飲み物を取りにいこうと立ち上がると、 香藤の携帯が鳴った。 「あ、岩城さん?」 『あと、30分くらいで帰れると思う。』 「食事はどうするの?」 キッチンへ向かい、冷蔵庫を開けて中を覗き込んだ。 『ああ、軽く何かあると嬉しいんだが?』 「あるよ、作っとく。」 ぐしゃぐしゃのベッドの脇で、 吉永がスーツの上着を着ながら口を開く。 すべて君の判断に任せるといわれた白石は、 呆然としながら部屋を出て行く吉永を追った。 ドアを開けた白石は、 廊下で吉永が姉と立ち話をしているのに気づいた。 姉は、隣の部屋に泊まっていた。 真っ青になる白石をホテルに残して、吉永は立ち去る。 これがラストチャンス、そう言われて白石は黙り込んだ。 姉とともに朝食を取りながら、白石は嫉妬しながらも、 姉が見せる素直な表情に、 初めて姉・美智子が吉永を愛しているのだと気付く。 茶道のデモンストレーションの場で、白石は進行を務めていた。 吉永が婚約解消などするわけがないと思いながら、 吉永の着物姿の襟元に、何気なく視線を向ける。 そこに、前の晩の自分が残した情事の痕を見つける。 その時の吉永の、上気した顔と上擦る声が蘇る。 別の意味で、ぞっと青ざめる白石。 『公使・・・・・・あなた本気で――――』 翌日、空港で、吉永の到着を待つ美智子は、 顔を背けたまま白石に尋ねる。 『正直に言って・・・まさかとは思うけど』 ギク、と白石はその後姿を見つめた。 「ここで終わりかよ?!」 香藤が思わずクッションを叩いた。 「そりゃねぇだろ。」 頬杖をついて、香藤は時計を振り返った。 「あとちょっとで帰ってくるかな。岩城さんに聞こう。」 「次回どうなるかって?」 ダイニングで、香藤の作った雑炊を食べながら、 岩城は眉を上げた。 「それは、内緒だな。」 悪戯っぽく笑って、岩城は首を振った。 「え〜?いいじゃない、教えてくれたって。」 「知らない方が楽しみがあるだろ?」 そうだけどさ〜、と言いながら香藤は岩城に片手を差し出した。 その手に茶碗を乗せて、岩城は微笑んだ。 「あと、もうちょっとで終わりだよね?」 雑炊をよそって岩城に差し出し、 キッチンに向かった香藤に、岩城が答えた。 「ああ、そうだ。」 「どうなるんだろ、あれ?次ぎ、修羅場?」 盆に急須と湯飲みを乗せて戻ってきた香藤が、首を傾げた。 ふふ、と岩城が意味ありげに笑い、匙を口にした。 「また、内緒なの?いいけどさ。」 岩城が食べるのを黙って見ていた香藤は、 目元に浮ぶ笑みに口を開いた。 「美味しい?」 「うん、美味い。」 嬉しそうに頷く香藤に、岩城がくすりと笑った。 「で、どうだったんだ、あのシーンは?」 「あ、あれね・・・。」 香藤は、に、と唇を引くと肩を竦めた。 「色っぽかったよ。 見てた人は、マジにやってるかもって思ったかもね。」 「そうか?」 「うん。・・・でもね、」 香藤がそう言うと、岩城は心配そうに眉を寄せた。 その顔を見ながら、香藤は済ました顔で答えた。 「俺の腕の中の岩城さんのほうが、 数十倍、数百倍、色っぽいよ。」 「・・・あ、あのな・・・。」 「なにさ?ほんとのことじゃん。」 「そうだけど、それは・・・。」 「うん、当り前、だよね。」 にっこりと笑って香藤はまっすぐに岩城を見つめた。 「明日は?」 「・・・オフだ。」 岩城が、香藤を見ずに湯呑を持ち上げた。 そのかすかに染まった頬に、香藤は嬉しそうに笑った。 「なにが可笑しい?」 「可笑しいんじゃなくて、嬉しいの。」 食べ終わった食器を片付けて、 香藤は岩城の腕をそっと撫でた。 「上、行こう?」 岩城の耳に、唇をつけるようにして香藤が囁いた。 「ああ・・・。」 顔を上げて返事を返す岩城の唇を、掠めるようにキスをして、 香藤は両手を差し出した。 「来週、楽しみだけど、今夜のお楽しみってのもあるよね。」 「・・・明日、起きられなくなるのは、困るぞ。」 「わかってるよ。」 頷く香藤の腕を、岩城は掴んで立ち上がった。 続く 弓 2006年9月23日 |
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