Much Ado About Nothing 13








「あー、眠みー・・・。」

ホテルのダイニングの椅子から、ずり落ちそうになりながら、

香藤が大きな口を開けて欠伸を洩らした。

隣の椅子では、ニキがテーブルに頬を付けたまま、座っている。

「だから言っただろう?程々にしておけって。」

突っ伏したままのニキの髪を、左手で撫でて、

岩城が呆れたように言った。

「だってさー。」

他の招待客達が、それぞれテーブルに付き、

その三人を笑いながら眺めていた。

「なに、お前、その顔?」

「なにって、なにがー?」

ネルソンが入ってきて、香藤の寝惚け顔を指で弾いた。

「貫徹?」

「うー。」

「色っぽいことして、って顔じゃないな。」

笑いながらネルソンが、香藤の隣に座った。

「まぁ、ね。ニキとさ、」

「うん?」

「ゲームしてた。」

「は?」

「レーシング・ゲーム。ニキが家から持って来ててさ。」

「・・・お前、馬鹿?」

「なにがだよ?!」

ネルソンが肩を竦めて、岩城に視線を向け、また香藤に戻した。

「結婚式の夜だぜ?初夜じゃないだろうけど、初夜だろ?

その夜に、子供とゲーム?一晩中?嫁さん、ほったらかして?

健全すぎだろ。餓鬼じゃないんだからさ。

それ、馬鹿って言わなくてなんて言うんだよ?」

「うるさいなー、ちょっとだけのはずだったんだよ!」

香藤のその叫びに、周囲が吹き出した。

ネルソンは、思いついたように頷いて、顎をとんとんと叩いた。

「はーん。負けたんだ?で、引っ込みつかなくなった、と。」

「・・・ほっとけ。」

「災難だな、ニキが。」

そこで、ニキがむく、と眠気顔を上げた。

「だって、だでぃ、うんてん、へたなんだもん。」

一瞬の間のあと、香藤とニキ以外が、盛大に爆笑した。

「へぇー、そんなに下手なのか、こいつ?」

ネルソンが、笑い声のままニキの方へ顔を寄せた。

「うん。いきなり、だいいちこーなーで、くらっしゅしたの。」

「げほっ、」

咽るように笑い出すネルソンを、香藤は睨み付けて、

その後頭部を叩いた。

「痛ってぇな!」

「うるさい!笑うな!」

「で、ニキ、他には?」

「ほかー?えーとねー、すっごいおそいしー、

なんにもないとこで、すぴんするしー、」

「うーわ、下っ手くそぉ、お前。チャンピオンのくせに。」

「お前なぁ!ニキ、もう言わなくていいから!」

「だって、ぼく、だでぃでやりたかったのに!」

「あら?誰でやったんだ、ニキ?」

「ねるそん。だでぃが、ねるそんでやれって。」

「ほー、それで、俺に負けて、むかついたわけだ?」

「・・・うるさいって。」

「子供相手に、まじになっちゃった?」

周囲の爆笑の中、香藤は膨れっ面で、黙りこんだ。

その香藤の頭を、岩城が手を伸ばしてニキ越しに撫でた。

「まぁ、負けたものは仕方ないだろ?」

「そうだけどさー。」

「ほら、ニキも。顔上げて。朝飯だぞ?」

「はーい。」






「で、キョウスケは何してんたんだ?」

「ああ、俺はゆっくり寝させてもらったよ。」

岩城がにっこりと笑った。

「この二人、ほんとに貫徹したのか。」

「いや、どうだろうな。今朝起きたら、俺を挟んで寝てたからな。」

ネルソンがその光景を想像したのか、

一瞬ぽかんとした表情を浮かべて、次に、ぷ、と吹き出した。

「・・・なんだかなぁ。」

「そうだな。」

岩城が、ふんわりと笑ってネルソンを見返した。

「家族って、いいもんだな。」

「は?」

「子供みたいに眠ってるこいつ見て、ニキがいて。

いいもんだと思ったんだ。」

その岩城が浮かべる微笑に、

少し離れたテーブルにいた雅彦が、嘆息した。

同じテーブルについていた香藤の父達が、雅彦に視線を向けた。

「ああ、いや・・・。」

少し言いよどんで、雅彦は口を開いた。

「ああいう顔をする京介を、見たことがなかったので・・・。」

「ああいう顔?」

香藤の母、美江子が、岩城を見て、ふと微笑んだ。

「ええ、幸せそうな顔だと思います。」

「それは・・・。」

洋一が言いかけて、雅彦は頷いた。

「あいつが、それでいいなら、もう私が言うことは何もありません。」

雅彦はそう言うと、少し姿勢を正して、香藤の両親に頭を下げた。

「申し訳ありません。息子さんを殴りました。」

「いやっ、それは、」

洋一が苦笑して首を振った。

「謝られることはありませんよ。殴られて当然です。」

少し笑った雅彦は、もう一度頭を下げた。






「なんて言うか、なぁ、」

「なんだよ?」

ネルソンの溜息交じりの声に、香藤は食べかけた手を止めた。

「お前、マジで幸せもんだよなぁ。」

「んなこたぁ、言われなくてもわかってるよ。」

「ほんとかよ?」

もぐもぐと口を動かしながら、香藤は隣に座るニキと、岩城を眺めた。

半分眠りかけたニキを、岩城が宥めながら食事をさせている。

大きな欠伸をするニキの髪を撫でる岩城の頬に浮かぶ笑みを見て、

香藤もまた微笑んだ。

「・・・マリアだな。」

ぼそり、とネルソンが呟いた。

「え?」

振り返った香藤を、ネルソンが意外なほど真面目な顔で見返した。

「マリアだ、つったんだ。」

「マリア?」

「マドンナ・マリア。キョウスケの顔。」

ぱちぱちと瞬きをして、香藤はネルソンを見つめ、にやり、と笑った。

「今更だな。」

「あ?」

「そんなの、今更だって。」

「・・・けっ。」

ネルソンが舌打ちをして視線を外し、無言のまま食事を続けた。

それを横目で見て、香藤は笑い声を上げた。






帰って行く招待客達を見送り、

もう数日ホテルに泊まる香藤の父や兄達が部屋へ戻った後、

ロビーのソファで、眠りこけたニキを抱き上げて、

ロビンは香藤を振り返った。

「今日は、うちへ連れて行くよ。」

「いいの?」

「かまわんさ。ゆっくりしたいだろ?」

問い返す香藤に、ロビンが意味ありげに笑った。

「ありがと、ロビン。」

笑い返す香藤に、岩城は少し苦笑すると、

眠ったままのニキの髪をそっと撫でた。

自宅まで、ロビン達と歩き、

玄関前で去っていく彼らに手を振ると、二人は中へ入った。

岩城が鍵をかけ、振り返ろうとした。

と、いきなりぐい、と腕をとられ、ほとんど引き摺るように、

リビングへ連れ込まれ、ソファに投げ出された。

「こ、こらっ!お前な、」

全部を口にする前に、その唇は香藤に塞がれた。

絡め取られた舌に、抵抗しかけて、岩城はそれを差し出した。

貪るように岩城の唇を味わいながら、香藤は彼のネクタイを外した。

シャツのボタンに手をかけると、熱い息を漏らして、

岩城は香藤がそれを脱がせるのに任せた。

夢中で吸いあった唇を放した頃には、

岩城はすでに何も身につけておらず、

それに気付いて彼は、ふっと笑った。

「なに?」

「お前も脱げ。」

そう言われて、香藤は満面の笑みをこぼした。






岩城の裸体を見下ろしながら、

香藤はシャツとズボンを脱ぎ、床へ投げた。

下着に手をかけ、ソファに膝立ちをした。

香藤の膨らんだ股間に目を止め、岩城がそれに手を伸ばした。

「窮屈そうだな。」

岩城が、下から上へと撫で上げた途端、それは、どくり、と嵩を増した。

岩城は、一瞬、目を見張り、香藤を見上げた。

ふふ、と笑い、岩城は下着の腰の部分へ、

両人差し指を入れ、それをゆっくりと下げた。

ぶるん、と音がしそうな勢いで、香藤のペニスが現れた。

岩城は、それを見て目を細めて笑い、顔を近付けた。

ソファの上に、四つん這いになった状態で、

香藤のペニスに片手を添えて、その先端をぺろりと舐めた。

それを上から見ていた香藤は、額に手を当てて、天井を仰いだ。

「うあー、岩城さん、色っぽ過ぎ。たまんない。」

「んー?」

「ひえ・・・。」

ペニスを銜えたまま、

岩城がちらりと上目遣いに香藤を見上げた。

その岩城と目があって、

香藤は呆然と自分が出入りする岩城の唇を見つめた。

「・・・鼻血出そ。」

ちゅぷ、と音を立てて、ペニスから唇を放し、

尖らせた舌先で舐めあげる岩城に、

香藤はその肩を掴んで彼の身体を引き上げ、唇を塞いだ。






「・・・ふぅんっ・・・」

ソファの肘掛に背を預けて、岩城が仰け反った。

桜色に上気した白い肌に、

二つの茜色の乳首が浮き上がるように、しこっている。

その乳首を、キャンディを舐めるように、香藤が吸い上げた。

「・・・んぁっ・・・」

刺激を与えられるたびに、岩城の身体が揺れる。

香藤の片腕が腰を巻き込んで、

ソファからずり落ちそうになる身体を支え、

もう片方の腕は、岩城の股をくすぐるように撫でていた。

「・・・はんっ・・・」

指先が後孔を掠めて、岩城の足が震えた。

床に膝をついて、ソファの上の岩城を眺めながら、香藤は笑った。

「疼いてる、ここ?」

とんとん、と入口を指で叩いて、岩城の顔に唇を寄せた。

荒い息をついた岩城は、その顔を見上げて睨んだ。

「わかりきったことを聞くな。」

「だよねー。」

蕩けた顔で答えると、

香藤は岩城の腹に零れた雫を指に付け、後孔を撫でた。

「・・・ふっ」

文句を言いかけた岩城の唇を、舌で絡め取りながら、香藤は指を沈めた。

「・・・ふぁ・・・んぅ・・・」

挿いってくる指に、岩城の喉が鳴った。

咥内を縦横に舐められる、じんわりとした快感と、

後孔への刺激に、岩城の身体が熱を持った。

「あぁっ・・・」

奥を探る指が柔襞を引っ掻き、岩城は思わず喉を晒して声を上げた。

その岩城を上目で確認しながら、香藤は唇を項に埋めた。

「・・・んぁっ・・・あっ・・・」

香藤の首に腕を回し、後孔を掻き回す指に、

岩城は声を堪えることなく喘いだ。

立ち上がった乳首を口に含んで強く吸うと、岩城の声が高まった。

「・・・あぁっ・・・んんっ・・・」

とろとろとペニスから雫が零れ、棹を伝わって落ちた。

それを横目で見て、香藤は指を引き抜くと、

岩城のペニスに指を絡めた。

「ふあっ・・・」

仰け反る岩城に、蕩けそうな顔をして、

香藤は濡らした指を再び後孔へと挿し入れた。

「・・・んぅっ・・・」

入ってきた指に、岩城の腰が香藤の手に擦り付けるように震えた。

後孔を拡げ、二本の指で壁を擦り、引っ掻き回した。

跳ねるように仰け反って、声を上げる岩城に、

香藤は笑みを浮かべながら、身体中に唇を這わせた。

「・・・んあぁっ・・・はんっ・・・」

ガリ、と床へ落ちた岩城の指が、そこを引っ掻いた。

それを聞いて、香藤がソファに乗り上がった。

「だめだよ、爪が痛むって。」

「・・・ん・・・」

息で答える岩城に、香藤は股間に顔を沈めた。

「あっ・・・あぁっ・・・」

大きく拡げた股間で、ぎゅ、と岩城の両手が香藤の頭を抱え込んだ。

濡れた音を立てて、口腔の中での愛撫に、岩城の腰が揺れた。

「・・・あぁっ・・・ふぅんっ・・・」

尖らせた舌で鈴口を捏ねると、一層腰を捻って、岩城は身悶えた。

「・・・ひぁあっ・・・」

仰け反らせた顔を左右に振って、

抱えた香藤の頭を股間に押し付けるように手が動いた。

「・・・もぉ・・・ッ・・・出るっ・・・」

「いいよ、イって。」

銜えたまま、香藤が促し、先端を吸い上げた。

「うあぁっ・・・」

放たれた岩城の精を飲み下し、香藤はそのまま竿を舐め清めた。

肩で息をしながら、その舌の這う感触を追っていた岩城は、

無意識に膝を身体に引きつけた。

「ここに欲しい?」

それを見て、香藤が指を後孔に添わせて笑った。

「ああ・・・。」

染まった目元と掠れた声に煽られて、香藤はその唇に噛みついた。








     続く




     弓




   2009年1月31日
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