These are the days of our lives

         −チャンピオンの休日 16−








寝室に入って、岩城は黙ったままジャケットを脱ぎだした。

追いかけてきた香藤が、それを岩城から受け取ってハンガーにかけた。

さっさと下着姿になると、その場に棒立ちになる香藤を見ずに、

岩城はそのままバスルームに向かった。

「あの・・・岩城さん・・・?」

背中越しに、岩城は少し顔を後ろに向けた。

「入らないのか?」

その背を呆然と見ていた香藤は、慌てて頷いた。

「待ってて!」

「早くしろ。」




改装したバスルームに、日本式のバスタブが置いてある。

それに湯をはりながら、岩城はシャワーを浴びていた。

遠慮がちに入ってくる香藤に気付いて、岩城は湯を止めた。

一杯になったバスタブに、岩城は香藤の腕をつかんで引っ張った。

「入れ。」

「え?」

「冷え切ってるじゃないか。」

香藤をバスタブに沈めると、

岩城は香藤の背中を少し押して、バスタブに浸かった。

後ろから岩城が両手を回して抱きかかえると、

香藤は岩城に凭れかかってほっと息をついた。

「ごめんね、岩城さ・・・。」

「すまん、香・・・。」

くすり、と双方から笑いが漏れた。

ふと岩城は香藤の肩越しに、彼の腹に視線を落とした。

揺らぐ湯の下に、青痣になった腹が見えた。

岩城はそっと手を伸ばして、その痣を撫でた。

「すまん・・・。」

「いいよ、俺が悪いし。」

「え?」

「・・・リカルドのこと。」

ああ、と岩城は頷いた。

「黙ってて、ごめんね。」

香藤の詫びに、岩城は眉を寄せた。

「俺が怒ったのは、そういうことじゃない。」

「え?」

岩城は少し息を吐くと、ぽつり、と言った。

「お前、最初のとき、男は抱いたことがないって言っただろう?」

「・・・あれ・・・そうだっけ。」

こりこりと頭をかく香藤に、岩城は苦笑した。

「そんなもんだよな、普通は。」

「ごめん。」

「それはもういい。考えればそんなことわかるはずなんだ。

俺も、昔そういうことがあった。」

「そなの?」

香藤が首を捻って岩城を振り返った。

「ああ・・・でも、あの時はそんなこと思い出しもしなかった。

ただ、ムカついて・・・。」

「ごめんね。」

「いや・・・、」

「リカルドと話してたの、聞いたんだ?」

「ああ、出るに出られなくてな。」

「リカルドのことも、黙っててごめんね。」

岩城は香藤を見つめて、ふと笑った。

「彼を見て、いやな気分だったのもあるな。

俺とは違う、なんていうか・・・。」

香藤が首を傾げて、先を促すように岩城を見つめた。

「お前には、ああいう方が似合うんだと思ったんだ。

俺は、どう見てもお前と同じくらいの背があるし。

身体もそうだ。年も、俺はお前よりはるかに上だしな。

それに引き換え、彼は若くて、綺麗だ。」

「そんなこと関係ないよ。岩城さんは岩城さんだよ。

俺は、岩城さんがいい。」

「う・・・ん。」

「それに、リカルドは仕事でしてるわけだし。ぜんぜん違うよ。」

「ああ、わかってる。」

香藤が腕を上げて岩城の頬を撫でた。

「岩城さんと知り合ってから、俺、遊んでないよ。

それははっきり言える。」

「当たり前だ。そんなことしたら、俺は出て行くぞ。」

「わかってるよー。」

ちゃぷん、と音を立てて香藤はお湯を両手ですくうと、顔を濡らした。

「久しぶりに泣いちゃったよ。

岩城さんが帰ってこなかったら、って思ったら、すっごい怖かった。」

「すまん・・・ちょっと、人と会ってた。」

「だれ?」

不安そうな顔で香藤は岩城を見返した。

「ジュリアン。」

「ジュリアン・ビーチ?」

「ああ、そうだ。」

岩城はそう言ってくすくすと笑った。

「説教されたよ。贅沢ものってな。」

「岩城さんが?」

「ああ。彼と話してて、いろいろわかった。」

「そっか・・・。」

香藤がにこりと笑って、岩城の腰に腕を回して抱き寄せた。

「俺のほうが贅沢ものだよ、岩城さん。」

ちゅ、と音を立てて香藤は岩城の唇を舐めた。

「でもさ、」

香藤が岩城の項に唇を寄せて囁いた。

「なんだ?」

「やきもち、焼いてくれたんだ?」

「・・・いろいろだな。」

「いろいろ?」

「俺でいいのか、って気持ちと、俺に嘘をついたって腹立ちと、

やきもち、もあるんだろうな、多分。」

岩城の耳に、香藤がくすっと笑う声が聞こえた。

「嬉しいよ、それ。」

その香藤の顔をじっと見つめて、岩城が口を開いた。

「さっき、初めてお前のこと、可愛いと思った。」

「へっ?」

身体を入れ替えて、

香藤に後ろから抱きかかえられながら、岩城は笑った。

「アクセルとブレイク抱えて、座り込んでるお前を見て、思った。」

「やだなぁ・・・恥ずかしいじゃん。」

「お前だって、俺のことを可愛いって言うじゃないか。」

「そうだけどさ。」

「お前が俺のことを可愛い、可愛いって言うのが、

なんとなくわかった気がする。」

「そう?岩城さんは可愛いよ?」

「ばか・・・。」

苦笑して岩城は後ろ手で、香藤の頭を叩いた。




そのまましばらく黙ったまま、二人は湯に浸かっていた。

岩城が小さく溜息をついて、香藤の左手を握った。

その薬指にある指輪をくるくると回しながら、岩城は口を開いた。

「・・・わがままだな。」

「なにが?」

香藤が不思議そうに、岩城の顔を後ろから覗き込んだ。

「お前に思い切り甘やかされてるくせに、それをなんとも思ってなかった。」

「それ、俺には嬉しい言葉なんだけど?」

ふふ、と香藤が笑った。

岩城はその顔を見ながら、溜息をついた。

「それが甘やかしだって言うんだ。」

「そうかな?」




シャワーで、香藤に身体を洗われながら、岩城はふと後ろを向いた。

「え・・・?」

「洗ってくれるんだろ?」

「・・・そう、だけど、いいの?」

くるりと岩城は香藤を振り返ると、首を傾げた。

「しないのか?」

「ちが・・・したい!」

「なら、洗ってくれ。」

「うん!」

再び香藤に背中を向けて、岩城は両足を開いた。

「・・・ん・・・」

爪先立ちになりながら、タイルに手をついて岩城は息を吐いた。

香藤の指が岩城の中へ潜り込み、ゆっくりと柔襞を探り、

指を回して満遍なく襞を探る。

その指の動きに、岩城の腰が揺らいだ。

「・・・ふぅ・・・んっ・・・」

「ジュリアンに説教って、なに言われたの?」

岩城は、は、と笑い声を上げて、肩越しに香藤を振り返った。

「洗ってくれる旦那なんて、どこにもいない、

贅沢でわがままだって、言われたよ。」

「それ、言っちゃったの、ジュリアンに?」

「ああ、つい・・・。」

香藤は呆れながら笑い声を上げた。

「あはは、それは俺が言ったんだから、いいんだよ。」

「でも・・・はっんっ・・・」

湯が吹き込んできて、岩城は喉を詰まらせて仰け反った。

「でも?」

「でも、いい加減自分で出来るようにしないとな。」

香藤が湯を止めて岩城を抱きこんだ。

「ありがと、岩城さん。」

「いいさ、それが当然だろう?」

「そうだけどね。」

そっと岩城の額にキスをして、香藤は笑った。

「ちょっと、寂しい気もする。」

「洗いたいのに、か?」

「うん。」

真顔で答える香藤に、岩城は声を上げて笑った。




バスルームから出て、岩城はブランケットを捲り、

後から出てきた香藤を振り返った。

くすくすと笑いながら、香藤は岩城を抱き寄せた。

「なんか、やる気満々、って気がするけど?」

「いけないのか?」

「ううん、嬉しいね。」

ベッドの上に岩城を抱えて乗り上げると、香藤はその身体を抱きこんだ。

唇を塞いだまま、香藤の手が岩城の身体を這った。

「・・・ん・・・」

香藤の首に回した腕に力が入る。

「・・・ふ・・・」

熱い息を漏らしながら、岩城は両脚を香藤の腰に絡み付けた。




肌を弄られながら、開いた瞳に香藤の勃ち上がったペニスが映った。

岩城はそれをじっと見つめ、ゆっくりと手を伸ばすと、片手に握りこんだ。

「岩城さん?」

無言のまま岩城は身体を起こすと、香藤の腕を掴んで引っ張った。

ベッドに座らされて、香藤は面食らった。

「どうしたの?」

岩城がそっと香藤にキスをすると、その両脚の間に座り込んだ。

「ちょ・・・岩城さん?!」

香藤のペニスに両手を添えると、岩城はそれを口に含んだ。

「なっ・・・ど、どうし・・・」

呆然として、香藤は股間に顔を埋める岩城を見下ろした。

岩城の舌が先端を舐める。

驚きながらも、香藤は揺れる岩城の髪に手を伸ばしてゆっくりと撫でた。

「岩城さん、」

「ん?」

視線だけを向けて、岩城は香藤を見上げた。

その顔に、香藤はごくり、と喉を鳴らした。

「・・・エロッ・・・その顔。」

ちゅぱっ、と音を立てて香藤のペニスから口を外すと、

岩城は腹ばいのまま香藤を睨んだ。

「なに、言ってんだ。」

「だって、エロ過ぎだよ、俺の銜えてる岩城さんって。」

むくり、と身体を起こすと岩城は眉を上げて香藤を見返した。

「やらないぞ、もう。」

「え・・・やだよ、やってよ、続き。」

香藤がそう言いながら岩城の手をとって、舐めた。

「あとで、岩城さんのもやってあげるからさ。」

「ああ・・・。」

かすれた声で答えると、岩城は再び顔を沈めた。

「嬉しいよ、岩城さん。」

蕩けそうな香藤の声がして、岩城は自分の後孔が、

どくん、と脈打ったことに、どきりとした。

「・・・ん・・・」

決して上手いとはいえないその愛撫にも、

香藤は頬を綻ばせて岩城の髪を撫で続けた。

岩城の口の中で、香藤が質量を増していった。

唇を離して、岩城は舌を這わせ、舐め上げた。

「岩城さん・・・。」

「ん?」

香藤が岩城の肩を掴んで持ち上げた。

「俺の唇も舐めて?」

ふふ、と岩城は笑いをこぼすと、香藤に顔を寄せた。

ぺろり、と赤い舌が覗き、香藤の唇を掠めた。

「どうだった、俺の?」

岩城は少し顔を赤くして笑った。

「いやじゃなかった。お前とこれで繋がるんだと思ったら。

これが俺の中に入るんだって思ったら、なんだか愛しかったな。」

その岩城の腰を引き寄せ、香藤が岩城の唇に吸い付いた。

「・・・んっ・・・」

縦横に香藤の舌が動き回り、唇を喰んだ。

「・・・あっ・・・んぅ・・・」

「今度は俺がしてあげるね。」

香藤がそう言って岩城の両脚の間に入り込んだ。

岩城の膝をつかんで、香藤はそれを大きく開いた。

勃ち上がりかけた岩城のペニスを見て、微笑むと、そっと内腿を撫でた。

「・・・ん・・・」

岩城が息を吐いて、少し身体が揺れた。

「香藤・・・。」

にこりと笑って香藤は、岩城の腕を掴んだ。

その手を彼の腿まで持ってくると、もう片方の手も引っ張った。

その岩城の両手を上から押さえて、香藤が言った。

「自分で持ってて、ここ。」

ペニスの両脇に手を添える格好に、

岩城が言葉に詰まって香藤を見返した。

その内腿を岩城の手ごと撫でながら、

香藤は岩城のペニスを銜え込んだ。




「・・・あぁっ・・・ふぅんっ・・・」

岩城の腰を下から手で支えて、

香藤の舌が岩城のペニスの先端を這い、吸い上げた。

その両腿を岩城が自分の手で押さえて拡げていた。

香藤が舌を這わせながら、指を後孔に差し込んだ。

「・・・はぁっあっ・・・」

うねうねと岩城の柔襞が香藤の指に絡んだ。

ぎゅ、と内腿を掴んだ指に力が入り、岩城の腿が一段と広がった。

指を捏ねながら、香藤は震える袋を舐め上げた。

「・・・ふあっ・・・あぁっ・・・」

岩城の背が反り、シーツに腰を擦り付けた。

「いい?」

「・・・んぅっ・・・」

岩城が荒い息を吐きながら、頷いた。

香藤は起き上がり、岩城を見下ろしながら、指を増やした。

「・・・んぁあっ・・・あふっ・・・」

腿を押さえた岩城が、腰を捻り、悶え、喘ぐ姿に、

蕩けるような顔をして香藤が囁いた。

「欲しい?」

「か・・・香藤・・・」

岩城が肩で息をしながら、香藤を見上げた。

微笑んで、香藤は腿を押さえていた岩城の手を外した。

ぐい、と膝を押さえる香藤を岩城が制した。

「待て・・・。」

岩城が香藤よりも先に、サイドテーブルの引き出しを開けた。

ジェルを取り出すと、岩城はふっと溜息をついて、それを眺めた。

キャップを外す岩城を、香藤がぽかんとして見つめていた。

それを搾り出し、指に付ける岩城に、香藤が驚いた。

「岩城さん?」

「・・・見ててくれ。」

岩城はベッドに背を付けると、両足を大きく開いた。

片方の手で後孔を広げると、ゆっくりとジェルを付けた指を近づけた。

ぎゅっと目を閉じて、息を吐くと、そっとその指を後孔に入れた。

香藤の喉が、ごくりと上下した。

その目の前で、岩城の指が後孔に沈んでいく。

少し入ったところで、

指に付けたジェルを柔襞に擦り付けるように、動かした。

「・・・ふっ・・・」

岩城の胸が軽く反った。

「・・・はっ・・・」

「もう少し、入る、岩城さん?」

「・・・ん・・・」

言われるまま、岩城は指を進めた。

「んぁっ・・・く・・・」

「指、回して。」

香藤がそっと岩城に近寄りながら、囁いた。

「そう、上手だよ・・・。」

そう言いながら、香藤は岩城の腿をそっと撫でた。

「俺も、手伝ってあげるから。」

「・・・え・・・」

岩城が目を開いて香藤を見上げた。

にこり、と笑って香藤は指を岩城の後孔に滑らせた。

「・・・んぁあっ・・・」

岩城の指をそのままに、香藤の指が差し込まれた。

「ひ・・・ぃあっ・・・」

香藤は中で岩城の指に自分の指を絡ませて、

内襞を捏ね、前立腺を弄った。

「・・・ふぅっんっ・・・うぁあっ・・・」

きゅう、と岩城の中が二人の指を締め付けた。

「・・・かっ・・・香藤ォッ・・・」

岩城が首を左右に振って、

疼いて震える後孔に堪えられずに、香藤の腕を掴んだ。

その手を撫でながら、香藤は岩城の顔に、

息がかかるほど近付いて囁いた。

「欲しい?」

「・・・あぁ・・・んあ・・・」

背を反らしたまま、岩城が頷いた。

香藤はその項に舌を這わせた。

「なにが欲しいの?言って?」

「お・・・前の・・・」

「俺の、なに?」

岩城が眉を寄せ、荒い息で香藤を見つめた。

「ねぇ、なに?」

自分では気付かずに浮かべているだろう、

岩城の切なげな顔に、香藤は堪らずその唇に喰らいついた。

中に入れた岩城の指を掴み、

後孔を弄りながら吸い上げる岩城の唇の隙間から、呻き声が漏れた。

「・・・んぁうんっ・・・もぉッ・・・」

唇を離した途端に、岩城が悲鳴を上げた。

「・・・挿れてくれ・・・っ」

「ここに?」

岩城が喘ぎながら頷いた。

「なにを?」

「お前の・・・ペニスを、挿れてくれ・・・」

岩城の指ごと、後孔から抜き出し、

香藤は内腿に手を這わせて持ち上げた。

先端を岩城の後孔に合わせると、微笑んで岩城を見つめた。

肩で息をしながら、岩城はその視線を合わせ、頷いた。

「・・・あ・・・んぅっ・・・」

柔襞を引き摺りながら、香藤がめり込んで来るに連れて、

自分のペニスが頭を擡げることに、岩城は気付いた。

「・・・ひぅうっ・・・」

快感が背筋を這い上がり、岩城の背がえびぞった。

支えを求めて岩城は香藤の肩を掴んだ。

その岩城の奥までペニスを納めると、香藤は彼の腰を抱え込んだ。

「・・・行くよ、岩城さん。」

岩城の返事を待たずに、香藤は腰を引いた。

「ひぅっ・・・!」







     続く




     弓




   2006年12月5日
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