These are the days of our lives

        −チャンピオンの休日 4−








「・・・あぁっあっ・・・かっ・・・香藤っ・・・」

眉がきつく寄せられ、岩城の背が撓った。

腹の間で岩城のペニスが弾けたのを感じて、

香藤は岩城の奥深くに熱を放った。

「・・・はぅっんっ・・・」

身体の奥に当たる、香藤の精に岩城が喉を鳴らした。

「少しづつ、だけど・・・。」

「・・・え?」

岩城が、ぼうっとした瞳を香藤に向けた。

「後で感じて来てるみたいで、嬉しいよ。」

「バカ・・・。」

香藤がそっと岩城の額にキスをした。

「感じるも何も・・・こう何回も立て続けにやられたら、

身体がおかしくなりそうだ。」

「あはは・・・ごめんね。」

香藤は笑いながら起き上がり、岩城の中からペニスを抜き出した。

「ちょっと待っててね。」

「・・・あ・・・ああ、そうか・・・。」

少し溜息混じりに答えて、岩城は枕に頭を落とした。

「まだ恥ずかしいだろうけど、我慢してね。」

「あとが大変だからな。」

「そうだったね。」

香藤がくすくすと笑い出し、その顔を見ながら、岩城は苦笑していた。

「まったく、酷い目にあったな、あの時は。

恥ずかしくて、お前が綺麗にしてやるって言うのを拒んだんだ。

まさか、腹を壊すとは思ってなかったからな。

あんなのはもう、ごめんだな。」

「知らなかったんだから、しょうがないよ。

俺も、強く言わなかったのが悪いし。」

香藤の顔を見つめながら、岩城は肩で大きく息をついた。

その岩城を見返して、香藤は笑った。

「でも、岩城さんがゴムつけなくていいって言ったんだけどな。」

「それは、」

岩城が顔を赤くして、苦笑した。

「お前との間に余計なものがあるのが、嫌だったんだ。」

「うん・・・あの時も、そう言ってくれたね。嬉しかったよ、俺。」

そう言って微笑む香藤を見ながら、岩城は溜息をついた。

「・・・なんでこう、男同士ってのは、面倒なんだろうな。」

「そう?」

「準備に、後始末。こんな手間かけてまでセックスしたいなんて、

惚れた相手じゃなきゃできないな。」

香藤が起き上がった姿勢のまま、岩城を呆然と見つめた。

「それでも、お前と繋がりたいんだ。その気持ちを否定する気はない。」

「岩城さん・・・。」

じっと岩城を見返していた香藤の瞳が、じわり、と潤んだ。

それを見て、岩城は染み入るような笑みを浮かべて香藤を抱き寄せた。

「・・・馬鹿、泣く奴があるか。」

「だって・・・。」

岩城の肩に顔を埋めたまま、動かない香藤の背を、岩城の手が撫で続けた。

「嬉しいよ、岩城さん。」

「・・・お前な、」

岩城が溜息混じりに、香藤の頭をポンポンと叩いた。

「感動して泣いてるわりには、勃ってるんだがな?」

「しょうがないじゃん!そんなこと言われたらさ!」

「嬉しいと、勃つわけか?」

香藤が肘をベッドについて岩城の顔を上から見つめた。

「いつだって岩城さんと繋がっていたい、そう思っちゃいけない?」

「・・・誰もそんなこと、言ってないだろ?」

両腕を香藤の肩に回すと、岩城は閉じていた両脚を、ゆっくりと開いた。

香藤は、岩城を見つめたまま、その両脚を手探りで上げさせると、

後孔に熱く滾った先端をあわせた。

「・・・後始末、しようと思ったんだけどな・・・。」

「この状況で、なに言ってんだ。」

へへ、と白い歯を見せる香藤に、岩城は両腕を肩から首に絡み付けた。

「・・・いいから、来い。」

言う間もなく、ぐぐ、と香藤が中へめり込んでくる。

襞を抉られるような感覚に、岩城は喉を詰まらせた。

「・・・はっ・・・く・・・っ・・・」

一度最奥まで岩城を貫くと、香藤は腰を引き、

再び奥へと叩きつけるように動いた。

「ひッ・・・!かっ・・・香藤ッ・・・!」

「ごめん!」

そう叫ぶと、香藤は岩城の腰を抱え込み、岩城の中を暴れまわった。

普段の、岩城の身体を傷付けぬようにと、

気遣う香藤とは別人のような抱き方に、

岩城は香藤にすがり付いて、その激しい突き上げを受け止めた。

「・・・あぁっ!あっ!んっ!うぁっ・・・!」

「岩城さんッ・・・岩城さんっ・・・」

「・・・いっ・・・あっ!・・・あぁッ・・・」

大きく拡げた両脚が、まるで香藤を励ますように、その腰に絡み付いた。

「・・・ふあっ・・・香藤ォッ・・・も、もぉッ・・・」

香藤が呻き声を漏らして、岩城の中で果てた。

その香藤の身体を抱きしめて、岩城は荒い息をついていた。

「・・・ごめん、痛かったでしょ?」

「いや、大丈夫だ。」

香藤は岩城の唇を、かなりの間喰んで、身体を起こした。

肩で息をする岩城の両膝を掴んで、

香藤が顔を見ると、少し躊躇しながら、力を抜いた。

香藤の手が、膝を立たせ、大きく両脚を拡げ、

ゆっくりと後孔に指を沈ませて、中を探った。

「・・・ん・・・く・・・」

中をかき回す香藤の指に、岩城の喉が、上擦る。

奥へと進み、指に絡めとろうと、ゆっくりと回転させる。

その指の動きに、香藤の精がとろりと纏わりつき、

出て行くのが岩城に伝わった。

「・・・は・・・ふ・・・」

「大丈夫?」

「・・・ん。」

溜息のように答える岩城に、香藤は後始末をしながら苦笑した。

「なんだかなぁ・・・そういう声出さないでもらえないかな?」

呟くような声は、岩城には聞こえなかったのか、

香藤の指が何度も中から精をかき出す動きに、

岩城は歯を食いしばるようにして、堪えていた。

「もう少しだから、我慢して。」

「我慢って、どういう意味で言ってる?」

岩城が、顎を下げて両脚の間に陣取る香藤を見つめた。

「え?気持ち悪いでしょ、中から出てく感じって。」

じっと香藤を見つめていた岩城は、ゆっくりと片手を上げた。

べったりと汗で額に張り付く黒髪を撫で上げ、ほっと溜息をついた。

「何回も言うが、気持ち悪いと思ったことはない。

お前の指だし、お前の出したものだし、

俺の身体の為にやってくれてることだぞ?」

「・・・あ、うん。」

「それに、一生続くんだろうが、これは?

我慢なら、いつか限界が来るだろ?だから、俺は我慢はしない。

してない、つもりだが、お前はどう思う?」

香藤は、鼻の奥がツンとする感覚をどうにか抑えると、顔を上げた。

「我慢してないね、岩城さんは。

俺を顎で使えるのって、岩城さんだけだからね。」

ぷ、と吹き出す岩城に、香藤も笑いながら後孔を綺麗に拭った。

そうされながら、頭を枕にぱふッとつけて、岩城が溜息をついた。

「なに?」

「・・・30幾つにもなって、男に突っ込まれる日が来るなんて、

考えもしなかったな。」

唖然として香藤は岩城を見返した。

「あのさ・・・。」

「嫌なわけじゃないが、驚いてる。」

くすくすと笑いながら、香藤は岩城の腿を叩いた。

「岩城さん、シャワー浴びる?どうする?起き上がれる?」

言われて、岩城は片肘をついて上体を起こし、

拡げた両脚を引き寄せてベッドに片手をついた。

「・・・あっ・・・つ・・・」

途端に、岩城が顔をしかめて、呻いた。

慌てて香藤は岩城を抱いて、ベッドへ横たわらせた。

「ごめん、やりすぎちゃったね、俺。」

「いいさ、ちょっと痛むくらいだ。」

そう答えて、岩城はとっさに掴んだ純白のハートのクッションに気付いた。

あ、と口を開きかけ、思わずそれを顔の前に掲げて苦笑する。

「新婚初夜、だよね、ほんと。」

「そういう言い方はするなって、言ってるだろうが。」

岩城が恥ずかしげに声を荒げ、掴んだクッションを香藤に投げた。

それを笑って受け取り、香藤はベッドから降りた。

「身体、拭いてあげるから、待ってて。」

クッションをベッドに置く香藤に、にこり、と微笑んで、岩城が頷いた。

バスルームから、固く絞ったタオルを持って、

香藤が出て来ると、岩城はスースーと寝息を立てて眠っていた。

そっと、その額にキスを落として、香藤は岩城の身体を拭き始めた。

「・・・可愛いなぁ・・・堪んないよ、もう。」






薄っすらとした意識の中に、なにやら遠くから、

がやがやとにぎやかな声が聞こえていた。

「・・・香藤・・・?」

ぼんやりとしながら、瞳を閉じたまま、岩城は隣に手を伸ばした。

いつもなら、その手に、馴染んだ肌が触れるはずのそこには、

皺くちゃのシーツがあるだけで、その空虚さに岩城はようやく、瞳を開いた。

「あ!駄目だって、こら!」

香藤の叫ぶ声が届き、岩城は驚いて顔を上げた。

開いていたドアから、大きな白と黒の塊が部屋へ飛び込んできて、

岩城はあっという間もなく、その塊に押さえ込まれた。

「うわっ?!」

頬をべろべろと舐められ、岩城はやっとその正体に気づいた。

「アクセル!」

香藤の声がして、岩城の上にどっかりと座り込んだ、

香藤の飼犬、オールドイングリッシュシープドッグのアクセルが、

ドアを振り返った。

入ってきた香藤に一声吠え、すぐに岩城の方を向いて、

嬉しげに尻尾を振り立て、アクセルは再び、岩城の顔を舐めはじめた。

「だめだ、アクセル。ベッドから降りなさい。」

岩城が静かに口を開いた。

「このベッドには、乗っちゃいけないって言っただろう?」

まるで眉が下がったかのように見える顔をして、

アクセルはすごすごと岩城の上からベッドの下へ降りた。

「向こうへ行ってろ、アクセル。」

香藤がポンポンと、頭を叩くと、

アクセルは「ばふっ」と吠えて、ベッドルームを出て行った。

「まったく、俺より岩城さんの言うこと聞くんだもんな。」

「お前の言うことだって、聞くだろうが。」

「まぁ、ね。それより、おはよう、岩城さん。」

「ああ、おはよう。」

岩城の両手を取って、香藤は彼を起き上がらせると、

そっと背に腕を回して抱きしめた。

「だいじょうぶ?」

岩城は軽く欠伸をして、頷いた。

シャワーを浴びる、と言ながら、岩城はベッドから降りた。

少しよろける岩城に、香藤が手を繋いだまま、

バスルームへ向かい、ドアを開けた。

「俺、向こうに行ってるからね。」

「わかった・・・。」

出て行く香藤に寝ぼけ眼を擦りながら答えて、

鏡に映る自分が目に入り、岩城はふと眉をひそめた。

「・・・なんだ、これは・・・?」

身体中に散る、赤い痕に眉を顰めかけ、

岩城ははたと気付いて、顔を真っ赤に染めた。

「・・・あいつ、一体いつこんなにつけたんだ?」

まるで蕁麻疹かと疑うような自分の肌に、岩城は微苦笑を浮かべた。

「・・・つ・・・」

その微苦笑が、軽い苦痛の顔に変わった。

全身がだるく、腰の奥に緩い疼痛が走る。

「この痛みは久しぶりだな。」

くすりと岩城は笑い、腰に手を当てて背筋を伸ばした。






岩城がバスルームから出ると、

ベッドルームが綺麗に整えられていた。

その上に、服が一式置かれ、

香藤が用意したことが明らかなそれに、

岩城はくすぐったそうにそれを見つめた。

「・・・あいつ、ほんとにこまめだな。」




着替えて廊下を行くと、ダイニングからにぎやかな声が聞こえてきた。

「こら、アクセル。落ち着いて食えって。」

ガサガサと大きなプレートに顔を突っ込んでいるアクセルに、

香藤は椅子に座ってそれを眺めながら笑っていた。

「あ、おはよう、岩城さん。」

「ああ、おはよう。」

岩城の姿を見て、香藤が椅子から立ち上がり、駆け寄った。

するり、と岩城の腰に腕を回して、あっという間もなく唇を塞いだ。

「・・・んっ・・・ぅ・・・」

ぴちゃ、と音を立てて唇を離すと、香藤は額をつけて微笑んだ。

「まったく、朝っぱらから、なんてキスだ。」

「眠気覚まし。」

「バカ。」

くすくすと笑い出す岩城に、香藤もつられて笑い出した。

「・・・朝ご飯、冷めるわよ?」

いきなり後から声がして、岩城は慌てて香藤の腕から逃れた。

「アビー?!」

「そんなに驚かなくてもいいと思うけど?」

そう言いながら、アビーはテーブルの上に皿を並べていった。

「来てるなら、来てるって言えよ!」

岩城が、小さな声で香藤に詰め寄った。

「キスくらいいいじゃない。」

「そういうことじゃなくて!」

こそこそと言い合いをする2人に、アビーが笑っていた。

「ヨウジが、言ってたこと、なんだかわかる気がするわね。」

「なにを?」

「可愛い、って言ってたでしょ?恥ずかしがってるとこ、凄く可愛いわ。」

「で、しょ〜?」

にこにことしながら答える香藤に、岩城は天井を仰いで、首を振った。

「誰が可愛いだって?」

「い、わ、き、さ、ん。」

「・・・スタッカートで言わなくていい。」

憮然として椅子に座る岩城に、香藤とアビーは顔を見合わせて笑った。

その岩城の脚に、柔らかいものが触れた。

ふと、視線を落として、岩城は目を細めて微笑んだ。

「ブレイク、おはよう。」

短毛の黒猫が、長い尻尾を振りたて、「な〜」と鳴いて岩城の膝に飛び乗った。

「久しぶりだな、元気だったか?」

岩城の顔を見上げて、ブレイクは「みゃ」と答えた。

「さてと、全員そろったし、ご飯食べて。」

アビーが、ブレイクの皿を床に置くと、

岩城の膝から降りて、ブレイクが皿を舐め始めた。

「キョウスケ、お茶にする?それとも、コーヒーがいい?」

アビーがキッチンに向かいながら、言った。

「あ、お茶にしてもらえるかな?」

そう答えながら、岩城は椅子を引いて立ち上がりかけた。

「・・・ッ・・・」

途端に腰から走った痛みに、テーブルの端を握ったまま中腰で固まった。

「だ、大丈夫?!」

慌てて駆け寄る香藤に、岩城が苦笑しながら片手を上げた。

「大丈夫だ。」

ゆっくりと座りなおして、岩城は息を吐いた。

アビーがトレイに、朝食を乗せて運んできた。

岩城は何事もなかったかのように、アビーに微笑んだ。

向き合って食事をしながら、

香藤はそのダイニングの風景を眺めて、嬉しそうに白い歯を見せた。

「やっと、いつもの俺の休日になった、って感じだね。」






     続く



     弓


  2006年10月14日
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