尋ねきてみよ・・・  番外編 四






日記    佐和 筆







某月某日  今日、客人があった。

        香藤洋二殿と申されるお方だ。

        噂に聞いていた、三位殿。

        なかなかの男ぶりだった。

        仕事のお話のようで、お二人で出かけられた。

        帰って来た統領の顔が、心なしか明るい。

        珍しいこともあるものだ。




某月某日  ふたたび、三位殿がこられた。

        統領とお出かけになる。

        帰ってこられて、少し、酒(ささ)を召し上がった。

        お仕事のお話のようだ。

        ・・・女が、どうとか。

        面白くもない。




某月某日  夜半、三位殿が真面目な顔でお出でになられた

        ・・・と、思ったら統領に告白された。

        三位殿を見送りに出られて、

        戻ってこられた統領の頬が、染まっている。

        ・・・今夜はお赤飯を、炊かなければ。




某月某日  日頃、困った顔などされぬ統領が、

        此処のところ、考え込んで溜息ばかりつかれる。

        三位殿のことと、知れる。

        ・・・結構、統領は初心なお方だった。

        可愛ゆらしい。




某月某日  今日、また、三位殿がやってこられた。

        嫌だ、といいつつ、統領は、嬉しそうだ。




某月某日  三位殿、お見えになる。

        手には酒(ささ)、

        統領の嬉しそうな感情が漏れ伝わってくる。

        肩を抱かれて、うろたえる姿など、

        滅多に見られるものではない。




某月某日  久方ぶりに、母御前がおいでになられた。

        なにやら、統領とお話をされた。

        私のところにお出でになられて、

        あの子は素直でないからと、

        笑っておられた。




某月某日  三位殿、お泊りになる。

        ・・・声が漏れ聞こえてきて、少し、困った。

        三夜餅のご用意をする。

        明日の朝から、忙しくなりそうだ。




某月某日  統領が、見違えるような笑顔をなさるようになった。

        三位殿のおかげだろう。

        他の者たちが、焼餅を焼く。




某月某日  ・・・統領が、三位殿の前で烏帽子をお取りになられた。

        三位殿のこと、どうやら、本気であられるようだ。




某月某日  三位殿は、大層な好色家であられる。

        場所など、どうでも良いのだろうか。

        屋敷に住まう、闇の者たちが困り果てている。

        統領の、意外な面を発見した。

        ・・・結構、好きモノ・・・?




某月某日  闇の者たちが、寄り集まり愚痴をこぼす。

        三位殿への嫉妬。

        言うても、詮無いのに。




某月某日  統領にお歳の話をされてはいけません、

        と申し上げたのに。

        ・・・拗ねる統領は、案外、可愛い。

        うっかり、廊下で致しておられるのを、見てしまった。

        統領は、まるで、別人のようだ。




某月某日  瀧夜叉が来た。

        相変わらず、嫌な女だと思っていたが、

        そうでもなかったようだ。

        三位殿に関しては、意見があった。

        当然だ。

        統領が選んだお方に、間違いはない。




某月某日  統領が、御自分の出自に悩んでおられる。

        三位殿に知られるのが、恐ろしいのだろうか。

        あの方は、大丈夫だと、私は思うのだが。




某月某日  統領が祝賀会に呼ばれて、まだお戻りにならないのに、

        三位殿は荷物とお供をお連れになり、

        空き部屋に荷物を運ばれる。

        目をつけていたような素早さ。

        ・・・止める暇も無かった。

        帰ってこられた統領の顔は、見ものだった。




某月某日  帝が、お二人のことをお認めになったそうな。

        「御息所」と皆が呼ぶようになったとのこと。

        統領お一人が、嫌がっておられる。

        我らの間では、とうに、そうお呼びしているのだが。




某月某日  綱殿と、茨木が尋ねてくる。

        共住いを始めたそうな。

        三位殿がご自分のことのように、お喜びになる。




某月某日  三位殿のお父上が御出でになられ、

        統領が珍しく、緊張しておられた。

        親王殿は、思いのほか気さくな方であられた。

        統領に、これから父と思えと仰られた。

        ・・・夜、酒(ささ)を召し上がりながら、

        三位殿の胸で、泣いておられた。

        よい、お方であられる、親王殿は。




某月某日  ちょっと使いの帰りに、

        三位殿の剣の稽古を覗きに行くと、背中に爪あとが。

        ・・・ま、予想はつく。

        あたりかまわず、睦みあわれるのだから・・・。




某月某日  客人が来て、珍しく、お二人が喧嘩をされた。

        ・・・が、仲直りも早い。

        庭の隅に住まうものが、顔を赤らめて苦笑していた。

        統領の声は、大きい。




某月某日  今日、嫌なやつが来た。

        三位殿が、統領のお傍にいて下されて、

        本当に良かった。

        あの男を、統領の対の相手になど、

        到底、受け入れられぬ。

        ・・・夜、まともに寝られなんだ。




某月某日  三位殿の笛の音が急に辺りに響き渡る。

        雨が降り雷が鳴るが、頭領はうれしそうだ。

        帰って来られた三位殿は、どうやら、

        お風邪を召されたようだ。

        統領が、嬉しそうに看病をなさる。







某月某日  大円寺へ、お出かけになる。

        お戻りの後、統領と三位殿がなにやら、

        深刻にお話なされていた。

        大事のことで、なければよいが。




某月某日  大内裏へお出かけになられてから、

        夜までお戻りでなかった。

        ・・・三位殿は、思っていたとおり、

        統領の本当のお姿を見ても、

        驚かれなかった。

        さすがは、我らが思い込んだお方だ。




某月某日  朝から、統領の機嫌が悪い。

        どうやら、お腰がお辛いようだ。

        三位殿が、気を使っておられる。

        ・・・いずれにせよ、良いご夫婦だ。







つれづれなるままに、筆を取り日々あったことを書き綴る。

それにしても、話題は三位殿と統領の事ばかりだ。

ま、見ていて飽きないゆえ・・・。







          〜終〜




         2005年8月12日
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