Pennies from Heaven 4








「なんか、綺麗だね岩城さんの部屋。」

「そうか?物がないだけだと思うが。」

整理整頓の行き届いた岩城の部屋。

通されたリビングのソファに座りながら、香藤は辺りを見回した。

とりたてて変わったところのない部屋だが、

壁が幾棹もの本棚で隠れていて、ほとんど見えない。

「すっごいね、難しそうな本ばっか。」

「凄くないさ。」

岩城がカップを持ってキッチンから戻ってくると、

それをテーブルの上に置きながら香藤の隣に座った。

「・・・俺は、ずっと研究ばかりやってて、世間知らずなんだな。」

「え、そう?」

「うん。お前と話してて、そう思った。

知らないことばっかりだった、お前の話すこと。」

「ああ、そう言えば、それはなんだって、よく聞くよね、岩城さん。」

「その度に、お前が驚いたり、笑ったりするから、そうなんだって。」

「ごめん、傷ついてた?」

「いや・・・恥ずかしいとは思うけど。」

そう言って、頬を染めてカップを口にする岩城を、

香藤は微笑んで見つめた。

「お前のほうが、余ほど大人だよ。」

「それは違うよ、岩城さん。」

香藤が岩城の手を握って、首を振った。

「一つのことに集中して、それが人生になってるって、

悪いことじゃないでしょ?」

「・・・そう、なのかな。」

「そうだよ。岩城さん、凄い人なんだよ?

自覚ないみたいだけど。」

首をかしげたまま、考え込み始めた岩城の肩を、香藤が掴んだ。

「あのさー、まさか、と思うけど、コーヒー飲んで、

話しするだけのつもりなわけ?」

「・・・え?」

きょとん、として見つめる岩城に、香藤は盛大に嘆息をついた。

「岩城さーん、あのさ、この前、キスしたでしょ?」

「え・・・あ、うん。」

「で、ここじゃだめだって言ったでしょ?」

「・・・。」

見る見るうちに真っ赤に染まる岩城の顔に、

香藤は呆れてその顔を見つめた。

「それで、家に来いって言ったんだよ、岩城さん。

それって、そういうことじゃないの?」

「・・・え・・・。」

肩を掴まれたまま、うろたえて視線を彷徨わせる岩城に、

香藤はくすくすと笑い出した。

「やっぱりなぁ、そうじゃないかと思った。」

「やっぱり、って?」

「思ってもいないんだ?自分が誘ったってこと?」

「さ、誘った、って?」

「セックス。」

「・・・はっ?!」

香藤は岩城の肩に額を載せ、身体を揺らして笑った。

「だから、あそこじゃだめだから、家に来いって、

そういう意味に受け取れるんだよ、あの言葉。」

「えっ、いやっ・・・あのっ・・・。」

「だめだよ、岩城さん。そんなつもりなかったって言っても。」

「でっ・・・でも・・・。」

「でも?」

「どうしたらいいのか・・・俺・・・。」

「大丈夫。心配しないで。」

眉を寄せて見上げる岩城の染まった頬に、

香藤はそっとキスを落とし、岩城の眼鏡を外した。






一人で浴びる、と言ったシャワーに、

無理矢理香藤が入ってきて、岩城は香藤に全身を洗われ、

子供のようにタオルで拭かれ、

ベッドまで手を引かれて連れてこられた。

そっとシーツの上に横たえられて、

岩城は全身を緊張させたまま、香藤を見上げた。

「肩に力入ってるよ、岩城さん。」

「しょうがないだろ、男に抱かれるなんて初めてなんだぞ、俺は!」

「うん、俺も男抱くのって、初めてなんだけど。」

「え・・・そうなのか?」

「あれ?なにそれ?」

唖然として見下ろす香藤に、

岩城はばつの悪そうな顔で、口を尖らせた。

「だって・・・俺のこと好きだとか、言うから・・・。」

「好きだよ?初めて好きになった男の人、だよ?」

ぱちくりとして、岩城は香藤を見上げた。

「抱けるのか、それで?」

「は?」

「いや・・・なんていうか・・・。」

「抱けるよ?っていうか、すでにこの状態。」

香藤は岩城の手を取ると、股間に持って行き、

自分のペニスを握らせた。

「・・・あ・・・。」

それはとっくに熱を持って、存在を主張していた。

手に中にあるその熱く勃ったそれを、

岩城は呆然としてまじまじと見つめた。

「ね?」

香藤が押さえていた手を放すと、

岩城も慌てて香藤のペニスから手を引っ込めた。

「好きだよ、岩城さん。」

香藤の唇が額に落ち、岩城はくすぐったそうに首を竦めた。

その唇が頬に移り、唇に触れた。

舌先で唇を突くと、岩城は躊躇しながら少し開いた。

そこへ香藤の舌が割り込み、岩城の舌を捉えて吸い上げた。

「・・・んっ・・・」

心臓が早鐘を打ち、岩城は息苦しくなって、顔を顰めた。

本人はそのつもりもなく、喉の鳴る声が香藤を煽った。

「色っぽいなぁ、もう・・・。」

「は?」

熱い息を漏らして、岩城が香藤を見上げた。

潤んだ瞳で見つめられて、

香藤は苦笑しながら岩城の肌を撫でた。

「・・・いろんなとこで自覚ないんだね、岩城さんは。」

わからん、と首を傾げる岩城を、

香藤はくすくすと笑いながら、彼の乳首を指で捏ねた。

「・・・あっ・・・」

「感じた?」

「な・・・なんで・・・?」

じわり、とそこから広がった感覚に、

岩城は戸惑い肩を竦めるようにして、

その香藤の指が弄るのを受けた。

「感じるでしょ、男だって。」

「で、でも・・・っ・・・やっ・・・」

ぴちゃり、と乳首を舐められて、

岩城は思わず香藤の頭を抱え込んだ。

身体中を這っていく香藤の舌と指に、

岩城の皮膚が粟立ち、熱を持った。

肩で息をする岩城を抱いてキスをすると、

香藤はそっと彼のペニスに触れた。

「・・・んんっ・・・」

顔から火の出るような愛撫を受ける間に、

すっかり勃ち上がった岩城のそれに、香藤が嬉しそうに微笑んだ。

「感じてたね、岩城さん。すごい色っぽい声だった。」

「だ、だって・・・。」

「うん。これ、辛そうだからいかせてあげる。」

「ひ・・・うっ、んっ・・・」

扱かれて、岩城は仰け反ったまま声を上げた。

「いっ・・・やだっ・・・香藤ッ・・・」

「なんで?気持ち良くない?」

「ち、違ッ・・・出るからっ・・・」

「・・・当たり前でしょ。」

香藤の胸に額を押し付け、

彼の腕を掴んだまま岩城は首を振った。

「・・・あっ・・・ああっ・・・」

仰け反って声を上げ、荒い息をついて、

岩城は気付いたように香藤に視線を向けた。

「・・・ごめ・・・。」

「なんで謝るの?」

「え・・・。」

真っ赤になった顔で、上目遣いに見つめる岩城に、

香藤は堪らずその唇に喰らい付いた。

「やめてよ、その顔。」

「その顔?」

「・・・自覚なしって、怖いよね・・・この、男殺し。」

「な、なんだ、それは?」

「ほんとのことだもん。」

香藤はそう言うと、岩城の精で塗れた右手の指を、

そっと彼の腰の奥へと滑らせた。

「ひゃっ・・・」

岩城が驚いて腰を引こうとした。

「だめ。逃げないで。」

そのまま後孔の入口を撫でる香藤を、

岩城は困惑した顔で見つめた。

「・・・な、なにしてるんだ?」

「あのさぁ、男同士のセックスって、挿れる場所、ここしかないでしょ?」

「・・・っ・・・。」

絶句する岩城に、香藤はくすっと笑って、額に唇を落とした。

岩城を見つめたまま、香藤はゆっくりと指を一本、

後孔に挿れようとした。

「ほんとにそこに入れるのか?」

「そうだよ。岩城さん、力抜いて。入らないから。」

「力抜いてって・・・入れてない。」

「入ってるよ、緊張してるね。」

「う・・・ん・・・。」

「じゃ、息吐いて?」

こくり、と頷いて、岩城はゆっくりと息を吐いた。

「そう、いいよ。」

弛緩した後孔の中へ、香藤の指が沈んでいった。

「・・・うっ・・・んっ・・・」

岩城はその異物感に、とっさに香藤の腕を掴んだ。

「大丈夫だから。息つめないで。」

「うん・・・。」

顔を顰めながら、息を吐く岩城の耳元で、

香藤は「好きだよ。」と囁いた。

「うん。」

根元まで指を沈めて、香藤はぐるりと柔襞を擦るように回した。

「・・・ひ・・・うんっ・・・」

びくっと岩城の身体が震え、唇が戦慄いた。

「あっ・・・あぅんっ・・・」

「気持ち良い?」

「なっ・・・な、んでっ・・・んあっ・・・」

「なんでって?」

香藤の声が聞こえていないかのように、

探る指に岩城の身体が跳ねた。

「ひゃうっ・・・」

その岩城の声と姿に、香藤は探った場所を指で押した。

「うあっ・・・あぁっ・・・」

ゆっくりと指を引き出し、2本に増やして差し入れ、

壁を擦ると、岩城の声が明かに喘ぎに変わった。

「・・・あぁ・・・っ・・・んふっ・・・」

香藤の肩に縋るように腕を回して仰け反り、

岩城の腰が揺れ出した。

「やっ・・・はんっ・・・」

「ここらへん・・・かなぁ・・・」

香藤が岩城の顔を見ながら、指で柔襞を探った。

「ひうっ・・・」

喉を引き攣らせて、腰を沈めた岩城を見て、

香藤はうふ、と笑った。

その場所を攻め続け、岩城の声が跳ねた。

「うんッ・・・か・・・香藤ォ・・・」

岩城の後孔が収縮し、香藤の指を絡め取ろうと蠢いた。

せいせいと息をする岩城を見て、

香藤は指を引き抜き、

ゆっくりと身体を重ねると、その唇を塞いだ。

「いい、岩城さん?」

「・・・え・・・?」

「岩城さんの中に、入っていいよね?」

荒い息をしながら、岩城はじっと香藤を見つめた。

「だめだって言っても、抱くよ、俺。」

「だめだなんて・・・言ってないだろ。」

岩城が躊躇いつつ、呟くように答えた。

「俺のこと、好きなんだって、思ってるけど?」

岩城は、上気した顔で少し香藤を見つめて、こくり、と頷いた。

「良かった。」

香藤が顔中に笑顔を咲かせて、

岩城の頬にキスをすると、彼の膝を掴んだ。

ゆっくりと脚を開かせ、香藤は岩城の顔を見た。

岩城はそれを見つめ返すと、頷いて息を吐いた。

「・・・あ・・・く・・・」

指とは比べ物にならない圧迫感が、

岩城の身体の中心を進んだ。

「・・・うっ・・・ふっ・・・」

無意識にずり上がろうとする岩城の腰を掴んで固定すると、

香藤はそこで止まった。

「岩城さん、息吐いて。」

わき腹を撫でながら香藤が囁き、岩城は唇を薄く開いて、

言われたとおりに息を吐いた。

「もうちょっとだからね。」

ぐい、と香藤は腰を動かし、大きく息を吐いた。

「あぁっ・・・んんっ・・・」

「全部入ったよ。わかる?」

拡げた腿の一番奥に、

香藤の肌がぴったりと付いているのがわかって、

岩城は仰け反ったまま頷いた。

「・・・痛い?」

「痛い・・・。」

腰を固定していた手を放して、香藤は岩城に重なり、

その小刻みに震える身体を抱きこんだ。

付けた頬をずらして、唇を啄ばむと、

岩城は瞳を開けて香藤を見つめた。

「好きな人とセックスするのって、すごく気持ち良いね。」

「入れてるだけなのにか?」

「そうだよ。

岩城さんに締め付けられて、それだけでいっちゃいそうだよ。」

「気持ち良いのか、お前?」

「うん、最高。」

そう言って、香藤はゆさゆさと腰を揺らした。

「ああっ・・・あっ・・・」

眉をしかめて、岩城が香藤の背に腕を回した。

「うわ・・・」

香藤がその顔を見て、ごくりと喉を上下させた。

「ごめんっ・・・」

「・・・ひぃっ・・・いっ・・・」

叩きつけるように動き出した香藤に、

柔襞が悲鳴をあげ、岩城は必死でその背にしがみ付いた。

「・・・あうんっ・・・んぁあっ・・・」

痛みが走り、岩城は悲鳴を上げて香藤の背に縋った。

しばらくそれに堪えていた岩城の声が、

徐々に艶めきはじめ、香藤を包み込んでいた柔襞がうねった。

「・・・あぁんっ・・・んぅっ・・・」

顔を上げて岩城を見た香藤は、頬を染めて、

感じているのが苦痛だけではないとわかるその顔に、

ほっと息をついて岩城の前立腺を突き上げた。

「ふあっ・・・んふっ・・・」

腹の間で湿った音がたった。

岩城のペニスがいったことがわかって、

香藤は勢い良く岩城の奥に叩きつけた。

「・・・あぁぁっ・・・か、かとおッ・・・」

揺さぶられ、突き上げられて、

突っ走る快感に、岩城の思考が飛んだ。




「・・・ん・・・?」

閉じた瞼から、日の光を感じて、

岩城はすう、と息を吸い込んだ。

漂ってきた、美味しそうな匂いに、

まどろみながら、閉じた瞳のまま眉を潜めた。

「・・・あっ・・・」

その理由に思い当たり、目を開けると、

岩城は慌てて起き上がろうとした。

「・・・え・・・」

途端に身体が軋んで、起き上がれずに、

岩城は呆然として天井を見上げた。

はた、と気付いたように岩城は、毛布を持ち上げ、

全裸で眠っていた自分に、顔に血が上るのを感じて顔を顰めた。

「・・・香藤!」

ばたばたと足音が聞こえて、寝室のドアがばたん、と開いた。

「どうしたの?!」

香藤がベッドサイドに駆け寄り、

床に膝をついて岩城の顔を覗きこんだ。

「どうしたじゃない!」

「え?」

顔を赤くして、睨む岩城に、香藤は首を傾げて見つめた。

「・・・動けない。」

「・・・え?」

「身体がいうこときかないんだ!お前のせいだろう。」

「あ、ごめん。」

くすくすと笑いながら、香藤は岩城が起き上がるのを助け、

シャツを岩城の肩にかけた。

「でもさ、」

「でも、なんだ?」

シャツに手を通しながら、岩城は剥れたまま香藤を見上げた。

「途中で寝ちゃったのになー、岩城さん。」

「え・・・?」

「途中で寝ちゃったの。」

「・・・そう、だった、っけ?」

「そうだよ。」

香藤がベッドの上に座って、シャツを着た岩城を抱き寄せた。

ちゅ、と唇を吸うと、岩城は寄せていた眉を開いて香藤を見返した。

「・・・ごめん。」

「いいよ、疲れちゃったんだね、岩城さん。初めてだもんね。」

「うん・・・。」

「朝ごはん、出来てるから、食べよう?」

「あ・・・。」

答えようとした岩城の腹が鳴って、香藤は思わず噴出した。

「可愛いね、岩城さんは。」

「うるさい。」




キッチンに置かれたテーブルの上に、

香藤が用意した朝ごはんを見て、岩城は目を見張った。

ご飯と味噌汁、玉子焼き。

「こんなの、よく作れるな。」

香藤に抱えられて、椅子に座った岩城は、嬉しそうに微笑んだ。

「こんなので、喜んでもらえるなら、いつだって作るよ、俺。」

「うん。」

子供のように頷く岩城に、香藤はそっと唇を寄せた。

抵抗も見せずに、岩城は瞳を閉じてそれを受けた。

「これから、一杯一杯、岩城さんの喜ぶことしたいんだ。」

そう言って、微笑む香藤を、岩城はじっと見上げた。

「香藤。」

「うん?」

「その・・・好きだ。」

一瞬、呆然として、香藤は白い歯を見せて笑った。

「ありがと。」

「べ、別に・・・礼を言われるようなことじゃ・・・。」

「なら、ベッドに行こうよ、ね?」

「ばッ・・・俺は腹が減ってるんだ!」

岩城が真っ赤な顔で、怒鳴り、

香藤は声を上げて笑いながら、岩城を抱きしめた。

「いいよ、これからゆっくりね。俺達、始まったばっかだもん。」

「・・・先が心配になってきたな。」

キッチンに、香藤のくすくすと笑う声と、岩城の溜息が響いた。







     終わり




     弓



   2007年5月14日
本棚へ

BACK                 
        

       終わりですが、続いちゃいました(笑) NEXT