These are the days of our lives

        −チャンピオンの休日 3−








アビーの用意した夕食を食べ終えて、

香藤は岩城をベッドルームへ誘った。

ベッドの脇に立って、岩城は腰に手をあて、

しみじみとクッションを眺めていた。

「・・・新婚ね。」

「先にシャワー、浴びる?」

岩城の呟きが聞こえてはいたが、

香藤はそれを聞こえなかったふりをして、

抽斗から岩城のパジャマを取り出した。

それを受け取りながら、岩城は黙って頷いた。

「後から入るからさ。待ってて。」

「わかった。」

その言葉の先にあるものを、とっくに知っている岩城は、

少し頬を染めて背を向けたまま答えた。




洗面所で、岩城はのろのろと服を脱ぎ始めた。

下着に手をかけ、ふと脳裏に浮んだ、

これからすることに溜息をついていると、

香藤がドアを開けて入ってきた。

「まだ入ってなかったんだ。どうしたの?」

「いや、なんでもない。」

思い切ったように下着を脱ぎ捨てて、

岩城はシャワールームのドアを開けた。

その後を追って、香藤がさっさと服を脱いで入っていくと、

岩城はシャワーで身体を流していた。

その飛沫に怯むこともなく、香藤はその身体にそっと腕を回した。

「あっ・・・こら・・・。」

「うふふ・・・岩城さんの背中、綺麗だ。」

「まったく、シャワーくらい普通に浴びさせろ。」

「くらい、ってなにさ?」

香藤の不思議そうな顔に、岩城は顔を赤くしてしかめた。

「だから・・・洗わないといけないだろうが。」

「恥ずかしい?」

「当り前だろう?!」

流れ落ちる前髪を片手でかきあげて、

岩城が怒ったように声を上げた。

「最初の時、どれだけ恥ずかしかったか、

お前知らないだろう!」

「知ってるよ。岩城さん洗ってる間、

ずっと目を閉じてたからね、真っ赤な顔して。」

流れ落ちるシャワーで、岩城の身体を洗いながら、香藤は微笑んだ。

「死にそうなくらい、恥ずかしかったんだ。」

「うん。そうだよね。岩城さん、へテロだったもんね。」

「この俺に、あんな風に脚、開かせるなんて・・・。」

くすり、と香藤が笑った。

岩城は、身体を洗われながらそれに抵抗をすることもなく、

ぶつぶつと言い募っていた。

「うん。俺にだけ、許してくれたんだよね。

俺のこと、信じてくれたからでしょ?凄く嬉しかったよ。」

「洗わないといけないって、お前が言うからだろ・・・俺もそう思ったし・・・」

香藤がゆっくりと指に泡立てたボディソープをつけるのを見て、

岩城は一瞬絶句した。

その指がゆっくりと下へ向かうのを、

岩城は目を離すことが出来ずに、見つめていた。

「岩城さん。」

香藤が岩城の腰に手を触れて、顔を上げた。

岩城は黙って背中を向けると、ゆっくりと両脚を開いた。

つ、と香藤の指が腿の内側を滑った。

硬く閉じられた入口の周りを撫で、

人差指の先端を潜り込ませると、

岩城の身体がビクッと震えた。

入ってきた指が、襞の隅々を探る感触に、

岩城は壁のタイルに両手をついて、堪えた。

ぎゅっと瞳を閉じて、まだ慣れないその作業を岩城の神経が追いかけた。

「岩城さん、力はいってるよ?」

「・・・しょうがないだろ。」

そう言いながら、岩城はゆっくりと息を吐いた。

「・・・う・・・」

「そう、上手だよ。」

香藤が労わるように岩城の脇腹を撫でた。

「唇、噛まないでね。」

こくり、と頷いて岩城は熱い息とともに、唇を緩めた。

「・・・んっ・・・」

後孔を拡げる感覚がして、中を探る指が増やされたことがわかった。

「・・・は・・・」

岩城の顎が上がり、喘ぐように唇が震えた。

香藤の手が、岩城の頭をかい潜りシャワーヘッドを掴んだ。

「まだだからね。もうちょっと我慢して。」

「うん・・・。」

指を動かしながら、香藤はシャワーを強めに出すと、

岩城に知らせるように腿に中てた。

岩城の身体が、微かに揺らぐ。

そのシャワーが、腿の後ろ側へ回り、尻を叩いた。

「・・・は・・・くっ・・・」

熱い湯が後孔の中へ吹き上がる。

その湯に混じって、香藤の指が柔襞の奥深くまでを、丁寧になぞっていく。

「んぅ・・・」

その内臓を探られる感触に、岩城の脚が、思わず爪先立ちする。

「気持ち悪い?」

香藤が心配げに、眉の顰められた岩城の肩越しに顔を覗き込んだ。

岩城は、薄っすらと目を開くと香藤の顔を見返して、首を振った。

「いや・・・そんな風に、思ったことはない・・・まだ、慣れないだけだ。」

喘ぎながら、岩城が答えた。

「気持ち悪いって、思ったことないんだ?」

「当り前、だろう・・・?」

かえって不思議そうに、岩城は香藤を見つめて、首をかしげた。

「どうして?初めてだったでしょ、ここに指入れられるのだって?」

息を上げながら、岩城は微笑んだ。

「そこに入ってる指は、お前の指だぞ?なんで気持ち悪い?」

指の動きを止めて目を見開き、香藤は岩城をまじまじと見つめた。

「男同士だからな。受け入れるのに、必要なことだろう?

本当なら、自分でやらないといけないことなんだろうけどな。」

岩城はそう言って、少しはにかんで笑った。

「まだ、自分では出来そうにない。

こればっかりは、慣れるのに時間がかかりそうだ。」

香藤は嬉しそうに微笑んで、岩城の肩に唇を当てた。

「いいよ、出来るようになるまで、俺がやってあげるから。気にしないで。」

「お前の方こそ、指を入れるの、気持ち悪いとは思わないのか?」

にやッと笑うと、香藤は指をくい、と襞に押し当てた。

「・・・あぅっ・・・」

岩城の背が反り、喘ぎが漏れた。

「・・・あぁっ・・・そ・・・そこっ・・・」

その岩城の後頭部に、唇を押し付けると、香藤が囁いた。

「俺は気持ち悪いなんて思ったことないよ。

必要なことだし。岩城さんの中だし。」

「・・・香藤・・・・」

「それにさ、」

そう言って、香藤ははち切れそうなペニスを、

岩城の後孔に押し付けた。

「ここは、俺のものだよね?

岩城さんが、脚開いて俺を受け入れようとしてくれてるんだよ?

指なんかより、今すぐ俺のをぶち込みたいって思うね。」

「・・・んっ・・・ふぅっ・・・ああっ・・・」

爪先立ちになって、壁のタイルに縋り、岩城は震えた。

香藤の声が耳に入っていないような、

岩城の悶える声に香藤は探る指を押さえ、シャワーを当てなおした。

十分に中を洗うと、香藤は指を引き抜いて、

岩城の身体を労わるように、

その息が落ち着いてくるまで、シャワーを当てて流していた。

「ごめん、大丈夫?」

「・・・ああ・・・」

シャワーを止めて、香藤は岩城を抱きしめ、ゆっくりと背を撫でた。

「・・・なんかさ。」

「うん?」

口を開きかけた香藤は、岩城を見つめて口元を引くように笑った。

「いいや、出てから言うよ。」

「ん?そうか?」

「先に出て待ってて。俺も流してから出るから。」




香藤がシャワーから出ると、ちょうど岩城がペットボトルを持って

ベッドルームへ戻ってきたところだった。

サイドテーブルにそれを置きながら、岩城は香藤に視線を向けた。

鍛え上げられた長躯。

逞しい腕。

その胸に初めて抱かれたのは、つい先月のことだ。

今年最後のレースまでの、1週間の休暇。

岩城はその間、ずっと香藤の腕の中にいた。

その後のオーストラリアグランプリの間も、

香藤は岩城が仕事で取材をしている以外のすべての時間、

彼をベッドから出さなかった。

香藤が触れるその感触は、既に岩城には、馴染みのものとなっていた。

「なに、岩城さん?」

「え?」

香藤が、くすりと笑った。

「見惚れるほど、かっこいい、俺?」

そう言われるまで、自分が彼を見つめていたことに気づかず、

岩城は苦笑を浮かべた。

「まぁ、確かに、見事な身体だな。」

少し驚いて、次の瞬間には逆に岩城が照れてしまうような笑顔を浮かべて、

香藤は嬉しそうに笑った。

バスローブを着て、香藤は岩城の手をとると、ベッドの上に乗り上げた。

そこへ座り込んで、香藤はじっと岩城を見つめた。

「なんだ?」

「あのさ、新婚ってのに引っかかってたみたいだけど・・・。」

「ああ・・・いや・・・。」

岩城が言いよどみ、視線をシーツの上に彷徨わせた。

ふと、クッションにそれが止まり、

薄っすらと顔が赤くなるのを見て、香藤は思わず微笑んだ。

「俺が一緒に暮らそう、って言ったのはね。」

「・・・え?」

はっとして岩城は顔を上げた。

そこには、真剣な表情を浮かべた香藤がいた。

「単に、一時、同棲しようとかって意味じゃないんだ。」

「香藤・・・。」

「一生、俺は岩城さんといたい。傍にいて欲しい、そう思ったんだ。」

岩城は、す、と身体を起こすと、香藤の前に膝をたたんで座りなおした。

正座の膝に両手を置き、彼をまっすぐに見つめた。

「愛してる、岩城さん。」

「・・・。」

絶句して、何度か瞬きをして口を開きかけ、やがて、ぽつり、と呟いた。

「・・・それは、知ってる。」

「うん。岩城さんが俺のことをどう思ってるか、俺も知ってるから。」

無言のまま、岩城が頷いた。

「一生、ずっと傍にいて、生活も人生も、

共にするってことを結婚って言うなら、

俺は、それを岩城さんと全うしたいと思う。」

「香藤・・・。」

「どう、岩城さん?俺となら、できそう?」

じっと、まっすぐに見つめ返してくる香藤を見ながら、

岩城はしっかりと頷いた。

「できる、と思う。と言うより、お前となら、したいと思う。」

ふわり、と香藤が笑った。

膝の上に置かれた岩城の手を掴んで引くと、

岩城は膝を崩して香藤の胸に抱きこまれるまま、頬をつけた。

「ありがとう。」

「別に、礼を言われるようなことじゃない。俺は、ただ・・・。」

「ただ?」

岩城は香藤の鼓動を聞きながら、その背に腕を回した。

「お前の隣にいるのが、自分でなければ嫌だと思っただけだ。」

ドクン、と香藤の心臓が跳ねるのがわかって、

岩城は香藤の背に回した手を戻し、ゆっくりと顔を上げた。

「たまんないね、その言葉。」

「そうか?」

「嬉しいよ、岩城さん。さっきの言葉もね。」

「さっき?」

香藤は岩城を抱え込んだまま、その頭に頬を押し当てた。

「俺の指だから、気持ち悪くないって。」

「ああ・・・。」

岩城は顔を上げて、頷いた。

「なんだか、感動して泣きそうになった。」

目を細める岩城に、香藤の顔が降りてきて、

岩城は瞳を閉じて薄く唇を開いた。

「・・・ん・・・」

香藤の舌が差し込まれると、

岩城の腕が上がり、香藤の首にからみついた。

求められるまま、岩城は舌を差し出し、

蕩けるような甘美なキスに、自然と岩城の腰が揺らめいた。

開いた口角から、雫が零れ頬を伝わる。

香藤の舌がそれを追いかけ、再び岩城の唇を塞ぐと、

香藤は岩城の咥内を残らず吸い上げた。

「・・・ん・・・ふ・・・」

そろそろと、香藤の手がパジャマの上を這い、

口を塞がれ声の出せない岩城は、

その布越しのもどかしさに、身体を捩った。

パジャマの上から、

岩城の乳首を捉えた香藤の指が、悪戯にそれを撫でた。

「・・・ッ・・・」

岩城の喉が、息を吸い込んで鳴った。

「・・・か・・・香藤・・・」

「なに?」

「・・・あっ・・・」

香藤の指が、乳首を摘み指先でころころと転がした。

そこから、電流が走ったように、岩城の背が反った。

「ここで感じるようになったね、岩城さん。」

嬉しそうに笑う香藤に、岩城は少し怒ったように口を開いた。

「ちょっと、聞くがな。」

「なに?」

「こういうのは、毎晩やるものなのか?」

「はぁ?!」

香藤が、思わず頓狂な声を上げた。

「やなわけ?」

「ちがっ・・・そうじゃないが・・・」

「したいよ、俺は。毎日、毎晩、どこでだって。」

「・・・そ、そうなのか・・・。」

呆れたように、香藤は額に手をあて岩城を見返した。

「岩城さんさ、セックスしたことぐらいあるでしょ?」

「あ、当り前だ!」

「毎晩したい、とか思ったことないわけ?」

「・・・そっ・・・」

岩城が、一瞬声を上げかけ、言葉につまって俯いた。

「お前と一緒にするな。毎晩なんて、そんなこと普通はないだろう?」

「・・・あ、そう言えば、そうだ。」

香藤は思い出したように笑った。

「前は、そうじゃなかったね。

レース中も、どっちかって言うと、俺はセックスはしないほうだったんだ。

集中できないからさ。」

「ほらみろ。」

「オーストラリアじゃ、違ってたけどね。」

悪戯そうに見返す香藤の顔に、岩城は苦い表情を浮かべた。

「まったく・・・のべつ幕なし盛りやがって。」

「それは、岩城さんだからだよ。」

「まるで盛りのついた牡犬みたいだったぞ、お前。」

「あはは!そうかもね〜。」

抱きついてくる香藤を、岩城は受け止めてシーツに沈んだ。

深い口付けを交わしながら、香藤の手が岩城のパジャマを剥ぎ取っていく。

全裸になった岩城の肌を、香藤の手が愛しげに彷徨った。

項から胸へ舌を這わせ、唇を触れ、指が乳首を捉えた。

「・・・んっ・・・」

そっとそれを指先で円を描くように撫でると、岩城の顎が軽く跳ねた。

ふっ、と香藤が乳首に息を吹きかけた。

それだけのことに、岩城の身体に甘美な痺れが走った。

「・・・あぁっ・・・」

香藤の髪を掴んで抱き寄せ、岩城は胸を反らせた。

その乳首を、香藤の舌が転がした。

「・・・ん・・・ふ・・・はぅ・・・」

身体を撫でていた香藤の手が、岩城の股間に沈んだ。

握りこんだとたん、岩城の腰が揺らいだ。

「嬉しいね、もう熱くなってる。」

「・・・香藤・・・」

ゆっくりと岩城のペニスを手で扱き、香藤はその先端を指で突いた。

「・・・う・・・あ・・・くっ・・・」

眉を顰めて、岩城は熱い息を吐いた。

香藤は着ていたバスローブを脱ぎ捨てると、岩城の膝を掴んだ。

ビクッと、身体を震わせ、岩城は目を開けて香藤を見上げた。

熱い息を吐いて見つめ合い、岩城は力を抜いて目を閉じ、両脚を開いた。

その間に香藤は座り込み、

サイドボードの抽斗から、チューブを取り出した。

「自分でやってみる?」

目を開いて、岩城は香藤を見つめた。

見る見るうちに頬が真っ赤になった岩城に、

香藤はくすくすと笑っていた。

香藤の顔と、手にしたチューブに、

交互に視線を向けて岩城は口を開きかけ、

困った顔で黙り込んだ。

「どうする?」

「かっ、香藤・・・」

「なに?」

言いよどんで、岩城は顔を背けたまま、口を開いた。

「頼む・・・その・・・」

くすり、と笑って頷く香藤が、チューブの蓋を開け、

ジェルを搾り出し、指にそれをつけるのを、岩城はしげしげと眺めていた。

ゆっくりと、その指が開いた腰の奥へ向かう。

ひやり、としたものを感じて岩城は腰を引きかけ、

その腰を香藤がそろそろと撫でた。

「我慢して。」

「ん・・・」

何度か出入りし、ジェルを塗り込む指に、岩城の腰が蠢き始めた。

「感じてきた?」

「いちいち、うるさい。言うな、恥ずかしいから。」

「ごめん。」

真っ赤な顔の岩城に、声を上げて笑い、

香藤は岩城の両脚を脇に抱え込んだ。

「挿いるよ。」

こくりと頷いた岩城の後孔に、

滾った香藤が押し当てられ、それが体内にめり込んでくる。

皮膚が引き摺られ、そのきつさに岩城の喉が引き攣ったように鳴った。

「・・・く・・・」

大きく開いた腿の奥に、香藤の肌が当たり、岩城は息を吐いた。

身体を二つに割るような、熱い香藤のペニス。

後孔の中で、岩城を欲して脈打つその鼓動を、

岩城は全身で受け止めていた。

「・・・ん・・・」

岩城が肩で熱い息をついて、重なってきた香藤をしっかりと抱きしめた。

香藤の太い腕が、岩城の腰に回った。

ぺろり、と岩城の唇を舐めると、それに答えるように岩城の唇が開いた。

貪るように、香藤が唇を合わせ、岩城の舌を捉えた。

「・・・は・・・んっ・・・」

肌をすり合わせるように、抱きしめあい唇を合わせる。

その身体の間で、岩城のペニスがはち切れそうに熱を持った。

「もう・・・香藤・・・」

「動くよ。」

切なげな顔で頷いて、岩城は香藤の首に両腕をからませた。

腰を引く香藤に、岩城の両脚が震えた。

入口で香藤はカリを引っ掛け、腰を揺らした。

「・・・あっ・・・んっ・・・」

そのまま香藤は、ぐいと岩城の中を突き進んだ。

「・・・はっ・・・あぁぁっ・・・」

鼻にかかった声を上げ、岩城の顎が反っていく。

その彼の表情を探るように見つめながら、香藤は律動を繰り返した。







     続く




     弓




   2006年10月16日
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