I was born to love you








「・・・へ?

 岩城さんをどう思うかって?

 そんなこと決まってるじゃない。

 なんで、今更?

 あえて?

 あ、そう・・・ふう〜ん・・・。

 ・・・あのさあ、生まれたって言葉、あるじゃない?

 英語だと、I was born だよね。

 生まれたっていうと、

 なんか自分で生まれてくるって感じだけど、

 それ、違うよね。

 命を与えられるんだからさ。

 I was born だと、受身でしょ。

 そのほうが意味はあってるよね。

 生まれさせられたって言うと、ちょっと変だけど。

 でも、俺の場合はそうかもしれない。

 俺は岩城さんを愛するために、生まれてきたんだ。

 誰か、なのか、何か、なのかは、わからないけど、

 どっかで強い意思が働いて、

 俺は岩城さんのために、生まれさせられてきたんだと思う。

 なんか、確信みたいなのがあるんだよね。

 でなきゃあ、変なんだよ。

 だって、俺、岩城さんを好きになるまで男に興味なかったもん。

 今も岩城さん以外の男に興味ないし。

 だからって、女ならいいのかって言うと、それもないし。

 うん。俺、岩城さん以外の人と愛しあう気、ないから。

 そ、もちろん、心だけじゃなくて、身体もさ。

 変?なんで?

 だって、俺、岩城さん以外、抱けないよ。

 ものの見事に、勃たないもん、他の人じゃあ。

 試したことあるのかって?

 そんなの、試さなくてもわかるよ。

 映画とか見ててさ、テレビでもいいけど。

 十人が十人、いい女だって言う女優さんが出ててもさ、

 スタイルもよくて美人でっていう、さ。

 その人が、ベッドシーンやってても全然、だめ。

 あッそう、てな感じで。

 そうだよ!

 ・・AV見てもだめだったもん。本番やってんのに。

 しょうがないじゃない、な〜んも感じないんだもん。

 俺にとって美人ていうのは、岩城さんだけだもんね。

 綺麗なんだよ、岩城さんて。

 全身整ってて、肌もすっごい綺麗だし。

 腰、細いしさあ。

 もう、ほんっとに、全身綺麗。

 ほんとの美人てさ、指の先まで綺麗なんだね。

 巨乳?勘弁してよ。そんなの、いらない。

 俺が勃つのって岩城さんだけだもん。

 ・・・なんか、やっばいこと言ってるなあ、俺。

 これ読んだら、すっごい怒るだろうな。

 このまま、載せるの?

 ・・・やべっ・・・

 ねえ、伏字って、だめ?

 だめなの?

 ・・・あ〜あ・・・。  

 ・・・それこそ、今更?

 まあ、ねえ・・・。」


      
今日発売の女性ファッション誌のインタビュー記事。

「結婚とは」というテーマで特集が組まれ、

その中で香藤が開けっぴろげな、

これ以上ない開けっぴろげさで質問に答えている。


「なんて恥ずかしい奴・・・。」


ドラマの収録の長く空いた待ち時間。

清水さんが持ってきてくれたその雑誌に、

顔から火が出るような思いをさせられる。


・・・控え室で何やってんだろうな、俺は・・・。



「結婚てさ、あんまり深く考えたことないんだよね。

 どだい、法律が変わんない限り、

 俺と岩城さんて法的に結婚できるわけないんだし。

 写真集出したときに手紙にも書いたけどさ、

 別に、岩城さんの籍に入ってもいいんだけど、

 実を言うと、どうでもよかったりするんだよね。

 紙切れ一枚で、気持ちが変わるわけないし。

 変わるようなら、本物じゃないってことでしょ?

 こだわることも、無いしさ。

 実際の生活が大事なんだし。

 俺が、ずっと一緒に居たいって思ってて、

 岩城さんがこの世で一番大切ってことが、
  
 一番大事なことでしょ?

 まあ、夫婦だって思ってるけどね。

 普段はちゃんと指輪してるし。

 岩城さんも、してくれてるし。

 なんかさ、岩城さんが指輪してるの見ると、

 すっごい、ドキドキするんだよね。

 なんでだろ?

 夫婦って、さ、

 当人同士が、そう思ってればいいんじゃないのかな。

 ・・・でも、責任、ってことを考えると、

 籍、入れたほうがいいのかな・・・。

 難しいね。

 そうなると、俺、岩城さんの戸籍に入ることになるよね。

 ・・・岩城洋二・・・

 俺的には、香藤京介なんだけどね。

 どうにかなんないかな・・・。

 よくさ、離婚の原因で、性格の不一致とかって言うけど、

 あれ、おかしいよね。

 性格違うの、当たり前なんだからさ。

 生まれたところも、育った環境も、

 過ごしてきた時間も、全然違うんだもん。

 そんなの、最初からわかってることじゃん。

 違うから、面白いのにさ。

 相手のこと、最初から全部わかっちゃってたら、つまんないよ。

 俺と岩城さんだってそうでしょ?

 なんか、正反対のとこ、あるよ、俺たち。

 全然飽きないよ。もう何年も一緒に暮らしてるけど。

 毎日、新鮮なの。

 違う顔を見せてくれるから。

 今だに照れるんだよ、俺がストレートなこと言うと。

 だから、余計に言っちゃうんだよね。

 怒られるんだけど。

  ・・・だって、岩城さん、可愛いんだもん。

 年なんてさ、関係ないじゃない。  
      
 なんだって、あんなに可愛いのかね、あの人。

 確かに、年上ってことを感じるときもあるけど、

 俺が、馬鹿やって叱られたり、

 相手のことをちょっと思いやれなかったりして、

 諭されたりするとさ、ああ、大人だなあって思うけど。

 でも、普段はさあ・・・。

 みんなが知らない岩城さんって、いっぱいあるよ。

 え?やだよ。教えてあげない。

 それは、俺だけの岩城さんだから!」



「馬鹿か、こいつは・・・。」

恥ずかしすぎて、もう、笑うしかない。



「ああ、格好いいよねぇ〜。

 うん。それも思う。

 凛々しくて、さ。

 俺には、岩城さんの雰囲気って逆立ちしても無理。

 色っぽい?

 ・・・そうなんだよね。

 困るんだよ、それ。

 嬉しいんだけど、困る。

 自覚してないし・・・。

 うん。気付いてない。

 言っても、俺にはそんなものはないって、言い切っちゃうから。

 あんまり言うと、怒り出すから、余計困る。

 誰かに狙われるって?

 どうしてそういう事いうかな?

 俺をびびらせてどうすんの?

 っていうか、俺、いつもそれが心配なの・・・本当。

 出来るんなら、隠しておきたいよ。

 ま、誰にも、指一本でも触れさせる気はないけどね。

 岩城さんに、かすり傷一つでも負わせた奴は、俺、殺すよ。

 マジだよ。

 キャリアなんか、どうでもいいもんね。

 俺にとっちゃあ、そんなものより岩城さんのほうが大事なの!」



頬だけじゃなくて、全身が熱い。

今、どんな顔してるんだろうな、俺。



「羨ましいって?

 だって、本当のことだもん。

 自分の命より、岩城さんのほうが大事。

 あ、でも、俺、岩城さんより先に死んだりはしない。

 それは、決めてる。

 なんでって?

 だってさ、俺が死んだら誰が岩城さんを守るのさ?

 そんな特権、誰にも譲る気ないよ。

 それは、俺だけに許されたことだから。

 よくさあ、お前のためなら死ねるって言うけど、

 それは、愛じゃないよね。

 ただの自己満足だよ、そんなの。

 エゴだよね。

 ほんとに愛してるんなら、生きなきゃ。

 ・・・俺が死んだら岩城さんどうなっちゃうのよ。

 俺、岩城さんが泣いたり、悲しんだり、

 苦しんだりするの、やだもん。

 残してなんか逝けないよ。

 岩城さんが、死んだら?

 それは、もの凄く簡単。

 俺も、死ぬよ、その時は。

 岩城さんの居ない世界なんて、

 俺には何の意味もないから。

 俺が、仕事とか全部頑張れるのは、

 岩城さんがいるからだもん。

 岩城さんに、見ていて欲しいから。

 岩城さんに、良い男だって言われたいから。

 岩城さんに、格好良いって思われたいから。

 岩城さんの隣にいられる人間でありたいから。

 他人がいくら褒めても、

 岩城さんがダメって言ったらダメなんだ。」



・・・香藤・・・。

もう、言葉さえ出ない・・・。



「うん。・・・本当にね、ファンのみんなには感謝してる。

 俺と、岩城さんを応援してくれている人たちには。

 俺のとこに、岩城さんを大事にしないと、

 ファンをやめるって、書いてきてくれる人がいてさ。

 すっごい嬉しい。

 だからって、それに甘えるつもりは無いけど。

 ・・・え?誌上でなんか言え?岩城さんに?

 う〜んとねぇ・・・。

 うん。結婚式のとき、誓ったけどさ。

 でも、ちょっとだけ気に入らない、あの誓いの言葉。

 俺がキリスト教徒じゃないからだと思うけど、

 死が二人をわかつまでってさ、

 どっちかが死んだら、

 あとは自由にして良いよって事でしょ、あれ。

 俺には無いことなんだもん、それって。

 死んでも離れないからね、俺。 

 え?

 ・・・う〜ん・・・。

 確かに頭おかしいかも。

 俺、岩城さんに、狂ってるからね!

 ずーとこの先も、死ぬまで狂いっぱなしだと思う。

 俺って、世界一の幸せ者だよ。

 岩城さんに、出会えた。

 こんなに幸せなこと、ないね!」



・・・ほんとに、勘弁して欲しい。

お前、俺を泣かせようとしたのか・・・?

・・・控え室から出られないじゃないか・・・。






「お帰り!岩城さん、3日も会えなくて凄い寂しかった!」

帰ってきた俺を、リビングのソファに押し倒すように抱きついてくる。

「ただいま、香藤。」

・・・この性急さに腹の立つこともあるけれど・・・。

「今日、みんなに、散々からかわれたぞ。」

「えっ?」

見るからに、やばいって顔をしたな。

「共演者が、みんな読んでた。」

「岩城さんは、読んだの・・・?」

「清水さんが持ってきてくれた。」

途端にシュンとしてソファの上に正座をする。

「ごめんなさい。」

「なぜ、謝る?」

「だって・・・」

「喋り過ぎたってわかってるみたいだな。」

「う・・・ん。」

上目遣いに俺を見る。

そんな顔をするな。

俺がその顔に弱いの、わかってないだろ?

「大体、お前には羞恥心てものはないのか?」

「岩城さんを愛してるのは、恥ずかしいことじゃないもん。」

「違う!そういうことじゃなくて!」

「じゃあ何?」

「だから!・・・勃つだの、勃たないだの、

あんなインタビューで言うことじゃないだろ!」

「・・・だって、ほんとのことだもん・・・。」

俺が本気で怒ってると思ってるみたいだな。

だんだん声が小さくなっていく。

「お前、俺が狙われるんじゃないかって心配してるけどな。」

「・・・うん。」

「お前が煽ってるんだって気付いてないのか?」

「えっ?!」

まったく、溜息が出る。

「共演者には男もいる。スタッフにもだ。

今日、やたら視線がきた。しかも全身に。」

「うええっ?!」

「お前が、あんなこと言うからだ。馬鹿。」

「・・・ごめんなさい。」

でかい体、縮こませて。

完全に落ち込んだな。

「お陰で、大変だったんだぞ。」

「ご、ごめんね!・・・そんなにやばかった?」

「違う。」

「なに?」

「・・・目が真っ赤になった。」

「え・・・?」

そんなにまじまじと見つめなくてもいいだろ?

聞こえなかったのか?

「だから・・・」

「岩城さん・・・泣いちゃったの?」

「・・・そうだ!」

なんて、笑顔だ・・・。

これだから、俺はお前に敵わないんだ。

「岩城さん、俺のこと、好き?」

馬鹿か、お前は・・・。

「ねえ、岩城さん・・・溜息つかなくてもいいじゃん。」

「ああ、好きだ。」

「じゃあ、許してくれるよね?」

「あの記事か?・・別に、最初から怒ってない。」

「へ?なんで?だって・・・」

俺がなんで気に入らないのか、わかってないな。

「俺が言いたいのは、」

・・・お前の真っ直ぐな瞳。

・・・恥ずかしくて、まともに見られない。

「・・・ああいうことは、俺に先に言え・・・。」

「岩城さん!」

「うわっ!加減して抱きつけ!」

ソファから、転げ落ちるかと思った・・・。  






「お前、ほんとにいい加減にしろ。」

「なんでぇ?」

岩城を抱え込みながら、香藤が口を尖らせる。

リビングのソファで散々攻められたあと、

バスルームでも攻められ、

ようやく寝ようとした岩城のベッドへ香藤が裸で潜り込んできた。

それを見上げて岩城が、嘆息を吐く。

「・・・失敗したな・・・。」

「なにが?」

「お前に、ちゃんとお預けを教えておくんだった。」

「はあ?!なにそれ?」

香藤が、膨れっ面で岩城を見下ろした。

「俺のせいにばっかしないでよ!

岩城さんだっていけないんだよ?」

「なんで俺が?」

「だって・・・色っぽいんだもん。

我慢できるわけないじゃん。」

「だから、俺にはそんなものは無いって言ってるだろ!」

「ああ、もう!わかってないんだから!」

「わかってないのはどっちだ!退け!俺は寝る。」

岩城は香藤の体を押しのけて、背中を向けた。

「ねえ、岩城さん!ちょ、ちょっと勘弁してよ!」

「知らん。」

「ねえってば!このままじゃ、俺、寝らんないって!」

体を捻って振り返った岩城の目の前に、

すっかり勃ち上がった香藤のものがあった。

「・・・自分でやれ。」

「あ、ひどっ!」

むっとした顔で香藤は、

再び背を向けた岩城を背後から抱きしめた。

「こぉら!」

「なんとかしてよ、これ。」

岩城の双丘に、香藤の熱く滾ったものが張り付く。

「だから、自分でやれって言ってるだろ?」

「それ、本気で言ってんの?

絶対やだからね。

岩城さんの中じゃなきゃあ、俺、いけないもん。」

そのままの姿勢で、それくらい時間がたっただろう。

先に、限界が来たのは岩城の方だった。

「まったく・・・俺もいい加減、馬鹿になったな・・・。」

「えへへっ、岩城さんて、可愛いよねぇ。」

「うるさい。」

岩城が寝返りを打ち、香藤の頬を両手で挟んだ。

「あの記事に免じて、許してやる。」

「俺たち、いつまでもこうしてるんだろうね。」

「え?」

「一生、ラブラブってこと!」

「そんな恥ずかしいこというな!」

岩城の体が仰け反るほど、深く唇を貪って、

息の上る岩城を見下ろすと香藤が小憎らしげに笑った。

「岩城さんだって、我慢できないじゃん。」

「・・・馬鹿。お前が悪い。」

「はい、はい。まったく、もう。・・・ねえ、岩城さん、知ってる?」

「何を?」

「俺たちってさ、バカップルなんだって!」

「あ?!」

ガバッと起き上がった岩城を香藤が笑いながら見上げた。

「しかもさ、日本一だって。笑っちゃうね!」

ふるふると震えていた岩城が、

顔を真っ赤にしてベッドから飛び降りた。

「お前とはもうやらん!」

「ええ〜っ?!ちょっとぉ〜?!嘘でしょぉ〜?!」

勢いよく閉じられた扉に、香藤の悲鳴が響いた。

「岩城さあ〜ん!いいじゃん、バカップルで!」






                 






                    〜終〜



                  2004年1月21日

                     弓







本棚へ