These are the days of our lives

         −チャンピオンの休日 17−








香藤が、岩城を抱きかかえてシーツに座った。

「・・・うぁっ・・・」

岩城は奥を突かれて、咄嗟に香藤の首にしがみついた。

びくつく背をゆっくりと撫でながら、香藤は岩城の耳に囁いた。

「ねぇ、動いてみて。」

埋めていた項から顔を上げ、眉を寄せて岩城が香藤を見返した。

「自分で。」

唇を震わせ、少し躊躇して岩城はごくりと唾を飲み込んだ。

頷く香藤と見つめ合いながら、

そろそろと両足をシーツにつくと、岩城は少しずつ腰を浮かせた。

「・・・ふっ・・・ぅんっ・・・」

壁が擦られる感覚に、岩城が途中で動きを止めた。

「・・・か・・・香藤ォ・・・」

「だめ?」

息で返事をする岩城に、香藤は微笑んだ。

身体の両脇に手を滑らせ、香藤は岩城の腰を掴んだ。

「・・・ぁっ・・・あ・・・ふっぅ・・・」

引き上げられる感覚に、岩城が身体を捩った。

香藤は岩城の乳首にキスをすると、そのまま彼の腰を引き摺り下ろした。

「ひ・・・ぃっ・・・」

「やってみて、岩城さん。岩城さんのいいとこ、探して?」

香藤の肩にすがって、荒い息をしながら、岩城が動き出した。

ずりずりと柔襞が押しやられ、唇を戦慄かせながら漏れ出る喘ぎに、

中にいる香藤が熱く滾った。

「・・・ふぅんっ・・・」

「もう少し前だよ、岩城さん。」

香藤に言われた場所に当たるように、岩城が腰を動かした。

「・・・んあぅんっ・・・」

途端に、背筋を突っ走る快感に、岩城が仰け反った。

「・・・はぁんっ・・・ぅあっ・・・」

香藤が支えて、岩城は自ら腰を打ちつけ、快感を追い始めた。

「いいでしょ?」

「・・・んぅっ・・・いっ・・・」

眦に浮かんだ涙が瞼を閉じた途端に、頬に流れた。

香藤が岩城の腰に腕を絡め、彼の動きにあわせて下から突き上げた。

「ひぃぅっ・・・」

頬を緩ませて、香藤は咽ぶ岩城を見つめた。

「凄く感じるようになったね、岩城さん。嬉しいよ。」

岩城がしがみ付いて香藤の頬に唇を当てた。

「・・・はんっ・・・ぁ・・・香、藤・・・」

その唇を捕らえて、香藤はきつく吸い上げた。

「・・・んぅ・・・んん・・・」

岩城の鼻から漏れる呻きを聞きながら、香藤は彼を抱えてシーツに沈んだ。

「・・・か・・・とう・・・」

潤んだ瞳で見上げ、岩城は先を強請った。

目を細めて見つめる香藤が、動かない。

荒くなる息で、岩城は香藤の耳を引っ張った。

「・・・いてっ・・・」

無言のまま岩城は腰を揺すり、香藤のペニスの根元に擦り付けた。

「・・・ふぅっ・・・」

後孔がずくり、と疼いて、柔襞が痛いほど香藤を締め付けた。

「・・・うわっ・・・」

その岩城の身体に、香藤が驚いて声を上げた。

「・・・わざと、か?」

岩城が動こうとしない香藤を見上げた。

「うん。」

笑顔で頷く香藤に、岩城はじろりと視線を向けた。

睨むように見つめ、ゆっくりと、岩城の舌先が唇を舐めた。

「・・・っ・・・」

あきらかに誘うその顔に、香藤が絶句した。

言葉もなく腰を引くと、香藤は岩城の柔襞を抉った。

「ふぁあっ・・・!」

「もうっ・・・なんて顔すんのっ!」

「やっぁっ・・・はんっぅあっ・・・」

叫んで突き上げる香藤に、岩城は腰を揺すって四肢を絡ませた。

「・・・なっ・・・に、言ってっ・・・」

「どうなっても知らないからねっ」




「かっ・・・香藤っ、く・・・来るッ・・・」

ぞわぞわと柔襞から尻へ這い登るように痺れが湧き上がる。

岩城が香藤にしがみ付いて、叫んだ。

香藤がその声に、嬉しげに岩城の頬を舐めた。

「愛してる、岩城さん。」

「あぁっ・・・もっ・・・」

「来た?」

頷こうとして、岩城は身体を突き抜けた電流に、顎を晒して仰け反った。

悲鳴が掠れ、香藤を身体の上に乗せたまま、岩城の背がシーツから跳ねた。

「・・・ぁ・・・あぁ・・・ん・・・」

余韻のまま、小さく声を上げる岩城を、香藤は愛しげに見つめた。

「・・・香、藤・・・」

岩城が気づいたように香藤を見つめ、薄い微笑を浮かべた。

「うん?」

「・・・お前、達ってない、だろ?」

「これから、だよ、岩城さん。」

にんまり、と笑って香藤は動き始めた。

「・・・はんっ・・・」

達ったばかりの岩城の後孔が、びくびくと蠢いた。

敏感すぎるそこが、香藤の蹂躙に歓喜してうねり、

香藤のペニスに絡みついた。

「・・・はぁっ・・・んぁっ・・・」

香藤の動きが激しくなる。

中にいる香藤の熱い鼓動を感じたのもつかの間、

岩城は瞬くうちに背筋を駆け上がってくる快感に咽んだ。

「ゃあぁっ・・・」

抱きしめて、突き上げながら、香藤は岩城の顔を見つめた。

眉を寄せ、腰を動かすのに合わせるように、岩城の顎が跳ねる。

開きっぱなしの唇から震える舌と、声が漏れ、

それに煽られて香藤が岩城の腰を固定して、叩きつけるように動き出した。

「・・・ふぁっあぁっ・・・」




強かに岩城の柔襞に精をぶちまけて、香藤が果てた。

荒い息をつきながら、声を漏らす岩城を抱いて、香藤は余韻に浸っていた。

巻きついていた柔襞が、ゆるゆると蠢き、次第にそれが落ち着いてくる。

その感覚を楽しみながら、香藤は岩城の肌を撫でた。

「やらしい身体になったよね。

ほんの何ヶ月か前まで、男を知らなかったとは思えないね。」

香藤がそう言って嬉しげに微笑んだ。

岩城は汗に塗れた顔で、睨んだ。

「・・・お前が、こんな身体に、したくせにっ」

白い歯を見せて、香藤は笑いながら腰を揺すった。

「ふあっ・・・やめっ・・・」

「まだ、敏感だねー。達ったばっかだもんね。」

蕩けそうな香藤の顔に、岩城はむっとして、ぱし、と香藤の額を叩いた。

くすくすと笑いながら、香藤は岩城の中から出ていった。

隣に身体を横たえ、岩城の肩を抱き寄せて、唇を喰んだ。

「愛してる、岩城さん。」

黙って、岩城は髪を撫でられるに任せていた。

ふ、と肩の力が抜けたのを感じて、香藤は岩城を見下ろした。

「・・・俺もだ。」

一瞬、ぽかんとして岩城を見返す香藤に、岩城は顔を赤くして口早に続けた。

「二度は言わないからな!」

声を上げて笑いながら、香藤は岩城を両手に力を入れて抱きしめた。

「わかったよ、岩城さん。」

そう言いながら、香藤は岩城の乳首に指を伸ばした。

触られて、途端に身体を走る疼きに、岩城は飛び上がった。

「もう、やめろって!」

「いやだね〜。」

「・・・まったく・・・。」




ほとんど眠らないまま朝になり、二人は慌ててベッドから起き出した。

「・・・眠い。」

岩城がソファに座り込んで欠伸を漏らした。

「アビー、来ちゃうからねぇ・・・。」

香藤がお茶を入れたマグカップを両手にして、

リビングへ入ってくると、岩城の隣に座り込んだ。

黙ってお茶を飲んでいた香藤が、カップをテーブルに置いて、

岩城の肩に頭を乗せた。

それを見下ろして、岩城はふっと微笑んだ。

香藤の肩に手を回すと、岩城もそのまま、ソファに凭れて瞳を閉じた。




「おはよー・・・。」

返事のないことに首を傾げながら、アビーがリビングへ入って行った。

すると、ソファで寄り添って、香藤が岩城の腕に抱かれるようにして、

二人が眠っていた。

ふ、と岩城が人の気配に目を覚ました。

アビーに微笑んで目配せし、小さな声で囁いた。

「このまま、寝かせてやりたいんだ。ごめん。」

そう言って香藤を見つめる視線が愛しげに細められた。

「わかった。」

アビーがそっと答えた。

廊下へ出たアビーの口元に、笑みが浮かんでいた。

「・・・まるで、聖母子像みたい。」

くすり、と笑うと、アビーは他の部屋へ掃除に向かった。








「やっと戻ってきたね。」

香藤が庭先に駐めたフェラーリのボンネットを撫でながら笑った。

「あの状態だったからな。修理するの、大変だっただろう。」

岩城がその香藤を眺めながら、庭に出したテーブルでお茶を飲んでいた。

嬉しそうに顔を綻ばせて戻ってきた香藤に、岩城がお茶を入れた。

「どこがへこんでたのか、わかんないね。」

「お前のだからな。みんな、必死で直してくれたんだろ。」

「うん。」

「いくらかかったんだ、修理代?」

「えっとね、4万5千ユーロ(約600万円)、かな?」

「はっ?!」

岩城が呆然として香藤を見返した。

「それ・・・高級車の新車が買えるぞ?」

「だね。でも、俺はこれがいいんだもん。」

「・・・はいはい。」

苦笑しながら、岩城はカップを口につけた。

「岩城さん、明日、出かけるんだよね?」

「ああ、仕事だ。」

「なんだ・・・。」

詰まらなそうに頬杖をつく香藤に、岩城は首を傾げた。

「せっかく、ディーノが帰ってきたから、デートしようと思ったのに。」

「それは、帰ってきてから出来るだろう?」

「うん・・・。」

口を尖らせる香藤の頬を、岩城は指でつついた。

「可愛いけどな、その膨れっ面。仕方ないだろ?我慢しろ。」

「うん。」

へら、と顔を緩ませて香藤は岩城の手を握った。

「明日の仕事って、取材?」

あっという間に機嫌を直した香藤を、笑いながら岩城は頷いた。

「ああ、ウォーレンの取材に行く。」

「げっ・・・。」

頓狂な声を上げる香藤に、岩城が眉を潜めた。

「どうした?」

「・・・それ、チームの取材?それとも、ドライバー?」

「チームだが?」

香藤がほっとした顔をするのに、岩城は黙ったまま香藤を見返した。

その岩城に、香藤は苦笑しながら肩をすくめた。

「あそこの、ドライバーって、今年もネルソンだよね?」

「ああ、そうだ。」

「いないといいんだけどな・・・。」

「お前、なにを言ってるんだ?」

岩城の手を握ったまま、香藤は再び口を尖らせた。

「だって・・・ネルソン、遊び人だし・・・。」

「ゲイ、なわけか?」

「・・・わかんない。」

その答えに、岩城は笑った。

「だったら、心配なんてしなくていいだろう。」

「そうじゃなくてさ。岩城さんが、色っぽいから・・・。」

「また、始まったな。」

岩城が呆れて香藤から視線を外して、お茶を飲んだ。

その岩城を、香藤は溜息をつきながら見つめていた。







チームの広報担当と、ロビーのカフェで話していた岩城の所へ、

電動車椅子を動かして、やってきたチーム・オーナーに、

岩城は椅子から立ち上がり、傍へ屈んだ。

「お久しぶりです、ウィリアム。お元気そうで何より。」

岩城が、車椅子に座ったウィリアム・ウォーレンの手を握った。

「君のほうこそ、元気そうだ。」

ウォーレンは、元レーサーで、後にこのチームのオーナーになった。

不幸な事故で車椅子の生活となったが、

その不屈の精神と人柄は、F1ワールドの尊敬を集めていた。

「ヨウジは元気かい?」

にっこりと笑うウォーレンに、岩城は肩をすくめて笑いながら頷いた。

「ええ、相変わらずです。」

「彼がゲイだとは知らなかったんで、驚いたよ。もちろん、君も、だけどね。」

「いや、俺は・・・。」

岩城がそう口ごもると、ウォーレンは大げさに眉を上げた。

「ほう?なるほど・・・ヨウジは度胸があるな。」

苦笑する岩城に、広報担当が咳払いをした。

「その件、なんですが・・・。」

「え?」

「言わずもがな、だとは思うんですが・・・。」

言いにくそうに、いったん口を閉ざす彼に、

岩城も、ウォーレンも、言おうとしたことを悟った。

「ご心配なく。仕事に私情を挟むつもりはありません。」

少し表情の曇った岩城に、ウォーレンは頷いた。

「当然だろう。キョウスケはそんな男じゃない。失礼だぞ。」

「申し訳ありません。」

広報担当が二人に頭を下げた。

岩城はそれに、「気にしないでくれ。」と言いながら、少し、笑った。






「ふ〜・・・。」

「よう、キョウスケ。」

取材を終えて、カフェで一人、屈託を抱えながら、

お茶を飲んでいた岩城に、男が声を掛けた。

「あ、ネルソン・・・。」

咄嗟に香藤が言っていたことを思い出して、岩城は言葉を切った。

「どうした?」

「いや、別に。今日、来てたのか?」

「ああ、テストをここのコースでやるんでね。」

「そうか。」

「疲れてるみたいだな。」

ネルソンがそう言って笑った。

「いろいろあってね。」

岩城が苦笑してカップを取り上げた。

テーブルに着きながら、ネルソンが口を開きかけた。

携帯が鳴って、岩城がバッグからそれを取り出した。

「失礼。」

液晶を見た岩城の顔が、変わる。

ネルソンは、それを目を見張って見つめた。

「俺だ。どうした?」

『まだ終わらないの?』

「もう少し。」

そう言ってちらりと自分に視線を向ける岩城に、ネルソンはどきり、とした。

『あとどれくらい?』

「そうだな・・・30分くらいだな。」

『了解〜、終わったら、電話して?』

「なんでだ?」

『なんでってー・・・。』

くすり、と岩城が笑った。

その目元に浮かぶ笑みを、ネルソンは黙って見つめていた。

「わかった。じゃ、あとでな。」

岩城がくすくすと笑いながら電話を切った。

その顔に浮かぶ笑みを見ながら、ネルソンが立ち上がった。

岩城が、ふと顔を上げると、ネルソンがすぐ傍に立っていた。






     続く




     弓




   2006年12月10日
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