Storm in a tea cup 4










「珍しいね、岩城さんのジーンズ姿。」

「ああ・・・こっちに来たときからジーンズばかりだ。」

「ふーん。」

しげしげと滅多に見なくなった岩城の、洋装を眺めながら、

香藤は炉の傍に胡坐をかいた。

久しぶりに茶が飲みたいと言い出した香藤を、

岩城は庭にある茶室、「志登呂庵」へ伴った。

「やっぱり、俺は着物の岩城さんがいいな。」

そう言われて、岩城は少し困った顔をした。

「あのな・・・着替えてこようか?」

「え、いいよ。ごめん、気にした?」

「いや・・・お前がいないと、着物を着ようって気にならなくて・・・。」

俯き加減に答える岩城を、香藤は蕩けそうな顔で見つめた。

「嬉しいよ、岩城さん。」

「なにが?」

きょとんとして見返す岩城に、香藤はくすくすと笑い出した。

「なんだ?」

「ううん。」

首を振りながら、香藤は岩城を見つめた。

「じゃ・・・着替えてきて。」

少しの間、香藤を見つめていた岩城は、

頬を染めて、こくり、と頷いて立ち上がった。






戻ってきた岩城を、香藤は溜息をつきながら眺めた。

鮮やかな青藍の着物に、薄藍の羽織に着替えた岩城が、

炉の脇に座っている。

湯の湧きかけた音を聞きながら、

香藤はその冴えた横顔をじっと見つめていた。

「どうした?」

「うん、相変わらず綺麗だなぁ、と思って。」

「馬鹿。お前、そればっかりだな。」

「だって、ほんとのことだもん。」

そう言いながら、香藤は立ち上がり岩城の脇にしゃがみ込んだ。

肩を抱かれて、岩城はそっとその胸に寄り掛った。

「ごめんね、岩城さん。」

「俺の方こそ、すまん。

俺が、話をちゃんと聞かなかったのが悪い。」

首を振って、香藤はゆっくりと岩城に覆いかぶさった。

四畳半の炉を避けた、

一畳ほどしかない狭い空間に横たえられて、

岩城は思わず湯気の出かかった釜に視線を向けた。

「危ないぞ、香藤。」

「ごめん、止まんない。」

諦めたように笑って、岩城は畳に背を付けた。

ゆっくりと、香藤の唇が岩城の顔中に落とされた。

くすくすと笑う岩城の唇を捉えて、香藤は存分に貪った。

「・・・は・・・。」

濡れた唇で熱い溜息をついて、岩城は香藤を見上げた。

にこ、と笑うと、香藤は岩城の着物の裾を拡げて、

その両脚の間に座りこんだ。

白い脛をなで、膝裏に手を差し込んで、

少し持ち上げると、岩城がその両脚を立てた。

「・・・あっ・・・」

香藤の舌が腿を滑り、岩城の小さな声がした。

股間で、低い笑い声が聞こえた。

「なんだ?」

「うん。下着の痕が付いてる。」

言われて、岩城は苦笑を洩らした。

「この十日間、ずっと、下着穿いてたから・・・。」

「そうだよね。」

笑いながら、香藤は岩城の両脚を固定して、

股間に顔を埋めた。

その愛撫に揺らぎそうになる身体を、

岩城は必死で抑えていた。

「・・・んぁっ・・・」

香藤が岩城のペニスの先端を、ちろり、と舐めた。

岩城の顎が上がり、岩城は咄嗟に着物の袖を掴んで耐えた。

愛しげに舌を這わせ、吸い上げると、

岩城のペニスが怒張し、雫が零れた。

「・・・も、もう・・・っ・・・」

「いいよ、出して。」

すっぽりと先端を含んで、香藤は舌を絡めて追い上げた。

「ひぅ・・・」

岩城が顔を背けて、息を詰めた。

肩で息をついて額に薄っすらと汗を浮かべた岩城を、

香藤が顔を上げて覗きこんだ。

「してなかったんだ?」

「・・・当たり前だろう。」

岩城が染まった目元で、香藤を睨んだ。

「久しぶりなんだ。十日も一人で・・・寝られなかったんだぞ。笑うな。」

一瞬、ぽかんとして岩城を見つめた香藤の顔が、あっという間に崩れた。

「寂しかった?」

そう聞かれて、岩城はこくり、と頷いた。

嬉しげに、香藤は岩城の頬を一撫ですると、

再び、岩城の両脚の間に顔を伏せた。

「・・・ひぁっ・・・」

後孔に香藤の舌が差し込まれた。

縦横に蠢くそれに、岩城は唇を戦慄かせた。

捩れる腰に、岩城は顔を振り、

しゅんしゅんと音を立てる釜に気付いて、

身動きを止めた。

動かせない身体が、余計に体内に熱を篭らせ、

岩城は苦しげに息をついた。

仰け反った腹の上で、結んだ羽織の紐が揺れていた。

「・・・ふぅんっ・・・うぁっ・・・」

香藤の嬲る動きに、岩城の柔襞の一つ一つが蕩けた。

岩城の腿を抱え直そうとした香藤の手に、

ふと当たるものがあった。

それに視線を向けた香藤は、

悪戯そうな表情を浮かべた。

「いい、岩城さん?」

「あっ・・・ふっ・・・」

頷く岩城に、香藤は手に掴んだ茶筅の柄を、

そっと岩城の後孔に押し当てた。

「ひぃっ・・・」

びくん、と岩城の腰が跳ねた。

「・・・やっ・・・香藤・・・なに・・・」

ぐい、と差し込まれた硬いものに、岩城は悲鳴を上げた。

「押し置き、かな?」

くすくすと笑う香藤の声に、岩城が首を振った。

「ど・・・ど、して・・・ああっ・・・」

中を捏ねられて、岩城が仰け反った。

角が柔襞を抉り、痛みが走る。

舌と、指と、その異物で繰り返される愛撫に、

岩城は喉を引き攣らせた。

白足袋をはいた両脚の爪先が、

畳を噛むように縮こまり、岩城のふくらはぎが震えた。

「・・・んぁっ・・・」

顎を反らせたまま、

岩城は漏れ出る声を耐えようと唇を噛み締めた。

「駄目だよ、噛んじゃ。切れちゃうから。」

「・・・だっ・・・てっ・・・」

岩城が喘ぎながら、首を振った。

「誰・・・か、通ったら・・・」

「大丈夫だよ。」

「で、でもっ・・・」

抗議しようとして、香藤が捻った指に、岩城は声を詰まらせた。

「・・・ひぅっ・・・」

理性ではまずい、とわかってはいても、

香藤に馴らされた身体は、熱を上げ、香藤を求めた。

差し入れた茶筅の穂先を掴んで、

香藤は柔襞を擦るように、ぐるり、と回した。

「・・・んあっ・・・」

声を上げかけ、咄嗟に顔を背けて耐える岩城を、

香藤は意地悪げに眺めて、柄で中をかき回した。

岩城が必死で声を耐え、真っ赤に染まる顔に、

香藤が笑い声を上げた。

「声、出してよ。」

「・・・むっ・・・無理っ・・・」

瞳を閉じたまま、顔を振り、岩城は肩で息をついた。

すっかり立ち上がった岩城のペニスから零れた雫で、

茶筅が濡れそぼっていた。

「声出さないと、辛いの岩城さんだと思うんだけど?」

そう言いながら、香藤は柄を差し込んだままの、

後孔を舌でなぞった。

「・・・いっ・・・」

歯を食い縛り耐えていた岩城は、

表から微かな音が聞こえたような気がして、全身を強張らせた。

「・・・香藤ッ・・・人が・・・。」

「え?」

起き上がって耳を澄ませた香藤の耳には、

人の気配は感じられず、岩城を見つめると、首を振った。

「気のせいだよ。

誰もいないみたいだよ。」

岩城が口を開こうとした途端、

香藤は中に入れていた茶筅を引き抜いた。

「・・・んっ・・・」

仰け反った岩城を見ながら、

香藤は後孔に指を挿し込んだ。

「はぅんっ・・・」

ペニスをしゃぶり、中に入れた指で柔襞を満遍なく捏ね回した。

香藤が、知り尽くした岩城の身体を、追い上げると、

岩城の身体はひとたまりもなく融けた。

「・・・はぅっ・・・んあぁっ・・・」

びくびくと、岩城の後孔が蠢き、香藤の指を絡め取った。

「・・・あ、あ、あ、・・・んっ・・・」

揺らめく腰に、香藤は満足気に微笑んだ。

「・・・も・・・もぉ・・・香藤ォ・・・」

岩城の声に、欲情が滲んで、

香藤は岩城のペニスを舌から舐め上げながら言った。

「なに?」

「挿れてくれ、もう・・・。」

「でも、十日ぶりだからさ、まだ慣らさないとだめじゃない?」

「いいからっ・・・は・・・早くッ・・・」

香藤はくすくすと笑いながら、

岩城の中から指を引きぬいた。

両足を抱えて下を見下ろすと、

岩城の後孔がひくひくと収縮していた。

「・・・いやらしいね、岩城さんのここ。」

カァ、と頬を染めて岩城は香藤を睨んだ。

「動いてるよ、俺のこと欲しいって。」

「つ・・・つべこべ言ってないで、早く来いっ・・・」

「おっきな声出すと、聞こえちゃうよ?」

口を尖らせて香藤を見上げた岩城に、

遠慮も無く香藤はペニスを押し付けた。

「んはっ・・・」

柔襞を引き摺り満ちてくる香藤に、

岩城は咄嗟に傍にあった紫の袱紗を引き寄せ、それを噛み締めた。

「・・・うぅっ・・・うんっ・・・」

「気持ちいい・・・。」

香藤が岩城に重なり、ゆっくりと袱紗を岩城の口から取り上げた。

熱い息を吐くその唇を、思う存分吸い上げた。

「最高、だね。」

満面の笑みを浮かべて、香藤は岩城を見つめた。

「動くよ。」

「口・・・塞がないと・・・。」

「しょうがないなぁ。」

笑いながら、香藤は袱紗を拾い上げた。

「・・・ふぅっ・・・ふんっ・・・」

きつく眉根を寄せて、岩城は香藤の首にしがみついていた。

銜えた袱紗の間から、声が漏れる。

香藤の腰に白い両足が絡み、

突き上げられるのにあわせて、上下に動いた。

「・・・んんっ・・・ふあっ・・・」

香藤が、ペニスを先端近くまで引き抜き、勢い良く奥へ叩きつけた。

その動きに、岩城が顎を逸らせて仰け反り、口から袱紗が落ちた。

「・・・あぅんっ・・・んぁっ・・・」

岩城の引き攣った悲鳴が上がった。






「二人は茶室か?」

「はい、そうです。」

雅彦が、岩城と香藤を呼びに来て、

私室にいない二人を探して、ラウールの部屋へと来ていた。

「パリで、お茶立ててるって言ってたが、本当なのか?」

「ええ、たまにですが。」

ラウールが、たまにパリの自宅のダイニングテーブルで、

岩城が茶をたてている、と話した。

「バイオリニストに、お茶ってのは、なんともな。」

笑いながら言う雅彦に、ラウールは首を傾げた。

「ヨージは、日本人ですし。」

「まぁ、そうだが。」

不思議そうな顔をするラウールに、雅彦は少し笑った。

「みんなで飯を食いに行こうと思ったんだ。

茶室まで迎えに行くか。

ラウールも一緒に行くだろう?」

「はい、護衛ですから。」

そう答えるラウールに、雅彦は肩を竦めた。






「あの奥ですか?」

庭を歩きながらラウールが視線を向けた。

「素晴らしいですね、この庭。」

「ああ。家も庭も、すべてが道具みたいなもんだからな。」

「以前、カネコから、マダムは天才だと聞きました。」

「うん、そうだ。」

「・・・この庭、マダムみたいですね。」

ラウールがそう呟き、雅彦は驚いてラウールを見つめた。

「すがすがしくて、落ち着いていて、でも、艶があって。綺麗です。」

「いや・・・そうか。」

こほん、と咳払いをして、雅彦は頷いた。

茶室に近付いた二人は、微かな声を聞いて顔を見合わせた。

不審気な顔のまま歩き、二人は同時に足を止めた。

「・・・んぅっ・・・香藤・・・かと・・・香藤ォ・・・」

「愛してる、岩城さん。愛してるよ。」

「・・・あぁッ・・・も・・・もっとっ・・」

明らかな嬌声。

雅彦とラウールは横目を見合わせ、そのまま踵を返した。

母屋に戻りながら、雅彦が憮然として溜息を突き、ラウールは天を仰いだ。






「だいじょぶ、岩城さん?」

「うん・・・。」

岩城の懐にあった懐紙で、後孔を拭って、香藤はそっと唇を合わせた。

貪りあって、二人は脇に転がっていた茶筅と袱紗に気付いた。

袱紗は唾液でドロドロになり、くしゃくしゃになっていた。

ぬらぬらと光る茶筅を見て、岩城が顔を真っ赤に染めた。

「大変結構なお手前でした。」

香藤が笑いながら、岩城の額にキスをした。

それを、岩城は唖然として見上げた。

「・・・バカ。」





     続く




     弓




   2007年12月7日
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