Crazy Little Thing Called Love 9









止め処なく、岩城の叫ぶ声が聞こえてくる。

「・・・んふっ・・・ぁあっ・・・もっとォ・・・」

香藤がベッドに膝を付き、

岩城の腰を抱えて突き上げていた。

肩だけをシーツに付き、

頭の上に上げた手で枕を握り締めて、

身体が振り回されるのを支えている。

「・・・あぁっ・・・あっ・・・はぅんんっ・・・」

顰めた目尻を涙が伝い、

じっとりと汗が浮び、時折苦しげに顔を振った。

「・・・けほっ・・・んっ・・・」

自分の唾液で咽そうになる岩城に気づいて、

香藤は岩城の身体をシーツに落とすと、唇を合わせた。

岩城の溢れ出る唾液を残らず吸い上げ、

そのまま深く咥内を弄った。

「・・・ん・・・ふ・・・」

そのキスを受けながら、両脚を身体に引き付け、

香藤をより取り込もうと岩城の腰が揺れた。

頬へ唇をずらし、岩城の涙を吸い取り、

香藤は再び襞を引っ掻くように腰を引いた。

「・・・あぅっ・・・んくっ・・・」

香藤の腕の中で、岩城は仰け反り、叫んだ。

「・・・いいっ・・・もっとっ・・・深くッ・・・」




「・・・これが俺の弟か・・・。」

ぽつり、と雅彦が呟いた。

3人は、なんとも言葉もかけようがなく、顔を見合わせた。




「・・・はんっ・・・んぅふっ・・・」

蕾を香藤に押し付け、岩城が身体をくねらせた。

叩きつける香藤の身体をしっかりと抱きしめ、

あらん限りに声を上げる。

「・・・あぁっ・・・洋二っ・・・よぉ・・・じっ・・・」

岩城の身体が、反り返ったまま震え始めた。

香藤の茎を包み込む襞が小刻みにうねり、収縮し始める。

感じなれた岩城の身体の反応に、

香藤は奥を捏ね回した。

「・・・ひぁあっ・・・はぁっ・・・あうぅっ・・・」

岩城の声が裏返り、縋りつく腕に力が入った。

その求める腕に、香藤がぐい、と腰を引いて強く岩城を突き上げた。

「・・・あっ・・っあぁっんっ・・・く、来る・・・来ちゃ・・・うぅっ・・・!」

途端に岩城の切迫した声が上がり、

香藤の背に爪を立てた。




「こういうのは初めてだな。」

チャーリーが思わず呟いた言葉に、金子が頷いた。

「大丈夫かな?」

チャーリーが、口元を少しゆがめるように笑って、肩を竦めた。

「う〜ん、お粥にしようかな・・・。」

金子がそう言いながら、立ち上がった。

「確か、冷蔵庫にトーフがあったと思うが?」

チャーリーが、そう言って金子を見上げた。

「そうだね。

消化にいいものじゃないと、岩城さん、つらいだろうから。」

「トーフの料理は、任せるよ。俺は作れないからね。」

平然として、交わす2人の会話に、雅彦は呆然としていた。

その間にも、聞こえてくる弟の喘ぎ声に、

雅彦は額に手をあてて俯いた。

「・・・いつまでやってんだ・・・。」

3人は、その呟きに聞こえていないふりをした。




「・・・ふあぁあっ・・・」

仰け反った岩城の中へ、

香藤は自分を吐き出して、ふゥ、と息を吐いた。

「・・・ん・・・ふ・・・」

苦しげに息をつく岩城の額や頬にキスをしながら、

香藤は労わるように身体を撫でた。

岩城が、息も絶え絶えに顔を顰めて呟いた。

「・・・もう・・・いい加減、抜いてくれ・・・」

「だ〜め、」

香藤はそう答えると、

岩城を抱きかかえたまま起き上がった。

「もう一回。」

「・・・んぁっ・・・」

香藤が胡坐をかいた足の間に岩城を乗せ、両手で尻を掴んだ。

ぐい、と蕾を拡げるようにすると、

岩城は香藤の肩に縋りついた。

「・・・ひっ・・・や・・・やめっ・・・」

「まだだよ、岩城さん・・・これで、3回目・・・っ」

そう言って、香藤が突き上げた。

「・・・っ・・・!」

背筋を駆け上る快感に、岩城は喉を詰まらせた。

反射的に倒れそうになった身体を、

香藤の肩にすがり付いて支えた。

かき集めようとした岩城の理性を吹き飛ばすように、

香藤はかまわず腰を動かした。

「・・・いっ・・・あぁあっ・・・」

疼く蕾に煽られるように、シーツを踏みしめて、

岩城が腰を使い始めた。

香藤の突き上げに、自然と腰を合わせるように動く。

「欲しい?」

香藤が耳元で囁いた。

「んん・・・かとぉ・・・もっと奥・・・」

「足りないの?」

「・・・んぅ・・・欲し・・・」

ふふ、と香藤は笑って腰を揺すった。

「・・・ひぃ・・・ぃ・・・」

突き上げられ続け、高みに攫われて、

岩城の口から、すすり泣く声が漏れ始めた。

それを聞いて、香藤がにこりと笑った。

「また来そうだね、岩城さん。」

「・・・ひぁっ・・・んんっ・・・」

香藤が岩城の腰を抱え直し、縦横無尽に襞をかき回した。

「・・・うぁあっ・・・よぅ・・・じっ・・・」

途端に、岩城の切迫した声が聞こえ、

香藤はその顔を見つめた。

「来た、岩城さん・・・?」

「うっんっ・・・あふっんっ・・・来っ・・・るっ・・・んんんっ!」

香藤の頭を胸に抱え込み、岩城の背が反り返った。

「・・・んぁあっ・・・い・・・いくっ・・・よ・・・じっ・・・」

首を左右に振り、岩城の声が上がった。

「・・・あああぁぁ・・・っ・・・」

その締め付けに、

香藤も強かに岩城の中へ熱を吐き出した。

思い切り仰け反り、身体を震わせ、

力いっぱい香藤にしがみ付く。

その岩城を抱えきれずに、香藤はベッドに背をつけた。

香藤の身体の上に倒れこんで、岩城は朦朧としていた。

肩で荒い息をつき、その熱い吐息が香藤の胸に当たる。

ぴちゃり、と音を立てて岩城が唇を舐めるのを見て、

香藤がそれを塞いだ。

「・・・んん・・・」

「最高だよ、岩城さん。」

「・・・は・・・香・・・藤・・・」

荒い息のまま唇を吸い合い、

2人は汗まみれの身体を抱きしめ合った。




「・・・あ。」

ラウールが声を上げた。

「うん。」

金子がそう答えて、立ち上がった。

ふと見ると、雅彦が呆然とした顔で、

ダイニングから廊下へ通じるドアを見ていた。

「・・・なんと言うか。」

チャーリーが、こそっと金子に囁いた。

「まぁ、気の毒というか、何というかだね。」

肩をすくめて、2人は食事の仕度にかかった。




「・・・はうんっ・・・んっ・・・」

香藤が岩城の半立ちの茎を解放して、

そっと頬にキスを落とした。

「・・・大丈夫?」

「ん・・・」

岩城が焦点の合わない瞳で、香藤を見上げた。

ゆっくりと岩城の中から離れると、

香藤は岩城の蕾に視線を向けた。

「あはは、ごめんね、俺出しすぎ〜〜。」

岩城の唇を軽く舐めると、香藤は起き上がった。

「ちょっと待っててね。綺麗にしてあげるから。」

香藤はバスルームから濡らしたタオルを持って出てくると、

岩城の両脚の間に座り込んだ。

「岩城さん・・・そう、腰、上げてて。」

片手で、岩城の腿を持ち上げて、

香藤は濡れそぼる蕾に指を潜らせた。

「んふっ・・・うんっ・・・」

岩城の喉が鳴った。

まだ、疼いたままのそこが香藤の指を絡め取ろうとする。

それを掻い潜り、香藤は中からすべてをかき出すと、

岩城の身体を綺麗にした。

「起き上がれる?」

香藤の言葉が耳に入ったのか、入らなかったのか、

岩城は瞳を閉じたまま小さく息を吐いた。

「・・・しょうがないね。」

香藤は笑って岩城を抱き上げ、バスルームへ消えた。






「ごめん、食事出来るかな?」

香藤がダイニングに入ってくるなり、金子に尋ねた。

「ええ、用意してありますよ。」

「ありがとう。」

満面の笑みで、香藤は答えると、再びダイニングを出て行った。




少しして、ふらふらとする岩城の腰を抱えて、香藤が現れた。

慌てて、チャーリーが椅子を引き、

香藤は礼を言いながら岩城を座らせた。

「・・・ん・・・」

と、岩城が絶え入るような溜息をついて、

閉じた目元に官能を浮ばせたまま、テーブルに突っ伏した。

寝巻きの襟から覗く項に、点々と赤い痕が見えている。

「ごめんラウール、水、くれる?」

受け取ったコップを手に、香藤が岩城の隣に座った。

「岩城さん、飲める?」

ぼうっとしたまま、岩城が顔を上げた。

ゆっくりと、それを掴もうとした手を香藤が掴んだ。

「無理そうだね。」

そう言うと、香藤はカップに口をつけて含み、

岩城の肩を抱いて口移しでそれを飲ませた。

「ん・・・ん・・・」

こくこくと飲んで、岩城の喉から息が漏れた。

「・・・はぁ・・・」

すっと伸びた首筋は、痕だらけで、雅彦は慌てて目を背けた。

岩城がいらない、と首を振るまで香藤は口移しで水を与えた。

「大丈夫?」

「・・・ん・・・」

「ご飯、食べられる?」

「・・・うん・・・お腹、すいた・・・」

「そ?」

にっこりと香藤が笑って、抱いていた岩城の肩から腕を離した。

熱い息のまま、溜息をついた岩城は、ふと、雅彦と目が合った。

「・・・あ・・・兄さ・・・」

途端に、痕が薄くなるほど真っ赤になった岩城に、

雅彦はいたたまれずに席を立とうとした。

「あれ?まだ食事してないんですか?

チャーリー、温かいの作り直してあげてよ。」

「了解。」

チャーリーが、そう言って立ち上がった。

「あ、いや・・・。」

「食べた方がいいですよ。」

金子がそう言って、少し心配げな顔をした。

その顔を見て、仕方なく、雅彦は座りなおした。

岩城は恥ずかしげな顔で座っていたが、

気だるそうにテーブルに肘をつけて、

突っ伏しそうになるのを我慢していた。

「岩城さん、凭れていいよ?」

香藤が岩城の背に手を沿わせた。

「・・・う、ん・・・」

まだ、ぼうっとしたままの岩城は、

少しばかり雅彦を気にしながら頷いた。




岩城の前に、金子が作った粥が置かれた。

崩した豆腐と、卵で閉じて葱を散らしてある。

「美味しそうだね。ありがと、金子さん。」

「どう致しまして。」

チャーリーが、香藤と雅彦の前に皿を置き、キッチンへ戻った。

「岩城さん、手、使える?」

「・・・いい、自分で食べる。」

そう言って、岩城は匙を掴もうとして、それを取り落とした。

「ほら、やっぱり。」

香藤は笑ってその匙を取り上げると、

軽く掬って岩城の口元へ差し出した。

「はい、岩城さん。」

岩城は、じっとその匙を見つめていたが、

諦めたように少し溜息をついて、口を開いた。

香藤は器用に粥を食べさせ、岩城が口を動かすのを、

にこにことしながら見ていた。

「美味しい?」

「・・・・・・。」

「ねぇ、岩城さん?」

「・・・ん・・・美味いよ。」

一匙一匙、掬ってはそれに息を吹きかけて冷まし、

岩城の口元へ運ぶ香藤を見ながら、

雅彦はゆっくりとオムレツを食べていた。

身体が傾きそうな岩城を抱えるようにして、

香藤は時折、匙をフォークに取り替えて、

オムレツを自分の口に運んだ。

「もっと食べる?」

「うん・・・もっと・・・」

「あ〜んして?」

「あー・・・」

まるで子供のように素直に口を開ける、

その蕩けそうな岩城の顔を見ていた雅彦は、3人を振り返った。

「いつも、こういうのを見てるのか?」

「え?」

ラウールが思わず、肩をすくめた。

「まぁ、そうです。」

金子とチャーリーの顔を見て、

雅彦は呆れたように首を振った。

「・・・まったく、よく嫌にならないな。」

雅彦の言葉に、金子が笑った。

「なんというか、幸せそうで。

見ていて嫌になることはないですね。

香藤さんの嬉しそうな顔を見ているのが、僕も嬉しいし、

岩城さんが笑ってると、みんな安心するんですよ。」

その言葉に、雅彦は目を見開いた。

「幸せそう、か。確かにな。」

雅彦は、まだぼうっとしながら香藤に抱きかかえられ、

食事をする岩城を眉間に皺を寄せて見ていた。




結局、その夜も岩城の嬌声を聞かされて、

雅彦はベッドの中で舌打ちをしながら深く嘆息した。






次の日、香藤たちはマルコの花屋へ出かけた。

雅彦も、散歩代わりにとついて行った。

「いらっしゃい、お2人さん。」

マルコが、顔中に笑顔を浮かべて両手を広げた。

「結婚おめでとう!」

店員が、微笑みながら両手いっぱいの赤い薔薇の花束を差し出した。

「これは、マダムに。」

「え・・・でも。」

それは、岩城が最初にここへ訪れたときに、

香藤が買ったルージュ・メイアンだった。

「これは店からのお祝い。いつもありがとう。」

マルコがそう言って岩城にそれを手渡した。

「ありがとう、マルコ。」

香藤が礼を言うと、それに気付いた客達が周りを囲んだ。

「おめでとう!」

「ニュースで見たわ!キョースケ、とっても綺麗だった。」

「さすがに、ヨージのパーティーだけのことはあるわね。

凄かったじゃない?」

「あはは、あれは皆が用意してくれたんだよ。」

「綺麗な奥さんで、自慢でしょ?」

「そりゃ、もう!」

香藤が、大きな声で答え、皆が笑い声を上げた。

その隣で、岩城は幸せそうに笑っていた。

周囲が、何の疑問も偏見もなく二人を祝福している。

その光景に、雅彦は諦めたように笑った。

「このあと、旅行に行くって言ってたな。」

雅彦が金子たちに話しかけた。

「ええ。僕は打ち合わせがあるので、あとから合流します。」

「ご苦労さんだな。」

金子が、にこりと笑った。

「2人は、最初から一緒なんだろう?」

チャーリーとラウールが頷くと、雅彦は少し溜息をついた。

「すまんな、迷惑かける。」

「いえ、とんでもない!」

二人の声が重なった。

チャーリーが、真面目な顔で答えた。

「昨日のことを気にしてらっしゃるんでしたら、それは違います。

お兄さんには、ショックだったでしょうが、

俺たちは嫌だと思ったことはないんです。」

「・・・本当に、そうか?」

チャーリーが頷き、ラウールも頷いて口を開いた。

「・・・俺も、最初は驚いたけど・・・マダムはヨージのことしか見えてないし。

ヨージもそうだ。

あんなに深く愛し合ってる夫婦って、他に見たことがない。」

雅彦は振り返って、

幸せそうに笑う岩城を、黙って見つめた。








「兄さん、来てくれてありがとう。」

帰国する雅彦を、岩城は空港まで送ってきた。

ラウールを従えて歩く着物姿の岩城に、

行過ぎる人が振り返る。

時折、岩城におめでとう、と声をかける人もいる。

その彼らに、岩城はにっこりと微笑んで礼を言う。

悪目立ちするその姿に、雅彦は諦めて口元で笑っていた。

「香藤君は?」

「今日は練習だよ。

午前中いつも10時頃から始めて、たいてい午後までやるんだ。」

「大変だな、バイオリニストってのは。」

「仕方ないさ。それが香藤の仕事だから。」




出国ゲートの前で、岩城は雅彦を見上げた。

「もっとゆっくりすればいいのに。」

「・・・冗談だろ。」

雅彦が顔をしかめて笑った。

「あんなのを、毎晩聞かされるのはごめんだぞ、俺は。」

「・・・あ・・・。」

岩城の顔が、見る見るうちに真っ赤に変わった。

「ご、ごめん!」

「別に謝らなくてもいいが。」

憮然とした雅彦の顔に、岩城が眉を寄せて俯いた。

「怒ってるわけじゃない。驚いただけだ。」

「兄さん・・・俺・・・。」

岩城が焦って言いかけるのを、雅彦は遮った。

「考えてみれば・・・考えなくてもお前が女房やってるのは、

前からわかってたことだけどな。でも、驚いた。

少し防音なんとかしろよ。ラウールたちが可哀想だぞ。」

赤い顔で、返事に困ってラウールを見る岩城に、

雅彦は追い討ちをかけるように、笑った。

「あれは耳に毒ってやつだな。」

「・・・ごめん、ラウール。」

「いえ・・・。」

苦笑するラウールに、岩城はますます顔を赤く染めた。




「今度は、義姉さんと来てよ。」

「ああ、そうする。写真、できたら送れよ。」

「うん。」

「言っとくがな、」

雅彦が岩城に確認するように言った。

「今度来るときは、ホテルに泊まるからな。」

岩城が真っ赤な顔をして、苦笑した。




機上の人となって、雅彦は嘆息した。

聞こえてきた岩城の声。

愕然とするほどのその色っぽさに、

ふとわが身を振り返って冬美を思い出した。

「あいつが激しいのか、冬美が大人しいのか、どっちなんだ?」

・・・雅彦の悩みは当分、尽きそうになかった。








     続く




     弓



   2006年7月15日
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