These are the days of our lives

        −チャンピオンの休日 11−








「ちょっ・・・やめろ・・・」

「いいじゃない、させてよ。」

香藤が腰を引き上げ、ベッドの上に四つん這いにされて、

岩城は顔をしかめた。

「俺とするの、いや?」

「そうじゃない。後ろからはいやだって言ってるんだ。」

「なんで?」

「なんでって・・・。」

背中の上に乗り上げられて、

岩城は枕に頬をつけて、少しむくれた顔をした。

「ねぇ、いいでしょ?」

香藤が熱い声で囁いた。

岩城は眉を寄せて下から香藤を横目で見ると、溜息をついた。

「・・・どうしてもか?」

「どうしても。」

尻に、はっきりと主張して、熱く滾った塊が当たる。

身体は疲れきっているはずなのに、岩城の後孔がそれに反応した。

じんわりと疼き始めたそこに、諦めたように岩城は頷いた。

「ほんと?」

「ああ、好きにしろ。」

香藤が、音を立てて岩城の頬にキスをした。

「ねぇ、岩城さん・・・。」

「ん?」

香藤がそっと背中を撫でた。

「自分で向こうを向いて、足を広げてみてよ・・・。」

はっとして岩城は顔を上げた。

首を捻って香藤を見上げると、岩城は真っ赤になって口を開きかけた。

「俺に見せて。俺を銜え込むところを、見せてよ。ね?」

「・・・ッ・・・」

羞恥に少し震えると、岩城は膝をついた。

肩をシーツに付けたまま、

ゆっくりと両手を後ろに回し、尻たぶを掴んだ。

それをじっと見つめていた香藤の顔が、

溶け出すのではないかと思うほど崩れた。

目の前に、真っ赤に腫れて熟した岩城の後孔が露わになった。

「嬉しいよ、岩城さん・・・。」

岩城の耳に、掠れた香藤の声が届いた。

それを聞いた途端、岩城の身体に甘い痺れが走った。

岩城が指で拡げた後孔に、香藤の息がかかった。

「・・・あっ・・・」

ぴちゃり、と香藤の舌が後孔を舐め、ゆっくりとそれが差し込まれた。

「・・・んぁっあっ・・・」

くい、と岩城の背が反り、尻たぶを掴んだ手に力が入る。

枕に肩を落として、震える岩城を香藤の舌が苛んだ。

「・・・はぅっ・・・あぁっんっ・・・」

ねっとりと柔襞を抉り、奥へと進む舌に、岩城の声が裏返った。

「・・・やぁっ・・・はんっ・・・」

背筋を駆け上がる痺れに、枕を抱え込んで岩城は腰を振った。

その弾みで抜けた舌に、香藤はくすりと笑った。

「ねぇ、挿いっていい?」

香藤が岩城の尻を撫でながら、囁いた。

「ばっ・・・。」

岩城が言いよどんで、香藤を振り返った。

「馬鹿なこと言うな、って?」

「わかってるなら、聞くな。」

「うん。」

頷いて、香藤は岩城の腰に手を添えて、先端を後孔に合わせた。

「・・・んぅっ・・・」

めり込んで来る熱い塊に、岩城が呻いた。

じんじんと疼く内壁が、香藤が進むにつれて歓喜に蠢く。

奥へと香藤が進み、岩城の身体がびくりと、震えた。

「・・・ぁッ・・・ぃ・・・たッ・・・」

微かな声に、香藤がふと眉を顰めた。

が、奥を穿った途端に溢れ出る岩城の喘ぎに、それはかき消された。

「あぁあっ・・・はんっ・・・んぁっ・・・」

打ち付ける香藤の楔に、岩城の背が波打ち、うねった。

落ちていた肩が、香藤の動きに翻弄されて揺れる。

「・・・あぁっ・・・いっ・・・」

「いい?」

香藤が熱い声で囁いた。

岩城は、断続的に息をしながら忙しなく首を縦に振った。

「あっ・・・もっ・・・香藤ォ・・・っ・・・」

岩城の喉から絶頂の悲鳴が上がった。

その岩城の中へ強かに吐き出して、香藤はそっとその背に重なった。






「ごめんね、岩城さん。」

香藤がバスルームで岩城を抱えて、こつんと額を当てた。

「・・・いいから・・・。」

自分の足で立つこともままならない岩城を、

香藤は抱きしめてシャワーを当てていた。

情けない香藤の顔に、岩城はふっと微笑んだ。

香藤が岩城の腰を後ろから、片腕で支えた。

壁のタイルに両手を付けて、

岩城は凭れ掛かると、ゆっくりと両足を開いた。

お湯が腿に当たり、ほっと息をついたのもつかの間、

後孔に熱い湯が入り込んだ途端、

岩城が悲鳴を上げて爪先立った。

「うあぁっ・・・」

「ど、どうし・・・。」

言いかけて、香藤ははっとして岩城の仰け反る後頭部を見つめた。

行為の最中、「痛い、」と漏らした岩城の声を思い出して、

香藤はとっさにその場にしゃがみ込んだ。

覗き込んだ後孔が、真っ赤に染まっていた。

「・・・いっ・・・痛・・・」

「ごめん!怪我させちゃった・・・」

眉を顰め、歯を食いしばる岩城に、香藤は愕然とした。




「・・・ごめんね、岩城さん。」

結局、その後、岩城は熱を出した。

香藤は慌ててシーツを取り替え、

岩城を寝かせて怪我の手当てをした。

額に冷却シートを貼られて、岩城は赤い顔で横たわっていた。

香藤がベッドの脇に座り込んで、顎を乗せて岩城を覗き込んだ。

「もう、そんなに謝らなくていい。」

「でもさ・・・。」

香藤の情けない顔に、岩城はぷ、と噴出した。

「お前、今日が何日か、わかってるか?」

「う・・・ん。」

ばつの悪そうな顔で見返す香藤に、岩城は少し眉をあげて見せた。

「1週間もベッドの中にいるなんて、今までやったことがない。

自分でも驚いてる。」

「ごめん。」

「オーストラリアでも、ぶっ通しじゃなかったしな。

なんだか、一生分、セックスした気がするな。」

「え〜・・・もういやだ、なんて言わないよね?」

「さぁ、わからんな、それは。」

澄まして答える岩城を、呆然として見詰めた香藤は、

慌ててその肩を揺さぶった。

「ごめんなさい!ごめん!だから、そんなこと言わないでよ!」

「わかった、わかった。」

ぽんぽんと香藤の手を叩きながら、岩城は声を上げて笑った。

そこへ、玄関のチャイムが鳴った。

「うわっ・・・やばい・・・。」

「え?」

「アビーだよ、岩城さん。今日、2日だから。」

「ああ、もう年越してたんだっけ・・・。」






「どうしたの、キョウスケ?

熱が出たって、ヨウジから今聞いたけど?」

「ああ、うん。ちょっとね。」

アビーが寝室に入ってきて、

喉元までブランケットを引き上げて、

横になっていた岩城の側に、椅子を引き寄せて座り込んだ。

枕元に丸くなっていたブレイクが、

むくり、と顔を上げてアビーを見ると、また目を閉じて丸くなった。

アビーはその額に手を当てると、難しい顔で岩城を見つめた。

「お医者さまは?」

「いや、行ってない。」

「どうして?!」

「その・・・たいしたことないから。」

「たいしたことないってわけないでしょ?

だめだってば、行かないと!」

「あの・・・病気じゃなくて・・・」

しどろもどろの岩城に、アビーが不審そうに見返した。

岩城は熱のためというには、

真っ赤な顔でその視線を受け切れずに逸らした。

「病気じゃなくて、怪我したんだ。それで、熱が出て・・・。」

「怪我ですって?!どこを?!」

「いやっ・・・そのっ・・・」

「手当てはしたの?」

「うん。香藤がしてくれたから。」

「また、なんで怪我なんか・・・。どこを怪我したの?」

真っ赤なまま口ごもる岩城に、

アビーは溜息をついて、

医者を呼ぼうとサイドボードの電話を取り上げた。

「あ、アビー!」

岩城が慌てて片手を伸ばした。

その拍子にずり落ちたブランケットから、パジャマを着た肩が現れた。

アビーの目がそれを捕らえ、驚きに見開かれた。

ぐい、とアビーの手が、岩城のパジャマの襟をつかんだ。

「これ、なに?!」

「あ、あの・・・、」

覗いている岩城の喉元から胸元に掛けて、

赤い痕が転々と散らばっている。

薄くなっているものや、まだ生々しい色を留めているもの。

痣になっているようなところまである。

アビーがその襟を広げて思わず唸った。

「なんなの、これ?ひっどいわね〜。また馬鹿みたいに付けて・・・」

そこまで言って、アビーははっとして岩城を見上げた。

「ちょっと、キョウスケ。まさかと思うけど、怪我って・・・。」

途端にまた一段と真っ赤になる岩城に、アビーの眉が攣り上がった。

「そうのなのね?」

トーンの落ちた声に、岩城はびくっと肩をすくめた。

「怪我するほど、されたわけ?」

「いや、されたっていうか・・・。」

アビーが不思議そうに首をかしげた。

何かを考えているような顔が、また少しこわばった。

「そういえば、洗濯物、全然ないんだけど、それって?」

「あッ・・・そ、その・・・それは・・・。」

絶句する岩城の顔を見つめて、彼女は頷いた。

「つまり、ずっとベッドにいたってことね?

だから、シーツとか、タオルの洗濯物しかないのね?」

ばつの悪そうな顔で、見返す岩城を、

しばらく黙って見つめていたアビーは、

「・・・なんてこと。」

その表情にすべてを悟ったアビーは、むっとして立ち上がった。






「あ〜、こら、ふざけるなよ、アクセル。」

香藤はリビングのローテーブルの上に、

岩城からプレゼントされたプラモデルのキットを拡げていた。

床に直に座り込んで、

プラスティックの小さなキットを枠から一つ一つ丁寧にはずし、

箱蓋の中に分けていた。

「ほら、岩城さんがくれたんだから、

ふざけて失くしたらどうすんだよ?」

わほわほと纏わりつくアクセルを、

片手で抑えながら笑っているところに、

アビーの叫び声が聞こえてきた。

「ヨウジ!!!」

「おわっ?!」

岩城に何かあったのかと思い込んで、

寝室へ走った香藤は、

ベッドの脇に仁王立ちになっているアビーに、驚いて立ち止まった。

「な、なに?どうしたの?岩城さんに何かあった?」

「なにかあった、ですって?」

アビーはベッドの中にいる岩城を指差して、怒鳴った。

「あったわよ!キョウスケに何かしたのは、あなたでしょうが!」

「へっ?!」

頓狂な声を出す香藤を、アビーは睨みつけていた。

その顔に、やっと思い至って香藤はうろたえて口ごもった。

「いやっ、あのっ・・・」

「ヨウジ、あなたキョウスケを壊す気?

いったい、キョウスケに何をしたのよ?!」

「なにって、わかるの?」

「当り前でしょ!痕だらけで!」

「なにって言われてもさ・・・好きなだけ、愛し合っただけだよ?」

ぽりぽりと頭をかきながら、悪びれもせず答える香藤に、

アビーは一段と声を上げた。

「それで〜!その挙句に、キョウスケは怪我して、

熱出して倒れたってわけ?!」

「あッ、それは悪かったって思ってるけど・・・。」

「けど?!」

岩城はその二人のやり取りを困った顔で見つめていたが、

そろそろと腕を伸ばすと、アビーの腕にそっと触れた。

「アビー、もうその辺で・・・。」

「なに言ってるの?」

アビーが驚いてベッドの上の岩城を見下ろした。

「こんなことされてるのに、庇うの?」

「いや、庇うっていうか・・・。」

「ヨウジ、愛し合うのもいいけど、

そのせいでキョウスケをやり殺しちゃったらどうするのよ?

もう、セックスできなくなるでしょ?」

「それは、そうなんだけど・・・。」

香藤を睨んでいたアビーが、岩城に視線を向けた。

「キョウスケも子供じゃないんだから、

いやならはっきり、いやだって言いなさいよ?」

岩城が少し首を傾げながら、

「うん・・・でも、いやじゃなかったんだ。」

と、ぽつりと呟いた。

それを聞いたアビーの口が、ぽかん、と開いた。

呆れ果てたように、アビーは肩をすくめて首を振った。

「もう、しょうがないわね、あなた達って!勝手にすれば?」

「ごめん、アビー。」

「別に、キョウスケが謝ることじゃないでしょ?」

香藤はじっと岩城を見つめていた。

黙ったまま、岩城に近寄ると、ベッドの縁に座った。

「いやじゃ、なかった?そうなの、岩城さん?」

「ああ、いやならそう言ってる。」

嬉しげに微笑んで、香藤は岩城の手を握り締めた。

見詰め合う二人に、アビーの方が顔を赤くして、天井を仰いだ。

「もう!暑苦しいわね!私、帰るわよ?」

「あ、ごめん!で、でも!」

「食事の支度くらいして行ってあげるわよ。

その代わり、ヨウジはキョウスケの看病すること。」






食事の支度を終えて、

ベッドルームの前まで戻ってきたアビーの耳に、

微かな、岩城の声が聞こえた。

「いいから・・・やめるな・・・」

「でも・・・」

「もう、こんなになってるくせに・・・」

密やかに笑う岩城の声に、アビーはその場に立ち尽くした。

「・・・いいんだ・・・俺が欲しい・・・」

その後、衣擦れの音が続き、再び聞こえてきた岩城の声に、

アビーは思わず口元を押さえた。

「・・・んぅ・・・あっ・・・ぁんっ・・・」

「うわ・・・」

アビーはそっとその場を離れると、外へと飛び出した。

凍るような空気が、熱くなった頬に心地良いほどだった。







「びっくりした〜。ほんと、色っぽくて。」

アビーが顔を赤くして喚くのをロビンは、

くすくすと笑いながら聞いていた。

「ヨウジが無理させたんだと思ってたけど、あれじゃ仕方ないわね。」

「でも、セックスしてみるまで、

キョウスケがそんな声を出すなんて、わからないだろ?」

「そうだけど〜、」

「って、ことは、ヨウジがキョウスケをそうした、ってことじゃないのか?」

「う〜ん・・・。」

アビーは、テーブルに頬杖をつきながら、じっとロビンを眺めた。

その視線に、ロビンは首をかしげてアビーを見返した。

「どんな男でも、やられたらそうなるのかしら?」

ぶっとロビンが噴出して、声を上げて笑った。

「そんなわけないだろ?

キョウスケにそういう素地があったんだと思うけどね。」

「ふ〜ん。」

「それに、キョウスケがヨウジに惚れたからだ、と思うがな?」

「愛情がないと、駄目ってこと?」

「自分に置き換えてみたら、アビー?」

「・・・あ、そうか。」







「大丈夫、起きて?」

「ああ、大丈夫だ。熱は下がったしな。」

岩城が服を着てゆっくりとベッドの端から立ち上がった。

香藤は腰に腕を回して岩城を支えると、リビングへ向かった。

「このジーンズ、お前のか?」

「へ?」

「なんだか、緩いんだが。」

「・・・。」

香藤が目をぱちくりとして、岩城の履いているジーンズを見つめた。

苦笑する香藤の顔を、岩城はきょとんとして見上げた。

「それ、岩城さんのだよ・・・緩くなったんだ。」

「なんで?」

「なんでって・・・体重が落ちたからだと思うけど・・・。」

「・・・痩せるほど、やったってことか?」

思わず顔を見合わせて、苦笑する二人の耳に、

電話の鳴る音が聞こえた。

「あ、俺が出る。」




『おはよう、キョウスケ。』

「あ、アビー。おはよう。」

『これから行くけど・・・』

アビーの声が、くすくすと笑った。

「どうしたんだい?」

『キョウスケ、ひどい声。掠れてて。』

「あ、はは・・・。」

アビーからの電話と聞いて、香藤が思わず苦笑した。

「怒られそうだね、また。」

「なんでだ?」

「岩城さん、痩せちゃったからさ。」

「ま、少し我慢するんだな。」

岩城は顔をゆがめる香藤の頭を、笑いながら撫でた。







     続く



     弓




  2006年11月19日
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