CONJUGAL LOVE 2





「あれ?岩城さん、いい匂いがする。」

「そうか?」

ドキッとして、それでも岩城は何気ない振りをした。

「今日行った店、沢山、花が活けてあったからな。

それじゃないのか?」

「へぇ・・・。」

香藤は後ろから岩城を抱きこみながら、

その首筋に鼻先を擦りつけた。

「うん、そんな感じの匂いかな。

でもさ、岩城さんに一番似合う匂い、俺、知ってるよ。」

「なんだ?」

「決まってるじゃない。俺の匂い。」

「・・・バカ。」

香藤の言葉に、岩城は頬を染めて顔を背けた。

くすくすと笑う香藤を背中に貼り付けたまま、

岩城はコーヒーメーカーのセットを始めた。

思いのほかコーヒーの入った缶の蓋が硬く、

岩城は少し力を入れてそれを回した。

・・・と。

なにやら、密やかな音が岩城の背と、

それに張り付いている香藤の間で、鳴った。

「うわっ?!す、すまん!!」

岩城は手に持った缶を落としかけて、

慌ててシンクの上に置き、香藤を振り返った。

「え?なにが?」

「なにがって・・・だ、だから・・・」

「なに?どしたの?顔、赤いけど?」

「いや、その・・・。」

香藤が、くすり、と笑った。

「おならくらい、俺もやったことあるじゃん?」

「それはそうだけど・・・お前はいいんだ、別に。」

岩城の真っ赤な顔に、堪らず香藤は岩城を抱きしめた。

「あのさ、俺達夫婦なんだよね?」

「そうだが?」

「だったら、気にしないくていいんじゃない?

岩城さん、絶対トイレ行って出すけどさ。」

「お前、知ってたのか?!」

「うん。」

驚いて香藤の胸から顔を上げる岩城に、

香藤はくすくすと笑っていた。

呆然として香藤の顔を見つめていた岩城の赤い顔が、

羞恥にくしゃりと歪んだ。

「昨日、お芋、食べさせすぎたかなぁ、

ねぇ、岩城さん?」

「ばっ・・・なに言って・・・。」

染まった首筋に、香藤は唇を押し付けた。

「気にしないんだよ、岩城さん?いいんだからね。」

「・・・うん。」

「気を使いすぎだよ。凄く嬉しいけど、でもね。」

岩城は言葉を切った香藤を、眉を寄せて見つめた。

「緩んでいいところは、思い切り緩んでいいんだ。

それが夫婦ってもんでしょ?」

「そう、だな。」

香藤はその頬にキスをして、頷いた。

「ほら、コーヒー淹れてくれるんじゃないの?」

「あっ・・・そうだったな。すまん、今、淹れる。」

ソファに移って、香藤は

テーブルの上の紙包みに目を止めた。

岩城のものだろうと、香藤は手をつけずに

岩城が来るのを待った。

「これ、なに、岩城さん?」

「あ・・・。」

岩城が慌ててそれを取り上げた。

香藤は、驚いて見上げたそこに、

真っ赤な顔を見つけて差し出した手を思わず止めた。

「なに、どしたの?」

「いやっ・・・別に、なんでもない!」

「なんでもないって顔じゃないじゃん。

俺に、隠し事はしないでよォ!」

岩城は困り果てて紙包みを胸に抱いて、

立ったまま香藤を見つめていた。

「ほら、貸して。」

香藤が差し出した手に、岩城はそれを渋々手渡して、

そのまま、香藤の隣へ諦めたようにどさりと座り込んだ。

がさがさと香藤が紙包みを開いた。

その手が、ぴたり、と止まり香藤は岩城を振り返った。

「だ、だから・・・。」

言い訳をしようとする岩城を見つめる香藤の顔が、

蕩けそうに緩んだ。

「もう、言ってくれれば、あげたのに。」

「そっ・・・それは、そうだが・・・。」

言葉につまる岩城を、香藤は手を伸ばして抱きこんだ。

そのまま、岩城の背を撫でながら香藤は耳元で囁いた。

「俺の記事載ってるの、買ってくれたんだ。」

「う・・・うん。」

出処を言えなくて、岩城は躊躇いがちに頷いた。

「嬉しいよ、岩城さん。」

香藤の手が、そっと岩城の頬に触れた。

重なってくる唇が触れる寸前、岩城が口を開いた。

「雑誌のな。」

「うん?」

「お前、自分だけがいつも俺を追いかけてるとか

言ってるけどな。」

香藤が、少し肩を竦めた。その頬を撫でながら、

岩城は微笑んだ。

「俺だって、お前のことを独占したいって思ってるんだ。

誰にも見せたくない、触れさせたくない、

俺だけにその笑顔を向けて欲しい・・・。」

香藤が言葉をなくして、岩城の頬を両手で挟んだまま、

至近距離で見つめた。

言葉を切った岩城の頬が、真っ赤に染まっていた。

「・・・俺は、こんな奴だったんだな。自分で言って、驚いた。」

香藤は蕩けきった顔のまま、岩城の唇に貪りついた。

「・・・んんっ・・・」

何度も角度を変えて香藤は岩城の唇といわず、

口腔内を犯した。

唇が離れる僅かな隙に岩城は息を継いだ。

それでは足らずに、あまりの息苦しさに、

岩城は香藤の背を叩いた。

「・・・お・・・お前っ、俺を、殺す気かっ・・・」

「ごめん、つい、嬉しくてさ。」

「・・・馬鹿。」

肩で荒い息をしながら、岩城は香藤を睨んだ。

その身体を抱きこんで香藤はゆっくりと

岩城をソファに押し倒した。

「岩城さん、ごめん。上に行く余裕、ないや。」

「いい・・・ここで。」

「うん。」

今度は、まるで啄ばむようにしながら、

香藤は岩城の唇を喰んだ。

それを繰り返す香藤の唇を、岩城が舌で追いかける。

その舌先を捕らえて、香藤は歯で軽く噛んだ。

「・・・んぁ・・・」

そこから、じわり、と岩城の全身に痺れが拡がり、

岩城の喉が鳴った。

それを香藤はくすり、と笑って見下ろし、

ソファに膝立ちすると、

香藤は岩城の身体を隠している服を剥ぎ取った。

前がはち切れそうになっている岩城のズボンに

手をかけると、裾を持って一気に引き抜いた。

「・・・はっ・・・あふっ・・・」

下着越しの布が擦れる感覚に、

岩城の腰が軽くバウンドした。

「もう、感じてんの?」

「うるっ・・・さいっ・・・」

岩城が上体を起こして、

香藤の履いているジーンズに手をかけた。

ボタンをはずして、中に手を差し込み、香藤を見上げた。

「これは、なんだ?」

「へ?あ、はは・・・。」

熱く怒張した香藤のペニスを握りこんで、

岩城は、ニヤリ、と笑った。

「人のことを、淫乱みたいに言うな。

お前だってそうだろうが。」

「エヘへへ・・・しょうがないじゃん、

岩城さんのこと、いつだって欲しいんだからさ。」

香藤が下着ごとジーンズを脱いで素裸になると、

岩城はソファへ身体を横たえ、

香藤はその下着に手をかけた。

それを助けるように岩城の腰が浮いて、

その仕草に、香藤は笑いをこぼした。

岩城は熱く潤んだ瞳で、誘うように香藤を見上げた。

「・・・香藤・・・」

滲み出る色香に、香藤は堪らずに喉を鳴らした。

引き抜いた下着を床へ放り投げて、

香藤は岩城に重なった。

「堪んないよ、その顔。」

「・・・んっ・・・」

唇を貪りながら、香藤の手が岩城の身体を弄る。

触れられる場所から融け出すような感覚に、

岩城の息が乱れ、声が漏れ始めた。

「・・・んっ・・・ぁっ・・・」

香藤の首に両腕を巻きつけて、

岩城はその熱いキスを受け、身体を揺らした。

強く抱きしめながら、香藤は熱く滾った下半身を

岩城のそれに擦り付けた。

「・・・はんっ・・・」

岩城の腰が、びくりと動いた。

「・・・香藤・・・頼むっ・・・もうっ・・・」

泣き出しそうな顔で、岩城は香藤を見つめた。

にっと笑って香藤は岩城のペニスを握り込んだ。

「あっ・・・あぁっ・・・」

思わず岩城の腰が沈み、背が反り返った。

握り込んだそれは、すでに先走りが漏れ

じっとりと濡れていた。

「俺、そんなに煽ること言ったっけ?」

香藤が笑いながら手を動かした。

「・・・はっ・・・あぁぁっ・・・」

仰け反ったまま、岩城は顔を左右に振り声を上げた。

香藤の指が根元を巻き込み擦る。

途端に岩城の声が跳ね上がった。

「・・・はぅっんっ・・・っんぁっ・・・」

ソファーの背もたれに左手を伸ばして、

岩城はそこに縋るように握り締めた。

「・・・いっ・・・あっ・・・」

香藤は岩城のペニスを擦りながら、

片方の乳首を舌で転がし、

もう片方を指の腹で捏ねまわした。

「・・・んっんあっ・・・あぁっ・・・」

「いい?岩城さん?」

乳首を舐りながら香藤が上目遣いに岩城を見上げた。

声が聞こえたのか、岩城が夢中で頷く。

香藤は、ゆっくりと岩城のペニスに舌を這わせた。

根元から舐め上げるように何度か繰り返し、

先端を口に含んだ。

「・・・うんっ・・・」

顔を左右に振る仕草が早まり、顔が染まっていく。

堪えられなくなったのか、岩城は両腿で

香藤の頬を挟みこんで、髪に指を差し入れた。

「・・・香藤ッ・・・で、出るッ・・・くっ・・・」

「いいよ。」

「はっ・・・んんあっ・・・」

香藤がそれを嚥下して、岩城の腿を撫でながら、

起き上がった。開かせようと掴んだ膝を、

岩城は自ら大きく開いた。

「香藤・・・早く・・・。」

身体を荒い息で波打たせて、岩城は両手を差し出した。

その姿を見る熱い香藤の視線に、岩城の喉が上下した。

口角を上げた笑いを見せて、香藤は

岩城の両脚の間に入り込むと、ぐい、

と手を身体の下に入れて、岩城の尻を掴んだ。

「挿いるよ。」

「んっ・・・」

ずぶり、と香藤は息を継ぐ間も与えず、

容赦なく岩城の中へ差し込んだ。

「・・・あんぁっ・・・ああぁっ・・・」

香藤のペニスが根元まで納まる間、

岩城の声は止まらなかった。

きっちりと奥まで挿れて、香藤はそこで腰を揺らした。

「・・・はぐっ・・・うあぁっ・・・」

中をかき回される感覚に、岩城が身体を捩って呻き、

固定されたはずの腰が、香藤の突き上げに蠢いた。

「・・・いッ・・・やっあッ・・・んくっ・・・」

香藤の熱が、岩城の蹂躙されるアヌスから全身に拡がり、

指先まで痺れていた。

滑らかな肌。それが上気し匂い立つように、

艶やかな紅を散らしている。

ぷっちりと充血し立ち上がった乳首。それを弾くと、

柔らかい岩城の身体が、反り返り全身に震えが走る。

中を捏ね回されて、濡れた声を上げ続ける岩城を、

香藤は突き上げながら見つめ続けた。

仕事仲間や、スタッフ達。ブラウン管の中でしか

岩城を見たことのない人たちには、

想像もつかないだろう、その痴態。

真っ白な肌が上気し、匂い立つような色気が漂う。

快感に身体をよじり、香藤を求めて声を上げ、

腰を振る姿は妖艶、としか言いようがない。

長年連れ添い、その姿を見続けている香藤でさえ、

目にする度に身体に電流が走るような喜びを感じる。



俺だけなんだよね。

この岩城さんを見ることが出来るのは。

俺ので、こんなに乱れる岩城さん。

照れ屋で、頑固で、くそ真面目。

その人が、欲しい、欲しいって求めてくれる。

それがどれ程の奇跡なのかは、ちゃんとわかってるよ。

俺の前では、恥ずかしがらなくなったし・・・。

でも、ちょっと色っぽ過ぎだよ。

俺、止まんないじゃん。


「・・・うぅっ・・・んぁうぅっ・・・」

岩城が、苦しげに声を上げ始めた。

眦からこぼれ落ちる涙に、思い切り目尻を下げた顔で

香藤は囁いた。

「いきそう?」

「うあぁっ・・・かッ・・・とっ・・・はっあぁっ・・・」

香藤を包み込む襞が、奥へ、奥へと誘うように蠢いている。

腰を掴んでいる香藤の腕に、岩城は両手を伸ばして

握り締めた。

岩城の両脚が香藤の腰に絡みつき、

アヌスをこすり付けるように引き寄せた。

岩城のその仕草に、香藤は全身の血が

逆流するような想いがした。

「もっと、欲しい?」

香藤は岩城の耳元でそう囁いて、

ペロッと岩城の耳たぶを舐めた。

「あっ・・・っ・・・」

「感じちゃった?」

頬に唇を当てながら喋る感触に、岩城が身悶えした。

「・・・はっ・・・早く・・・香藤ォっ・・・」

岩城の腕が、香藤の背に絡みついた。そうしながら、

無意識だろうか腰を揺する岩城を

香藤は両腕にしっかりと抱きしめた。

「いいよ。もう、どうやっても止まんないからね。」

熱い、牡の瞳で、香藤は岩城を見つめた。

それに射すくめられて、まるで熱が移ったかのように

岩城は、ぞくりと身体を震わせ、肌が一層赤く染まった。

「いくよ。いいね?」

言うが早いか、ぎりぎりまで腰を引くと、

香藤は一気に突き上げた。

「ひっあっ!」

内襞が擦りあげられて、岩城が悲鳴を上げた。

香藤の激しい律動に全身が震え始め、

仰け反っていた身体が一層反り返り、

岩城の手に力が入った。

「はっ・・・あぁッ、うあッ、ああぁッ・・・」

「ここ、だよねっ・・・。」

捏ねるように前立腺を突き上げられて、

岩城の声が切迫しはじめた。

「・・・んぁうぅっ・・・もっ・・・もうっ・・・」

愉悦の涙を零しながら、

岩城は身体中を香藤に絡み付けた。

香藤が何度もぎりぎりまでゆっくりと引き出し、

腰を捻るように岩城の襞を抉った。

「・・・っひぃっ・・・うぁっんっ・・・」

最奥まで突き上げ、香藤の息が上がる。

「岩城さっ・・・」

香藤の身体が、ビクリ、と震えた。

岩城の中へ熱を放って、香藤は岩城に重なった。

同時にいった岩城の息が途切れ途切れに聞こえた。

「だいじょうぶ?」

「・・・ああ・・・。」

ゆっくりと香藤の手が岩城の身体を

労わるように動いていく。

「最高だよ、岩城さん。」

蕩けた顔で、香藤がキスを繰り返した。

それを、岩城は微笑みながら自らも

香藤の唇を啄ばんだ。

「香藤・・・。」

「ん?」

「上に、行かないか?」

少し驚いた顔で香藤は岩城を見返し、くすっと笑った。

「まだ、足りない?」

頬を染める岩城に、今度は声を上げて香藤は笑った。

「俺も、足りないよ。ベッドに行こ?」

微笑んで頷く岩城を、香藤は抱き上げ階段を昇った。







     続く








2006年3月14日
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