−予 期 せ ぬ 出 来 事 −   Drug of facination.







人気の少なくなったロビーで媚薬入りのコーヒーを飲んだ岩城の意識が

薄れてきたのを確認すると、早速早川は次の行動を開始した。



「早川だ、お疲れ様。少し予定より遅れたが今から点検作業に入る。

モニターカメラとスピーカーを停止してくれ。」

「了解です、早川部長。南側2号機22時に停止しました。」

「作業が終わり次第連絡する。」

「分かりました。」



携帯を切ると岩城の腕を肩に乗せて抱え込み、早川はエレベーターに

乗り込んだ。

岩城をガラスにもたせ掛けて座らせ30階のボタンを押した。

「はぁはぁ・・・こ・・こは・・・」

岩城は焦点の定まらない潤んだ瞳で周りを見ようとするが、身体が

思うように動かなかった。

頬を薄っすらと染め、身体の火照りを抑えられずに肩で息をしている。

早川はそんな岩城を横目で見ると口元に笑みを浮かべ非常用停止ボタンを

押した。

2人の乗ったエレベーターはゆっくりとスピードを落とすと、ガタンッ・・・20階で

止まった。

「あの時もこの辺だったでしょう?時間もそう、1時間違いだ。ねぇ岩城君。」

早川は背広を脱ぎ床に落とすとゆっくり岩城に近づき跪いた。

岩城のシャツの上からでもはっきり張り詰めているのが分かる胸の飾りに

指を這わせた。

「あっ・・ふっ・・やめ・・ろ・・」

思わぬ自分の身体の反応に岩城は身を捩り背を向けて抵抗した。

「よく効く薬だな、それとも岩城君の身体が過敏なのかな?さあ、楽しませ

てもらうよ。いや、お互い楽しもう。」

早川は舌なめずりをしながらネクタイを緩ませた・・・






『あれは岩城さんの車だ。』

ビルの正面玄関の前に岩城の車が停めてあった、香藤はその後ろに

自分の車を停めた。

車内に岩城の姿はない、エンジンもすでに冷えている。

香藤は不安を抱えながらビルの正面玄関へと走った。

そこに1台のタクシーが止まると、中から漆崎と佐久間が急いで降りて

香藤を呼び止めた。

「香藤さん!」

「漆崎!さっき言ってたのはいったいどう言う事なん・・・、佐久・間・・お前か?」

「・・・洋ちゃん・・ぼっ僕・・・」

「佐久間君、話は後だ。とにかく急ぎましょう、香藤さん。」

「ああ、分かってる。今は岩城さんが先だ。だがな、後でキッチリ説明しろよ。」

香藤は鋭い目で漆崎と佐久間を睨んだ。

「分かってますよ、香藤さん。ねっ、佐久間君。」

漆崎は怯えさせないように笑顔で佐久間の肩をポンと叩いた。

3人は走ってビルに入るとエレベーターに乗り込んだ。

8階のボタンを押すと香藤は確認するように漆崎に言った。

「岩城さん8階に居るんだな。」

「いや、それが・・・分からないんです。でも、とにかく行ってみるしか。」

「なんだって!どうなってるんだよ。早川と一緒なんだろ、岩城さん。」

「それは間違いないです。ただ、早川がどこに居るのか・・・」

「くそっ!岩城さんが携帯さえ持ってりゃ。携帯・・・そうだ早川の携帯番が。」

ジーンズのポケットにあるはずのメモを必死で探すが、香藤が見つけられずに

いると、

「待ってください、僕の携帯に・・・あっ、ありました。」

「貸せ!」

香藤は漆崎の手からむしり取るように携帯を手にすると同時にボタンを押した。

その必死な香藤の姿に佐久間は自分がやろうとしていた事の愚かさに

気づいた。

「僕は馬鹿だ。なんて酷い事を・・・」

「香藤さん8階に着きましたよ。」

漆崎は佐久間の気持ちが分かった様に頷いてみせると背中を押した。

「佐久間君、早川の居そうなところを教えてくれ。」


広いビルの中を走り周り焦る香藤の耳に、永遠とも思えるほどの呼び出し音が

何度も空しく響いた。

「・・・・くそっ!早く出ろよ!どこに居るんだよ!」






「何を・・するん・・だ・・やめ・・ろ・」

ボーッとした意識の中で、自分の置かれた状況が分かってきた。

『身体が重い・・そうか。あの、コーヒー・・・』

岩城はホフク前進をするようにうつ伏せに這いながら早川の手からやっと

逃れていた。

しかし、汗で背中に張り付いたシャツから透ける白い肌、悩ましげな細い腰が

さらに早川を欲情させた。

早川が岩城のシャツを引きちぎり、細い腰を両手で掴み引き寄せた時だった。

「いや・・だ・・・離・・せ・・」

ブーン・・・ブーン・・・ブーン・・・

携帯のバイブに気を取られ早川の手の力が抜けた瞬間に、岩城は思いっきり

足をバタつかせ蹴り上げた。

「や・・めっ・・・ろっ・・」

右足の靴のかかとが早川の右足の向こう脛に強く当たった。

「うっ・・痛っ・・。やはりいくら一服盛ったとはいえ、男を相手にするのは簡単

ではないようだ。」

早川はニャッと不気味に笑うとネクタイを手に取った。

「仕方がないね、こういうのは経験もないし、私の好みではないのだが。」

ブーン・・・ブーン・・・ブーン・・・

「まったくしつこい電話だ。」

早川は仕方なく床に落とした背広のポケットから携帯を取り出した。

「はい。」

長い呼び出し音が突然男の声に変わった。香藤は慌てて立ち止まる。

「早川だな、今どこに居る。」

「・・・誰だ?」

「香藤だ、岩城さんはどこだ。」

「香藤・・香藤洋二・・」

その時、香藤の名前が早川の口から洩れたのを岩城は聞き逃さなかった。

「香・とう・・・香藤!香藤ーーっ!!」

岩城は力の限り叫んだ。

「岩城さん!!お前ーっ!岩城さんに何をしたんだ!どこに居るか言え!

早川!」

『香藤洋二になぜ・・・分ったんだ?』

頭が良く機転の利く早川は、佐久間の口から状況が漏れたのだとすぐに

分かった。

『佐久間の奴・・上手くやれなかったな・・こうなったら何とか逃れなくては・・』

「い、いやだな香藤さん。私は・・な、何もしてませんよ、岩城さんのご気分が

悪いようなので手当てしていただけですよ。」

「どこにいるかと聞いているんだ!」

香藤の手の平に爪が食い込むほど強く握り締めた拳がブルブルと震えていた。

「香藤さん、岩城さんは無事です声を聞いたでしょう。今どちらにいらっしゃる

のですか?」

「俺たちは8階にいる。岩城さんと話をさせろ!」

「分かりました8階ですね、すぐそちらに岩城さんお連れしますよ。」

早川は素早く携帯を切った。

「おい!早川!早川ーーっ!!」

すぐにリダイヤルを押したが電源が切られていた。

「くそっ!!」

香藤は強く握り締めた拳でビルのガラス窓を殴りつけ、足元のゴミ箱を

蹴りあげた。

「・・殺す・・岩城さんに何かあったら・・・必ず殺してやる・・・」

怒りの頂点に達した香藤の顔は真っ赤に染まり鬼の形相と化していた。

少しでも荒い呼吸を整えようと、目の前に居る佐久間の手からスポーツドリンク

を奪うように取ると、ゴクゴクと飲んだ。

「・・・洋・・ちゃん・・・」

初めて見る香藤の激怒に佐久間はそれ以上言葉が出なかった。



通路での騒ぎに驚いた社員が廊下に飛び出してきた。

「佐久間じゃないか、どうしたんだこんな時間に。」

「部長を、早川部長を探しているんです。」

「なんだ、急用か?」

「どこにいるか分かりますか?」

「今エレベーターの点検中だよ、確か南側2号機だ。」

「点検中・・・ですか?」

「ああ、今20階で停止してるよ。」

3人は顔を見合わせると佐久間が口を開いた。

「僕が監視室から中の様子を見て、メンテナンスにエレベーターをロビー直通に

して停止させるように支持しますから、すぐに行ってください。」

香藤は急いで監視室に行こうとしている佐久間の肩を掴み、双眸を真っ直ぐに

向けて言った。

「佐久間、頼むぞ。」

佐久間は香藤の向けた真剣な眼差しに答えたかった。

まるで人が代わったように力強く2人に頷くと監視室に全速力で走った。

『洋ちゃんの力になりたい、岩城さんを助けるんだ!』






香藤との携帯を切った後、すぐに電源も切った。早川には考える時間が

必要だった。

エレベーターの隅に寄りかかっている岩城の意識もハッキリしてきているようだ。

『落ち着け、このビル内にいるのならここが分かるのは時間の問題だ。これからだ

と言うのにまったく残念だ・・しかし香藤洋二は厄介だしな・・とにかくエレベーター

で地下駐車場まで降りよう。このビルから離れることが先決だ。』

携帯の電源を入れるとすぐにエレベーターを動かすよう連絡を入れた。

「早川だ、作業を一時中断する。すぐに南側2号機を地下駐車場まで直通で

降ろすよう手配してくれ、ロビーには止まらずにだ。」

「地下駐車場まで直通、了解しました。」

ドンドン・・ドンドン・・・ドンドンドン・・・

監視室のドアを激しく叩く音に驚いた社員がドアを開けると、そこには息を切らして

佐久間が立っていた。

「な、なんだ、どうしたんだ佐久間。

「南側・・2・・号機を・・・ゴホッ、ゴホッ・・」

「おい大丈夫か?」

「南側2号機を・・ロビー・・直通にして・・止めて下さい。」

「それなら今地下駐車場に直通にしろと連絡が入ったぞ。」

「ダメです・・ロビーで止めて・・人が、部外者が乗っているんです。」

「何、本当か?」

「カメラを・・カメラを見れば分かります。」

佐久間は監視室に入るとカメラのスイッチを入れた。

モニターに映し出されたのはエレベーターの中で背広の上着を着ようとしている

早川と、エレベーターの隅に寄りかかり上半身が殆ど露になっている岩城の姿

だった。

「どういうことなんだ・・・点検作業じゃないのか・・・」

佐久間は手馴れた操作でロビーまでの直通に切り替え、メンテナンスへ支持を

入れた途端力尽きたようにドサッと椅子に崩れ込んだ。

「すいま・・せん・・み、水をもらえませんか?」

「あ、ああ、お茶でいいか。ほら・・」

「ありがとう。」

「佐久間、お前今日夜勤じゃないだろう・・本当にこれで良いんだろうな・・・」

不安そうに尋ねる社員に佐久間は清々しい顔で答えた。

「僕、今までの人生の中で初めて自信持って、これで良いんですって

言えますよ。」






ロビーに到着した香藤と漆崎が南側エレベーターに向かっていると開いた

エレベーターのドアを閉めようと懸命にボタンを押している男を見つけた。

「漆崎、あの男か?あの男が早川か?」

その男は漆崎が以前に会った時のような落ち着きなど全く無して、ただ必死に

ボタンを押し続けていた。

「・・そ・・う、そうです。あの男です!」

「許さない!!」

香藤は低く唸るように吐き捨てると、早川に突進していくように向かった。

「早川ーー!!!」

突然自分の名前を呼ばれ、香藤の尋常ではない形相を見た早川はエレベーター

から出ようとしたが足が震えて思うように動けず、引きつった表情でズルズルと

後ずさりした。

香藤がエレベーターの中に入ると、その隅で破られたシャツを身にまとい、殆ど

上半身を露にした岩城が熱っぽい目で香藤を見上げた。

「香・・とう・・・」

「岩城さんっ!」

駆け寄り岩城を抱きしめると、香藤の胸に顔を埋めギュッと腕を握ったかと思うと、

一瞬身体をビクンッとさせ離れろと言うように両腕を突っぱねた。

「んっ・・俺は・・大丈夫だから・・」

視線を反らした岩城は、とても悩ましげな表情で身体から匂い立つような色香を

漂わせていた。

「岩城・・さん、どう・・して・・」

香藤は血走った目で早川を睨むと、飛び掛かるようにして胸ぐらを掴んだ。

「オマエ!岩城さんに何をしたんだ!!」

「く、くす・・り・・だ。身体に・・害はない、本当・・だ。」

「殺してやるーーっ!!」

「ひぃぃ・・っ・・た、助けてくれ・・」

香藤の叫び声と共に振り上げられた力強い右拳が早川の左顎に入った。

鈍い音と共に崩れるように倒れた早川の上に跨ると、香藤は怒りに任せさらに

拳を振り上げた。

「香藤さん!」

漆崎は香藤の右腕にすがるように止めに入った。

「止めるな漆崎。こいつは、こいつは!」

「もう気を失ってます。これ以上はダメだ、香藤さん!」

香藤は必死で止める漆崎を振りほどき、振り上げた右腕の袖口で込み上げる涙を

荒々しく拭くと、行き場のない怒りの拳でエレベーターの壁を殴った。

「ガツン!くそっ・・・」

「香藤・・・俺は何もされてない。」

その言葉にハッと我に返り岩城の正面に跪くと、両肩を握り締め瞳の奥を覗くように

真っ直ぐに見つめた。

薬に犯された潤んだ瞳の中からでも、岩城が真実を言っているのが香藤には分った。

「ああ・・岩城さん!!」

止めどなく溢れる涙を拭うこともせず、香藤は岩城を力いっぱい抱きしめた。

「岩城さん、良かった。岩城さん・・岩城さん・・」

身を捩って香藤から離れようとする岩城をさらに引き寄せると、小さく抑えた甘い声と

堅いペニスをはっきりと感じた。

「あはっ・・んっ・・薬のせいだ・・」

腕の中の岩城は熱い息で肩を上下させ、肌蹴けたシャツから覗く胸の飾りは

張り詰め、さらに上半身を鮮やかな桜色に染めていた。

「岩・・城さん・・」

身体に電流が走ったようにカッと燃え上がると、香藤の雄がドクンッと熱く一気に

膨張した。その今までに感じた事がないほどに岩城に飢えている自分に少し

戸惑った。

『うっ・・ヤバイ。』

「香藤さん、岩城さん大丈夫ですか?」

グッタリしている岩城の様子を見ようと心配そうに漆崎が近寄ってきた。

「んっ、ああ、まだ薬が効いてるみたいだ。」

慌てて自分のシャツを脱いで岩城の肩に包み込むようにかけると、岩城を

抱き上げた。

「漆崎、岩城さんをすぐに連れて帰って休ませたい。悪いがあとを任せても

いいか?」

「分りました、香藤さん。何とかしますよ。」

「またお前に借りが出来たな。」

「覚えといて下さいよ。」

「悪いな、じゃあ行くから。」




香藤は岩城を抱き抱えたまま正面玄関に向かって行くと、走って来た佐久間が

後ろから香藤を呼び止めた。

「洋ちゃん、ごめんなさい!僕は岩城さんに酷いことをしたんだ。僕、洋ちゃんの事

が忘れられなくて、ずっと洋ちゃんの事を・・・」

「佐久間そこまでだ。お前の俺に対する気持ちは憧れ、そして友情。それ以上でも

それ以下でもない。いいな!」

「・・洋・・ちゃん・・」

「俺の岩城さんへの愛は絶対だ。この気持ちを揺るがせるものはこの世に

存在しない。たとえ世界を敵に廻しても俺は岩城さんを愛し、命を懸けて守る。」

香藤は腕の中の岩城を愛しそうに見つめながらそう言い残すと、振り返える事も

せずにビルを後にした。






香藤は身体が火照って仕方がなかった。

いつもなら岩城を抱き抱えて歩くことなど何でもない事なのだが・・・

『なんでこんなに熱いんだ?それに・・・』

車に向かって歩くだびに、自身の痛いぐらいに張り詰めた雄と戦っていた。

岩城に欲情するのはいつもの事で、毎日のように何回でも岩城を抱きたいと

思っている。

しかし、今の香藤はいつものそれとは違うと感じていた。

しっとり汗ばんだ岩城の肌がシャツの上からでも伝わってくる・・焼けるように熱い。

『抑えなきゃ・・こんな時にどうしちゃったんだ俺は。ダメだ、我慢しろ!

ああ、岩城さん・・堪んないよ。』


車に辿り着く頃には香藤の理性も限界に来ていた。

助手席のシートを一番後ろまでずらして岩城を寝かせると、薄く開いて濡れた唇、

白く長い首筋・・その扇情的な色っぽさに香藤のわずかに残されていた理性は

ふっ飛び、抑え切れなくなった飢えをぶつける様に覆いかぶさると口づけた。

「んんっ・・香・・とう・・んっ・・あふっ・・」

「岩城さん・・もう・・我慢できない・・んんっ・・んっ・・」

首筋を、鎖骨を荒々しく這い回る香藤の舌が、張り詰めた片方の胸飾りをコリッと

甘噛みした。もう片方の飾りを指先で転がし始めた時には、岩城はもう快感の

渦の中で身悶えして身体を弓なりに反らしていた。

「うふっ・・んっ・・・ぁはんっ・・・」

狭い車の中で岩城のベルトを外して一気に脱がすと、堅く反り返っているモノを

香藤は貪欲に口に含んだ。

「んあっ・・香・・と・・うっ・・あぁ・・」

先端を甘噛みし、敏感なくびれに舌を這わせ、溢れる出る蜜を音を立てて

吸い上げた。

「ひあっ・・あっ・・んっ・・はぁっ・・」

そのまま這わせた熱い舌で運んだ蜜と共に蕾へ押し挿れた。すでにヒクツイていた

それは香藤の雄を待ち望んでいた。

「んっ・・ぁんっ・・ああ・・んんっ・・」

「岩城さんっ・・俺・・もう無理・・挿れるよ。」

岩城の脚を抱え込むと、灼熱の塊と化した香藤の熱い雄が奥地へと一気に

貫いた。

「うああぁっ・・はぁっ・・あっ・・んっ・・」

「はっ、凄いよ・・岩・・きっ・・さんっ・・」

細い腰が揺れるたびに香藤を締め付ける、そしてギリギリまで引き抜き、

ぐっと沈めた腰が岩城の最奥を突き上げる。

「・・・香・・とう・・いっ・・く・・んっ・・」

「・・・俺もっ・・もう・・ううっ・・くっ・・」

媚薬で快楽に過敏になっている二人の身体はすぐに絶頂を迎えた。

香藤は熱い精を思いっきり吐き出すと、ブルッと身体を震わせ岩城の上に崩れた。

「んっ・・ごめん、岩城さん。こんな時に無理させて。なんか、俺・・・」

岩城は整わない息をしながら優しく香藤の髪を撫でると、唇を押しあてた。

「はぁ・・香藤、俺はお前に愛され、守られて本当に幸せだ。」

「岩城さん・・・」

重なりあった唇が熱くなり深く舌を絡ませ始めると、岩城の中の香藤が膨らみ

出した。

「んんっ・・ふっ・・ダメだ・・香藤。」

岩城は香藤の身体を剥がすように突っぱねた。

「でも、岩城さんだって・・・」

二人の身体の間の岩城自身も再び頭を擡げていた。

恥じらいに耳まで赤く染めながら岩城は言った。

「続きは・・・帰ってからだ。明日、俺はオフだし・・・」

「もーう、可愛いんだから・・・」

再び覆いかぶさろうとする香藤を両腕で突っぱねながら

「ダメだ香藤、場所を考えろ!そんなんだからビデオに・・」

「えっ、ビデオ?」

「帰ったら説明する。いいから早く抜け!」

「もう・・・最高なのに、岩城さんの中って。」

「・・バカ・・」




数日後、ビデオのオリジナルとコピーの両方が無事に岩城たちの元に届いた。

早川は何度も釈明の手紙と電話を事務所と自宅に寄こしていた。

漆崎からの報告によると、早川は部下からの信頼も厚く良い人間なのだが、

仕事のストレスと病気がちな妻をかかえて行き詰っていたのだ。今では深く反省し、

自分のした事にとても後悔しているとの事だった。

怒りがいつまでも収まらない香藤は、どうしても許せないの一点張りだった。

だが岩城に何度も説得されて渋々示談に応じた。




「香藤さん、凄いビデオだったらしいですね。」

香藤が主演するドラマの記者会見の後、テレビ局の廊下で漆崎が声をかけてきた。

「漆崎、まさかお前見たんじゃ・・・」

「いえ、残念ながら。でも、この前の貸しもあることだし見せて貰おうかな・・・」

「バカ!何てこと言うんだよ。岩城さんに俺が殺されるよ。」

「あはは。そうだ、佐久間君元気にしているのかな?」

「ああ、元気みたいだ。天気のいい日にでも、一緒に海に行こうと思ってる。」

「そうですか良かった、宜しく伝えてください。」

「漆崎、感謝してるよ。俺も岩城さんも。」

「貸しの分、忘れないでくださいよ。それじゃ、香藤さん。」

「ああ、じゃあな、漆崎。」

漆崎は急に思い立ったように立ち止まり、笑みを浮かべると振り返った。

「香藤さん!」

「んっ、なんだ。」

「俺、やっぱり香藤さんのこと好きですよ。前よりもずっとね。」

そう言って香藤にウィンクすると、すぐに踵を返し走り去った。

「・・・はっ?」」

香藤は一瞬固まったが、慌てて首を振るとドラマの撮影へと廊下を急いだ。









− エピローグ   A door of heart. −




初夏を感じさせる潮風が気持ちのいい九十九里浜 −



久しぶりのサーフィンに、ご機嫌な笑顔の香藤がボードに跨り波待ちしながら、

浜辺にいる岩城たちに手を振った。

手を振り返す岩城の横には佐久間が並んで座っていた。


「君が香藤に夢中になるのは当たり前だよ。あんなにカッコ良くちゃな、恋人の俺は

いつもハラハラしてるよ。」

「えっ・・」

予想外の言葉に驚いて佐久間は目を見開いて岩城の顔を見た。

「おいおい、俺だって凄い焼もち焼きなんだぞ。」

「岩城さんって、いつもクールでそんなこと言う感じには見えないから。

あの・・・本当にすみませんでした。僕、本当に酷い事を。洋ちゃんに振り向いて

欲しくて・・僕のことを見て欲しくて、岩城さんにあんな薔薇の花を・・・」

「佐久間君。人の心の中には家の中のようにたくさんドアがあるんじゃないのかな。

君の心の中にも、もちろん香藤の心の中にもね。玄関があってドアベルを鳴らしたり

ノックをすると開けてもらえる。リビング、キッチン、ダイニングそして自分だけの

部屋、どこまで入れて貰えるかは分からないが自分の気に入ったところ、居心地の

いいところに居ればいい。ただ、招かれない部屋に無理に入っちゃいけない・・入り

たくてもね。いい関係を続けていく為には大切なことだと思うんだ。」

「僕は洋ちゃんの心の家に入れるかな・・・」

「大丈夫、もう玄関に入ってるよ。あとは香藤が招いてくれた部屋の中で、君自身が

居心地のいいところ見つければいいさ。それに香藤の事だ、君の心の中の居心地の

いい場所でふんぞり返ってるかもしれないぞ。」

「岩城さん・・・」

「あいつは少し強引なところがあるが、相手を気遣うことを忘れない。俺の最後の

ドアにも決して無理には入ってこなかった。それは俺が香藤に作っていた壁だった

んだ、一歩・・・また一歩、香藤が俺の中に入ってきた・・俺は俺のすべてで香藤を

受け入れた。」


香藤を愛しい目で見つめる岩城の横顔が美しく、佐久間には眩しかった。



「ふーっ、やっと勘が戻ってきたよ。あー、喉渇いた。なんか飲むものない?」

海から戻るなり香藤は浜辺に寝転びながら佐久間に聞いた。

「あっ、はい。これでいい?」

「サンキュ、佐久間。」

香藤は美味しそうにゴクゴクと喉を鳴らしながら飲み干すと、はっと思い出したように

佐久間に耳打ちした。

「なあ、あの媚薬さ、もし余ってたらくんない?たまに岩城さんに飲ませたり

しちゃって。」

「洋ちゃん、なんてことを!」

佐久間は恥ずかしさで耳まで赤くすると、泣きそうな顔をして俯いてしまった。

「あの・・・冗談、冗談だって・・・佐久間。」

「なんだ。どうしたんだ、佐久間君。」

俯いたままで佐久間は香藤に言われたことを岩城に告げた。

「佐久間、言うなって!い、いや・・岩城さん冗談だから、ほんと!」

岩城は怒りで肩を震わせながら、引きつった顔で香藤を睨んだ。

「あわわわ・・えっと・・俺、ちょっと波に乗ってこようかな・・・」

香藤はボードを抱えると海に行こうと立ち上がった。。

「香藤!!」

「はい、ごめんなさい!」

「もう、2度と海から戻ってくるな!!」

大声で怒鳴ると岩城はスッと立ち上がり、スタスタと車に向かって歩きだした。

「ええーーーーっ!、そんなぁ〜、冗談だってば〜!」

「俺はその手の冗談は嫌いだ!」

「ごめんなさい!待ってよ、岩城さん。俺、着替えなきゃ。」

「知らん!!」

「もう〜、岩城さーん。」

その半べそをかきながら岩城を追いかける香藤に、滅多に笑うことのない佐久間が

思わず噴出してしまった。

香藤は久しぶりに見た佐久間の笑顔が少し嬉しかった。

「佐久間・・・・。馬鹿、笑うな。」

「だって、昔のカッコいい洋ちゃんとぜんぜん違うから、可笑しくて。」

「佐久間なんだよそれ、今の俺がカッコ悪いみたじゃないか。」

「そうじゃないけど・・・」

『あっ、そうか。これが今の洋ちゃんなんだ。』


− 佐久間君、君が待っている香藤さんは10年前のあの写真の洋ちゃんなんだよ。

もちろん今でも変わらないところは沢山ある。カッコいいとこや優しいところ・・・。

でも、今の香藤さんをちゃんと見なきゃ駄目だ。今の香藤さんだって君をガッカリ

させる様な人じゃない。−


『あの時、漆崎さんの言ったことは本当だった。』

佐久間は急に嬉しくなり微笑んだ。

「なんだよ、佐久間。」

「ううん、今の洋ちゃんもカッコいいよ、岩城さんが焼きもち焼くほどね。」

「えっ、岩城さん俺に焼きもち焼いたの?ほんとか佐久間。」

「ほんとだよ。」

「嬉しいー!岩城さんってさ、可愛いんだよね。焼きもちとかさ、焼くように全然

見えないんだけど・・・・」

二人の会話を微笑ましく見ていた岩城だが、例のごとく夢中になって佐久間に

惚気をしゃべり始めた香藤の頭に、後ろから拳骨を振り下ろした。

「ゴツン!いい加減にしろ!」

「痛ったーー!なにすんの!」



目の前を仲良く歩く二人を眺めながら、佐久間は岩城の言葉を思い出していた。



− 俺の最後のドアにも決して無理には入ってこなかった。それは俺が香藤に

作っていた壁だったんだ、一歩・・・また一歩、香藤が俺の中に入ってきた・・俺は

俺のすべてで香藤を受け入れた。−



心の扉をゆっくり開ける・・・本当に愛し愛されることの素晴らしさを目の前の二人が

教えてくれたような気がした。







おわり・・・Σ(='□'=)ウッソー!?・・・本当に終わりでございます;;


私のヘタレという拷問に近い連載にお付き合いありがとうございました。
これからも精進いたしますので、これに懲りずよろしくお願い致します。

本当にありがとうございました。ぺこ <(_ _)> ふかぶか〜〜
kaz








戻る やははvv、kazさん、本当に、ありがとうございましたvv

香藤君がとっても格好良くって、岩城さんが色っぽくてvv
前半の香藤君の台詞、岩城さんを、大事に、大事に、
思ってることが、目いっぱい伝わってきましたvv
でもさ、自分の性欲、疑うなよ(笑)
薬のせいさっって、突っ込んであげた(笑)

で、プロローグの岩城さん。
私、泣きました;;
岩城さんの心の硬〜いドアを、一枚、一枚、
情熱と愛情でもって、開けて行って、
最後のドアは岩城さんが開けてくれるのを、
ずっと、じっと、辛抱強く待ってたんだよね;;
「一歩・・また、一歩のところ、本編の始めて香藤君が
岩城さんの部屋へ入ったところを、思い出しましたvv

kazさん、連載、お疲れ様でした。
本当に、本当に、ありがとねvv 
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