− 予 期 せ ぬ 出 来 事 −         A trap of lust.        






「よし、これでOKっと。さて、次にいくか。」

レコーダーとカメラをバックにしまい込むと、漆崎はバイクに跨り走り去った。




漆崎がフリーライターになってから早くも7年目に入ろうとしていた。

フリーでこの仕事を続けていくのは簡単な事ではないのだが、彼は記者特有の鋭い勘と

運に恵まれてたお陰で、順調にキャリアを積み、今では芸能記事だけでは無くいろんな

分野で活躍している。

普通のサラリーマンだった彼がこの世界に足を踏み入れたきっかけは、少し過激なほど

の香藤洋二の大ファンだった頃、岩城に少し似ている言われた事に気を良くし、それなら

ば岩城より若い自分の方に香藤が傾いていくれるのでは、などと思い違いをしてストカー

まがいのことをしていた。

しかし、香藤の岩城への一途な想い、二人が強い絆で深く結ばれている事を知り、自分

の入る余地などない事を思い知らされた。

今でもチャンスがあれば香藤と・・・っと、と言う希望も捨てきれないが、純粋に愛し合う

二人を見守って行きたいと言う気持ちに変わろうとしていた。

そんな漆崎の仕事の上でのポリシーは、『二人のスクープは必ず取る。』である。

始めは二人に煙たがられていた漆崎だが、ピンチに追い込まれた香藤の手助けをした事

もあり、他の記者のように自分の利益だけを考えず公平な記事を書くので、今では香藤

だけでは無く岩城も協力的な態度をとってくれるようになった。

最近では、二人のいち早い情報を本人達から聞ける事も、時にはプライベートな写真を

取らせて貰える事も度々あった。

今日も、先日二人が高層ビルで巻き込まれた「エレベーター缶詰事件」の記者会見を

取材を終えた後、香藤から気になることを聞いていた。

最近、毎日のように岩城宛てに踏み潰されてボロボロになった真紅の薔薇が一輪、封書

で送られてくるらしい。警察には一応届けてあるのだが、今までにも何度となく嫌がらせ

や脅迫まがいの手紙が送られてきているので岩城の所属事務所の方は気にしていない

ようだ。しかし、漆崎にその事を話した時の香藤は心配そうに顔を曇らせていた。






「フゥー。」

岩城は控え室に戻るなり椅子に座ると、疲れたようにネクタイを緩めた。

「大丈夫?岩城さん。」

「どうも、記者会見ってヤツは何度やっても苦手だな。」

「でも、今日はこれで仕事終わりでしょ、明日はオフだし。早く帰って家でゆっくりしたら

いいよ。それともホテルに部屋取ろうか?岩城さん。」

「そう神経質になることはないだろう香藤。今までだっていろいろあったが問題ないし。

それに自分の家が一番休まる、大丈夫だ。お前は遅くなるのか?」

「これから今度の映画の衣装合わせがあるんだ。夜8時頃には帰れと思うよ。あっ、もう

行かなきゃ。金子さんに怒られちゃうよ。」

「そうか。気をつけて行けよ、香藤。」

「うん、本当に戸締りには気をつけてよ。じゃあね。岩城さん。」

慌てて飛び出して行った香藤と入れ違いにマネージャーの清水さんが入ってきた。

「岩城さん、お疲れ様です。実は今、今回の事件のエレベーター管理センターの方が

お詫びとお礼に見えているのですが。」

「此処にですか?」

「ええ、いかがなさいます?お疲れのようですからお断りしましょうか?」

「いえ、わざわざいらしてるのに何ですから、お会いしましょう。」

「そうですか、では、こちらにお連れしますね。」

「はい、お願いします。清水さん。」






佐久間にとって今日は久しぶりの日勤だった。

食堂で昼食を取りながら、テレビで香藤と岩城の記者会見を見ていた。

あの事件以来、香藤の現在に至るまでの生活を知るのは簡単だった。

会社で二人の話題を耳にしたり、芸能雑誌には毎回の様に載っている。

二人は同じAV男優出身でドラマの競演をきっかけに、香藤の方から押しかけ女房の様に

岩城の所に行き、今では家まで買い夫婦同然の暮らしをしているらしい。

プライベートな事をあまり話さない岩城と違い、香藤が雑誌のインタビューで二人の恋愛に

ついて話しているその内容は、惚気ばかりか独占欲丸出しで話していた。



―岩城さんって、ほんっと格好いいよねぇ〜。凛々しくて、さ。

俺には岩城さんの雰囲気って逆立ちしても無理。

色っぽい?困るんだよ、それ。嬉しいんだけど、困る。自覚してないし・・・。

誰かに狙われるって?どうしてそういう事いうかな?俺をびびらせてどうすんの?

っていうか、俺、いつもそれが心配なの・・・本当。出来るんなら隠しておきたいよ。―



佐久間の知っている頃の香藤は、”来るもは拒まず去るものは追わず”。

若かったせいもあるが、嫉妬や独占欲などとは無縁の恋愛をしていた。

その香藤がこんなに夢中になってしまう人。

『岩城京介・・・真紅の薔薇が似合う男・・・』

香藤より5才年上で、今テレビの画面に映っている素晴らしく綺麗な顔の持ち主。

ふとあのエレベーターの中の岩城の姿を思い浮かべた。

モニターからは薄暗くてよく顔が見えなかったが、香藤の愛撫を全身で受け、熱い交わりに

激しく身を反らせ、美しくそして淫欲な姿をガラスに映していた・・・

『・・いやだ、僕以外の人を抱かないで・・・』

あの夜勤の翌日、佐久間は会社の保管室に忍び込みビデオを自宅に持ち帰った。

その日から、妄想の中で佐久間は香藤の逞しい腕に抱かれていた。激しく楔を打ち込み

佐久間の中で熱く果てる香藤、その快楽の中で香藤の名を呼びながら手淫で絶頂を迎える。

そして息が整うと、踏み潰した真紅の薔薇を封筒に入れ、岩城に送るため隣県のポストまで

出かけて行くのだ。




「あのー、すみません。こちらに佐久間真治さんいらっしゃいますか?」

名前を呼ばれた方を見ると、休憩室の入り口に自分と同じ年ぐらいの男が立っていた。

「あの・・、僕ですけど・・・」

「初めまして。すみませんお食事中、お聞きしたい事がありまして。ちょっといいですか?」

笑顔でそう言うと、自分の名刺を差し出した。

「フリーライター・・・漆崎一成・・・」

ここのところ大好きな三島由紀夫の本を読むのを忘れるほど、香藤の記事ばかり読んでいる

佐久間には見覚えのある名前だった。

「すみません突然お伺いして。先日香藤さんと岩城さんがエレベーターに缶詰になった日、

夜間勤務されてましたよね。その時のお話を聞かせていただきたいと思いまして。」

「・・話す事なんて・・ありません・・」

「いや、あのー、誤解させちゃったかな。今回のことはそちらの会社側の落ち度はないですし、

佐久間さんの対応は的確であったと証明されています。僕が興味があるのはあの二人の事

なんですよ。ご存知の通りいつも仲の良い二人の事ですから、あんな緊迫した状況の中でも

何か微笑ましいエピソードでもなかったかなと思いまして。お話はされたんですよね、インター

ホンで。」

「・・しましたけど・・マニュアル道理に対処しただけですから・・・別に・・・」

「記者会見でも言ってましたけど、香藤さんはいざとなったら自分が岩城さんを守るんだった

って、仲良いですよね。あの時もそんな感じでした?」

岩城を守る香藤・・・。佐久間の中に嫉妬が沸いた。

「いいえ、そんな感じには全然見えませんでした。」

「そうですか。じゃあ、どんな感じに見えました?佐久間さんはずっと二人を見てたって事か

な?」

「いえ・・・そんな・・僕は・・・」

佐久間の顔は見る見る真っ赤になると、俯いてしまった。

ちょうどお昼休みの時間も終わり、周りの社員もそれぞれ仕事に戻り始めたのをきっかけに

佐久間も席を立った。

「もう・・行かないと・・」

「すいませんでした、休憩時間に押しかけちゃって、あの・・・」

挨拶もそこそこに、急いで食堂を後にした佐久間は忘れ物をした事に気がつかなかった。

「あっ、佐久間さん。これ・・・・」

それは小型のスクラップブックだった。

漆崎が手にした時、写真の切抜きが一枚落ちそうになったので元に戻そうと広げると、中身は

すべて香藤の記事と写真の切り抜きだった。しかも中には岩城の顔を塗り潰している物まで

ある。

「おやおや、まるで昔の俺だな。でも、ちょっと重症だな。んっ?この写真は・・・」

香藤のたくさんの切抜きの中に古い一枚の写真が紛れていた。

それは10年前の香藤と佐久間・・・九十九里浜で撮った写真だった。

何かを感じ取った時の記者特有の勘、漆崎のアンテナが反応した。


『なんか、忙しくなちゃったな。』





マネジャーの清水に案内されて控え室に入ってきた男は40代半ばの紳士だった。

「私、エレベーター管理センターの早川と申します。この度は大変ご迷惑をお掛けしまして、

本当に申し訳ありません。」

「いえ、こんなに大きな事件になるとは自分たちも思っていなかったのですが、記者会見を開く

ことになってしまって。」

「今回お二人に開いていただいた記者会見で、私どもの会社の緊急事態の対応が良いと

お言葉をいただいて、本当に助かりました。」

「それは事実を言ったまでですよ。ケガもありませんでしたし。」

「そこで、大変厚かましいお願いだとは存じておりますが、今度私どもの会社のCMを作る事に

なりまして、是非岩城さんにナレーションをお願いしたいと。」

「ナレーションですか。」

「ええ、セキュリティーシステムの説明とでも申しましょうか。この度のような事態になった時

どんな安全装置が働くかです。岩城さんも話されたインターホンの使い方やエレベーター内を

カメラでの監視している事などです。」

「エレベーター内をカメラで監視しているんですか?では・・・あの時も・・・監視されていた

訳ですか?」

「ええ、あの高層ビルは大手の企業が入っていますので24時間体制でエレベーター内の監視

はもちろん、犯罪に関わった場合のために、すべてビデオに録画されています。」

「えっ、録画・・・されてると言う事ですか?」

『なんて事だ。俺たちがビデオに録画されていたなんて。』

岩城の顔色が恥ずかしさで赤くなるどころか青くなり始めていた。

「岩城さん、どうかなさいました?お顔の色が悪いようですが・・・」

「その・・ビデオですが・・・誰かの手に渡るとか・・・公開されるような事は・・」

「社外に持ち出される心配はありませんのでご安心ください。」

「そうですか・・・」

「通常は1ヶ月の保管ですが、今回の様な場合は3ヶ月保管します。今後の対策のために

研修資料に使われる場合もありますが、お二人の場合は有名な芸能人ですから、そんな事

はまずないと思います。万が一使わせていただくことになっても事前に許可をいただいた場合

だけです。」

「それは困ります。研修とか資料とか絶対に困ります。今までも洩れるはずの無い所から個人

の情報が出てきたりしているので、信用していない訳では無いのですが、安全のためにこちら

にビデオを渡して貰えませんか?」

「いや、そう急に言われましても・・。私の判断だけで今ここでお返事することは出来ません。

ただ、事件性はない訳ですから、何とか出来ない事もないと思います。少しお時間をいただけ

ればお返事できますが。」

「是非、お願いします。出来るだけ早く。」

ますます、岩城の顔色は悪くなったのに気づいた清水は時計を見た。

「申し訳ありません、早川さん。岩城は記者会見の後で疲れておりますので。この辺でお引取

り願えますか、ナレーションの件は所属事務所の方から連絡しますので。」

「そうですか、どうもお疲れのところありがとうございました。では失礼します。香藤さんにも

よろしくお伝え下さい。岩城さん、ビデオの件はまた改めてご連絡します。」

「はい・・。」

「岩城さん、出口までご案内してきますので。」

「ええ・・・。清水・・さん。」

岩城は思うように声が出せなかった。


『あの時の俺たちが、誰かに見られていたなんて・・・』






会社への帰り道、車を走らせながら早川は満足していた。

今回岩城の元に訪れるのは本来ならば彼の仕事ではなかったが、岩城に会ってどうしても

確かめたい事があったのだ。

何も知らずにあのエレベーター内で抱き合っている二人のビデオを見た時は驚いた。

しかし自分の身体の中に、今まで感じた事の無いあの熱く疼いたもの・・あれは一体。

それを知るためにわざわざCMの話を持ち出し、社内に手を回してやって来たのだ。

そして今日、そこまでしても来た甲斐があるほどの岩城の美しさと色香を目の当たりにして、

答えは簡単に出た・・・あの時自分は岩城に欲情したのだ。

『普段でもあの色っぽさを漂わしているのだ、あのビデオの様に抱いたら・・・あの悩ましげな

細い腰、滑らかで透き通るような白い肌、濡れた赤い唇・・・抱きたい岩城京介を、今すぐに

でも・・・』

早川は人気のない場所に車を止めた。手早くズボンのベルトを外すと、痛いほど張り詰めて

硬くなった男根を握り熱い欲望を自身の手で放った。

「うぅっ・・あっ・はぁはぁ・・岩城君・・君の中だったらどんなにいいだろうねぇ。」

例のビデオのコピーは早川の手元にあった。しかしその後、オリジナルのビデオの行方が

分からなくなっていた。


『まあコピーでも誘き出すには十分役に立つか。後はどうしたら岩城京介を・・だな。』




車を社用の駐車場に止め正面玄関に向かっていると、退社しようとしている佐久間が、男に

呼び止められ今にも逃げ出したいように困った顔をしていた。

「佐久間君じゃないか。」

「あっ・・、早川部長・・・」

「どうしたんだね?」

「・・この人・・芸能記者なんです。」

「いえ、忘れ物を渡すついでにちょっとお伺いしていただけす。」

「芸能記者・・・困るな。何を話したのかな?佐久間君。」

「・・何も・・話して・・・ません・・」

早川は頷くと、漆崎を睨んだ。

「君、困るねこういう事は。」

「そちらに迷惑のかかるような事は何もお聞きしていませんよ。」

「だがね、本人も嫌がっているじゃないか。お引取り願おう。」

「仕様が無いな・・分かりました。」

漆崎は佐久間の傍によると優しく言った。

「もし香藤さんと会いたくなったら必ず連絡して、携帯番号名刺にあるから。いいね、僕は必ず

君の力になれるよ。」

俯いた儘で動かずにいる佐久間のポケットに自分の名刺を押し込んだ。

「それじゃ、どうも失礼しました。」

そう言うと漆崎は、渋々その場を後にした。

「悪いが、今聞こえてしまったんだ。香藤さんというのは、あの香藤洋二の事かね?

佐久間君。」

「あ・・・はぁ・・・」

「君は香藤洋二のファンなのか?」

「・・・・・」

佐久間は漆崎から返してもらったスクラップブックと香藤の写真を握り締めて、何も言わず

頬を赤く染め俯いていた。

その時、これは思わぬチャンスが舞い込んで来たのかも知れないと、早川は思った。

「実は今日、例のビデオのことで岩城京介に会ってきたんだ。」

「えっ!」

驚いて目を見開き顔を上げると早川を見た。

『そうか、オリジナルは佐久間が持ってるんだな、という事は・・・。』

「本人は個人的なビデオなので外部に漏れるのを大変気にしている様子でね、すぐにでも

渡して欲しいとの事なんだ。これから上の人間と掛け合う事になるが、まあ問題なく明日に

でもビデオは渡せるだろう。さてと、そろそろ戻らなくては、気をつけて帰りたまえ佐久間君。」

佐久間はビルに入ろうとしている早川を慌てて呼び止めた。

「あっ・・あのぅ・・・」

「んっ、なんだね。」

「その・・ビデオは・・明日渡すのでしょうか・・・」

「ああ、そういう事になると思うが・・何故かね?」

「いえ・・・別に・・・」

「じゃ、お疲れ様。」

「はい・・お先に・・失礼します。」

佐久間は踵を返すと駅に向かって走りだした。

『急がなくちゃ。夜勤が交代する前、20時30分迄にビデオを保管室に戻さなければ。』

駅へと走って行く佐久間の背中を見届けると、早川は携帯を取り出した。

「もしもし。私エレベーター管理会社の早川と申します。岩城さんにご依頼された件で、ご連絡

いただきたいとお伝え願えますか。ええ、多分お急ぎだと思いますのでこの携帯に連絡して

いただいた方が、はい。では、失礼いたします。」

携帯を切ると、口元に薄っすらと笑みを浮かべた。



『あんなに欲しがっていたビデオだ、岩城君からすぐに連絡してくるだろう。まさかこんなに早く

君を抱ける時が来るとはね。』






「ねぇ、まだ届かないの俺の衣装。」

「すみません香藤さん、もう届きますので。」

次回の主演映画の衣装が原作者のイメージと違うとの事で、18時に終わる予定の衣装合わ

せが何時になるか分からないという状況になっていた。

いつもは文句ひとつ言わない香藤だが、今日は傍目で見ても分かる程苛立っていた。

今朝の記者会見の後、岩城のとても疲れていた様子と得体の知れない薔薇が岩城宛に送り

つけられて来ることが、香藤には気になって仕方がないのだ。

『大丈夫かな岩城さん。家に帰って休んでるかな、戸締りちゃんとしたかな・・・今電話したら

休んでるとこ起こしちゃうかもしれないし・・・』

「うーん、やっぱダメだ。声聞かないと安心できない。」

呼び出し音が長く続き、なかなか出ない携帯に寝ているのならいいが・・・と、心配していると

寝起きのような声で岩城が出た。

「良かった。あっ、ごめん。岩城さん寝てたんだね。」

「ああ、香藤。いつの間にか寝ていたようだ。仕事終わったのか?」

「ううん、それが遅くなりそうなんだ。岩城さん大丈夫?」

「少し休んだら良くなったよ。」

「そう、よかった。終わったらすぐ帰るから。」

「分かった。あっ、香藤・・・あのな・・・」

「えっ、何?」

「いや、帰ってからでいい電話で話すことではないから。」

「なに?また何か送られて来たの?何なの岩城さん。」

「何も来てない。大した事じゃないから。じゃ、仕事がんばれよ。」

「うん、ありがと。また休んで、起こしてごめん。」

「じゃあな。」

岩城との会話を終えると、すぐ携帯のバイブ音が響いた。

「はい、香藤です。」

「香藤さんすみません、お仕事中ですよね?」

「なんだ漆崎か。急用か?携帯に直接掛けてくるなんて。」

「いえ、ちょっとお聞きしたいことがありまして。香藤さん、佐久間真治さんを知ってますよね。」

「佐久間真治?・・・ああ、佐久間か、懐かしい名前だな。地元の後輩みたいなもんだ。

で、なんでお前奴の事知ってんの?」

「それがいろいろとありまして、実は・・・」


「香藤さん、お願いします。衣装届きました。」

「あっ、はい。」


「漆崎、今忙しいんだ。1,2時間で終わるから後で掛け直してくれ、じゃあな。」


『佐久間真治か。確か10年ぶりぐらいだよな・・・元気にやってるのかな。それにしても何で

漆崎が佐久間を・・・?』






岩城はあれから自宅に戻り休んでいた。が、ビデオの事が頭から離れなかった。

そこへ家の電話が鳴った。マネジャーの清水からで早川からビデオの件で連絡が欲しいとの

伝言を伝えるものだった

「そうですか、電話番号教えて貰えますか。はい、はい。いえ、自分で頼んだ事ですから、

俺から連絡します。ありがとうございました、清水さん。」

岩城は早速自分の携帯から早川に連絡を入れた。

「はい、早川です。」

「岩城ですが、お電話をいただいたそうで・・・」

「あっ、岩城さん。連絡お待ちしていたんですよ。例のビデオお渡しすることが出来るようになり

まして。」

「そうですか、助かります。早川さん。」

「実は私明日から長期の出張に行かなければならないので、手元に置いておくのもと思いま

して、出来れば今日お渡ししたいのですが、岩城さんのご都合はいかがでしょう?」

「今からですか?」

「ええ、ご無理なら仕方ないですけど・・・」

「いえ、大丈夫です。」

「そうですか、それは良かった。早くお渡しした方がいいと思いまして。先日エレベーターが

止まったビルで何なんですが、あのビルの中に私どもの会社がありますのでロビーに21時

ではいかがでしょうか?その時間なら人目も少ないですし。」

「21時、9時ですね。分かりました。」

「ロビーでお会いしましょう。岩城さん。」

「はい、後ほど。早川さん。」


『7時半か・・・。香藤はまだ仕事中だな。遅くなるって言ってたし、とにかくビデオを返して貰え

ば済む事だ。香藤には後で連絡すればいい。』






監視用のビデオを戻すため会社の保管室には入るには、カードキーが必要だった。

佐久間のような平社員は勤務時間外に持ち出す事が許されていないので、誰か勤務中の

社員に頼まねばならなかった。

『誰に頼もう・・・この時間、誰がいるかな・・・』


「佐久間君じゃないか、忘れ物か何かしたのか?」

「あっ・・早川部長・・いえ・・あの・・」

無意識にビデオの入っている小さな紙袋を後ろ手に隠してた。

「丁度良かった。君に話があるんだ、ちょっと一緒に来てくれるか。」

「は・・はぁ・・・」

「大した事じゃない、すぐ済むから。」

仕方なく後について行くと、早川は保管室の前に立ちカードキーを使ってドアを開けた。

「この部屋に用があって来たんだろう。さあ、入りたまえ。」

早川は呆気に取られ立ち尽くしている佐久間の腕を取り部屋へ引き入れた。

「あ、あ、あの・・・早川部長・・これは・・」

「いや驚かせて悪かったね、君がビデオを返しにくると分かっていたんだ。」

「えっ、な・・ぜ・・?」

「私も見たのさ、そのビデオをダビングして何度もね。そう、君と同じ気持ちになったんだよ。

佐久間君は香藤君が好きなんだろう?ここだけの話、あのビデオを見て彼に抱かれたいと

思わなかったかい?」

佐久間は恥ずかしさのあまり耳まで赤く染め、俯いたまま身体を硬直させた。

「恥ずかしいと思うことではないよ。あの二人のセックスは凄かったからなぁ、現に私だって

あの岩城君の悩ましげな顔や仰け反る身体を見て、彼を抱きたいと思ったんだからね。

そこでだ、佐久間君。」

早川が優しく肩に置いた手に、佐久間は思わず身体をビクッとさせた。

「おいおい、そんなに怖がることではないよ。お互いに楽しめるいい話を提案しょうとしている

だけだよ。君は香藤君と、私は岩城君とね。どうだい、悪くないだろう?」

「洋ち・・・香藤さんと・・」

「ああ、そうだよ。あのエレベーターでの岩城君のように、君が香藤君の腕の中に。」

「・・どうすれば・・いいんです・・か・・」

「簡単なことさ、私が岩城君と会う同時刻に君は香藤君と会えばいい。その後二人っきりに

なってこの薬を飲み物に混ぜて飲ませれば、たっぷり好きなだけ愛してもらえるよ。」

早川は液体の入った小さなビンを佐久間の手に握らせた。

「これ・・って・・」

「身体に害がある訳ではないから心配することはない。私も試した事がある。媚薬とも秘薬

とも言うな、つまりセックスしたくなる薬だよ。身体が疼いて欲しくなるんだ。香藤君の逞しい

腕や胸が君の身体を抱きたくなるんだよ。抱かれたいんだろう、君だって。」

佐久間はゴクッと喉を鳴らすと、小さなビンをポケットに押し込んだ。

「早速だが、これからどこかで会うようにして欲しいんだ。出来るだろ?場所はこのビル以外で

頼むよ、時間は21時今夜9時以降が都合がいい。さあ、連絡してみたらどうだい。会いたい

だろう、香藤君に。」

携帯を持っていない佐久間のために、早川は自分の携帯を差し出した。

佐久間は携帯を受け取ると、名刺を取り出し震える指先で漆崎の携帯の番号を押した。


「はい、漆崎です。」

「・・・もしもし・・あの・・佐久間ですが・・」

「えっ、佐久間さん?」

「あの・・洋・・・香藤君と会わせてくれるって・・本当ですか?」

「もちろん、力になるよ。佐久間さん、香藤さんの後輩になるんでしょ。」

「ど、どうしてそれを・・・」

「香藤さんにちょっと聞いたんだ佐久間さんの事、後でまた話すことになってる。」

『洋ちゃん、僕のこと忘れなかったんだね。やっぱり僕のこと・・・』

「会えないかな、佐久間さん。聞きたいこともあるし。」

「香藤さんに・・会わせて貰えるなら・・・」

「今すぐには返事できないけど、香藤さんと連絡取ってみるよ。必ず力になるから。」

「・・・○○公園の噴水の前に行きます。9時に・・・」

「分かった、じゃ必ず行くから。佐久間さん後でね。」



『洋ちゃんに会いたい・・・洋ちゃんに抱かれたい・・・』

佐久間の頭の中はもう香藤の事しか考えられなかった。



『これでいい。準備は出来た。』

早川は舌舐めづりをしながら小さなビンを見つめると、フッと淫靡な笑みを浮かべた。







おわり(爆)    ・・・つづくです;;

kaz
戻る BACK NEXT うひゃあぁvvv 
事態が動きました!
さあ、どうなるんでしょう?!
この先が、めっちゃくちゃ、
気になるんですが!