These are the days of our lives

         −チャンピオンの休日 8−







翌日、昼近くになって起き出した香藤は、

パジャマの下を履いて、上半身は裸のまま、

アビーの用意したターキーをオーブンに入れていた。

アクセルが両足にまとわり付き、

香藤は彼の食事を用意すると、その足で寝室に向かった。




ブランケットの中で、岩城は丸くなって眠っていた。

肩を窄ませ、ブランケットを掻き寄せている姿が寒そうで、

香藤はその隣に潜り込むと、両腕に岩城を抱き寄せた。

少し息を吐いて、岩城の両手と両脚がゆっくりと伸び、

香藤の胸に頬をつけて軽く身じろいだ。

「・・・ん・・・」

「あはは・・・やばいよ、岩城さん、その寝息。」

そう呟いて、香藤はそっと岩城の頬に手を添えた。

薄く開いた唇に触れ、乾いた岩城の唇を潤すように舐め、

そのまま香藤は深く唇を重ねた。

舌を差し込むと、岩城の喉が震えた。

眠っているはずの岩城の舌が、香藤の蹂躙に絡み付いた。

「・・・ん・・・」

岩城の鼻から息が漏れて、薄っすらと瞳が開いた。

「・・・バカ・・・」

「だって・・・」

「寝込み襲ってどうするんだ?」

「・・・寝息がさ〜、」

「寝息?」

「岩城さんの寝息が、エロいんだってば!」

香藤が堪らずそう声を上げて、岩城を抱きこんだ。

「人のせいにするな。で、この当たってるのは、なんだ?」

「俺の。」

岩城は自由になる片腕を上げて香藤の首に絡めると、

瞳を閉じたまま香藤の肩口に顔を埋めた。

「なんでそう、見境がないんだ、お前は?」

「岩城さんだから。」

「なに言ってんだ・・・。」

香藤は岩城の腰に両腕を回すと、ぐい、と抱き寄せた。

そのまま彼の唇を塞ぎ、岩城の咥内を犯した。

「・・・んぅ・・・」

岩城の喉が啼り、弛緩していた両脚が香藤の腰に絡みついた。

柔らかい咥内を蹂躙されるにつれて、その腰が揺らぎ始めた。

音を立てて舌を啜り上げ、嘗め尽くす香藤に、

岩城のペニスが熱を持ち香藤の腹にそれが当たった。

「・・・あ・・・ッ・・・香藤・・・」

唇を離して、岩城が喘いだ。

「岩城さんだって、その気になってんじゃん。」

ふふ、と笑いながら香藤は岩城の項に唇を這わせかけた。

「あ!いけね!」

突然、香藤がガバ、と跳ね起きた。

「どうしたんだ?」

「オーブンに、ターキー入れてるんだよ。

このまま突入したら、焦げちゃう。」

力が抜けたように、岩城はばったりとシーツの上に腕を落とした。

「・・・焦がしたら、アビーに怒られるぞ。」

「うん、岩城さん、ごめん。」

「謝らなくていい。」

岩城は片眉を上げてそう答えると、ベッドから降りた。

「・・・ふぅ・・・」

息を吐く岩城に、香藤は眉を寄せて手を差し出した。

「ごめん、あのさ・・・。」

「違う。身体がだるいんだ。」

「あ・・・それも、ごめん。」

夜中に戻ってきて、朝まで愛し合っていた名残が、

肌にも身体の中にも残っていて、岩城は気だるげに歩き出した。

少し身体が揺らいで、香藤はそっとその身体に手を添えると、

岩城をバスルームへ連れて行った。

「俺、キッチンにいるからね。」

「ああ、わかった。あ、それから。」

「うん、なに?」

「服を着ろ。」

香藤は苦笑しながら、返事をした。

「はーい・・・。」






岩城は、香藤が出しておいた服を着て、リビングのドアを開けた。

ターキーの焼ける香ばしい香りが漂い、岩城の腹をくすぐった。

「いい匂いだな。」

「もうすぐ焼けるよ。座ってて。」

テーブルにつき、その上にセッティングされた皿を眺めて、

岩城はくすりと笑った。

「お前、料理するんだな。」

「うん。毎年この時期はね。

アビーが用意しててくれるけど、1週間ほど休みだから、彼女。

お店も今日と明日のボクシング・デイは休んじゃうし。

岩城さんもするでしょ、料理?」

「まぁな。でも、上手くはないぞ。」

「今度なんか作ってよ。」

「ああ。」

香藤がキッチンから出てきて、マグカップを岩城の前に置いた。

そっとその手を岩城の頬に滑らせ、顔を近づけた。

「・・・ん・・・」

塞いだ唇の間から漏れる岩城の息を聞きながら、

香藤は首筋に手を這わせた。

「・・・やめろって、これから飯だろうが。」

「岩城さんも食べたいんだけどな。」

「昨夜、さんざん食っただろう?腹が減ってるんだ、俺は。」

ちぇ、と、香藤は笑いながら岩城の額に唇を当てた。

オーブンが焼きあがったことを知らせ、香藤はキッチンへ向かった。

「手伝おうか?」

「いいよ、こういうのサーブするのは俺の役目だからね。」

カチャカチャと音がして、

グレイヴィーソースのかかった、

美味しそうな焼き色のついたターキーと、

スタッフィングや野菜が盛られた大皿を抱えて、

香藤がダイニングに戻ってきた。

手際よく、ターキーを切り分けながら、香藤が嬉しそうな顔をしていた。

「今年は、なんか気分が違うよね。」

「そうか?」

「うん。」






「はい、岩城さん。デザート。」

香藤が岩城の前に、皿を置いてお茶を入れた。

「クリスマス・プディングか。

こっちにいるのに、ほとんど食ったことがないな。」

「そうなの?」

「だいたい、クリスマスなんて仕事で潰れてた。」

「警察って、クリスマスもないわけ?」

岩城はフォークを取り上げて、それを軽く振った。

「俺がいたのは、ICPOだぞ?町の警察署じゃない。」

「あ、そうだったっけ。」

「今さら、なに言ってんだ。」






「どこにコインが入ってるんだろうな。」

岩城がそう言って、笑った。

「そうだね〜。」

香藤は、にこにこと笑いながら岩城を見つめていた。

その顔を、岩城は微笑んで見返した。

何口か口にしたあと、サク、とフォークをプディングに指した途端、

それがカチリ、と何かに当たった。

「あ・・・。」

「どうしたの?」

「当りらしいぞ、香藤。」

「へぇ、ほんと?」

香藤が目を見張った。

岩城は、少し得意そうに香藤を見返し、

フォークが当たったところを下まで切った。

そこに、光るものを見つけて、岩城は香藤を見上げた。

「俺は、どうやら今年、幸運らしい。」

「うん。」

香藤が笑顔のまま頷いて、

岩城はその周囲をフォークで切り落とした。

欠片を口に運びながら、岩城の嬉しそうな顔を、

香藤は黙って見つめていた。

ふと、フォークを動かしていた岩城の表情が変わった。

手が止まり、じっとプディングを見つめている。

その切り口から半分現れたそれは、コインではなく、指輪だった。

慌てて顔を上げて見つめた香藤の顔は、

とてつもなく優しくて、嬉しそうだった。

岩城は黙ったまま、それをそっと指で摘み、プディングから抜き取った。

じっと見つめる岩城の唇が、かすかに震えていた。

「クリスマスが、結婚記念日って、いいでしょ?」

香藤がにっこりと笑った。

「岩城さん、忘れそうだしさ、そういうこと。」

「馬鹿にするな。」

答える岩城の声が、上擦っていて、香藤は目を細めて頷いた。

指輪と、香藤を交互に見つめていた岩城が、

黙ったまま香藤にその指輪と左手を差し出した。

目を見開いてそれを見返した香藤は、

スポンジくずのついた指輪を取って、にやりと笑うと、

いきなりそれを口の中に入れた。

「・・・なっ・・・」

岩城を見つめながら、香藤はゆっくりとそれを舌の上に転がした。

「お前、なにやってんだ。」

呆れる岩城の左手を取って、香藤はそれを撫でると、

薬指を口元に持っていった。

驚いた岩城がその手を引こうとする前に、その薬指を銜えた。

「ばっ・・・なにす・・・」

ねっとりと舌が岩城の指を舐め、

その口の中で岩城の指に、香藤は器用に指輪を填めた。

唇で、中ほどまで指輪を押し込むと、やっと香藤はその指を離した。

そっと、指輪を奥まで填めて、香藤は岩城を見つめた。

「へへ・・・。」

「馬鹿か、お前。」

頬を染めて、岩城は苦笑していた。

「感じちゃったでしょ?」

「そんなわけあるか。」

岩城は顔を上げて、

そこにある香藤の満足げな顔を見ながら、

その指輪をそっと撫でた。

「お前のはあるのか?」

「あるよ。」

「持ってこい、填めてやるから。」

香藤が思い切りの笑顔を浮かべて、

ダイニングから飛び出していくのを、

岩城はくすくすと笑いながら見送った。

バタバタと走る香藤の足音に、

床に寝そべっていたアクセルが、むくりと顔を擡げて吠えた。






その夜、暖炉の前に寄り添って座り込んで、

2人はマルドワインを飲みながら、

テレビから流れるエリザベス女王のクリスマスの挨拶を見ていた。

「なんか、普通の家庭のクリスマスみたいだね。」

香藤がそう言って笑った。

「ごく、普通だな、こういう光景は。」

「俺達が、普通の夫婦ってことかな?」

そう言う香藤に、岩城は呆れてぺち、と頬に手を当てた。

「どこが普通なんだ?」

「あれ?違う?」

くすくすと笑う香藤につられて、岩城も顔を綻ばせた。

「去年と同じなんだけど、全然違うね。」

「ん?」

香藤が岩城の腰を抱き寄せて、その頬に唇を触れた。

「去年は、こういうことは出来なかったじゃない。」

「そうだな。たった、1年前なんだけどな。」

香藤が岩城の手からグラスを取り上げ、

そっと脇のテーブルの上に置いた。

「・・・岩城さん、おいで。」

差し出された香藤の両手を、岩城は少しの間見つめていた。

ゆっくりと顔を上げて、岩城は香藤を見つめ、

その両手の間に、身体を割り込ませた。

座ったまま、岩城の腰を抱き寄せて、香藤は唇を塞いだ。

岩城の腕が香藤の首に絡みつき、貪るキスに応えた。

奪い合うように舌を絡め、吸い上げ、岩城の喉が鳴った。

「あ・・・んっ・・・」

「感じた?」

「・・・ぁん・・・ん・・・」

塞がれた唇の隙間から、息が漏れるほど、

香藤は岩城の咥内を蹂躙し始めた。

香藤の首に絡めた腕をそのままに、岩城は後に倒れこんだ。

きつく抱きしめられ、唇を吸われ続けて、岩城の腰が揺れた。

「・・・んんっ・・・んっ・・・」

肩で息をしながら、香藤は岩城を見下ろした。

薄っすらと染まった顔に、香藤のペニスがドクン、と反応する。

香藤は岩城のシャツに手をかけると、さっさと脱がし始めた。

「・・・ここでか?」

「いいじゃない、ロマンティックでしょ、クリスマスに暖炉の前で、ってさ。」

笑いながら言う香藤に、岩城は呆れたように笑った。

「バカ・・・。」

脱がされるのに抵抗もせず、素裸になった岩城の肌を、

暖炉の火が照らした。

「・・・綺麗だよ、岩城さん。」

「お前の目は、どうなってんだ?」

「ん?」

「綺麗に見えるのか?」

「見える、って言うか、だって、綺麗だもん。」

少し肩をすくめて、岩城は香藤に両手を差し出した。

香藤を引き寄せ、着ているセーターの裾を引っ張り上げた。

両手を上にあげる香藤の頭からセーターを抜き取り、

岩城はそれを後に放った。

香藤がジーンズを脱ぎ捨てるのを、岩城は黙って待った。




「・・・ふ・・・んっ・・・」

乳首を転がす香藤に、岩城の顎が反り、

するすると香藤の手が下半身に伸び、

岩城のペニスを握りこんだ。

「・・・んっ・・・あぁっ・・・」

指でペニスの先端を愛撫し、乳首を舌で蹂躙し、

香藤は岩城を追い込んだ。

「・・・まッ・・・待てっ・・・」

「なに?」

岩城が、肩で大きく息をつきながら、声を絞り出した。

「シャワー・・・洗わないと・・・」

「いいよ、ここで一回達っちゃって。」

「で、でも・・・」

香藤は微笑んで首を振った。

「岩城さん、いつも俺のことばっかり考えてるでしょ?

俺の腕の中にいても。」

「・・・香藤・・・。」

「俺はさ、岩城さんに気持ちよくなって欲しいんだよ。

俺のことを気にしてくれるのって、凄く嬉しいけど、

岩城さんもそうじゃないとさ。」

岩城は黙ったまま香藤を見上げた。

荒い息のまま、岩城は両手を延ばして香藤の頬を挟んだ。

その手を引き寄せ、岩城は香藤の唇を塞いだ。

「あとで、洗ってくれ・・・」

「うん、もちろん。」

そう言って香藤は岩城の額にキスをすると、

彼の両脚の間に割り込んだ。

股間の奥へ顔を埋めて、香藤は岩城のペニスを愛撫し始めた。

「はっ・・・んんっ・・・あぁっ・・・」

岩城の腰が浮き、香藤が腿を掴んで押さえ込んだ。

先端を舌で突き、舐め上げて、香藤は咥内へそれを含んだ。

「・・・ひ・・・ぅんっ・・・」

岩城の喉が引きつり、首を左右に振り、顎が反り返った。

「あぁっ・・・あぁあっ・・・」

せいせいと息をし、岩城は香藤の咥内へ熱を吐き出した。

「気持ちよかった?」

「・・・そんなこと、言わせるのか?」

へへ、と香藤は笑い、岩城はその顔を見つめて、微笑んだ。

そっと項に舌を這わせようと香藤が身体を屈めた時、

パタパタと廊下を走る音が聞こえた。

次の瞬間、ドスン、と香藤の身体が岩城の腹の上に落ちかけた。

「ぎゃっ?!」

「ばう!」

「うわっ?!アクセル?!」

岩城が香藤の下で、声を上げた。

「なにやってんだよ〜!」

香藤が喚きながら、尻尾を振るアクセルの下でもがいた。

「岩城さん、大丈夫?痛かったでしょ?」

「いや、大丈夫だ。お前のお陰で。」

岩城は、香藤がとっさに絨毯に踏ん張った腕を撫でながら答えた。

「アクセル、降りろ。」

香藤が首を捻じって、背中に乗るアクセルを振り返った。

尻尾を振るアクセルに、香藤はその背を少し跳ねて、繰り返した。

「降りろ、アクセル。ハウスだ。」

ぐるぐると喉を鳴らしながら、

アクセルはしぶしぶ背中から降りた。

「まったく、もう・・・。」

「遊んでると思ったんだろ。」

香藤が岩城の上から降りて、座り込んだ。

「違うね〜。岩城さんの悲鳴聞いて、

こいつ俺に岩城さんが苛められてるとでも思ったんだよ、きっと。」

「なにを言ってる。」

アクセルは、香藤に頭を擦り付けるようにして、

床を両脚で掻いていた。

「アクセル、ハウスだ。ハ、ウ、ス。」

その頭を撫でながら、香藤は片手でドアを指さした。

尻尾を垂れて、アクセルが部屋を出ていくと、岩城が立ち上がった。

「あれ?岩城さん、どこ行くの?」

「寝室だ。」

すたすたと歩き出す岩城に、

香藤も慌てて立ち上がり、後を追いかけた。

「こんなとこじゃ、集中できない。」

「あは、集中したい?」

そう言って笑う香藤を、岩城はむっとして睨んだ。

「ごめん、そうだね。俺もそうだ。」

香藤は岩城の左手を取ると、その薬指にキスをして、

そのまま寝室へ引っ張った。

「洗ってあげるね、岩城さん。」






     続く




     弓



   2006年11月1日
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