尋ねきてみよ・・・   番外編 弐







「は?」

岩城が、信じられないものを見たように、

目の前の香藤を見つめた。

「だから!岩城さんのことが好きなんだよ。」

重ねて言う香藤に、岩城は呆然として固まった。

いつもの取り澄ました顔はどこへやら、

ぽかんとして口を半開きにしたまま、

声を発するのを忘れたかのような岩城に、

香藤は言い(つの)った。

「信じられないのは、わかるけどさ、俺は本気だから。」

「本気って、お前、自分が何を言ってるのか、わかってるのか?!」

「わかってるよ。」

「俺が、女にでも見えるとでも?!」

「そんなわけ、無いじゃん。」

「俺は、男だぞ?!」

「だから、そんなこと言われなくても、わかってるよ。」

「なら、なぜ?!」

見事なくらいのうろたえぶりで、

顔を赤くして声を上げる岩城を、香藤はじっと見つめた。

その視線をまともに見ていられず、岩城は顔を背けた。

「・・・俺は、お前より年上だぞ。」

香藤は、その紅色に染まった岩城の顔を見つめながら、微笑んだ。

「そんなこと、知ってるよ。」

「・・・お前、なんでそんなに思い込める?」

「仕方ないじゃない、可愛いって思っちゃったんだもん。」

「可愛いって?!」

驚いて、香藤の顔を正面から見つめる岩城に、

香藤はにっこりと笑った。

そこだけ陽の当たるようなその笑顔を、岩城は眩しげに見返した。

「今だって、岩城さんのこと可愛いと思うよ。

そんなに驚いて崩れた岩城さんなんて、

見たこと無い・・・年なんて、関係ないよ。

好きなものは、好きなの。」

「・・・ばっ・・・馬鹿なことを言うな・・・。」

岩城の表情が、ころころと変わる。

香藤はそれを嬉しげに見つめた。

眉を寄せて考え込む岩城に、香藤は静かに口を開いた。

「俺、年下だし、馬鹿なことばっかり言ってるから、

信じられないかもしれないけど、

俺が、岩城さんの家族になるから。

これからは、一人じゃないよ。

俺がいるから。」

はっとして顔をあげた岩城に、

香藤はもう一度にっこりと笑いかけ、腰を浮かせた。

「じゃ、俺、行くから。」

「・・・え?・・・」

「内裏の夜回りがあるんだ。」

右兵衛督(うひょうえのかみ)のお前が、か?」

「うん。御上からも、なんでそんなことって言われてるけど、

俺、じっとしてるの嫌いなんだよ。」

立ち上がりながらそう言って頷く香藤に、思わず岩城は微笑んだ。

「お前らしいな・・・送ろう。」




「気をつけてな。」

香藤は、玄関まで送りに来た岩城の手を取って、引き寄せた。

「・・・ちょっと、ごめん・・・。」

抵抗するまもなく、香藤に唇を奪われた。

岩城は、その腕に抱きしめられたまま、身動きするのも忘れそれを受けた。

驚きで見開かれていた岩城の瞳が閉じられ、香藤の背に手が回った。

深い口付けの後、啄ばむような接吻を、何度か繰り返し、

ようやく香藤は唇を離した。

「ありがと、元気、出たよ。」

「・・・馬鹿・・・。」

「じゃ、行ってきます。」

そう言って、軽く手を振って内裏へ歩み去る香藤を、

岩城は門の傍に(たたず)んで見送った。

香藤の姿が、角を曲がって消えると、そっと唇に指を触れた。

思いのほか、優しい香藤の接吻。

思い出して、岩城の体がぞくり、と震えた。






「・・・はぁ・・・。」

岩城の口から、嘆息が漏れる。

佐和が、それに気付いて忍びやかに笑った。

「・・・笑うな。」

「申し訳ござりませぬ。」

『・・・統領、三位殿のお出ででござる。』

一条の鬼の声がして、再び、岩城は深い溜息をついた。

佐和が、それを見て顔をほころばせた。

「・・・お前・・・嬉しそうだな。」

「はい、京介様のそのようなお顔、初めて目にいたしまするゆえ。」




「来ちゃった。」

「・・・来ちゃったって、言い方は無いだろう。」

「だあってさ・・・。」

庭を回って来た香藤が、子供のような顔をして廊下に座る岩城を見つめた。

「おいでなされませ。」

佐和が、瓶子を掲げて廊下に現れた。

香藤は、にっこりと笑って廊下に上がりこむと、岩城の正面に座った。

「昨日、言うの忘れてた。」

「なにを?」

「御上から、お礼。」

「・・・そんなもの、いらん。」

岩城が、面白くもなさそうに呟いた。

「近いうちに、お呼び出しがあるよ。」

「なんで?」

「だから、お礼だってば。」

岩城が、溜息をついて顔をしかめた。

「いらん、と言っておいてくれ。」

「無理だね。俺も呼び出されるから。」

香藤が瓶子を取り上げ、岩城に示した。

岩城の差し出す杯に注ぎながら、香藤はその顔を見つめた。

「・・・綺麗だね。」

「ぐっ・・・」

岩城が飲みかけた酒に咽て、片袖で顔を隠した。

「大丈夫?」

咳き込む岩城の背を、香藤は撫でながら笑った。

「そんなに驚かなくてもいいのに。」

「・・・馬鹿っ・・・いきなり、何を言ってるんだっ・・・。」

顔を真っ赤に染めて、岩城は香藤を睨んだ。

その顔があまりに可愛くて、見ている香藤が蕩けそうな顔をした。

「可愛い・・・。」

「いい加減にしろっ。」

「だって、可愛いんだもん・・・とても、年上とは思えないよね・・・。」

「うるさいっ・・・。」

岩城が、そう叫んだ。

と、二人の後ろから、ころころと笑う声が聞こえた。

「佐和!笑うな!」

「申し訳もござりませぬ・・・つい・・・。」

「ねぇ、佐和さん。可愛いよねぇ?」

「左様にござりまするな。」

岩城が、真っ赤な顔のまま黙り込んだ。

唇をへの字にゆがめる岩城を、香藤は(なだ)めるように肩に腕を回した。

「仕方ないじゃない。本当に、そう思うんだから。」

「・・・だから、やめろって・・・。」

岩城が、その腕から逃れようともがいた。

香藤は腕に力を入れ、逃すまいと抱きこんだ。

「言われたこと、ないの?」

「あるわけないだろっ・・・。」

「へぇ・・・俺、その方が信じられないね・・・もう・・・じたばたしないの。」

「お、お前なぁ!」

抱きしめられたまま、岩城は香藤を見上げた。

「俺のこと、嫌い?」

香藤の真剣な顔に、岩城は絶句した。

「・・・そ、それは・・・嫌い、じゃない・・・。」

「そ、よかった。」

心底嬉しそうな香藤の顔に、岩城の身体から力が抜けた。

「呑む?」

「・・・この格好のままでか?」

「いいね、それ。」

岩城の嘆息に、佐和の忍び笑いが聞こえた。






「・・・何を考えているんだか・・・。」

岩城が、廊下の支柱に背を預けて嘆息している。

ここ一月ばかりの間、夜回りがあるとき以外、

香藤は必ず岩城の邸へやってくる。

いくら冷たくあしらおうとも、

岩城を腕の中に抱いて、酒を酌み交わし、

可愛いだの、綺麗だのと繰り返す。

その、解け崩れそうな顔を思い出し、

岩城は羞恥で顔が火照るのを止められない。

今日も、香藤は来るだろう。

「・・・俺は、あいつをどう思ってるんだ・・・。」

そう、呟いたとき、庭の闇から声がした。

『・・・何を、(まど)いやる。』

「母者?!」

『・・・かの君ならば・・・。』

「ですが・・・。」

『・・・あの、陽の気、おことに相応しかろ。守ってくれようぞ。』

「・・・母者・・・。」

『・・・素直にお成り。おことの心の中を、見てみよ。』

「・・・・・。」

闇の中で、優しく笑う声がした。

「母者・・・父者は?」

『・・・居られるよ・・・黄泉路においでじゃ。』

岩城は、母が父に正体を見破られ、去る直前に書き残した歌を思い出した。


・・・恋しくば 尋ねきてみよ 和泉なる 信太の森の うらみ葛の葉・・・


仙狐と言われるほどの、能力の高い白面金毛九尾の妖狐。

故郷を追われ、海を渡り辿り着いた信田の森。

そこで、一人の美丈夫に出会い、一人、子を生した。

父は姿を消した母に会いにいき、岩城はその盟友であった陰陽師の

賀茂忠輔に預けられた。

「・・・父者と、今も?」

『・・・おお、共にある。離れられぬし、離れる気もない。』

岩城は、眉を寄せて俯いた。

『・・・のう、吾子よ・・・かの君は、

こなたを真に想うて居られるよ・・・それが、わからぬ吾子ではあるまい・・・』

「・・・母者・・・。」

『幸せにおなり・・・おこと次第ぞ・・・。』

ふ、と気配が消えた。

岩城は、じっと目を伏せて身じろぎもせず座っていた。



「どうしたの?」

やって来た香藤が、

伏し目がちの岩城の前に腰を下ろしながら、

心配げに眉を寄せた。

「いや・・・なんでもない。」

そう言って、岩城は顔を上げ、香藤を見つめて、微笑んだ。

「そ?ならいいけど。」

酒が進んだ。

岩城が、いつもより少し明るい顔でいることが、

その理由だったかもしれない。

相も変わらず、香藤は岩城を抱き寄せている。

岩城が、その胸に凭れて溜息をついた。

「なに?」

「・・・香藤・・・。」

「ん?」

「・・・今夜は、夜勤はないんだろう?」

静かな岩城の言葉に、

香藤は言われたことの意味がわからず、

その顔を見つめた。

頬を染めた岩城の顔に、

一瞬の後、香藤の瞳が驚愕に見開かれ、

その次に嬉しそうに綻んだ。

「いいの?!」

あからさまな期待に満ちた香藤の顔を、岩城は見ていられず顔を背けた。

「いやなら、いい。」

「いやだなんて言ってないでしょ?!」

いささか、ぶっきら棒な岩城の言葉を、照れ隠しとみて、

香藤がその胸から離れようとした岩城を、引き寄せた。

「ありがと。嬉しいよ。」




「・・・香藤・・・。」

岩城が、(しとね)の上に座り、香藤を見上げた。

香藤の手が、烏帽子を取り去り、髪を下ろした。

射干玉(ぬばたま)の黒髪が白い顔を縁取り、えもいわれぬ色香が漂った。

香藤の手が、まるで壊れ物を扱うように、

そっと着ているものを全て脱がせ、

自分も素裸になると、香藤は岩城を抱え、褥に横たえた。

ふわり、と、岩城の髪が褥に広がる。

「・・・綺麗だ、岩城さん。」

淡い灯りの中に、岩城の裸体が浮かんでいる。

間違いようもなく同じ性を持つ相手であるのに、

香藤はその姿をうっとりと見つめた。

雪のように白い肌。

ただ一つのほくろも、染みも見当たらない。

均整の取れた、無駄なところなど何一つないその身体を、

香藤は両腕に抱きしめた。

腕の中で、岩城が大きな息をついた。

微かに、震えているのがわかる。

「・・・岩城さん・・・可愛い・・・。」

「・・・何を言ってる・・・。」

岩城が戸惑ったように小さな声で呟いた。

「・・・なんだか・・・。」

「ん?なに・・・?」

「・・・信じられないな。」

「なにが?」

「・・・怖い・・・。」

香藤は、その岩城の頬に唇を触れ、微笑んだ。

「大丈夫。怖くないから・・・。」

まるで、年が逆転したかのような香藤の優しい眼差しに、

岩城は少し顔をしかめた。

「どっちが、年上だか下だか、わからないな。」

「・・・俺に、抱かれるの、いや?」

香藤が、心配げに顔を曇らせた。

岩城は、その顔を見上げて香藤の頬に手を触れた。

「・・・お前が、俺を抱きたいと言うんなら、俺は構わない。」

「嬉しいよ、岩城さん・・・。」

ゆっくりと、香藤の唇が重なった。

薄く唇を開き、岩城がそれを迎え入れた。

香藤の舌が、岩城の呼吸を奪うように彼の口腔内を犯した。

「・・・んっ・・・」

苦しげに、岩城の鼻から息が漏れる。

その、鼻にかかった自分の声に、岩城の頬に羞恥の色が上った。

香藤が唇を離したとき岩城の顔は、真っ赤に染まっていた。

香藤がくすっと笑うのを、岩城は下から睨んだ。

「・・・笑うな・・・。」

「ごめん。」

香藤の唇が、項を這う。

そうしながら、片手を胸に這わせ、飾りを捏ねるように指を這わせる。

「・・・ぁ・・・」

小さな声が岩城の口から零れ、

恥ずかしさに朱に染めた顔を背けて黒髪で隠そうとした。

が、それはさらに肌の色を際立たせただけで、

香藤は思わずゴクリと喉を鳴らした。

「・・・あ・・・は・・・ぁ・・・んっ・・・」

熱い息が、顔にかかる髪を揺らしている。

香藤がその髪を掻き揚げ、岩城の顔が灯りの中に晒された。

「・・・んっ・・・」

口元を、手の甲で押さえ顔を隠すように声を耐える岩城の耳元に、

香藤が囁いた。

「我慢しないで・・。」

恥ずかしげに目元を染めて見上げる岩城に、香藤は優しい瞳で微笑んだ。

「ここには、俺しかいないよ。」

「・・・そ・・・う、だけ・・・ど・・・。」

「だけど?」

「・・・自分が・・・信じられない・・・。」

岩城がそう言って、香藤の胸に顔を埋めた。

その岩城の耳に、香藤がくすりとこぼした笑い声が聞こえた。

「岩城さん・・・ほんとに、可愛い・・・。」

「・・・馬鹿・・・。」

ゆっくりと香藤の手が、肌をすべり岩城の茎を握りこんだ。

「・・・あっ・・・」

香藤の指が、岩城の茎を撫で上げ、摩り、揉みしだく。

それにつれて、岩城の様子が変わっていく。

白い肌に朱が上り、熱い息を吐いていた岩城が、声を上げ始めた。

「・・・あっ・・・あぁっ・・・んんぅっ・・・」

岩城は、必死で声を抑えようとしていた。

初めて男に抱かれると言うのに、身体が香藤の愛撫に反応する。

その事に岩城はうろたえていた。

香藤の舌が胸の飾りを弄う。

すると、そこから甘い疼きが拡がり、

思わず胸を反らせ、はっとして体を捻じった。

岩城の身体が、香藤の愛撫に緩んだり、

羞恥の為に強張ったりを繰り返す。

香藤がそれに気付いて、岩城の耳に囁いた。

「恥ずかしくないから・・・」

「・・・でも・・・。」

「ん?」

「・・・こんな・・・。」

「ねぇ、岩城さん。俺には、本当の岩城さんを見せてよ。」

香藤のその言葉に、岩城の瞳が見開かれた。

何かを言いかけるように、唇が開かれ、言葉が出ずに震えた。

岩城の茎を弄る手をそのままに、香藤は、ゆっくりと唇を塞いだ。

深く口付けをしながら、香藤は指を岩城の蕾に潜らせ、

塞がれた唇の端から、岩城の息が漏れた。

「・・・んんっ・・・」

仰け反り、唇が外れ、岩城が眉を寄せて香藤の胸に額をつけた。

「・・・かっ・・・香藤っ・・・何を・・・。」

「何って・・・。」

くすり、と香藤が笑った。

そうしながらも、香藤の指は岩城の蕾の中へ沈んでいく。

「・・・あぁっ・・・あっ・・・んっんっ・・・」

咄嗟に上げた声に、自分で驚いて、岩城は手で口元を押さえた。

香藤の指が、中を探る。

岩城の内壁がその指を締め付ける。

「・・・あっうんっ・・・」

びくんっ、と岩城の体が震えた。

香藤の指が、岩城の中のその場所を捉えた。

岩城の反応を見て、香藤はそこを、撫で摩った。

「・・・あふっ・・・はんっ・・・」

繰り返し、そこを探り続けるうちに、さっきまで、

羞恥に震えていた岩城が、

腰を揺らし体をくねらせ、声を上げはじめた。

「・・・んんぅっ・・・あっんんっ・・・あぁっ・・・」

顔を左右に振るたびに、髪が褥の上でうねる。

熱い息を吐き、頬が羞恥とは違う紅色を浮かべる。

「・・・あっ・・・あぁっ・・・か・・・香藤・・・」

岩城が、ヒタ、と香藤を見つめた。

その顔に、香藤の喉がごくりと鳴る。

指を引き抜くと、岩城の腰を抱えた。

「・・・いい?・・・」

岩城が、肩で息をしながら微かに頷いた。

「・・・あうぅっ・・・」

香藤の茎が挿いるにつれて、岩城の上半身が、仰け反っていく。

際限まで開かれた、岩城の両足が、香藤の腰に絡みついた。

「・・・いいよ・・・岩城さん・・・。」

納めきった香藤が岩城を抱きしめ、その顔を見つめた。

「・・・愛してる・・・。」

「・・・香藤・・・。」

どちらからともなく、唇を求め、舌を絡ませあい、貪った。

「動くよ。」

香藤の声に、岩城が頷いた。

「・・・ああぁっ・・・」

岩城が、香藤の肩に腕を回して香藤の律動を受け止めた。

「・・・香藤・・・もっ・・・もっと、ゆっくり・・・。」

「ごめんっ・・・無理っ・・・。」

「・・・ひぃっ・・・はっ・・・あぅんっ・・・」

香藤の気が、岩城の中に流れ込んでくる。

嘘のない、言葉よりも雄弁な香藤の陽の気。

岩城の身体がその気に包み込まれた。

香藤のむき出しの心が伝わってくる。

・・・愛してる・・・

岩城の心が震えた。

言われたことのない言葉、感じたことのない情。

香藤を身体の中に受け入れ、岩城の眦に、涙が浮かんだ。

それを、香藤は唇で拭い、微笑んだ。

叩きつけるように動く香藤の茎が、岩城の柔壁を擦り上げる。

香藤の気が身体を押し広げる痛みさえ和らげ、

湧き上がる快感が岩城を翻弄した。

「・・・あぁあっ・・・はぅうっ・・・」

岩城の声が、跳ね上がる。

それを聞いて香藤の体が、余計にカッと熱くなった。

「・・・はっ・・・香藤っ・・・ああっ・・・」

腰を引き、探り当てた場所を、香藤は思い切り突き上げた。

「・・・ぁぐっ・・・うぅっ・・・」

眉を寄せ、岩城が香藤の腕の中で、喉を鳴らして呻いた。

ふ、とその顔を見て、香藤の目が見開かれる。

上気した、岩城の顔。

汗にまみれ、襲ってくる快感に、眉を顰め声を上げるその顔に、

欲情が露に見える。

閉じた睫が震え、頬に涙が流れ、唾液さえ伝っている。

日頃の、涼やかな顔からは想像もつかない、その淫らな顔に、

香藤の茎がどくん、と脈打った。

「・・・あっはぁっ・・・ああぅっ・・・」

「岩城さんっ・・・愛してるっ・・・。」

香藤の声に、岩城が薄っすらと瞳を開き、香藤を見つめた。

その頬に、微笑が浮かび、岩城は頷いた。

「・・・岩城さんっ・・・」

香藤は、岩城を抱えなおし強く律動し、岩城の声が切迫し始めた。

「・・・かっ・・・香藤ォ・・・もっ・・・もうっ・・・」

「うん、」

岩城が悲鳴を上げて仰け反り、二人の間に吐き出し、

香藤もまた岩城の中で果てた。

「・・・俺、すっごい幸せ。ありがと。」

香藤が、輝くような笑顔で岩城を見つめた。

「・・・馬鹿。礼なんて・・・。」

「だって・・・。」

岩城は、香藤の腕に抱かれながら溜息をついた。

「礼を言うのは、俺のほうだ・・・俺はもう、一人じゃないんだな・・・。」

「うん。俺が、いるから・・・岩城さんを、絶対に、一人にしないから。」

「絶対、か・・・。」

「そうだよ。この世に、絶対って言えることって、そうはないけど、

これだけは絶対だよ。」

岩城は香藤の顔を見上げた。

年下であることを忘れさせるような、香藤の真摯な眼差し。

「・・・香藤・・・。」

信じてみよう、と、岩城は思った。

香藤が岩城の身体から離れ、肩を抱いて引き寄せた。

「さぁて、大変だ。」

「何が、大変なんだ?」

香藤が、にこっと笑った。

「三日間、通わないといけないじゃん。

誰かに、夜回り替わってもらわないと。」

「はっ?!」

岩城が、思わず声を上げた。

「・・・当然でしょ?俺、結婚するつもりだから。」

「かっ、香藤!け、結婚って、お前?!」

「佐和さんに、頼むしかないか。」

「何を?!」

「何をって・・・三日夜餅(みかよもち)に決まってんでしょ?」

「・・・お前、本気か・・・?!」

「本気だよ。」

額に手をあてて、岩城は思い切り嘆息した。

「ねぇ、ここで佐和さんのこと、呼んでも聞こえるよね?」

「え?・・・まぁ、それは式神だからな・・・って、なんでだ?」

「うん。佐和さ〜ん!」

香藤が、起き上がって顔を上に上げて叫んだ。

『・・・はい。』

何処からか、佐和の返事がした。

「お餅、用意してね。」

『・・・もう、ご用意は整っておりまする。』

「佐和っ?!」

岩城が、慌てふためいて起き上がった。

それを横目に、香藤は、にこりとして頷き、岩城の肩を抱いた。

「ありがとう!じゃ、明日の朝よろしくね!」

(かしこ)まりまいた。』

「・・・だって。」

香藤が、くすりと笑って岩城の顔を覗き込んだ。

「なっ・・・。」

岩城の体から、力が抜けた。

褥にへたり込むように横になる岩城を抱きしめながら、

香藤がにっこりとして囁いた。

「これから、よろしく。」

盛大な嘆息をして岩城はその顔を見つめた。

「・・・参ったな・・・。」









                   〜終〜



                2005年4月11日





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