Crazy Little Thing Called Love 10









「忘れ物はないか?」

「うん、大丈夫。」

荷物を玄関脇に置いて、岩城は香藤を振り返った。

ラフな服装で、

香藤がバイオリンケースを片手に、辺りを見回した。

「岩城さんも、大丈夫?」

そう言って香藤は、岩城の姿を眺めた。

この旅行のために、

香藤が買って来たシャツとジーンズに身を包んだ岩城。

着物姿とはまったく違う印象の彼に、

チャーリーとラウールが目を丸くしていた。

「なんか、そういう格好をすると、男性なんだね。」

チャーリーがそう言って慌てて謝った。

「いいよ、気にしないでくれ。」

岩城が可笑しそうにくすり、と笑った。




パリから先ず、ロンドンへ向かう。

レコーディングのやり直しが出て、

香藤はそれを先に済ませることにした。

「どれくらい、ロンドンにいるんだ?」

「う〜ん、たぶん2、3日だと思う。」

金子が数日前にその件で香藤に確認を取った。

「クラリッジスのいつもの部屋、取れますけどどうしますか?」

ホテル側から、香藤がお気に入りだったあの部屋は、

いつでも確保する、と申し出があったと金子が言った。

「うん、あの部屋は、岩城さんがいろいろあって嫌だろうから、

やめとくよ。」

「じゃ、サヴォイを取りますね。」

その会話を聞いていた岩城が眉をひそめた。

「すまん。」

「いいって、岩城さんが謝ることなんか、何にもないじゃん。」

こくり、と岩城は頷いた。

その額にコツン、と香藤は自分の額を当てて微笑むと、

岩城の唇を吸い上げた。

「気にしないの。岩城さんのせいじゃないんだからさ。」

「うん。」






「申し訳ない。ちょっと、音がぶれてるとこがあって。」

到着したスタジオで、

レコーディングスタッフが香藤に頭を下げた。

「いいよ。すぐやろう。」

香藤がそう言ってバイオリンケースを開けた。

そこにある、岩城の写真にスタッフが笑った。

「まだ奥方の写真、入れてんだ?」

「当然。岩城さんが一緒に来れないこともあるからさ。

っていうか、嫁さんの写真持ってるのって、普通じゃない?」

「ま、そうだな。」

苦笑しながら、岩城はその二人の会話を聞いていた。

「珍しいね、キョウスケのジーンズ姿って。」

スタッフがそう言って、岩城を眺めた。

「うん。やばいからあんまり着せないんだ。」

「着物とどっちがやばいんだよ。」

そう言って、二人は笑った。




香藤がブースに入って、録りの準備を始めた。

岩城は、スタッフが用意した椅子に座って、それを眺めていた。

スタッフたちも、

目にしたことのない岩城のラフな服装に驚いていた。

「そういう服も着るんだね。」

「ああ、洋二が買ってきてくれたんだ。」

にっこりと笑って、岩城は答えた。

「久しぶりに、洋服を着て出かけた気がするよ。」

無邪気な岩城の言葉に、スタッフは苦笑を浮かべた。

「そういう服装だと、すごい格好いい男だよねぇ。」

その言葉に、他のスタッフも同意した。

「着物だと、格好良くないかな?」

岩城が笑ってそういうと、スタッフが笑いながら言い返した。

「格好良くないってわけじゃなくてさ、色っぽいんだよ。」

『まったく、どうしてみんな、そういうこと言うかな。』

香藤の声が、スピーカーから流れた。

「お前、どうしてそういう時だけ、口挟むんだ?」

『敏感なの、岩城さんのことだと。』

スタッフ達が呆れて、ブースの中の香藤に肩を竦めた。




香藤が、ヘッドフォンを着けた。

途端に顔が引き締まり、弓を上げてバイオリンを構えた。

出されたお茶に手をつけずに、

岩城はその真剣な顔を、黙って見つめていた。

スピーカーから出た音を聞いて、

岩城はほっとした顔で、椅子に深く座り直した。

「・・・いい音だよね。」

スタッフの呟きに、岩城はにこっと笑った。




「こっちはどうするの?このまま使う?」

「そうだな。これはいいと思うけど・・・。」

「いいよ、録っても。うん、録ろうよ。」

スタッフと香藤の会話を、

岩城はお茶を飲みながら、眺めていた。

バイオリンを取り上げて、香藤は岩城を振り返った。

「ごめん、岩城さん、もうちょっと待っててね。」

「いいさ、俺のことは気にしなくていい。」

ゆったりと岩城は頷いた。

香藤が近づいてきて、そっと岩城の顎に指を添えて持ち上げた。

腰を屈めて香藤の顔が降りてきて、岩城はそっと瞳を閉じた。

「愛してるよ、岩城さん。」

ふ、と岩城の瞳が開き、細めるように笑った。

「わかってる。」

軽く唇を摘むように触れ合わせて、香藤はブースに入っていった。

スタッフたちは、呆然としてそれを見ていた。

岩城は平然とした顔で、カップを取り上げてお茶を飲んでいた。

それを眺めながら、

後ろでチャーリーとラウールが顔を見合わせて、

同時に肩をすくめた。

「なんか、変わりましたね、マダム。」

ラウールがそう言った。

チャーリーは、少し黙って岩城を見つめていたが、

気づいたように眉を上げた。

「結婚式の後から、ちょっと変わったかもしれないな。」

「ッて言うと?」

「なんかさ、正式に結婚すると女は変わる、って言うよね。」

「あ〜・・・。」

ラウールが腑に落ちた顔で、岩城に視線を向けた。

「なんか、落ち着いてるって言うか、動じないって言うか。」

チャーリーが、ぷ、と噴出した。

「そう言えば、パリに来た当初は、すごくはにかみ屋だったよな。」

「大胆なところもあったけどね。」

そう言って、ラウールがくすくすと笑いながら、頷いた。

「ま、何にせよ、二人が幸せだってことだろう。」




「じゃ、また明日。」

スタジオの前で、香藤とスタッフたちが別れた。

チャーリーが待つように言って、しばらくすると、

角を曲がって大きなリムジンが近づいてきた。

「あれは・・・?」

チャーリーが笑いながら答えた。

「迎えのリムジンです。」

すーっと、香藤たちの前にそれが止まり、チャーリーがドアを開けた。

後部座席に乗り込んで、岩城がその車内の豪華さに驚いていた。

「どうしたの、これ?」

「サヴォイから、ロンドン滞在中は自由に使ってくださいと、

申し出がありましてね。

運転手を付ける、とのことでしたが、それは断りました。」

目を丸くして、香藤は車内を見回した。

「うわぁ・・・これ、間が閉まるんだ。」

脇にあるボタンを押すと、軽いモーター音がして、

運転席の背もたれから磨りガラスの仕切りがせりあがり、

それが上まで閉まった。

「すっごいね、このリムジン。」

もう一度ボタンを押して、仕切りを下げ、

香藤が助手席のチャーリーに聞いた。

「これ、閉めたら声、聞こえないの?」

「ええ、聞こえませんよ。」

「ふ〜ん・・・。」

香藤がそれを聞いてにっこりと笑った。

無邪気にあちこちを触りまくる香藤に、運転するラウールや、

チャーリーと岩城も呆れて笑っていた。






「岩城さん、起きて!」

「・・・う・・・ん・・・。」

香藤がゆさゆさと岩城を揺り動かした。

「・・・なんだ、もう朝か?」

岩城がぼうっとした顔を香藤に向けた。

「ねぇ、起きて!朝ご飯食べよ?」

「う・・・ん・・・。」

「岩城さんってば!」

再び寝入りそうになる岩城を、香藤が毛布ごと抱きしめた。

「起きれない?」

「・・・誰のせいだ?」

香藤がばつの悪そうな顔で、岩城を見下ろした。

「ごめん。」

岩城は、その情けない眉の下がった顔を見て、

ふわり、と微笑を浮かべて、香藤の頬を引き寄せた。

しっとりと唇を合わせて、岩城は香藤に両腕を差し出した。

それを掴んで、香藤が起き上がらせると、

岩城はそのまま彼の肩に額を乗せた。

「・・・眠い。」

「起きてよ、レコーディングなんだから。

岩城さんがいないとやだよ、俺。」

「わかってる。」

岩城は、裸のまま四つん這いになってシーツから這い出すと、

バスルームへ向かった。

その全身に残る赤い痕を見て、香藤が少し苦笑していた。




朝食の場で、香藤のラルフ・ローレンの、

ネイビーブルーのストライプシャツを着た岩城の襟元を、

香藤がちらちらと気にしていた。

「ねぇ、何で上までボタン留めてんの?」

ちらり、と岩城は無言で香藤を上目遣いに見た。

黙ってカップを口にする岩城に、香藤は重ねた。

「ねぇ、それ、ダサいんだけど?」

「・・・外せない。」

「へ・・・?」

香藤のきょとん、とした顔に、岩城は嘆息した。

「痕だらけだ。」

「あ・・・。」

ごめん、と香藤が顔を顰めた。






「じゃ、ここからここね。」

香藤がバイオリンを片手に、椅子から立ち上がった。

テーブルに肘をついて、

少し眠そうにしている岩城の頬にキスをすると、

岩城が微笑んで見上げた。

「じゃ、聞いててね。」

香藤がにっこりと笑って、ブースへ入って行った。




中にいる香藤を、岩城がじっと見つめた。

その岩城を、スタッフ達が見つめていた。

クラシックには疎くても、

香藤の音を岩城ほど聞き分けられるものは他にはいない。

岩城の表情がバロメーターだった。

スピーカーから、音が鳴り出した。

岩城がそれを聞いて、にっこりと笑った。

ほっとした空気が流れ、

スタッフ達もリラックスして香藤の音に耳を傾けた。




「・・・あ。」

少したって、スタッフが壁際の岩城に視線を向けた。

そこに、ジーンズを穿いた足を組んで、

腕組みをしたままうたた寝をする岩城がいた。

「寝ちゃってるよ・・・。」

「まぁな。ヨウジの音、すっごい、いい音だからな。」

「に、したって・・・。」

スタッフがそこまで言って気がついたように、笑った。

「寝かせて貰えなかったのかもな。」

「そんなの、決まってるだろ。」

2人は顔を見合わせて、頷いた。

ブースの中で、香藤は岩城の笑顔を見て、ほっとしていた。

弾き始めて、香藤の目にうたた寝をする岩城の姿が映った。

口元を緩ませて、香藤はバイオリンを弾き続けた。




「・・・う〜・・・ん・・・。」

「岩城さん、終わったよ。」

隣に座る香藤の腕の中で、岩城は大きく伸びをした。

「・・・あふ・・・。」

ことん、と香藤の肩に額を乗せる岩城を、

スタッフ達が顔を赤らめて見つめた。

片手で口元を軽く叩き、欠伸をする岩城を、

蕩けそうな顔で見ていた香藤が、

それに気づいて軽く皆を睨んだ。

「だめだよォ、みんな?」

「わかってるって。」

軽く溜息をついて、スタッフが苦笑した。

寝ぼけ眼を、こしこしと指で擦る岩城を、

香藤は微笑んで見つめた。

「・・・ん?終わったのか?」

「うん、終わったよ。帰ろ?」

こくり、と頷いて岩城は立ち上がった。




後部座席に陣取って、香藤は岩城を抱き寄せた。

「大丈夫?」

「・・・うん。」

眠そうな顔で、岩城は香藤を見上げた。

ドキリ、とするような眼差しに、香藤の喉が上下した。

「おい・・・?」

岩城が眉を潜めるのと、

香藤が仕切りのボタンを押すのとが同時だった。

「あ!こ、こら!」

慌ててそれを止めようとした岩城の腕を、香藤が掴んで阻んだ。

せり上がる仕切りをちらり、とチャーリーとラウールが振り返り、

顔を見合わせて苦笑した。




「やめろって。なにす・・・。」

嫌がる岩城の唇を、香藤が塞いだ。

上唇と下唇を、交互に喰んで、香藤は岩城の舌を甘噛みした。

「・・・んぅ・・・」

咥内が溶け出しそうなキスに、岩城の鼻から息が漏れた。

「だめ・・・だってっ・・・。」

唇を舐められる間に、岩城が声を漏らした。

その声に混じった甘さが、その言葉を裏切っていた。

香藤は、くすり、と笑いをこぼすと、

シャツの裾から手を中へ潜らせた。

香藤の指が乳首を捉えると、絡めとられる岩城の舌が震えた。

「・・・んぁっ・・・」

反射的に仰け反って声を上げた岩城は、

とっさに握り締めた拳で口元を押さえた。

「大丈夫だよ、聞こえないって。」

「そんなわけあるか!聞こえるだろ!」

香藤は白い歯を見せて笑うと、岩城の肩を抱きこんだ。

「今更、そんなこと言ってもさ。」

「う、うるさい!」

岩城が顔を真っ赤にして、声を荒げた。

その岩城を、半ば無視するように、

香藤は岩城のジーンズのボタンに手をかけた。

「やめろって!」

香藤の手を押さえ込んで止めようとする岩城の項に、

香藤は舌を這わせた。

ビクリ、と岩城の身体が震え、動きが止まると、

香藤はジーンズの中へ手を差し込んだ。

「・・・はっ・・・や、やめ・・・んっ・・・」

後部座席のヘッドレストに頭を乗せて、

岩城の身体が反った。

それを見て、香藤はシャツのボタンを外し始めた。

「うわぁ、俺、こんなに痕つけたっけ?」

岩城の喉下から、

胸にかけて無数の赤い痕が散っているのを見て、

香藤が思わず声を上げた。

「・・・なに言って・・・それこそ、今更だろ・・・!」

くすくすと笑いながら、香藤は岩城のジーンズを、

両脚から引き抜いた。




「まったく・・・。」

「いいじゃない。」

香藤が岩城の茎を扱きながら、

そう言って睨む岩城の頬を、舌を出してぺろりと舐めた。

「・・・んっ・・・昨日、妙にはしゃいでたのは、これか?」

「うん。」

香藤は顔中で笑うと、音を立てて岩城の唇を吸った。

「一回、やってみたかったんだ、車の中って。」

「・・・バカ。」

荒い息で悪態をついて岩城は、香藤を横目で睨んだ。

に、と岩城は笑い、香藤のズボンに手をかけた。

「俺にも、よこせ・・・。」

ジッパーを下げて、香藤のものを両手で掴むと、

身体をふたつに折って口に含んだ茎を、岩城が舐めた。

その髪を撫でながら、香藤はくすりと笑った。

「岩城さん、俺のそれ、好き・・・?」

岩城は茎をを口にしたまま、香藤を見上げた。

目元だけで笑う妖艶な岩城の視線に、

香藤はごくりと喉を上下させた。

「お前、だからな・・・これは。」

掠れた声で、岩城が答えた。

その顔を見つめていた香藤が、

身体を起こして岩城の腰を掴んだ。

香藤はシートに身体を倒して、岩城の身体を上に乗せた。

目の前に、岩城の茎がある。

「・・・え・・・?」

体勢を入れ替えられて驚く岩城の茎を、

香藤は躊躇なくそのまま、口に含んだ。

「・・・んあっ・・・」

シートに膝をついて、岩城は腰をくねらせた。

「岩城さん、お口がお留守だけど?」

「・・・んっ・・・」

喘ぎながら、岩城は両手の中の膨れ上がった香藤の茎に、

愛しげに唇を這わせた。

香藤が、岩城の茎のカリに軽く歯を立てた。

「・・・ひアッ・・・」

香藤の茎を握ったまま、岩城が仰け反った。

がっちりと抑えられた腰が、びくびくと震えた。

「・・・あっぁんっ・・・」

岩城の手が延びて、香藤の腿を彷徨った。

香藤の茎に頬を当てたまま、

岩城は香藤の愛撫に身体を揺すった。

「・・・はっ・・・んぁっ・・・んっ・・・」

ちろり、と岩城の舌が半開きの口から差し出され、

香藤の茎を舐めた。

「・・・は・・・んぅ・・・」

岩城の手が、香藤の尻を掴んだ。

「・・・もォ・・・くっ・・・」

息を詰まらせる岩城の茎から唇を離すと、

香藤は彼を抱き上げてシートに座らせた。




「・・・あぁっ・・・」

片足をシートについて、大きく開いた岩城の腿の間に、

香藤の手が潜り込んでいた。

香藤の指が、じっくりと中を探る。

そうしながら、香藤は岩城の着ているシャツの前を、

かき分けて乳首を舌先で突いた。

「・・・ふっうんっ・・・」

他の車よりも、スペースにゆとりがあるとは言うものの、

狭い車内で香藤は身体を折って岩城の茎を舐めた。

「・・・あんっ・・・」

岩城の両手が、香藤の頭を抱え込んだ。

「・・・んっ・・・んふっ・・・」

背もたれに寄りかかる岩城の尻が、

シートからずり落ちそうになっていた。

その中を、香藤の指がもう1本増えて、襞を引っ掻いた。

「・・・ひっ・・・あんぁっ・・・」

後と前を同時に攻められて、岩城の嬌声が響いた。

「・・・か・・・香藤ォ!・・・」

切羽詰った声が聞こえて、香藤は岩城の顔を見上げた。

眦に涙を浮かべて、岩城が荒い息をついている。

「・・・もう・・・っ・・・」

「うん。」

指を引き抜き、岩城の隣で香藤はシートに背をつけた。

首に腕を絡める岩城の耳に、香藤が囁いた。

「岩城さん、あっち向いて?」

「・・・ん・・・」

顔を上げて香藤を見つめると、

岩城はゆっくりと香藤の膝の上で背を向けた。

「・・・は・・・」

背後からとば口に当たる香藤の茎の熱さに、

岩城は微かな声を漏らした。

「岩城さん、そのまま腰落として。」

背後からの声に、岩城はゆっくりと膝を折った。

「・・・んあぁっ・・・」

シャツを着たままの背を反り返えらせ、

香藤の肩に頭をこすり付け、岩城は喘いだ。

「ひぃぃ・・・」

香藤の手が岩城の膝裏を掴んで、

下から突き上げを繰り返した。




走行中のリムジンが、通常とは違う揺れ方をしている。

運転しながら、ラウールはぽつり、と零した。

「遠回りしたほうがいいかな・・・」

チャーリーが、肩をすくめて頷いた。

テムズ川の周囲を、リムジンはゆっくりと走った。




「・・・あぁっ・・・んうぅっ・・・」

絶え間なく、岩城の声があがる。

律動の度に、繋がったところから、派手な音がしている。

何度目かの突き上げに、

岩城が前のめりに倒れこみ、片手がしきりに当たった。

ドンッ、という音に、ラウールとチャーリーが驚いて振り返ると、

岩城の白い手の平がすり硝子に張り付いているのが見えた。

「・・・うわ・・・。」

ラウールが慌てて前を向き、

チャーリーは、くすっと笑いを零した。




「・・・ひぅっ・・・」

香藤が岩城の身体を抱き寄せると、

そのはずみで岩城の手が仕切りの開閉ボタンに当たった。

鈍いモーター音がして、仕切りが降り始めると、

はっきりと岩城の声と、抜き挿しの濡れた音が、

運転席に流れ込んだ。

「・・・はんっ・・・あんぁっ・・・んぁうぅっ・・・」

ぎょっとして、前の2人が顔を巡らせると、

そこに後から攻められて全身を上気させた岩城の肌が、

視界に入った。

シャツを羽織っただけの汗ばんだ胸に、

赤い花が咲いている。

香藤は、少し肩を竦めると、手を伸ばしてボタンを押しなおした。

それが完全に閉りきるまで、

岩城の悲鳴のような喘ぎ声が、運転席に響いた。

くぐもった仕切り越しの声に戻ると、

チャーリーとラウールは顔を見合わせて苦笑した。






鈍いモーター音がして、仕切りが途中まで下がった。

香藤がウィンドウを少し下げて、風を入れたのだろう。

それを感じて、チャーリーが振り返ると、

岩城の顰めた眉が見えた。

その額に、じっとりと汗が浮んでいる。

「ねぇ、ホテルに着いたら、毛布持ってきてくれないかな?」

「はい、承知しました。」

チャーリーはそう答えると、わからないように小さく笑った。




脱ぎ捨てたジーンズと下着を岩城の身体の上に丸めて置き、

シャツの前をかき合わせると、

香藤は白い毛布で岩城を包み込んだ。

朦朧としていた岩城は、そのまま瞳を閉じて寝入ってしまった。

毛布から素足が覗く岩城を胸に抱え、

片手に岩城の靴を持って、

ダークスーツの男を二人従え、

香藤は注目を浴びたまま、ホテルのロビーを突っ切った。






       続く




       弓




    2006年7月29日
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