These are the days of our lives

        −チャンピオンの休日 9−








岩城はローブを腕に通しただけの姿で、

髪を拭きながらバスルームから出てきた。

裾を翻してベッドに歩み寄り、ブランケットを捲り上げ、

その上に足を投げ出して座った。

片手で髪を拭きながら、ふと、横を見て、

サイドテーブルの抽斗を開け、

チューブを取り出してその上に置いた。

少しして、香藤がバスルームのドアを開け、

同じように髪を拭きながら岩城の隣に座りこんだ。

「俺、こんなに付けたっけ?」

肌蹴た岩城の胸に点々と散らばる痕に、指を触れながら笑った。

「なに言ってんだ。とんでもないとこにも付いてるぞ。」

「どこ?」

香藤がきょとんとして見つめると、

岩城は少し眉を上げて、

香藤の座っているのとは反対側の片足を膝立ちした。

その腿にある痕を見て、香藤はくすりと笑った。

「もっと奥にもある。」

「あはは、うん、身体中にあるよね。」

香藤は岩城が無造作に肩に掛けているタオルを取って床に落とし、

彼の着ているバスローブを、肩からずらした。

現れた形のいい肩口に唇を押し付け、ゆっくりと胸へそれを移動させた。

岩城の口から息が漏れ、手が香藤の頭を抱え込んだ。




「・・・あっ・・・ん・・・」

捩れる岩城の身体の下で、バスローブがくちゃくちゃになっていた。

香藤の舌と指が岩城の肌を動いていく。

触れ残したところはないのではないか、と思うほど、

香藤の愛撫は岩城の全身に亘った。

「・・・んっ・・・ふっ・・・」

岩城はその愛撫に翻弄されて、熱い息を吐き続けていた。

香藤の舌が、腹の上から胸元へ這い上がった。

片腕を腰に巻きつけて固定すると、

もう片方の手を岩城の股間に潜り込ませた。

「・・・んんっ・・・あぁ・・・」

岩城が枕に頭をつけて仰け反り、シーツを握り締めた。

香藤の指が、零れ落ちた岩城の先走りごと彼のペニスに絡みつき、

それを扱いた。

「ああッあっ・・・あッ・・・」

長い愛撫の間に、はち切れそうになっていたそれが、

あっという間に香藤の手の中で弾けた。

肩で息をしながら、岩城はやっと瞳を開け香藤を見上げた。

その岩城に、まるで見せ付けるように、

香藤が手の平についた岩城の精をぺろり、と舐めた。

「・・・ぁ・・・」

小さく声を上げる岩城に、香藤はにやりと笑った。

「甘いね、岩城さんのは。」

赤い顔で苦笑する岩城の唇を、その指で撫でた。

つ、と滑る香藤の指に、岩城の唇が開いた。

する、とその中へ指を潜り込ませると、

岩城の舌がそれを巻き込んだ。

「・・・ん・・・」

「美味しい?」

岩城がその指を舐めながら、片眉を上げて香藤を見つめた。

「・・・やっばい顔・・・。」

香藤がぽつ、と呟いて、岩城の口から指を引き抜いた。

「・・・香藤・・・。」

その声に混じる色に、香藤は笑って頷き、

岩城の後孔にその指を当てた。

ピクリ、と身体が揺らいで、香藤の指が差し込まれるにつれて、

その背が反り、声が漏れた。

「・・・は・・・んぅ・・・」

片腕で岩城の腰を固定したまま、

香藤はその快感に悶える顔を見つめていた。

「・・・あァッ・・・」

既知の場所に触れ、指を捻ってそこを擦りあげて、

香藤は岩城の唇を塞いだ。

「・・・ぐっ・・・」

途端に岩城の喉がくぐもり、啼った。

「・・・んっんっ・・・んっ・・・」

香藤に縋りつくようにして、岩城は腰を捩った。

「・・・は・・・香・・・藤・・・もう・・・」

岩城が、堪らず首を振って香藤の肩を掴んだ。

見上げる瞳に欲情が浮び、

香藤は口元をほころばせて、岩城の両膝を掴んだ。

息が上がり、上下する身体を眺めながら、

香藤は岩城の両脚の間に、割り込んだ。

「・・・んぁあッ・・・」

いきなり挿入ってきた香藤の、怒張したペニスに襞が悲鳴を上げた。

「香藤ッ・・・」

顔を背けて岩城が仰け反り、声を上げるのを聞き流して、

香藤は奥まで挿れてそこで腰を軽く振った。

「・・・いっ・・・あっあぁ・・・」

そのまま香藤は岩城の腰を抱え込むと、突き上げを始めた。

「・・・はっんっ・・・ぁっんんっ・・・」

襲ってくる快感を逃そうとでもするように、

岩城は歯を食い縛るようにして、首を左右に振った。

「・・・か・・・香藤ォッ・・・」

岩城の両足が宙に浮き、香藤の腰に絡みついた。






「・・・香藤・・・。」

「ん〜、なに?」

岩城が香藤の胸に頬をつけたまま、小さな声を漏らした。

「腹が減った・・・。」

「は?」

香藤は抱きしめていた腕を解いて、岩城を見下ろした。

むくり、と岩城が頭を擡げて、香藤の胸に顎を乗せた。

「昼、食っただけで、何時間ベッドにいると思ってるんだ?」

「あ〜、そうだっけ。」

「そうだっけ、じゃないだろうが。

人の身体のことも考えろ。

お前とは体力が違うって言ってるだろう。」

くすくすと笑いながら、香藤は岩城を抱きこんだ。

「なにが食べたい?昼の残り、あるけど。」

岩城は顎を香藤の胸に乗せたまま、少し首を捻った。

「・・・おかゆ。」

ぶっ、と香藤が吹きだし、そのまま笑い声を上げた。

「了解、作ってくるから、待ってて。」

「笑いすぎだ、お前。誰のせいだと思ってる。」

「ごめん、ごめん。お腹空くよね、そりゃ。」




香藤がトレイを持って寝室へ戻ってくると、

岩城はベッドの上に腹ばいになって、うとうととしていた。

サイドテーブルにトレイを置くと、香藤は岩城の肩にそっと触れた。

「岩城さん、できたよ。」

「・・・ん・・・」

薄っすらと瞳を開いた岩城は、漂ってくる香りに、頬を綻ばせた。

「いい匂いだ・・・。」

「起きられる?」

岩城はシーツに手をつくと、身体を起こそうとして、

ぱふ、とシーツに沈んだ。

「・・・起こせ。」

「うん。」

笑いを含んだ声に、岩城は少し剥れた顔をした。

「ごめん、俺が悪い。」

岩城が口を開く前に、香藤はそう言って岩城を抱き起こした。

ベッドの上に座り込んだ香藤の胸に凭れながら、

岩城はトレイから椀を持ち上げた。

「熱いからね。気をつけて。」

「うん。」

はふはふとしながら、匙を口に運ぶ岩城を、

香藤は後から覗き込むようにして見つめていた。

「お前は食わないのか?」

「食べるよ。」

岩城が香藤の胸から退いて、隣に座り、2人で並んで粥を啜った。

トレイに椀を戻しながら、岩城は伸びをして、

欠伸の漏れる口元を叩いた。

「もう寝るぞ、俺は。」

「あれ?寝られると思ってるんだ?」

「あ?」

驚いて振り返る岩城に、香藤はにっこりと笑った。

「寝かさないよ、ず〜っと。」

「冗談じゃない、勘弁してくれ。」

「もちろん、冗談なんかじゃないよ。だめ。甘いね、岩城さん。」

「ふざけ・・・。」

るな、まで言わさず、香藤は岩城の腰を抱き寄せて、唇を塞いだ。








「・・・ふ・・・」

瞳を開けると、岩城は香藤の腕の中に、

しっかりと抱き込まれていた。

するり、と香藤の手が腰を滑り、シーツに落ちた。

ビクッと身体を揺らして、

岩城は香藤を見つめ、小さく溜息をついた。

カーテン越しに、朝の光が差し込み、

岩城は眩しげにそれを見つめた。

「シャワー、浴びるか・・・。」

そう言って、

ふと、岩城は既に中が綺麗になっている感触に気付いて、

苦笑を浮かべた。

いつ眠ったのかさえ、記憶にない。

香藤がすべて後始末をしたのだろう。

その憶えのない光景に、岩城は頬が熱くなるのを感じた。

「なんだかな・・・まるで女の子扱いだな。」

一人ごちて、香藤の腕から抜け出ようとしながら、岩城はふと笑った。

「香藤の女なんだから、当り前か・・・。」

ベッドから降りようと、岩城は両足を床につけた。

立ち上がるつもりでいた岩城は、

すとん、と床に座り込んだ自分に、呆然とした。

「は・・・。」

笑いそうになって、慌てて岩城は口元を押さえた。

「・・・大丈夫?」

「香藤?」

振り返った岩城は、香藤が肘枕をして見返しているのに、絶句した。

「いつ、起きたんだ?」

「さっきから、起きてるよ。

岩城さんがぶつぶつ言ってるの、聞いてた。」

「失礼なやつだな。狸寝入りか。」

「だって、可愛かったんだもん。」

香藤はそう言いながら起き上がり、

岩城を抱えてベッドに寝かせた。

「身体、拭いてあるからシャワーはあとでも大丈夫だよ。

それより、お腹空いたでしょ?

なんか作ってくるから、ここにいて。」

「うん。」

香藤はパジャマのズボンを履いて寝室から出て行き、

岩城はその背中を、溜息をついて見送った。

「・・・参ったな・・・。」




ベッドの上の大きめのトレイに、

まるで絵に描いたような、イングリッシュ・ブレックファーストが並んだ。

それを眺めながら、岩城が半分呆れたように口を開いた。

「お前、ほんとにマメなんだな。」

「そうでもないよ。前は釣った魚に餌はやらないってタイプだったね。

っていうか、餌をやらなくてもいい相手としか、

付き合ってなかったって言った方が当たってるね。」

ぽかん、として見返す岩城に、香藤はそっと頬にキスをした。

「岩城さんってさ、世話焼きたくなるんだよね、なんだか。」

「・・・そんなに頼りないか、俺は?」

「違うって。頼りがいはあるよ。そういうことじゃないよ。」

岩城は肩をすくめてフォークを取り上げた。




朝食を食べ終え、お茶を飲んでいると、

トレイを片付けに行った香藤が、

ツリーの下に置いてあったプレゼントの包みを持って、

寝室へ戻ってきた。

岩城に、大きな包みを渡し、

香藤は岩城からのプレゼントの包みを開いた。

途端に、香藤が笑い声を上げた。

「岩城さん、これ・・・。」

「・・・変か?」

「へ、変じゃないけど・・・。」

げらげらと笑いながら、香藤はその、

岩城が贈ったフェラーリのプラモデルの箱を抱えた。

「俺のディーノは、今、修理に行っちゃってるからね〜、

これがあれば寂しくないね。」

「・・・うるさい。」

岩城が口を尖らせ、香藤からの包みを開けた。

「・・・。」

出てきた、黒いダウンコートを前に、岩城は言葉もなく黙り込んだ。

「気に入らない?」

「・・・違う。」

ブランド物のそれと、

香藤の手の中にあるプラモデルの箱とを交互に見て、

岩城は溜息をついた。

「なに?」

「・・・いくつ、ゼロが違うんだろうな。」

「また、そういうこと言う。」

岩城がそのダウンコートを手に取った。

「住んでる世界が違うと、行く店も違ってくる。

それはわかっちゃいるんだが。」

「岩城さん。」

香藤の強めの声に、岩城ははっとして彼を振り返った。

「住んでる世界は、一緒だよ。

これから、ずっと、一緒なんだよ?

そういう言い方、しないの。」

「すまん・・・俺は、何にも持ってないからな。」

「なに言ってんの・・・ほら、おいで。」

香藤が岩城の手を取って、シーツに身体を伸ばした。

その手を香藤は自分の胸の上に置いた。

岩城の手の平に、香藤の胸筋がぴたりと吸い付いた。

目を見開いて、岩城は香藤を見つめていた。

視線を合わせたまま、香藤はその手を腹にずらした。

「わかる?俺だよ、岩城さん。」

「・・・ああ・・・。」

かすれた声で、岩城が答えた。

「岩城さん、俺の胸とか腹とか、触ったことないでしょ?

背中は触ってるけど。」

岩城が、たびたび見惚れる香藤の身体を、

改めてまじまじと見つめた。

「触って、岩城さん。」

「香藤・・・。」

「これ全部、岩城さんのものだよ。」

口を開きかけて、岩城はじっと香藤を見つめた。

黙ったまま、岩城はそっと手を滑らせた。

手の中に、香藤の割れた腹筋が当たる。

触れているうちに、岩城の頬に愛しげな笑みが浮んだ。

くすくすと笑いながら、

香藤はその心持ち真剣な岩城の顔を見つめていた。

「気持ちいいよ、岩城さん。」

「触ってるだけなのにか?」

「そりゃそうだよ。岩城さんに触って貰ってるんだから。」

身体中に残る傷跡に、岩城はそっと唇を寄せた。

「岩城さんみたいに綺麗な身体じゃないね。」

「なにを言ってる。それごと綺麗だ、お前の身体は。」

「嬉しいよ、岩城さん。」

岩城が、くすりと笑って香藤の上に乗り上げた。

香藤の腰を跨いで、岩城は彼の顔に唇を近づけた。

無言のまま、額、頬、とキスをして、岩城は香藤に唇を重ねた。

香藤が岩城の頭を両手で抱えて舌を絡めとり、

岩城の頬が熱くなるほど吸い上げた。

岩城の熱い息が、香藤の顔にかかる。

するすると香藤の両手が岩城の背中を滑り、

その尻を掴みこんだ。

「・・・んっ・・・」

少し仰け反って、岩城は香藤を見下ろした。

にこり、と笑った顔にごくりと喉を鳴らして、

岩城は片手を後に廻すと、

怒張した香藤のペニスの上に腰を落とした。

見つめあいながら、香藤が岩城の腰に両手を添えて、それを支えた。

「・・・あ・・・んぅ・・・」

ゆっくりと、香藤のペニスが、岩城の後孔に沈んでいく。

引きずられる襞に、両脚が震え、

腰を支える香藤の腕に縋って、岩城の背が反り返った。

「・・・は・・・くっ・・・」

半ばまで挿入って、香藤が岩城の腰をぐい、と強引に下ろした。

「・・・ひっあぅっ・・・」

岩城の顎が跳ねて、悲鳴が上がった。

香藤は容赦なく岩城を下から突き上げ、岩城の身体がその上で踊った。






     続く




     弓




   2006年11月4日
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